第11話 エッチな欲望
ベルセルカーを倒した俺たちは、塔の中へと足を踏み入れる。
塔の内部は、外観に違わず、漆黒の石で築かれていた。所々に、青白い炎を灯したランプが設置されていて、独特の不気味な雰囲気を醸し出している。
「ここからが本番ね」
アメリアが、剣を構える。
「タクヤ、気を引き締めて」
「お、おう」
階段を一段ずつ上がっていく。
しばらく登ったところで、突然、罠が発動した。
ガコン! と床が抜け、俺たちは下に落ちていく――
「うわああっ!」
「きゃああっ!」
「あらー!」
落下した先は、暗い通路だった。幸い、衝撃を吸収するクッションのようなものが敷かれていて、ケガはなかった。
「な、なんとか無事ね」
「ここは……?」
俺たちはきょろきょろと辺りを見回す。
「クワッ! クワッ!」
上の方から、サラの心配そうな鳴き声が聞こえる。
「サラ、私たちは大丈夫よ! 上で待ってて!」
アメリアが叫ぶ。
「クワーッ!」
サラの鳴き声が返ってくる。
俺たちは、落ちた先の通路を進んでいく。やがて、開けた空間に出た。
そこは、巨大な広間だった。中央には、不思議な祭壇が置かれていて、その上に……七色に輝く宝玉がある。
「あれは……封印の宝玉!」
アイリーンが叫ぶ。
「アルテミスの力の源……あれを壊せば、ヤツの力は半減するはずですわ!」
「マジで!? ラッキーじゃん!」
俺は宝玉に駆け寄る。
「待って、タクヤ!」
アメリアの声が、一瞬遅かった。
ガコン!
また、罠だ。
今度は、天井から鎖が降ってきて――俺の足首をぐるぐる巻きにし、逆さ吊りにする!
「うわああっ! なんだこれぇ!」
「タクヤ!」
アメリアとアイリーンが駆け寄る。
その時――暗闇の中から、笑い声が響く。
「ふふふ、引っかかったわね、お馬鹿さんたち」
声の主が、ゆっくりと姿を現す。
黒いゴシックドレスに身を包んだ、銀髪の少女。年齢は、20歳くらいだろうか。瞳は赤く、唇には妖艶な笑みをたたえている。
「……魔王軍幹部、夢魔のメフィス……!」
アメリアが、警戒した声を上げる。
「あら、有名人みたいで嬉しいわ」
メフィスは、優雅に一礼する。
「ふふ、こうして逆さ吊りになったお兄さん、なかなかいい眺めね」
……ええと、これは、逆さ吊りになってる俺の方が、彼女のスカートの中を見上げる形になるわけで、いや、ちょっと、その、視線をどこに……
「あらあら、お兄さん、顔が赤いわよ?」
メフィスが、にやにやしながら、わざと俺の近くに寄ってくる。
「ち、近づくな!」
「ふふ、夢魔ってね、男の欲望を見抜いて、それを利用して力を吸い取るのよ」
「……マジか」
「お兄さんの欲望、見せてもらおうかしら」
メフィスが、目を閉じる。すると、彼女の周りに紫色の霧が立ち込め始めた。
「ふふ……あら、お兄さん、なかなか興味深い欲望を持っているわね……」
メフィスが、目を開ける。
「ラノベ作家として成功したい……?」
……あ、あれ?
「アニメ化したい? 映画化したい? 主題歌は人気アーティスト?」
……それ、俺の欲望ですけど。
「……お兄さん、ちょっと、欲望がよくわからないんなけど?」
メフィスが、不機嫌そうに眉をひそめる。
「私の魔法は、もっと……こう、エッチな欲望を吸って力に変えるものなのよ!」
「いや、エッチな欲望もちゃんとあるけど……」
俺は拳を握り締めて、強く言い放つ。
「それよりも、俺はラノベ作家として成功したいんだ!!」
「……!!」
その強い決意! しかし、意味がよく分からないメフィスはぽかんと口を開ける。
「お兄さん、変よ。エッチより大事なものがあるなんて!?」
「いや、それが普通だから!」
「もう、興ざめだわ!」
メフィスが、ぷんすか怒り出す。
「アメリア、今だ! 彼女の集中を切らせ!」
「了解!」
アメリアが、剣を構えて飛び込もうとする――が、その時。メフィスがにやりと笑い、別の魔法を発動させる。
「眠りの霧!」
紫の霧が、広間全体に広がる。
「うっ……」
「ねむ……い……」
アメリアとアイリーンが、その場に崩れ落ちる。
俺も、意識が遠のいていく。
「ふふ、ふふふふ。お兄さんは、別室で楽しませてもらうわ。アルテミス様にお見せする前にね……」
メフィスの妖艶な笑い声を聞きながら、俺は意識を失った。




