突入と、蹂躙
創崑が大きく蠢き、靄の闇が深くなった瞬間、執務室のドアが爆炎と共にはじけ飛ぶ。
同時に幾筋もの雷撃や炎弾、氷槍が飛び込み、光の鞭が靄を打ち付ける。
「ラウド坊ちゃま!無事ですか?!」
「ちょっと!違うでしょう!魔術って、もっとこう……エレガントな感じじゃない!拳で殴って結界破壊とか、乙女にさせないでよ!
トーマの魔術ってもっとこう……難しい構築陣とか、どばーって感じでキラキラしてたじゃん!
なんで私は純粋に暴力な感じで魔術師っぽくなくて、こう……可愛くないじゃないっ!」
「王の無事を確保せよ!」
「だってユーナさん、まだやっぱり上手く構築式組み切れないじゃない?トーマさんとも相談して――それに、大丈夫よ。やっぱり最近の流行りは、女の子でもパンチにキックに、爆破とかでもアリみたいよ?」
ケイトが真っ先にラウドに駆けつけ背に庇い、王の影と席で臥せっている王を見比べる。
ざわめきと共に衛兵や赤騎士団長のガリエル、同副団長のバネル、守護隊筆頭魔術師のゲーナム、ユーナやサナ達も駆け込んでくる。
皆が急く中、ひとり悠然と入ってきたのは、王宮魔術師団長ジェムエルだった。
「ほほう……なるほど、この構築式が、こう隠されて。――このジェムエル、長年王宮に魔術師として務めてまいりましたが、まさかまさか、王の執務室にこのような――」
「ジェムエル老師。解析は後です。まずは、あの創崑なるものを始末しなければ」
ジェムエルをゲーナムが嗜める。
そして、最後に王妃も現れた。
「……カチク ドモガ チョウシニ ノルナ!
……モウ イイ
ドウニデモ デキルノダカラ!
『宣誓:この城は我のモノとなる』」
王の影は、両腕を高く掲げながら勝ち誇ったような笑みを出す。魔力が迸り城に満ちていく。
――が、一拍の後それはサナの掲げる魔石に一気に吸い込まれていく。
「さすが、あの方の直系が組んだ構築式ね。解析、分析、そして改竄にやっぱり少し時間がかかっちゃったわ。
でも、やっぱりこれだけ多くのヒトが居て、――長い年月があれば、綻びは出来るわ。それを突ければ、やっぱり何とかなるものね。
おかげで魔力がこーんなに!ふふっ」
サナがニコニコと上機嫌で魔力の溜まった魔石を見せつける。
「カチクノ クセニ 舐メタ マネヲ
ミノホドヲ ワキマエ サセル!」
苦々しい顔をしつつも、王のような影は再び両手をかかげ、新たな構築式を展開する。
「宣誓:次段の解放
――定義:再構築」
「あらあら、そんな風に組む構築式もあるのね。初めて見るわ。
……ン~。なるほどね。鏡界存在による疑似再生とそれの召喚みたいね。
えーっとあそこのショートカットの先とむこうのモジュールの意味は……中々に複雑ね」
「ほう、お主もなかなかやるのう。おそらく、あのモジュールの根本から見るに循環における置換措置ノイズの処理についてじゃろう」
「まぁまぁ、おじいちゃん、さすが!直感での看破ね。わたしは順番に見て行く方が得意なのよね」
衛兵や騎士団達が創崑に詰め寄ろうとしているが、靄に阻まれ、紫電に焼かれている。そんな中でも、サナといかにも偏屈そうな老魔術師ジェムエルは敵ながら見事!と言わんばかりに魔術談義に花が咲いている。
「――『宣誓:暴れろ』!」
魔力を得て完成した構築陣は輝きながらパンと弾けてキラキラと散って行った。瞬間、魔術オタク……もといジェムエルの顔が蒼白となる。
「いかん、まさか、このように帰結させるとは!早すぎる!
ゲーナム!まずは緊急結界の起動と詰め所の連携を確保じゃ!
ガリエル、こやつ城中に魔物を召喚しおった!」
王の身を確保し、王妃ともども背後にかばう赤騎士団長ガリエルは、宝剣に魔力を這わせ身体強化の魔術を一気に纏った。
「バネル、ゲーナム師と共に陛下達を」
ガリエルが静かに言い終わる前に、すでにバネルと騎士達が王族をいわゆる魚鱗の陣で守り、ゲーナムがその陣ごと結界で覆っていた。
そして、ガリエルは目の端でそれを確認すると裂帛の気合を解き放ち創崑へと突貫した。
だが、それを止めたのは、靄をまとう年若き乙女。その姿は先代の聖女であった。そして聖女として鏡に捧げられるまで討伐体の先頭に立っていた。その全盛期と同じ”風の戦乙女ラフィーネ”としての鎧と剣を身に纏っている。
「ラフィーネ様!」
王妃が真っ青な顔でその魔物を見る。彼女が王妃教育を受けるなか、ラフィーネが聖女として捧げられるまでの数年間を共に過ごした当時の姿のままであった。
だが、風の戦乙女は王妃の呼び声には一切の反応を示さず、無表情のまま目も閉じている。
「モウ 遅イ
過去ノ セイジョタチニ 蹂躙 サレロ」
流雷の射手、千斬の双剣士、烈陣の人形使い、そして紅蓮の舞姫。
渾名を持つ程に武を馳せた聖女達が城のあちこちから次々に現れて来た。
「逆ラウ カチクナド イラヌ!
セイジョタチヨ スベテ 破棄セヨ!」
猛るように声を荒げる創崑が命じると、一斉に歴代の聖女達がその力を振るいだした。
そして、あちこち鏡から湧き出た黒い靄が、まるで触手のように蠢き、――逃げ場はどこにもなかった。
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次回嘘予告
重ねた時の重さは、存在の強さとなる
「歴代聖女のお局様」
君は、覆さないチカラもあることを知っているか




