改竄
「柘榴石宮 思政の間」
ぽつりとサナの声がした。
ラウドが振り向くと、サナはこちらを見つめていた。
「サナ?何か言ったのだ?」
「柘榴石宮 思政の間」
今度ははっきりと聞き取れた。
サナは組んでいた手をほどき、ラウドと向き合う。
「“改竄”」
ラウドは直感的に理解し、駆け出した。
サナは非常に冷徹な時と、なんかおばちゃんみたいな時がある。
冷徹な時は魔術や発動前の構築式すら剪断する剣を振るい、朗らかな時は色々と深い情報を与えてくれる。どちらの時も癖が強いが、少なくともラウドはどちらのサナも信頼している。
ラウドが最初にサナの秘密に触れたのは、確か、治水におけるため池をどうするかってことに悩んでいた時だった。その時にサナはラウドにその能力の一部を教えてくれていた。
▽ ▽ ▽
「ここは池にしない方がいいわよ?あのね、あまり知られていないけどこの一帯には赤鼬が住んでいるの。ガローセム地方の風土病にガゼム咳があるじゃない?あとガローセム地方といえば、やっぱり亀料理よね。あのコラーゲンたっぷりのお肉はやっぱり美容にいいのよ。特にここのメスレム料理長はスープがお上手でしょう?あの黄金色に澄んだスープはやっぱり芸術だと――」
「ガゼム咳がどうしたのだ?」
ラウドは、サナとの会話では、要点を拾わねばならぬと学習していた。
「ガゼム咳の特効薬を作るのに赤鼬の魔石があると便利なのよ。やっぱり魔石って便利よね。魔力も込められているし、魔術の構築式も込められているモノがやっぱり多いじゃない?まぁ、それを応用したのが魔札だけど、魔札と違って再充填できるし。充填といったらやっぱりシュークリームとエクレアよね。私ね、やっぱり味はよくわから――」
「ガゼム咳と魔石がどういう関係なのだ?」
「あらあらごめんなさいね。あのね、赤鼬の魔石をそのまま発動させると割と高温で乾燥した風が出るのよ。その乾燥した熱風が薬草を煎じる際の温度湿度にやっぱり丁度良くて。あれさえあれば特効薬がやっぱり簡単につくれるのよ?たしか、そのレシピは……“万能の魔女”が公開していたと思うわよ?
そうそう、それでね、赤鼬ってやっぱりあまり狩られないから知られていないけど、あそこまでしっかりコロニーになっているのはあの辺りではあそこくらいなの。だから、やっぱり溜池にして全滅させない方がいいわよ?」
「……サナは本当になんでも知っているのだ」
「ラウドはサナの扱いがよくわかってきているわよね」
「あの朗らかな坊ちゃまが、食い気味に会話されている……」
ユーナがうんうんとうなずいている。その隣のケイトが、マナーがどうとかブツブツ言っている。
「……私はある意味呪いのような、特殊なのよ。だから、色々と変な情報も得られるの。
でも、秘密にしていることは、やっぱりなかなか知れないのよね」
「秘密にしていること?」
「そう。情報ってね。やっぱり広がってほしいって思いもあるの。
だからやっぱり基本的に情報ってみんなのモノなのよ?少なくとも私にとってはそう言うモノなの。
例えば”言葉”のように皆が知っていることが大切な情報もあるの。
だから私はやっぱり文字が大好きなのよ?同じように数字や魔法陣も情報の塊だからやっぱりすごく好きね。
でもね、やっぱり秘密にされている情報ってあるの。秘密だから価値のある情報もあるの。
……だから、理解するのも大変だけど、私は外部演算もできるように組まれているから。
“解析“や”分析”。
それに”改竄“だってできるのよ?
……それしか、とも言えるけどね。
でも、秘密って、その秘密の存在をちゃんと知らないとやっぱりできないの。
たとえば、実際に”秘密にしている現場に入る”とか、その人やモノや”その構築式に触れる”とかね」
▽ ▽ ▽
たしか、あれは二十日ほど前のこと。
唐突に告げられた場所だが、ラウドはそれに納得している。
やはり、鏡への手掛かりはそこにあった。柘榴石は始まりの象徴、一番目の象徴でもある。その柘榴石を冠する宮殿はこの城の真中であり、そこにある執務室。
つまり、
「ラウドか。唐突に何用だ?」
この国の王の執務室である。
この執務室は北側に入口、東西両側には大きく壮麗な装飾窓と入り口側に隣室へのドアがあり、南側を背にするように執務机が置かれている。
華やかな設えの多いグランタイズ王宮において珍しくシンプルながら重厚造り。いかにも過去の王達が組み上げた歴史を語るかのように盤石な雰囲気となっている。
照明もほかの部屋と違い、この部屋の照明はシャンデリア系ではなく、シンプルな魔灯となっている。
もっとも、日中は窓から太陽が適度に差し込むため、照明が付いた状態をラウドはほぼ初めて見ている。
最近はラウドも一部の業務をここで行っている。そのため、王と比べれば二回りは小さいが、それなりにしっかりした机と資料棚がラウド用に運び込まれている。
ラウドは一通り見渡すがいつも通り――のはずだが、なぜか違和感を感じた。
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次回嘘予告
わずかな違和感に気づいたら
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