二人の旅人
「痛ってぇ……。いきなり放るな。
で、ここどこだよ?」
いつの間にか、二人の旅人が近くにいた。
一人目は人形のように無表情で、長めの黒髪を後ろで一つにまとめている。黒髪に白いシャツ、軽い反りの黒い剣を抜き身で右手に下げ、泰然と佇んでいる女の子。
もう一人は青みのかかった黒髪を後ろに縛ったいかにも村人というか、鍛冶師見習いか錬金術師見習いという風貌で大荷物を背負った男で、なぜか尻餅をついて呆けている。
腰をさすりながら立ち上がるその鈍臭い姿をみて、直感が告げる。
“コレじゃない”
ユーナは迷いなく、女剣士に助けを求めた。
「お願い助けて!トーマが、トーマが!」
男から女に視線を戻すも、そこに女は居なかった。
直後。背後から、ガギンと金属的な音に襲われる。
反射的に首をすくめて、音源に目を向けると、女が黒骨騎馬に斬りかかっていた。
だが、斬れず。
黒骨騎馬は、その隙を見逃さずに襲いかかる。それを今度は炎帝が庇い女は辛くも逃れる。
仕切り直しと距離を取った女は、不意にピクリと反応し、なぜか暫しトーマを見つめる。
――次の瞬間、女はユーナへと詰め寄り、剣を振り上げた。
思わず、ユーナは目を閉じて身を屈ませる。
女の剣はそのすぐ脇に軌跡を描き、その軌跡は、黒い筋…否、裂け目となった。
そして、唐突にその女の子がユーナと男の腕をつかみポイっと裂け目に放り込んだ。
ユーナがえっと言おうとした時には、なぜかトリスの入り口に投げ出された格好だった。振り返ると女の子は納剣した状態で立ち、男は顔面と両腕で地面を支え、足が宙に浮いていた。俗に言う、三点倒立である。……腹筋が足りないのか、情けなく足が降りてきた。
女剣士はこれで済んだとばかりに街へ歩き出す。そして何の役にも立たなかったくせにどこかキリっとした空気を出す男の子はユーナと目が合うと、立ち上がりながら話しかけてきた。
「ッチ。
――すまん、守れなかった。
逃げるので精一杯とか……クソが。
……せめてヤツを俺たちが狩る」
……何言ってんだコイツ。
本音が出かかる。だが、ユーナはそれどころではなかった。
「トーマを助けなきゃ」
ユーナは、トーマから受け取った首飾りを握りしめ、ギルドに向かって走り出した。
ユーナの背を見送り、やれやれ、と男は荷物を背負いなおす。男は女剣士を小走りで追いかける。
「で?どういうことだ?」
追いついた男が女剣士に問いかける。女剣士は無表情のまま、声を出さずに精霊言語で答えていく。
〈うむ。お前が屋敷で黄昏れている間に、チセと割と強めの感情の揺らぎを探していた。
強い恐怖と救済を望む感情があったので、おそらく魔物に襲われていると判断したのだ。
なので、空間を裂いて移動したまでよ。
なにせ、感情と魔力を狩らねばならぬのだろう?〉
褒めろとばかりの空気にクリトが不満を吐く。
「なら、あのまま狩ってもよかったろうが。
俺ならあの程度、マシュマロをつぶすより楽に潰すぞ?」
〈そうか?
クリトは正直まともに動けまい?彼を知り己を知れと言ったのはクリトだろうに。
それに、頼まれたのだ。
――あの男に。
必ず、無事に街まで届けて欲しいと。〉
「あぁ?どういう意味だ?」
〈お前はあの程度でふらつき、尻をついたのだぞ?
それにチセがお前を”看破”してみたら、面白いことになっておっての。〉
〈クリトはね、元はやっぱり”剣士”だったんだけど、今のクリトは――“食物への執念”って読むのかしら?
クリトは魂が隙間だらけで、細かいところまで読みやすくて。
やっぱり目移りしちゃうのよね。ふふっ〉
「意味がわからねぇ……。
とりあえず、腹減ったからあそこの飯屋行くぞ。
時間的に夕餉のために店が始まるみたいだしな。
この匂いは、川魚の塩焼きか。
泥抜きはきっちりしてくれているみたいだな」
〈ふふふ。
クリトの嗅覚はやっぱり私の検索以上に優秀みたいね。〉
傍から見ているとひとりでぶつぶつ言っているようにしか見えないクリトはゆっくり街へと入っていた。
だが、その爪はまだ仕舞われていない。




