炎の英雄と、その火を継ぐ者
それから、私たちはトリスの街に向かった。
まずはギルドに行って討伐をした黒骨騎馬と眷属多数の処理。
黒骨騎馬は、鎧しか残ってなかったけど、狼やら山猫やら鷲やら蛇やらの焦げたり割れたりした骨などは、聖堂に頼んでしっかり浄化。それにしても、いつの間にこんなに倒したのか。サナはやっぱり強いんだねぇ。
あと、報酬すげぇ。
鎧はまぁ高いんだろうな、と思っていたけど、骨も触媒やらなんやらでわざわざ商都アバルトからも人が来てトリスの街はちょっとした景気に沸いた。
次に、トーマの身体の浄化と埋葬。
これは、聖堂の牛女、ってこんな言い方だめだよね。セーラさんにしてもらった。
身体はボロボロだったけど、でも顔は比較的無傷な、そんなトーマだった身体をセーラさんは真っ赤になった目で見つめていた。清めた身体は最後に”炎の英雄”なんて名前を贈られて燃やされていった。
流れ着いた師匠は街のみんなに好かれていたんだって、改めて思えて誇らしかった。
「立ち登る煙が高くまで届くほど、死者は安らかに眠れるのですよ」
そんな風に慰めてくれるセーラさんに、トーマを精霊にして連れてるという秘密を抱いた私はどんな顔をしていいかわからず途方に暮れた顔をした。
そんな私をセーラさんは優しく抱きしめてくれた。柔らかくて、ちょっといい匂いがした。
だけど、やっぱり言えなかった。人間を精霊化するなんて方法がばれたら、クリトは間違いなく捕まる。
良くて王都で監禁されて死ぬまで呪法の研究。悪くて、異端者として聖堂から即処刑。もちろん、トーマは実験動物みたいな扱いだろう。
だから泣ききれない私は、事情を話す訳にもいかず頑張って悲しそうな顔で葬儀を済ませたのだった。
そして、ユーナはあの夜に決断したことを、実行にうつす。
その、一つ目の決断。
溶けたマギと割れた緑玉を使って、私の右手を作ってもらった。
さすがに鍛冶まではできないクリトは、溶けたマギを剣に戻せないし、なんか、焼け落ちて変質した金属だったし、打ち直しただけじゃ、マギじゃない気がして、けどなんか……。
そんなふうに悩んでいたら、クリトはむしろ義手ならなんとかできるっていうから、うん、これからもよろしくって思いで、クリトに錬成をお願いした。クリトは珍しいほどやさしい笑顔で受け取ってくれた。
緑玉については、完全に崩れていて、どの道錬成が必要だった。
ならばいっそ、マギと合わせてしまえってことでマギと合わせて右手に錬成してもらった。けど、錬成するにはそれだと強度や魔導制御が足りないとかで、黒骨騎馬の鎧の欠片とか、高価なアレコレを色々追加で使ったらしい。
正直、どうせお金かけるなら、年頃の乙女の腕にふさわしく、もう少し可愛く、せめてエレガントに仕上げて欲しかった。けど、この腕はトーマのお部屋でもあるから、ちょっと無骨なデザインでも我慢よね。
二つ目の決断。
ギラと別れた。
いや、正確にはそうじゃないらしいんだけど、私の主観としてはサヨナラだった。
精霊ってのは、基本的に眷属全てひっくるめて一つって存在なんだそうだ。その中でもごく一部、たまたま、特別な意味を持った部分が名前を名乗れるらしい。
ギラにとっての意味はトーマだった。だから、不安定ながら精霊化したトーマに自分の存在を譲って、トーマを火の眷属に迎える代わりにギラは名前を失った。
つまり、消えたわけでも、まして死んだわけでも、むしろ離れてすらいないけど、もうギラとしては存在できないのだ。なのでギラの首飾りを持ってる私はちょっぴり炎の変換効率がよくなっている。
ま、ある意味私専用の魔導具って感じかしら。
そして、トーマって意味を保たせるために、私とトーマは契約をした。
待って。
精霊との契約って事はずっと一緒って事よね。しかも、トーマは大体私の右手の元緑玉にいる。精霊と人間の契約だから、文字通り一心同体、一蓮托生、一汁三菜、結婚生活、新婚初夜、えっと違う、なんかあの、とりあえず、そのこっち置いといて、そう、ギラと別れた。
さみしい。
悲しい。
うん、以上。
三つ目の決断。
私は剣士を辞めて、魔術師になる予定だ。
マギ以外の剣はなんか嫌かなってポロって言ったら、クリトが珍しく強気で相槌を打ってきた。だから、ってわけじゃないけどなんとなく、剣士は卒業。元々才能があった訳じゃ無かったし。剣はトーマについていくための手段でしかなかったしね。
だけど、力が必要だから、私は魔術師になる。だって足手まといは嫌だもの。
それが四つ目の決断に繋がる。
私は、三人の旅についていく。その為に力が必要だ。
昨日やっと聞き出せたけど、サナはなんと、人造人間だそうだ。
なるほど。だから、たまにチセさんが入ったりしているのか。そしてなんか呪いの様なモノをクリトと共に受けているらしい。
だから、クリトがなぜか気持ち悪かったし、独特な感性で食べ物例えを出してたわけだ。目が合っていても、ちゃんと見れていない気がしてたのよ。それも、ある程度、魔力を集めれば変わっていくみたい。今回の黒骨騎馬で一段変わったらしいけど、ふふ。あのクリトがまさかあんなキャラをねぇ。
――正直、ちょっとだけ怖い、かな。
ここから先はまだ詳しく聞けてない。ま、一緒に旅する訳だし。時間もあるから、クリトの話は後回しでもいいかなって。
ちなみに、チセさんは、本物の人間のチエおばあさんが遠い国から持って来た薄い本とかいうモノから生まれた神様らしい。
まぁ、チセさんの言うことだから、なんか盛ってるんだろうなとは思っている。そのチセさんは、断固としてお姉さんで通すんだよね。
まぁ、こっちもまだまだ詳しくは聞けて無いけど、サナとチセとついでにクリトがマトモな人間になる為に、三人は旅をしているのだそうだ。
つまり、上手く行けばトーマも人間に戻れる!
乗るしかない、このビッグウェーブに!
なぜか同行の説得が終わった頃にはクリトはズタボロだった気もするけど、細かい事は気にしない。
なんかいつも通りな気もするし。なんとなく、サナも笑っているって感じだったし。チセは、妹が増えたってはしゃいでくれていたな。
トーマ、もう少し待っててね。
そして、最後の挨拶。
旅に出る為に、街の皆にお別れを言った。
ここは、私の第二の故郷。
色々料理を教えてくれた宿屋のミレイさん、お洒落を教えてくれた酒場のケイさん、悪いことをした時は本気で叱ってくれたマルロさん、マギと引き合わせてくれた鍛冶屋のガントさん、それと、ケイ、ララ、ミーナ、アル……それから、他にも沢山のヒトに支えてもらった。
もちろん、ライバルであり、姉代わりでもあったセーラさんにも。
街に帰ってきた時にすぐに駆け寄ってきてくれて。失くなった右腕と、ざっくり切れてる髪の毛と、隣にトーマがいないのを見て、誰よりも、泣いて、怒って、悲しんでくれた、……私のお姉ちゃん。
けど、一通り泣いたら、お帰りって微笑んでくれた。
血はつながっていないけど、ボロボロになってた髪の毛を丁寧に揃えてくれた、私のお姉ちゃん。
もう、髪を切ってもらうのもこれで最後なのかもしれないんだな。
旅に出るって言ったら、一人で大丈夫?って心配されて。
だから、勇気を出して、実はこの右手が恋人なんですって言ったら、いきなり表情が抜け落ちて物凄い真顔になって、それはやめなさいって、怒られた。やっぱり、トーマが精霊になったの気づいていて、精霊と人間の異種恋愛に怒ってるのかな。
腕が出来上がるまでのこの三週間で私は、みんなにありがとうを少しでも届けられたかな。
あとなんか、ヒゲの似合わないヤツも泣いてたけど、どうでもいいか。
私は、今日から旅に出ます。
それと、決断をもう一つ。
魔術師になる為に、トーマに弟子入りしました!
天才を超えてやる!私の伝説はこれからだ!
今度こそ、トーマに追いついて、惚れさせてやるんだから!
待ってなさい、トーマ!!
▽ ▽ ▽
炎の英雄のお話は、ここで一区切り。
身体三人、魂五人はこの後も色々と巻き込まれていきますが、それはまた別のお話。
読んでいただき、ありがとうございます。
これにて、第二章を閉幕いたします。
三章は、また主役が変わります。
次回嘘予告。
にこりと微笑む、白馬にまたがる紺碧の瞳。
第三章 一話 「王子こそメインルート」
君は乙女ゲームに巻き込まれたユーナとトーマの幸せを守ることができるか。




