表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/72

第22話 決戦前夜、それぞれの一夜

 決戦を、翌日に控えた夜。


 小屋の中は静かだった。囲炉裏の火がぱちっ、ぱちっと時折爆ぜる。外では、虫の声が控えめに響いていた。


 俺は寝床の上で寝転がっていた。もちろん、眠れない。明日のことを、頭の中で何度もシミュレートしている。ベルフォードの、あの杖の一振り。あの黒い波動。あれをどうかわすか。どう間合いを詰めるか。いや、間合いを詰めても勝てる気がしない。


 やはり、煎餅か。あの「懐かしい」と呟いた瞬間。そこに勝機がある気がする――。


 すす――と。俺の寝床に、誰かが近づいてくる気配がした。


 顔を向けると、月明かりの中でアメリアが立っていた。寝間着のまま。長い金髪が、肩に流れている。頬がほんのりと赤い。


「……アメリア?」

「……起きてた?」

「ああ、まあ」

「……隣、いい?」


 俺が答える前に、彼女はすとんと俺の寝床の隣に座り込んだ。

 慌ててて起き上がろうとした俺を、彼女がふっと、目で制した。

 

 しばらく、二人で囲炉裏の消えかけた火を見ていた。やがて、アメリアがぽつりと口を開く。


「……あのね、タクヤ」

「……」

「もし、明日――私が死んだら」

「……」

「両親に、伝えてほしいの。"娘は、ちゃんと、誇りを持って戦いました"、って」


 俺は彼女の横顔を見た。月明かりに照らされたその横顔は、いつもの勇ましい剣士の顔じゃなくて――。ただ一人の、まだ若い女の子の顔だった。


「……アメリア」

「うん?」

「……死なせない」


 俺は思わず、彼女の手をぎゅっと握った。

 彼女の手は、剣を握り続けた――硬いけれど、暖かい手だった。


「俺が絶対に死なせない。だから――そんなコト、言うな」


 彼女が目を、見開いた。じっと俺を見ている。月明かりに、彼女の瞳が潤んで光っていた。


「……タクヤ」

「ああ」

「……」


 彼女がぐっと、顔を、近づけてきた。

 吐息が頬にかかる。

 彼女の唇が、ゆっくりと――。


「クワーーーーーッ!!!!」


 部屋の隅で、サラが、突然絶叫した。


「うわぁッ!?」

 アメリアが跳ね起きる。

「ど、どうしたッ!?」

 俺も跳ね起きる。

 アルテミスとアイリーンも、慌てて目を覚ます。


 サラの足元では。

 ぽてりっ。


 ……二個目の卵が、転がっていた。

 ご丁寧に、湯気まで立てている。


「……」

「……」

「……」


 全員が、無言で卵を、見つめた。


「……サラちゃん」

 アイリーンが、半目でサラを、見る。

「……あなた、絶対に空気、読めてないわよね?」


「クワッ!」

 サラは、誇らしげに、胸を張った。


 そして、ふと見ると――。

 新しい卵が、ぴくりと動いた。

 最初の卵に呼応するように。


 アメリアが、ふっと肩の力を、抜いて、笑った。

「……サラに、邪魔されちゃったわね」

「ああ……だな」


 俺も、ふっと笑った。

 なんだか、緊張が、すうっと抜けていく。


「……まあ、明日絶対、無事に帰ってきましょう」

 アメリアが、ぼそりと、言った。

「ああ。約束する」

「うん。約束ね」


 彼女が立ち上がる。寝床に戻る前に、振り返ってぽつり。

「……タクヤ」

「ん?」

「……ありがとう」

「ああ」


 彼女はすっと、自分の寝床へ戻っていった。


◇◇◇◇


 その夜、俺がもう一度目を覚ますと――。

 アイリーンが、外の縁側に座っていた。


 夜空を見上げて、両手を組んでいた。

 月明かりの中で、その横顔が白く光って見えた。


 俺はしばらく声をかけずに、そっと見ていた。

 彼女はぽつりと、呟いた。

「……女神様」


 夜空に向かって語りかけていた。


「私……今度こそ、ちゃんとお仕事しますわ」

「だから……どうか」

「……みんなを、守ってくださいませ」


 彼女の声は震えていた。

 でも、その背中にはちゃんと、覚悟があった。


 俺は声をかけずに、寝床に戻った。


◇◇◇◇


 夜が、明ける少し前。


 俺が、最後に目を覚ますと。

 今度は、アルテミスが囲炉裏の前で、自分の折れた、ツノを撫でていた。

 

 彼は、俺に気づくとふっと苦笑いした。


「……眠れんのだ」

「だな」

「私は……魔王だった頃の私なら、たぶんベルフォードに勝てなかった」

「……」

「ヤツのあの一振り。あれは、私の一番強かった頃でも防げなかっただろう」


 俺は彼の隣に、座った。

 囲炉裏の消えかけた火が、ぱちっと最後にはぜる。


「でも――」

 アルテミスがふっと笑った。

「今の私には、仲間がいる」

「……」

「絶対に、勝つ。お前と、アメリアと、アイリーンと、サラと卵。みんな一緒に」

「……ああ」

「不思議だな。魔王だった頃は、信用できる仲間がいなかった。なのに今は――」

「敵だった俺たちが、仲間か」

「ふっ、皮肉だな」


 俺たちは無言で、消えゆく火を見ていた。

 やがて、空が白み始めた。

 決戦を、翌日に控えた夜。


 小屋の中は静かだった。囲炉裏の火がぱちっ、ぱちっと時折爆ぜる。外では、虫の声が控えめに響いていた。


 俺は寝床の上で寝転がっていた。もちろん、眠れない。明日のことを、頭の中で何度もシミュレートしている。ベルフォードの、あの杖の一振り。あの黒い波動。あれをどうかわすか。どう間合いを詰めるか。いや、間合いを詰めても勝てる気がしない。


 やはり、煎餅か。あの「懐かしい」と呟いた瞬間。そこに勝機がある気がする――。


 すす――と。俺の寝床に、誰かが近づいてくる気配がした。


 顔を向けると、月明かりの中でアメリアが立っていた。寝間着のまま。長い金髪が、肩に流れている。頬がほんのりと赤い。


「……アメリア?」

「……起きてた?」

「ああ、まあ」

「……隣、いい?」


 俺が答える前に、彼女はすとんと俺の寝床の隣に座り込んだ。

 慌ててて起き上がろうとした俺を、彼女がふっと、目で制した。

 

 しばらく、二人で囲炉裏の消えかけた火を見ていた。やがて、アメリアがぽつりと口を開く。


「……あのね、タクヤ」

「……」

「もし、明日――私が死んだら」

「……」

「両親に、伝えてほしいの。"娘は、ちゃんと、誇りを持って戦いました"、って」


 俺は彼女の横顔を見た。月明かりに照らされたその横顔は、いつもの勇ましい剣士の顔じゃなくて――。ただ一人の、まだ若い女の子の顔だった。


「……アメリア」

「うん?」

「……死なせない」


 俺は思わず、彼女の手をぎゅっと握った。

 彼女の手は、剣を握り続けた――硬いけれど、暖かい手だった。


「俺が絶対に死なせない。だから――そんなコト、言うな」


 彼女が目を、見開いた。じっと俺を見ている。月明かりに、彼女の瞳が潤んで光っていた。


「……タクヤ」

「ああ」

「……」


 彼女がぐっと、顔を、近づけてきた。

 吐息が頬にかかる。

 彼女の唇が、ゆっくりと――。


「クワーーーーーッ!!!!」


 部屋の隅で、サラが、突然絶叫した。


「うわぁッ!?」

 アメリアが跳ね起きる。

「ど、どうしたッ!?」

 俺も跳ね起きる。

 アルテミスとアイリーンも、慌てて目を覚ます。


 サラの足元では。

 ぽてりっ。


 ……二個目の卵が、転がっていた。

 ご丁寧に、湯気まで立てている。


「……」

「……」

「……」


 全員が、無言で卵を、見つめた。


「……サラちゃん」

 アイリーンが、半目でサラを、見る。

「……あなた、絶対に空気、読めてないわよね?」


「クワッ!」

 サラは、誇らしげに、胸を張った。


 そして、ふと見ると――。

 新しい卵が、ぴくりと動いた。

 最初の卵に呼応するように。


 アメリアが、ふっと肩の力を、抜いて、笑った。

「……サラに、邪魔されちゃったわね」

「ああ……だな」


 俺も、ふっと笑った。

 なんだか、緊張が、すうっと抜けていく。


「……まあ、明日絶対、無事に帰ってきましょう」

 アメリアが、ぼそりと、言った。

「ああ。約束する」

「うん。約束ね」


 彼女が立ち上がる。寝床に戻る前に、振り返ってぽつり。

「……タクヤ」

「ん?」

「……ありがとう」

「ああ」


 彼女はすっと、自分の寝床へ戻っていった。


◇◇◇◇


 その夜、俺がもう一度目を覚ますと――。

 アイリーンが、外の縁側に座っていた。


 夜空を見上げて、両手を組んでいた。

 月明かりの中で、その横顔が白く光って見えた。


 俺はしばらく声をかけずに、そっと見ていた。

 彼女はぽつりと、呟いた。

「……女神様」


 夜空に向かって語りかけていた。


「私……今度こそ、ちゃんとお仕事しますわ」

「だから……どうか」

「……みんなを、守ってくださいませ」


 彼女の声は震えていた。

 でも、その背中にはちゃんと、覚悟があった。


 俺は声をかけずに、寝床に戻った。


◇◇◇◇


 夜が、明ける少し前。


 俺が、最後に目を覚ますと。

 今度は、アルテミスが囲炉裏の前で、自分の折れた、ツノを撫でていた。

 

 彼は、俺に気づくとふっと苦笑いした。


「……眠れんのだ」

「だな」

「私は……魔王だった頃の私なら、たぶんベルフォードに勝てなかった」

「……」

「ヤツのあの一振り。あれは、私の一番強かった頃でも防げなかっただろう」


 俺は彼の隣に、座った。

 囲炉裏の消えかけた火が、ぱちっと最後にはぜる。


「でも――」

 アルテミスがふっと笑った。

「今の私には、仲間がいる」

「……」

「絶対に、勝つ。お前と、アメリアと、アイリーンと、サラと卵。みんな一緒に」

「……ああ」

「不思議だな。魔王だった頃は、信用できる仲間がいなかった。なのに今は――」

「敵だった俺たちが、仲間か」

「ふっ、皮肉だな」


 俺たちは無言で、消えゆく火を見ていた。

 やがて、空が白み始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ