帰らないヒト
ユーナはギルドに駆け込むと、大声で叫んだ。
「黒骨騎馬が!トーマが戦っているの!助けて!!お願い!」
一瞬の沈黙の後、ギルドは蜂の巣をつついたかのようになった。
超特急で件の橋へ向かった討伐隊が見たものは――火山の噴火でもあったかのようにすべてが破壊された跡だった。だが黒骨騎馬の残骸も、トーマの遺体も見つからなかった。
三昼夜が過ぎ、黒骨騎馬は近くには居ないとギルドが判断し討伐隊が解散された。
そして、ユーナはまたあの山小屋に戻った。そこは、ユーナとトーマが何年も暮らした家でもある。
やりかけの冬備えや作りかけの魔札。
食器に服。
あの日のまま、その空気が残っている。
ユーナは頭では、魂魄昇華まで使ったトーマは無事ではないとわかっている。あれは、トーマの本当の奥の手。生命力を魔力に変換する魔術。過去にも使ったのを見たことはあったが、その時は不完全であったのもあり、四日ほど寝込むだけで意識もはっきりしていた。
――今回は、どうであろうか。
崩れ落ちるかのようなトーマの姿が目の裏に浮かぶ。もう無事ではないと、わかっている。
――けど、諦めきれないのだ。待っていれば、あの飄々とした感じで帰ってきそうで。
それと、結局あの場にトーマの死体は無かった。
そしてそれはもう一つの可能性を指していた。――トーマが亜死族になったかもしれない。その可能性を指摘してきたのは、あの旅の二人組だった。
その二人組が言うには、トーマが亜死族になったとすると、最初の頃は思いの溜まった所へ立ち寄る可能性が高いらしい。
だがユーナにとってはどっちでもよかった。トーマが帰ってきたときに仮に亜死族だったら私も亜死族になろう。
どっちでもいい。
どうでもいい。
トーマさえ、隣にいたら。
ユーナはあの二人組がトーマを狙っていると感じていた。正確には、トーマの緑玉の杖を手に入れたいのではないだろうか。
トーマを倒させるわけにはいかない。――これ以上、トーマを傷つけることは許さない。
だから、今、ユーナは「黒骨騎馬を狩る」という二人を山小屋に招いている。二人を見張りながらトーマを待つという作戦において、居候の申込みは拒むものではなかった。
女はサナ、男はクリトと名乗った。
ユーナは改めて二人を観察した。
▽ ▽ ユーナ ▽ ▽
女の方は瞬間移動をしたあの魔術に、常に表情を変えず油断とか無縁のような感じ。明らかに只者ではないよね。
可愛いよりは綺麗系。髪も艶々。背は大人の女性としてはやや低めな私よりかは少しだけ高い感じかな。
ただ服のセンスはイマイチ。明らかに実用で選びましたー、遊びはないですーって感じ。自信があるから二の腕だしているのかな?
後、剣を振るうなら、やっぱもう少し身体は絞るべきでしょ。胸周りとか特に。邪魔でしょ?それ。毟ってもいいのかな?まぁ、トーマ好みの和なごやかさはないから、どうでもいいけど。私には関係ないし。まぁ、モテるんでしょうね。知らんけど。
んで、こっちの男の方は黒い小さな石版だかを見ながらぶつぶつと独り言をずっと言ってる。キモい。
顔?どうでもいい。動きもなんかキョドっているし。不器用だし。なんか、……気持ち悪い。
ただ、鼻につくくらい要領はいい。特に料理のコツだけは詳しいし。味付けはかなりいい感じなのよね。悔しいけど。
錬金術師を自称するだけあって持ち物も独特で、十分なお金も魔道具もいくつか持っているみたいなのよね。正直むかつく。
まぁ私を襲う様な度胸はないし、コイツらが盗みそうなモノもこの家には無いって断言できるから居候させてるけど。どっかの商家の三男坊な道楽坊ちゃんとその護衛ってとこかな。
▽ ▽ ▽
ユーナは割と呑気な考えを巡らせる程度にはリラックス出来ていた。
だがそれはこの二人の雰囲気のおかげだと気づけるほど、まだユーナは大人ではなかった。
「あ~食った。お前料理かなり上手いな。
それに調味料も色々もらっちまって、助かったよ。
旅をしているとフレッシュハーブはなかなか使えないしな。
油とか嵩張るのを潤沢に使わせてもらったのも久しぶりだし」
クリトは所作よく食べ終わるとお礼を伝えた。
サナはまだ食べている。……ほんとよく食べる。
街へ転移した後も屋台をかたっぱしから制覇していた。
お酒も好きなのか、無表情のまま、淡々と延々と食べて飲んでいる。
それでそのスタイルって反則じゃないか、とユーナは半眼で睨む。……どこをとは言わないが。
「お粗末様。って材料はほぼあんたらが山から狩ってきてくれてんだから、そのくらいいいわよ。
それと”まよねぇず”だっけ?その黄色いスライムみたいなの。
それも作ってくれたしね。案外イケる味よね。……トーマにも、食べさせてあげたいな」
「だろ?ばあちゃん仕込みなんだよ。
んで、話は変わって相談なんだが、その剣を魔剣にしないか?」




