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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  〜世界が俺にキャラを押し付けてくるんだが?!  作者: まお
斬れない剣と、目覚める厄災

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沈黙する器と、赧い線

食堂に向かうと、珍しくチエが既に起きていた。

 酌器を見るなり、顎をしゃくる。――話せ、ということらしい。

 クリトは手短に、昨夜の違和感と消えた魔力について伝えた。


「ほぉ」

チエは酌器を撫でながら目を細めた。

「なるほどねぇ」

「わかるのか?」

「さて、ね」

その口元は昨日のクリトそっくりに笑っている。

「あのハゲにしては、いいもの出したじゃないか。」

チエは椅子に腰を下ろし、酌器を軽く叩く。コン、と乾いた音。

「魔術式すら見えない、感じない、残らない。これは"隠してる"んじゃない。"成立してない"んだよ」

「成立してない?」

「本来あるはずの工程が、最初から存在してない。

……つまり、"魔術じゃない"」

クリトは眉をひそめる。

「じゃあなんだよ」

「さぁてね」

チエは肩をすくめた。

「ただ一つ言えるのは――

"こいつは世界のルール、理からズレてる"ってことさね」

その言葉に、わずかに空気が張り詰める。

〈……それって、まずいやつ?〉

「最悪で最高に面白いじゃないか」

チエはニヤリと笑った。

「で、魔力は?」

チエの問いにクリトは肩をすくめる。

「吸われた。ごっそり」

「量は?」

「……測ってない」

「はぁ……。バカだねぇ」

軽く頭を小突かれる。

「こういうのは"どれだけ食うか"が大事なんだよ。性質が見えるからね」

そう言うと、チエは指を鳴らす。

空間に、幾何学模様の魔法陣が展開された。幾重にも重なり、ゆっくりと回転する。

クリトは思わず息を呑む。

「……相変わらず、えっぐいな」

「ただ魔力をブーストさせているだけさね」

チエはなんでもない事の様にクリトに言う。

そして――

「いくよ」

膨大な魔力が、一気に酌器へ流し込まれる。

瞬間。空気が、空間が歪んだ。

クリトは思わず一歩下がる。

「……は?」

魔力が、飲まれていく。

ただ消えるのではない。"魔力という存在ごと削られている"ような不気味な感覚。

チエの魔法陣が、わずかに軋む。

「ほぉ……」

それでもチエは笑っていた。

「いいねぇ。これは"底"があるタイプか」

「底?」

「無限に吸うわけじゃない。

――どこかで"満ちる"」

その瞬間だった。

酌器の底から――赧い線が立ち上がる。

「……出たね」

チエの声が、わずかに低くなり、クリトが息を飲む。

線は、ゆっくりと空間を侵食するかのように伸びていく。

既に器の内側ではない。"中にある空間"が膨張している。

〈なに、これ……〉

相棒の声が震える。

クリトは目を細め、自身の本能が最大級の警報を発している事を自覚する。

「……裂け目か?」

線が、わずかに"開いた"

。

その瞬間、ゾクリと背筋が凍る。

覗いてはいけない何かを見てしまったような、何かに見つけられてしまったような感覚。

チエが、魔力の供給を止める。

ピタリ、と線の動きが止まった。

数秒の静寂。

やがて、線はすっと消えた。

何事もなかったかのように。

「……はぁ」

チエが息を吐く。

「確定だね」

「何がだよ」

ずれてもいない眼鏡を直し、チエはクリトに向き合う。

「これは"入れ物"じゃない。"入口"だ」

クリトが無意識に喉を鳴らす。

「どこへのだよ?」

チエは、にやりと笑った。

「さぁてね。地獄か、神の庭か、それとも――」

わざと間を置く。

「“伝説の残骸”か」

その言葉に、相棒が小さく息を呑む。

〈……やめてよ、そういうの〉

「いいじゃないか。ワクワクするだろ?」

チエは立ち上がりドアへ向かう。

「さて、準備するよ」

「準備?」

「決まってるだろ」

チエは振り返り、楽しそうに言った。

「“中身”を見に行くんだよ」

その目は、完全に魔女のそれだった。

だが、準備は行われなかった。なぜなら直後に酌器が爆ぜ、赧い裂け目が立ち上がったのだから。

赧い線は、静かにそこにあった。それは、まるで世界に刻まれた傷のようだった。

「……来るよ!」

チエの声が、わずかに低くなる。

次の瞬間。線が開いた。

音はなかった。ただ、空間が“ずれた”。

「っ、ばあちゃん!」

「腹くくりな!」

〈クリト!〉

相棒の声が遠くなる。

飛び下がろうと、だが、遅い。溶けるように、二人の身体は裂け目へと吸い込まれる。

気づけば――そこにいた。

真っ暗だった。光がないのではない。“意味がない”暗闇。足場はないはずなのに、立っている感覚だけがあ

る。

隣にチエがいる。少し離れた場所に、砕ける前のあの酌器。

「……なんだい、ここは」

チエが呟く。その声に、わずかな“迷い”が混じっていた。

クリトの喉が鳴る。

「ばあちゃんでも、わからねぇのかよ」

「わからんね」

今度は即答だった。

唐突にひび割れる音がした。反射的に視線を向ける。音源は酌器だ。細い亀裂が走り、次の瞬間には内側に

潰れ、砕け、溶ける。

そこから現れたのは――影。巨大な、何か。

「……おい」

クリトの声がかすれる。影が、形を持つ。うねる胴体。鱗。ぬらりとした質感。そして――首。

一つ。二つ。三つ。四つ。まだ増える。五つ。六つ。七つ。八つ。

クリトは言葉を失った。

「……蛇、か……?」

だが、それは"蛇"という言葉で収まる存在ではなかった。

あまりに巨大。だが、大きさそのものより、その存在を本能が拒絶する。

複数の頭を持つソレは、鎖に縛られ、鎖は一振りの太刀で封じられていた。

その姿に畏れを感じ、チエは言葉を溢してしまう。

「……八岐大蛇(やまたのおろち)」

――この場では、この存在の前では、ソレは音以上の意味を持っていた。

――否、持たせてしまった(・・・・・・・・)

読んでいただきありがとうございます

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