第12話 夢魔の誘惑
目を覚ますと、俺はベッドの上にいた。
しかも、フカフカの天蓋付きベッド。シーツは赤いシルク。部屋全体が、ロウソクの灯りで妖しく照らされている。
「あら、お目覚め?」
ベッドの脇に、メフィスが座っていた。ゴシックドレスの肩がはだけ、白い肌が露わになっている。
「な、なんだここは!」
俺は跳ね起きようとする――が、両手両足は、シルクのリボンでベッドに縛りつけられていた。
「あらあら、暴れちゃダメよ」
「メフィス! なんでこんなコトを!」
「ふふ、お兄さんの欲望、もっと深く見たくなったの。ねえ、お兄さん、本当にエッチなコトを考えてないの?」
メフィスが、俺の上に覆いかぶさってくる。長い銀髪が、俺の頬をくすぐる。
「考えてるけど! 考えてるけど、それを利用される趣味はない!」
「あらあら、強情ねえ」
メフィスの唇が、俺の耳元に近づく。
「お兄さんの一番欲しい望み、私が叶えてあげる。何でも、何でもよ」
……何でも? その響きに、一瞬、心が揺れる。
(い、いやいや、騙されるな! これは、ヤツの罠だ!)
俺は、必死に頭を切り替える。こういう時こそ、想像力。"転ポテ"の主人公だったら、どうする?
……あ、そうだ。主人公が、第二部の終盤で、敵の幹部"ハッシュドポテト魔人"に同じように誘惑されるシーンがある。その時、主人公が使ったのは――まばゆい光を放つ、伝説の聖剣「ライトニングソード」!
俺は、目をぎゅっとつぶる。
「イマジナリースキル! いでよ、聖剣ライトニングソード!!」
ぼん、と空中に何かが現れる。
部屋が、まばゆい光に包まれる!
「きゃあっ! まぶしい!」
メフィスが、悲鳴を上げて顔をそらす。
光が収まった後、ベッドの上に転がっていたのは――
……大型の、業務用ケチャップ。
「……ケ……ケチャップ!?」
そ……そういえば……ハッシュドポテト魔人を倒したあと、おいしく頂いたのだが……その時につけてたやつ!
「と……とりあえず、使えるモノは全部使うっ!」
そのケチャップはカタカタと震えた後……ふたが開いて、メフィスめがけて猛烈な勢いで中身を噴射する!
「きゃああああっ!」
さすが業務用、ずんずん中身が飛んでいき、メフィスは瞬く間にケチャップまみれに……
「もおおっ! なんなのよ!」
ぬめりとした気持ち悪い感触に、思わず飛び退く。
「ぷ……ぷぷっ」
いつのまにか目覚めたアイリーンが、思わず吹き出している。
「と、とにかく、これでメフィスの集中は切れた! アメリア、頼む!」
「もう私の出番!?」
アメリアも、起き上がっていた。
メフィスは、ぶつぶつ文句を言いながらケチャップを拭おうとする。
「く、くっそぉ、私の魔法が……!」
「三段斬り!」
その隙を逃さず、アメリアの一閃がメフィスを切り裂く――いや、その寸前で、メフィスは煙に変わって消えた。
「……逃げられたわね」
「夢魔は、不利になると霧になって消える種族ですわ」
アイリーンが解説する。
「でも、塔の主要な防衛戦力を二人潰したのは大きいわ。あとは、アルテミス本体だけ」
「だな」
「それにしても……なぜケチャップですの? もっとかっこいい何か、剣みたいのなくって!?」
「え……ええと、効けばいいんだよ!」
俺はアイリーンの突っ込みに、適当に答えて……そして、ようやくベッドの拘束を解いてもらい、起き上がる。
「タクヤ、無事でよかった」
アメリアが、心配そうに俺を見る。
「お、おう、なんとかな」
「タクヤがメフィスに、エッチなコトされてないか、心配だったわ」
「……いや、危なかった! ほんとに危なかった!」
「ふーん」
アメリアが、頬を膨らませて、そっぽを向く。
「な、なんだよ」
「べ、別に!」
……あれ、これ、もしかして、嫉妬? いやいや、まさか。




