“わたし”はサナ
「サナは、……サナならば、あのカガミを切れぬか?」
口に入っていた唐揚げを急いで飲み込むと、ラウドはサナをすがるかのように見上げる。
サナは無表情で見返し、口をひらく。
「……斬る」
「なら、姉上をサナが助けてくれるのだな?」
「……一縷の――」
「女、軽々しく口を叩くな。
さ、ラウド様帰りましょう?」
「姉上はどうしたら、助けることができるのだ?」
「あー。チセさんに表に出てきてもらいませんか?このままじゃ話がすすまないよ。
私はよくわからないし」
ユーナが困った顔でサナを見ている。
「すまないが、これ以上時間はかけるつもりはない。馳走になった。
さ、ラウド様帰りますよ?」
男がサナに黒い石板のようなものを渡す。すると、無表情だったサナの表情が、急に和やかなものに変わっていく。その様子をケイトは鋭い目で確認する。
「あらあら。ケイトさん初めまして。えっと、やっぱり”わたし”のことはサナと呼んでくださいね」
「残念ながら、呼ぶ機会はなさそうだな。さ、ラウド様帰りましょうね」
「右側のクローゼットの三段目の引き出しの下。それから、やっぱりベッドの下も定番よね。あとは持つべきはやっぱり同志よね。給仕のアミーちゃんかしら?それと紅の貴腐人の新刊はやっぱり来月中頃に発売されるみたいよ」
「ほんとか?!
……は?えっと、なんのことだ?私は知らないぞ?」
明らかに動揺するケイトにサナは畳みかける。
「やっぱり、薔薇も百合もどの世界でもいいものよね。やっぱり王宮は華やかですものね。カルベネ侯爵とやっぱりリッツィ衛生副長とかは人気よね。
……あのね、実はあなたたち姉妹も百合界ではやっぱり人気なのよ。先週も守護隊のエルサからスールのお誘いあったじゃない?」
「カルベネの叔父上とリッツィがどうしたのだ?」
いつも忙しそうな顔をしている叔父(イケボランキング不動の1位)と、医務室に詰めているラウドから見ても可愛い、……その界隈ではショタと呼ばれる人種の名前が急に出てきて、ラウドはきょとんとしている。
「逃げますよ!ラウド様!!」
なにやら問いたださなくてはならないような情報も聞こえた気がしたが、教育上もはや一刻の猶予もないと判断したケイトは戦略的撤退を選んだ。
「鏡による魔女との契約。王としての資質。そして魔女の名はインウィディア。
――多分、だけど。似ているのよね。昔あの方から聞いた話と。
うん。やっぱり聞いていてよかったわ。だからケイトさんもラウドくんのお話も聞いてあげて?」
サナは違う角度から見逃せない情報を更に放ってきた。
「……貴様何者だ?なぜ、どこまで、何を……知っている?」
ケイトは目の前の女がただの情報通ではないことを認め、危険人物として再認識した。
「なんでもは知らないわ。知っていることだけ。
ふふ、やっぱり言ってみたかったのよ。憧れのセリフっていっぱいあるじゃない?せっかく喋れるんだもの」
ニコニコと、サナは読めない笑顔を張り付けている。
「父上は、精霊と言っていた。サナは、姉上を助ける方法を知っているのだ?」
「ラウドくん、それはやっぱりとても難しいの。でも、難しいってことはやっぱり出来ないってことじゃないの。
ラウドはティアお姉さんのために頑張れる?」
「……確かに何かを知っているようではある。だが、信用はできない。あれは王家の契約により成り立つ宝具なのだから。それを知っていて、かつこちらが把握していない人物である時点で貴殿らは要注意人物だ」
「あれはやっぱり呪具なのよ。定期的に生贄を要求して、その絶望を喰らい力を貯めるようなものなの。対の宝玉の創崑によって、なんとか抑え込めてるようだけど。やっぱり危ないわよ?」
ユーナは、珍しくほとんど脱線しないチセの会話にびっくり……していなかった。
「貴様の言っていることは代々聖女を務めてきた王家を貶めることにもなる。
――戯言だと今なら聞き逃してやる」
「ラウド君は、どう思う?
王女って、聖女って何だと思う?」
ユーナは何故か二人の会話がどんどん遠くに感じていた。ぼんやりと、頭が霞む。
「それ以上口を開くな。貴様が何なのか、まだわからないが、ここから先は城で聞かせてもらおう。
おそいぞ、ライム」
「仕方ないではないですか。
私はお姉さまみたく、滑空跳躍はできませんし。
それに、ここはトラップが異常に敷かれていましたし」
誰か来たようだ。
だけれど、ユーナはそれに気づかない。
――その場にいた誰よりも早く。
ユーナの意識は、深く沈んでいった。
読んでいただきありがとうございます
チセの知識量ならあの人にも負けないかもです。
量だけなら。
「私は正しくありたいだけ。正しくあることが一番気持ちいいから、そうしてるだけだよ」




