第26話 次なる戦地へ
森の中、ベルフォードがかつて住んでいた家の跡地を見つける。俺は瓦礫の中から小さな子供のおもちゃを掘り出した。三百年前の娘のものだ。それをベルフォードの墓代わりに、そっと置いた。
その時――。
パキッ、パキッ。
サラの卵が、ついに孵化を始めた。全員が、息を呑んで見守る。
殻が割れて、出てきたのは――
もこもこの、白黒まだら模様の丸っこい雛!
「クー、クー」
と、ちっちゃく鳴いている。
タクヤが、感極まる。
「……サラ、おめでとう……」
サラが、誇らしげに胸を張る。雛は、なぜか俺の姿を最初に見て、「ぴーっ!」と懐いてきた。
「もうっ! 私が一番、世話したのにっ……節操ないわねっ!」
……アメリアは、笑顔を浮かべながらも、なんかぷんすかしている。
雛の名前は、「サラダ」と命名された。サラとタクヤから一文字ずつ。なんか、健康に良さそうな名前だな!
◇◇◇◇
報告を受けた近隣の村は、俺たちをを英雄として迎えてくれた。しかし、その夜、新しい知らせが届く。
「西の魔王カミラが、王都への侵攻を開始した――」
俺たちは、すぐに次の旅の準備を始める。心の中で、もう一つの誓いを立てた。
⦅ベルフォードさん、あんたの物語、必ず書くよ。――その物語は、一番にあんたに読んでもらいたかったな)
そして、空を見上げてつぶやく。
「次は、西。カミラ……どんな魔王なんだろうな」
◇◇◇◇
ベルフォードを送って数日後。
俺たちは王都への報告のため、まず近隣の大きな町、ローズマリー宿場町を目指していた。
サラの背中には、俺とアメリアの二人。並走するのは、近隣の村で譲ってもらった栗毛の馬で、その背にはアルテミスとアイリーン。
アイリーンの胸元には、生まれたばかりのサラダが、布で作った抱っこ紐の中で、ぴーぴーと甘えた声を出していた。サラから少し離れただけで不安そうにするので、こうして肌身離さないようにしているのだ。
「あらん、サラダちゃん、ふくふくして可愛いですわぁ♪」
アイリーンが、ふにゃっと頬を緩める。サラダは「ぴーっ」と満足げに鳴いて、彼女の胸元にすりすりと頭を擦り付けた。
「いいわねぇ、子供って……」
アメリアが、俺の後ろからぽつりとつぶやいた。
「は?」
「な、何でもないわよ!」
もう一つの卵は、布で大事に包んでサラのお腹に括り付けてある。こちらはまだ動かないが、たまにぴくりと反応する。
「クワッ、クワッ」
サラが、たまに首を後ろに回して、自分の卵を気にしている。母親の顔だ。
道中の話題は、自然とこれまでの旅のことになる。
「考えてみれば、私たち、よくここまで来たわよね」
「ああ。最初はトマトヴィレッジで、いきなり魔王と遭遇したからな」
「あの時のサラ、まだ卵も産んでなかったんですわよね」
「アイリーン様、知ってます? 魔物に襲われそうになった時、サラが光の中から出てきて、すぐに卵を産んだんですよ」
「それ、何の解決にもなってませんわ!」
アイリーンの突っ込みに、笑い声が弾ける。
しかし、ローズマリー宿場町に近づくにつれ、空気がおかしくなってきた。
街道沿いの畑が、半分荒れている。畦道に放置された農具。乾いた洗濯物が、何日も干されたまま風になびいている。
「……人の気配がしない……わね」
アメリアが眉をひそめた。
町の門をくぐった瞬間、その違和感がはっきりした。
町に、男がいない。
いや、いることはいる。だが、全員……何かおかしい。
路地裏で、宿の前で、商店の戸口で。男たちが、ぼーっと立ち尽くしたり、フラフラ歩いたりしている。誰もが半笑いで、虚ろな目をしていた。
「カミラ様……カミラ様……」
どこからともなく、男たちの呟きが聞こえてくる。
「な、なんだ、これ……」
俺は思わず後ずさる。
その時、すぐ横にいた中年の男が、突然、こちらをぐいっと向いた。
「カミラ様!」
「うわっ!」
「ああ、カミラ様……お会いしとう、ございました……」
男はアメリアの腕に縋りつこうとする。
「は? 私はカミラじゃない!」
「いえ、カミラ様……今夜は、いかがでしょう……」
「やめてっ! 何なのよ、いったい!」
そこへ、女性たちが何人も駆けつけてきた。みんな箒や鍋つかみを手にしている。
「ちょっと、あんた! またフラフラして!」
「家に帰るって約束したでしょう!」
ガス、ガスッ。
ホウキで旦那らしき男を叩き、引きずるようにして連れて行く。
「あの、これは一体……」
俺がおずおずと尋ねると、まだホウキを構えていた中年の女性が、深いため息をついた。
「あんたたち、旅人かい? ちょうどいい、町長のところへ案内するよ。事情を聞いてやって」
こうして、俺たちは町長の家を訪れるコトになった。
◇◇◇◇




