第14話 最終兵器「転ポテ」!
俺は、もう一度考える。
決め手が必要だ。アルテミスを確実に仕留める一撃。豆腐で防御はできるが、それでは倒せない。
……アルテミスの弱点は、黒いベールに隠れている額のツノ。あれが、ヤツの力の源のはず。"転ポテ"の魔王にも、同じような設定があった。
「アメリア、ヤツの額のツノを狙え!」
「了解!」
アメリアが、再び突進する。
「アルテミス! 覚悟ぉぉぉ!」
アメリアが、地を蹴って跳躍。空中から――アルテミスの額めがけて剣を振り下ろす!
「無駄だ!」
アルテミスが、大剣で受け止める。
「タクヤ、今!」
アメリアが叫ぶ。
俺は、最後のスキルを発動する。
もう、適当に何かを召喚するんじゃない。今、必要なのは、確実に、ヤツの動きを止める何か。"転ポテ"の主人公、ポテト太郎の必殺技――いや、それより、シンプルに、強くイメージするだけでいい。
俺の、ラノベ作家として成功したい、という強い思いを、想像力に変えて――
「イマジナリースキル! ファイナル! いでよ、俺の本!」
ぼん、と空中に、何かが現れる。
ずっしりと、アルテミスの足元に落下したのは――
……俺の書いた、"転ポテ"の単行本。
しかも、装丁がやたら豪華で、表紙では――ポテトサラダ姫がぴくぴく動いている。
「……これは?」
アルテミスが、本を見下ろす。
「読め!」
「は?」
「読んでくれ! 俺の小説を!」
「……」
アルテミスは、不思議な顔をしながら、本を拾い上げる。そして、ページをめくる。
俺の最高傑作、読ませさえすればこっちのものだ! ――あまりの面白さに、夢中になって動きが止まるはずだ。
数分後――
「……これは……うっ……」
アルテミスの体が、震え始める。
「な、なんだ、この、退屈な世界観……っ! な、何ページにもわたる、ポテトの種類の説明……っ!」
「おいおい! ガチの感想言うな!」
「キャラクターの掘り下げが、薄っ……っ! 主人公が、感情移入できな……っ!」
「やめろおっ!」
俺は、地面に膝をついて、頭を抱える。
「うっ、うっ、これは、これは……読んでいるだけで力が抜ける……っ!」
アルテミスの体が、どんどん弱っていく。
……あ、これ……想定とちょっと違うけど……効いてる?
「き……効けばいいんだよ!」
気を取り直して、指示を出す。
「アメリア、今だ!」
「は、はい!」
アメリアが、再び跳躍する。
「一段、二段、三段斬り、ファイナル!」
アメリアの剣が、アルテミスの額のツノを切り裂く!
ガキンッ!
ツノが、真っ二つに折れる。
「ぐぐ、ぐおおおお!」
アルテミスが、絶叫する。黒いベールが、ぼろぼろと崩れていく。
その下から現れたのは――意外にも、整った顔立ちの、若い男だった。
「……負けた……か……」
アルテミスは、力なく膝をつく。
「貴様らのような連中に、まさか、私が……」
「観念しなさい、アルテミス!」
アメリアが、剣を突きつける。
しかし、アルテミスは、ふっと笑う。
「……まあ、いい。私が倒れても、残るは三人の魔王。そして、大魔王ダグラス様がいる」
「……」
「貴様らに、ヤツらが倒せるのか? 特に、東の魔王ベルフォードは、私の十倍は強いぞ」
……えっ、そんなに強いのか……
「そいつらも、倒すしかないですわね。 でも、人の心配してる場合でなくってよ」
アイリーンが、にっこり笑って、両手を構える。
「ふっ、と、止めをさすがよい……」
アルテミスが、後ずさったのち、顔を上げて言葉を振り絞る。
「その前に……もう降参! 降参する!」
「あら、命乞いするの?」
「私には、もう、戦う力もない……見逃してはもらえないかな?」
……あれ、なんか、急に弱気になったぞ。
「魔王の仕事も、そろそろ潮時だと思ってたのだよ。なんせ、やりくりが大変でね」
急に生活感出してきた! そ……そんな感じなのか……そして、よく見ると、アルテミスは目鼻立ちのくっきりしたイケメンだ。これは、女子受けしそうなやつ!
案の定……。
「アメリアちゃん、これは、見逃してあげてもいいかも」
アイリーンが、頬を染めながら言う。
「……まあ、戦闘不能なら、殺す必要もないわね」
アメリアも、剣を収める。
……切り替えの早い女子たち。
「あ、ありがとう……」
アルテミスは、深々と頭を下げる。
「私は、これから改心して、世の中の役に立つように生きるよ」
「ほんとに?」
「ほんとに。約束する」
うーん、なんか、信用していいのか、悪いのか。
でも、まあ、こうして北の魔王は無事に倒した。あと三人。




