銘無し剣のマギ
「は?いきなり何言ってんの?
魔剣なんて、作れるわけないでしょ?
田舎者だからってバカにしてんの?」
「あー、そうだよな。普通はそうだよな。
塩は辛いってのと一緒だな。だがな、塩はキャラメルやアイスにもあう。甘さを引き立てるんだ」
ユーナは思った。
なんだこいつ。ウザイ。わけわからん。
だが、それをわざわざ相手に伝えるほど子供でもなかった。
「あー。でもどのみち無理。私ほぼ魔力が無いし。
トーマの契約精霊すら見えないレベルよ?」
ユーナは万年Eランクハンター、ただの一般人。そのユーナに魔剣なんて宝の持ち腐れだ。
「……その、ユーナの付けてる首飾り。
知っているのかもしれないけどすごくいい精霊が付いてるみたいなんだよ。
ただ、なんか寂しそうで。どうやら、相方のために役に立ちたいって言ってるらしいんだ。
それに、炎の精霊だから、ユーナとも相性悪くなさそうだし。
そもそもそいつがユーナに力を貸してほしいってさ。
それと、え?極点?収束?変換効率と掛け率ってのがなんかいい感じらしくて。
あー、剣の方も精霊に魅かれてやる気なのでなんとかなると思うぜ」
クリトですら理解していない風な説明を聞いても、もちろんユーナも訳わからんことになっている。
「よーするに?」
「飯で満たしてくれた礼に魔剣をってことだよ」
どのみち、トーマがいないのなら冒険者は続けられない。そういう意味では剣は持っていても意味がないものではある。
「あと、なんかこの首飾りの事も言っていたけど、これも材料にするの?
これは壊したくないんだけど。トーマの首飾りだし。
それにこの精霊と私は契約出来ないよ。ギラは既にトーマの契約精霊」
「あー、うん。大丈夫。
その精霊さんは既にトーマで満たされているから。その首飾りの中が気に入ってるんでそこから引きはがすつもりはない。
首飾りを付けたままで発動する、二つで一組の魔道具にするつもりだ。
トーマとギラの契約内容については、よくわからん。けど、今回はその契約の範囲でなんとかしてくれるってさ。
これで、パンにバター塗ったようなもんだ。一段アガる」
この首飾りにはトーマの相棒のギラがいる。トーマと共に経験を重ねたギラはそれなりに強力な精霊に育っている。
だがユーナの認識としては、契約をしたトーマとなら最高効率で術式を行使できるが、一般人ユーナでは、例え潤沢に魔力を注いでも実力のほんの一部出せない気がする。
ユーナはしばし迷ったが、どのみち剣を手放すつもりなので、やらせてみることにした。
「……そのうち、売っちゃうつもりだったし」
サナが、ピクリと反応した。
「サナ?まだ足りないのか?食え食え。食えばそのうち満たされるからさ」
クリトはサナに盃を進める。サナは盃を干しても変わらず無表情だった。
魔道具を作れることになったクリトは目を輝かせながら、準備を進めていく。
「この剣って名前は?」
「え?その剣の名前?えっと、たしか細剣の中のレイピアって種類だったかな」
「……相棒なんじゃないのか?」
「はぁ?
その剣はエルダークラスの鍛冶師の銘剣や曰く付きの魔剣じゃなくて、トマスの街で売っていた剣だよ?
それも弟子の習作を師匠が手直しした規格外品。
まぁ、私にはちょうどいい重さと形だし、頑張って手入れはしてきたから愛着はあるけど」
「だろ?満たしてやれよ。
名前を与えられただけで、産まれるプライドだってある」
キモいながらも熱意は伝わって来た。
それにクリトが”相棒”とよんだその剣は、トーマについていきたくて必死で修行して一緒に戦ってきた剣なのだ。
「名前付けたら、愛着も強くなって売りたくなくなりそうね」
ユーナは根負けしたと笑いながら、剣を撫でた。
「天才トーマの相方が精霊のギラだし。
師匠とギラの名前から、銘無し剣のマギにしよう。へっぽこ同士、頑張ろうね」
ユーナは気づいていなかった。
どうでもよかったこれからに、少しだけやりたいことが出てきていることに。
少なくとも、トーマが帰ってくるまでは、この剣ともう暫く生きていくつもりになっていた。




