第15話 ぴくり、ぴくり。
俺たちは、漆黒の塔を後にして、トマトヴィレッジに戻った。
道中、サラと再会して、抱き合って喜び――クワッ! クワッ! と可愛らしく鳴いた。
そして、なぜかアルテミスも一緒についてくる。
「……お前、本当について来る気か?」
「ああ。罪滅ぼしに、君たちの戦いに協力したい」
「えーっ、敵が仲間になる展開!?」
「ラノベでよくあるヤツね」
「ラノベって何なの?」
道中、ずっとこんな調子で、にぎやかに村に戻った。
トマトヴィレッジに着くと、村人たちが大歓迎してくれた。
「アメリアちゃん、おかえり!」
「タクヤ殿、ご無事で何より!」
「あれ……アルテミスじゃない!?」
「な、なんで連れて帰ってるのっ!?」
まあ、当然の反応である。
俺たちは、必死に村人たちに事情を説明した。アルテミスが改心したコト、これからは仲間として戦うコト。
「……まあ、アメリアちゃんが言うなら……」
村人たちは、半信半疑ながら、アルテミスを受け入れてくれた。
その夜、村では戦勝の宴が開かれた。
「乾杯~!」
「タクヤ殿、北の魔王討伐、おめでとうですわ!」
「クワッ!」
サラも、何故か乾杯に参加している。
俺は、ジョッキを傾けながら、ふと、思った。
……前世では、ラノベ作家の夢が、なかなか叶わなかった。バイトで疲れ果てて、家に帰っても、誰も俺の話を聞いてくれなかった。
でも、今は……
「タクヤ殿、もっと食べて?」
「タクヤ、楽しんでる?」
「タクヤ殿、お酒をどうぞ」
仲間がいて、認めてくれる人がいて、しかも、皆、可愛い。
(あれ、これ、案外、悪くない異世界転生……?)
その時、村の外から、誰かが駆け込んできた。
「大変だ! 大変だ!」
息を切らせた男が、広場に飛び込んでくる。
「タクヤ殿はおられるか!?」
「お、俺だけど」
「東の村が……東の村が、ベルフォードの軍勢に襲われています!」
「な……っ!」
……あ、はい。やっぱり、ゆっくり休む暇はないらしい。
俺は、ジョッキを置いて、立ち上がる。
「アメリア、アイリーン、アルテミス、サラ、行くぞ!」
「了解!」
「ええ!」
「あ、ああ!」
「クワッ!」
まだ、戦いは始まったばかり。
四人の魔王と、その先にいる大魔王ダグラス。
俺は、ラノベ作家としての夢を叶えるため、そして、この世界の仲間たちを守るため、立ち上がる。
ただ、その前に――
「汗かいちゃった! またお風呂入りますわ」
「私も、お供するわっ!」
こうして、またお地蔵様とブロッコリーが増えるのであった……
東タクヤ、25才、ラノベ作家(兼転生勇者)の冒険は、まだまだ続く。
◇◇◇◇
北の魔王アルテミスを倒した翌朝。
トマトヴィレッジの空は、嘘みたいに澄み渡っていた。昨夜の戦勝の宴の名残で、村中には花びらと、空っぽの酒樽が散らばっている。
俺は、寝ぼけ眼で外に出ると、井戸端で顔を洗った。冷たい水が、ぬるい瞼に染み込んでいく。
ふと、足元に視線を落とす。
サラが大事に抱えていた卵が――。
ぴくり。
卵が、わずかに、揺れた。
「……ええっ!?」
俺は思わず、その場にしゃがみ込む。
ぴくり、ぴくり。確かに、内側から何かが、ノックするように動いている。
ただし、孵化までは、まだ間がありそうだ。殻の表面に、ひびすらない。動いて、また、おとなしくなる。
「サラ……お前、母親になるんだな……」
「クワッ」
いつの間にか、サラがそばに立って、誇らしげに胸を張っていた。
俺は、なんだか、じーんと胸が熱くなる。
「俺の子……みたいなもんだよな……」
「あなたが産んだわけじゃないでしょ」
背後から、アメリアの冷静なツッコミ。
「いやいや、気持ちの問題で」
「気持ちで卵は産めないわよ」
「……はい」
まあ、確かに。




