王城崩壊と、影の王
なんの前触れもなく、ガリエルが大剣をラフィーネに振り下ろした。――否、ラフィーネの初動に反応したのだ。
一瞬バネルと目を合わせる。そして、そのまま壁を破壊し、ラフィーネを巻き込みながら外へと飛び出して行った。
中庭の土煙が止む頃、ガリエルとラフィーネが対峙していた。
ガリエルは、まだクソガキだった頃、ラフィーネに憧れていた。
華奢な体躯なのに、その背中は誰よりも頼もしかった。しなやかな足は、誰も追いつけなかった。
そして、柔らかな手は、誰よりも苛烈だった。
――結局、ガリエルは一本も取れないうちに、ラフィーネは聖女として捧げられてしまった。
落ち込んでいたガリエルに見かねた当時の五番隊隊長が言葉をかけた。
「憧れてる間は、背中が見えてれば満足なんだよ。けどよ、そうじゃないだろ?」
だから、今のガリエルにとって、ラフィーネは憧れではない。通り過ぎる目標である。
感情をむき出しにし、だが、微動だにしない大剣のガリエル。目を閉じ、無表情だが常にゆらゆらと複雑なステップを踏む双剣のラフィーネ。一撃必殺と、一瞬千斬。まさに対極の対決が、静かに幕を切った。
ガリエルに王を任されたバネルは、突破を急ぐ。
苦渋の決断で戦力を分け、ゲーナムとジェムエルには防衛機構を立ち上げるため別行動を取らせている。
「怯むな!そのモヤには、魔力を纏わせて当たれ!ゲイリー、その二人とで露払いをしろ!」
そこまで行けば形勢が変わる。あと、少しで。
「!! っらぁ!」
まだ、焦点の定まらぬ王へと伸びたモヤを切り飛ばす。そして、見えてしまった。
すぐそこの目的地の奥、通路の壁際。そこに二人の少女がいた。二人とも目を瞑り、静かに。――“まるで、生きてはいないかのように”。
特に右の少女は緋色のドレスが映え、美しい。だが、見覚えはない。本来守られるべきその可憐な少女に、全開の警戒を傾ける。
――目を離さない、否、離せない。
少女の腕がゆっくりと上がり、ふわりと裾が揺れて……。
そこに、王妃の声が割り込んだ。
「『舞い散り煽る蒼き風 届かぬ音色 乱散華』惑わされては行けません。気をしっかり持つのです!」
聖女の幻惑を退ける。
そして扉が開かれた。そこにはグランタイズの決戦兵器、ガーゴイルゴーレムの群れが鎮座していた。
王達が退避しても、ラウドだけは残っていた。この先にティアがいる。ここで引いたら、もう届かない。
ニヤニヤとしている創崑を睨みつけていると、背後からモヤがラウドを襲う。
「ラウド様っ!」
ケイトが、寸での所でラウドを庇うが、弾き飛ばされ転がされる。そのまま、ピクリともしない。そんなケイトにトドメを刺さんと鋭くモヤが迫る。
だが。ここに居るはずのない、その男が立ち塞がった。その瞬間、世界が軋んだような違和感が走る。
「クリトっ!」
彼は、戦闘員ではなく、工作員だったはず。結界を届けたいが、今、自分の結界を緩めるわけにはいかない!
――キン、と硬い金属音が響き、モヤが霧散する。そして、クリトのそばにはサナが控えていた。
「――今、俺を呼んだのか?」
ラウドはクリトと目を合わせる。
「うむ。無事なようだな、クリト。
サナは、いつものようにクリトを守るのだな」
「――いつから、俺が見えてる?」
「?
湖の畔で名乗ってくれたではないか。初めての美味しいトマトを作ったのだから、しっかり覚えているのだ」
「……」
「クリト。ここは危ない。ケイトを連れて、ユーナと下がるのだ。
そして、サナ。すまぬ。付き合ってほしいのだ。
サナはアレとやりあえるのだろう?アレを斬り、ティアを救って欲しいのだ!」
「斬れても、届かない」
「……え?」
「あれは、単なる依代だ。
本体も姫さんも、あの先にいる。
こっから先は荒事だ。
こちらに任せてもらいたい。
が、――覚悟はあるか?」
「もちろ――」
「姫さんの逆の天秤はこの国だ。
選ぶ覚悟はあるのか?」
ラウドは俯く。
だが、それは一瞬だった。
力強くクリトを見返す。
「国なんて、まだよくわからないのだ。だけど、それを守ろうとしている人達は知っているのだ。
……でも、ティアを取り戻せるのは、今だけなのだ。
――その、国が壊れるのは、ダメだけど、きっとみんながいれば、なんとかなるのだ。
だから、ラウドはティアを選ぶ」
クリトはその返事に口角を上げる。
「お前は世界に抗える。
場は作ってやる。手前でキメて見せろ。
……来い!『万理』『万象』!」
読んでいただきありがとうございます
五番隊隊長
かっこいいですよね。
「あまり強い言葉を遣うなよ 弱く見えるぞ」




