第10話 張り付くパンツ
俺は、思わず後ずさる。これは、ヤバい。明らかに、アメリアより強そうだ。
(い、いや、待て。冷静になれ。俺はラノベ作家だ。こういうシーンは、何度も考えた)
俺は心を落ち着けて、頭の中で物語を整理する。
強敵が出てきたときは、まず、相手の弱点を探るのが定石だ。
「アメリア、ヤツの弱点は?」
「弱点? あんなの、力でぶつかるしかないでしょ」
……三段斬りの剣士、頭脳プレイは苦手っぽい。
「アイリーン、何か情報は?」
「ええとね、ベルセルカーは、怒りで力が増す種族ですわ」
「……怒り?」
「ええ。怒れば怒るほど、強くなりますの」
……それ、逆に言えば。
「怒らせなければ、弱い、ってコト?」
「えーと、たぶん?」
よし、作戦は決まった。
「アメリア、ヤツの注意を引いてくれ。怒らせるな、できるだけ穏やかに」
「は? 戦闘中に穏やかに?」
「とにかく頼む!」
「わ、わかったわ……」
アメリアが前に出る。
「あ、あの、ベルセルカーさん? ちょっとお話を……」
「うおおおおっ! 貴様らを切り刻んでやるぅぅぅ!」
大斧が振り下ろされる!
「ちょ、ちょっと、聞いてくださいよ!」
アメリアが必死に避けながら、話しかける。
「あなた、いい体してるわね!」
「あ?」
ベルセルカーが、一瞬、止まる。
「その筋肉、すごく素敵! どうやって鍛えてるんですの?」
「……ん?」
「私も鍛えてるんですけど、なかなかそこまでつかなくて……」
「お、おう、まあ、毎日3000回のスクワットと、5000回の腹筋と……」
……まじか……案外話せばわかるヤツなのか?
俺はその隙に、スキルを発動させる。今、必要なのは……ヤツの動きを止める何か。
そうだ!"転ポテ"の第三部に登場する――捉えた獲物は二度と脱出できない、伝説の捕縛魔法――"バインドネット"!
「イマジナリースキル! いでよ、バインドネット!」
ぼん、と空中に何かが現れる。
するすると落下してきたのは――
……パンツ。
大きな、白いフリル付きの、女性用パンツ。
「……」
「……」
「……は?」
ベルセルカーが、ぽかんと口を開ける。
「ふぁ、タクヤ、あなた、なに召喚してるのよ!」
「いやいや、バインドネットを召喚したつもりだったんだけど!」
その前のシーンで、ちょうどパンツが風に飛ばされる演出があって……あまりに印象的だったので、そっちが頭によぎってしまった……
その時、パンツがふわりと風に舞って――ベルセルカーの顔にぺたりと張り付いた。
「うぐっ! なんだ、これは!」
ベルセルカーは、大斧を放り出して、パンツを取ろうとする。
「取れぬ! なぜ取れぬ!」
……どうやら、俺のスキルで生み出されたモノは、簡単には取れない仕様らしい。
「うおおおお! 恥ずかしいパンツが、我が顔に! 目が、目が見えぬっ」
ベルセルカーは、怒り狂ってパンツを引きちぎろうととする。が、スキルの力で強化されたパンツは、ぴくりとも動かない。
「アメリア、今だ!」
「は、はい!」
アメリアは、混乱するベルセルカーの背後に回り――
「一段、二段、三段斬り!」
見事な三連撃が、ベルセルカーの背中を切り裂く。
「ぐああああっ!」
巨体が、どさり、と地面に倒れる。
「やった……勝ったのか?」
「ええ、気絶しているわ」
アメリアが、剣を収める。
「タクヤ、よくやったわ。あなたのスキル、本当に最強かもしれない」
「……いや、パンツが最強なのかもしれない」
「クワッ!」
サラも、誇らしげに鳴いた。
「ところで、タクヤ……」
アイリーンが、にこにこしながら近づいてくる。
「あのパンツ、いつもあんなに鮮明にイメージできるんですの?」
「い、いや、これは、その、作品を書くために、女性用の服装も研究してるんだよ!」
「ふーん」
「ふーん」
二人が、半目で俺を見る。
……うーん、集中力が足りないのか、今日もちょっとずれた上に、変な誤解まで……
俺は思わず、叫ぶ。
「き……効けばいいんだよ!」




