【 Ep.3-018 ダンジョン『ガラテア大迷宮』-浅層- 】
恐らく今年最後の投稿となります。スローペースですがお付き合いくださりありがとうございます。
新年は割と早めに次話投稿する予定です。(恐らく2日以降になるとは思いますが)
三章は想定でも長くなる感じなので分割して三、四章と分けようかと思っています。
一応章ごとにテーマを決めて題としているのでそれに合わせて分割する感じですかね。
――翌日。朝食をとったボク達は王都中央区の冒険者ギルドへ向かいこの王都に一番近く、そしてもっとも有名な三大ダンジョンの一つである「ガラテア大迷宮」に関連する依頼を受注した。
大体が素材回収の物ではあるのだけど、受付の人からは注意点としてダンジョン産のモンスターは基本的に倒した後一定時間で消滅する為にドロップとして素材が出ない限りは剥ぎ取りなどは出来ないと言う点、そして素材よりも小さな魔晶……所謂「魔石」の方がよく落ちるという事を聞いた。
魔石は魔石でモンスターのレベルで大きさや純度も変わってくるので買取価格もそれらに応じて変動するらしい。ネームドモンスターや階層ボス等からはドロップアイテムの中から「魔晶核」が手に入る事もあるとの事なのでボク達の目的の一つである魔晶核集めが進める事が出来そうだ。
王都からの距離では「ゲルクト大墳墓」も比較的近い位置にはあるらしいけど、此方は王都から西へ半日程度行った先にあるテンペルトまで行く必要がある上に、出現モンスターも大墳墓の名に相応しく基本的にアンデッド系がその殆どを占める。駆け出し冒険者には対応の難しい非実体系のアンデッドも出るという事もあり若干敬遠され気味のダンジョンなのだという。
その点を踏まえると「ガラテア大迷宮」は王都からのアクセスも30分程度の距離に位置しており、階層ごとに出現モンスターもある程度周知されている点からも駆け出し冒険者には好まれる傾向にある。上層の比較的地上に近い浅い階層はソロでも行動できる程度の難易度であり、王都周辺の駆け出し冒険者の登竜門としての側面がある。
とは言えそれも大体が第三層辺りまでの事らしい。なぜなら三層までは低レベルの蟲・魔獣系のモンスターが多くても二体、稀に三体の出現パターンに対し、第四層からはゴブリンやコボルト等のヒトガタ、亜人種が出没するようになり、加えてモンスターも小隊編成となり連携を取ってくる事からここが冒険者にとっての一つの大きな壁となっている。
それまで順調に経験を積み重ねた冒険者であっても、人の形をした相手を倒す事は慣れなければ精神的に過負荷がどうしてもかかる上、その状況下で対多数の戦闘を行わなければいけないのだ。そして駆け出し冒険者が勘違いしがちなのがゴブリンやコボルトらの知能が低いと高を括って侮っていると言う点である。
よくよく考えれば分かる事ではあるのだが、武装し小隊を組んで連携をとるモンスターの知能が低いわけはない。そうした油断が窮地を招き愚かな駆け出しは命を散らすか酷い怪我を負って冒険者を辞め二度と立ち上がれなくなるという。
そんな話を朝の食事中におっさんから聞かされた事を思い出しながら乗合竜車に乗って30分、古都ラーバリウムへと到着した。古都と言うだけあって建築様式は王都よりも古さを感じるが、それでいてどこはかとなく神秘さをも感じる。規模はハルカニスには遠く及ばないまでも相応の城壁に囲まれており内部もそれなりに商店や露店も大通り沿いに並んでいる。
目的地であるガラテア大迷宮はこのラーバリウムの中央にあるモスクに似た建築様式をしているガラテア王宮殿に接続される形で形成されており、王宮殿の内部から進入する事となる。因みに王宮殿と言っても王族どころか既に人は住んでおらず、現在は王家より管理を委任されている冒険者ギルドがその維持保全に務めている。
王宮殿の入口でギルドから派遣されている職員に冒険者タグを入り口脇にあるギルドが設置した石碑の様な端末に翳せば入っていいと説明を受け、石碑の中央にある球状の宝石っぽい所に向け冒険者タグを翳すと「ピ」という機械音に似た音がして認証された事が知らされた。
どことなく駅の電子改札に似ているなと感じるけども、科学の代わりに魔法技術が発展しているのだと考えればこの程度の物はあって当然なのかもしれない。
入口を通過してホールに到着するとそこには石台の上に柔らかな光を発して浮遊するスフィアが回転している。聞けばこれらのスフィアは特定階層への転移石であるといい、その階層へ到着し一定条件をクリアした者のみが利用できる特別な機能を備えた古代魔法具なのだと説明された。
なんとなくそうだろうなと思ってはいたけど、思っている通りなら一定条件と言うのは階層の守護者を倒す事だろう。大体のゲームでは五層毎か十層毎での解放が多かったけどここではどうなんだろう。
――ま、それはそうとこれを使うにはボク達もその条件とやらを達成しないといけないのだから今後も通う事になるだろうし早めに機能開放をしておきたい。
「よし、じゃあ今から潜るけど油断しないように気を引き締めていこう。移動隊列は先頭にセトを置いて殿にベネ。セトの後ろにケントが付いてサイドにボクとチグサ。中央にシオン、その左右にマリーとシキ、ベネの前にモーリィを中央にリツとクロさんね」
ガラテア大迷宮の進入口である王宮殿ホール中央の大階段前で隊列の確認をしてガラテア大迷宮へと突入した。予め言っておくとモーリィはマッパーも兼ねているので戦闘に関してはあくまで補助的な役割と位置付けている。
そこそこ長めで幅の広い階段を降りていき第一層に到着。到着した先はそれなりの広さのエントランスフロアになっていて、ボク達の他にも数パーティが攻略の為の準備をしていたり、そこそこ汚れた駆け出し冒険者っぽいパーティが内部で問題が発生して戻ってきたのだろうか言い合いをしていたりと賑わっているが、どのパーティもあからさまではないがそれぞれ視線をこちらによこしていて様子を窺っているのが分かる。
総勢11人の大所帯である上に種族も年齢も結構バラバラに見えるから嫌がおうにも目を惹くのだろう。もう慣れたし今更無用なトラブルを起こす様な行動を取らず、目で合図をしてセトを先頭にした隊列で第一層へと足を踏み入れた。
第一層目から三層目は少し崩れ草木に浸食された遺跡の様な内部構造をしていて、通路の天井までの高さは4,5メートル程度、幅も多少局所的に狭い所はあるが人が5、6人並んでも大丈夫な程度には広さはある。部屋と呼ばれる区画は天井高も10メートル程に広がり、広さもテニスコート一面程度の広さがある。
出没モンスターも事前情報通りに蟲系のモンスターが多く、ジャイアントワスプ、グランドキャタピラー、ビッグスパイダー、ダンジョンワーム、アーマーモス等が襲ってきた。どれもこれも見た目からして苦手な物ばかりで嫌気がさすけど強さはそこまででもなく、人数的優位性もあって順調に討伐していった。ただレア出現のモンスターらしきジャイアントマンティスは他とは一線を画す強さがあり多少苦戦した。ドロップした蟷螂の大鎌はモーリィが回収し後程鑑定を行う予定だ。
蟲系の他の魔獣系ではホーンラビットと呼ばれる額に二本の鋭利な角を生やした兎やダンジョンウルフ、全身に棘を生やしたスパイクボア、子供ほどの大きさもあるギガントラット、地面に潜り攻撃の時だけ顔を出すクルーエルモール、宙に浮きながら体当たりをして爆発してくるバルーンピッグなどが襲ってきた。
こちらは気を付ける相手が少し増え、ホーンラビットは小型ながら素早い動きで翻弄しては突進で鋭い角で刺し殺そうとしてくるし、スパイクボアはその全身の棘ゆえに中々攻撃がし辛い上に突進攻撃もその棘で威力が増すという厭らしさも持ち合わせていた。ただ幸いな事にこの二匹は動きの軌道が読み易く、スパイクボアは長物であればその自慢のスパイクの優位性が薄れて優位に戦えることからすぐに対応が取れるようになり、バルーンピッグは遠距離攻撃を当てればその場で爆発するので特に問題にはならなかった。
まだ浅い層という事もありさほど苦戦する場面もほとんどなく、時間もたっぷりと余裕があるので先へと足を進める。
第四層のエントランスフロアに降りて小休止を挟んでいると、顔色を悪くした数名を介抱しながらホールに戻ってくるパーティの姿がちらほらと確認できる。
人型モンスターを倒す事の嫌悪感を克服したベテランに連れられパーティに参加した駆け出し冒険者なのだろう、やはり人型のモンスターを相手にするのは冒険者にとっては一つの壁であるのは間違いないようだ。ボク達はすでにデミゴブリンやゾンビ、グールを相手しているのでそういった感情は既に克服はできているけど彼らの表情を見ていると多少共感を覚えてしまう。
「微笑ましい様なそうでもないような……なんとも言えない光景ね」
「実際問題初めて倒した時の気持ち悪さは拭いようがないですしね……。冒険者を続ける以上は避けて通れない道です」
「目を向けすぎるのも悪いし、あまりナイーブにならないうちに先へ進もう」
そうして踏み入れた第四層は内部が少し変わりそれまでは石柱だったりしたオブジェクトが硬質な樹木へ、石壁は苔むした岩壁へと置き換わった。また出現モンスターも事前情報通りゴブリン、コボルトを始めとした亜人種中心に変わり、単独出現は殆ど無くなり小隊行動で連携を取ってくる戦闘スタイルに変化した。
とは言えゴブリンやコボルト相手では既に何度も交戦経験を積んだボク達は苦戦する事はない。連携力でも数的優位も無駄にする事なく油断もしないのだから当たり前だったのだけど――
「――そう言えばさ」
グギャッ!!
「ん、なんだよ?」
グェエッ!?
「ダンジョンのモンスターと外のモンスターではその生息行動が大分違うって話知ってる?」
グギィイイイイ!
「あ~……えーっとなんだっけか……ダンジョンのモンスターは冒険者を襲う事を第一に行動して他種のモンスターと争う事がなくって、自然界のモンスターはテリトリーを守る為とか生存本能に従って行動するから他種のモンスターどころか時には同種ですら襲ったりするんだっけか?オラァッ!!」
ギャアァ!!
「そうそう。そう言うのもあって自然界のゴブリンは見つけ次第特定危険種って事で討伐隊がすぐに組まれて早期に殲滅されるっておっさんが言ってた。フンッ!!」
ァガアアッ!!ギャイン!!ギィィ!!
「二人とも喋ってないでちゃんと戦って!!ヒール抜くよ!?」
「ごめーん!」
「ちょっと待て、俺はどっちかって言うと被害者側だぞ?!」
――大量のゴブリンとコボルトの群れの中にボク達は居た。
油断していたわけではないけど少しだけ小さめの体育館程度の広さがある部屋に全員入ったところ、前後の通路への出入り口が閉まって部屋の中にゴブリンとコボルトが大量に出現したのだ。先行していた別パーティから少し距離を取っていたとはいえ、そのパーティは無事に通過出来ていたのだから何かしら条件があるのかもしれない。
そんなモンスターハウスという有名なトラップに遭遇し、即座にシオン、クロさん、リツ、マリーを円陣の中央にして前衛で円状の戦闘陣形を取って対応して相手を削っていく。
「す、すいません。俺がトラップだと見抜けなかったから……」
「いえ、これは仕方ないでしょう。モンスターにばかり意識を向けて部屋そのものへの警戒をしなかったのは皆同じです。先行していた別パーティは何事もなく通過していましたし、セトだけのせいではありませんよ」
「せやで。えらい数沸いとるけど……まぁ落ち着いて対処したらうちらの相手ちゃうって。いうて相手に遠距離攻撃するタイプがおらんのがせめてもの救いやね。こう狭いとうちの火焔魔法つこうたら逆効果になるやろしなぁ……火矢!」
「口動かしてる暇あるなら手を動かせ!まだあと半分ちょいはいるぞ!ぅおおオラァッ!!!」
「全くだ!俺ぁ今回マッパーの役割だっつぅのによォ、デラァァアアッ!!!」
それぞれ口で愚痴を吐きつつも手を動かし順調に敵の数は減っている。数の暴力は確かに単純に脅威ではあるけど、いかんせん相手がボク達だったのがこいつらの運の無さっていうとこだろう。
「そろそろ前に出る、一応防壁は作るからそれを利用して!樹槍乃壁!」
半数以下まで減らしてもモンスター達は盲目的に襲い掛かってくる。出現当初であれば打って出る事はしないけど、ここまで数を減らせたなら後は押し返した方が楽だ。何よりボクの得物はポールアームに属する斧槍だ。刺突に特化した槍であれば最後まで落ち付いて突き殺した方が無駄もないだろうけど、この相棒は突きだけでなく薙ぎ払い、斬り伏せ、雑魚であれば身体ごと両断できるポテンシャルがある。
同様に大型の両手斧を扱うベネも打って出た方がその特性を生かしやすいと言える。振り回して叩き切る質量兵器でもある両手斧はどうしても小回りが利かない部分がある。小さく動かしても威力はしれているし、そのポテンシャルを引き出すには相応の空間的余裕が必要だからだ。
二人が打って出る事で生じる隙間を埋まるべく、森羅晩鐘の固有スキルである樹槍を複数本出して地面に穿ち即席の障壁を作り出した。斜めに突き出た樹槍の障壁に突撃する事は流石にゴブリンやコボルトでもしないだろう。
「ベネ、行くよ!」
「おう!チマチマ我慢してたぶん今から発散させてもらうぜ」
戦闘陣形から飛び出したボク達に早速モンスターの一部が釣られて襲ってくる。予想通りの動きをしてくれているモンスター達に今から繰り出すスキルは強烈な一撃となるだろう。ボクとベネが考えてる技はおそらく同じものであり、両手持ちの武器であれば大抵の者が思い付いて繰り出せる範囲攻撃スキルだ。
得物をぎゅっと握りしめ敵の群れに向けて駆け出し腰に力を込める。一度後ろに振りかぶってから大きく勢いをつけて振り抜く!
数匹がその一撃で頭を飛ばされ動きを止める。だがそんな仲間の死すら気にも止めずに釣られたモンスター達はボクやベネを取り囲み襲おうと動く。だけどそれも狙い通りだ。
振り抜いた勢いそのままに脚を軸にし、尻尾でバランスを取りながら遠心力で更に加速させる。グルグルと視界は回りながら、その最も外縁にある得物の刃はビュオオと唸り声を上げている。
「「回転旋風斬!!!」」
ボクとベネの二人による範囲殲滅スキルによって近付く者はバラバラに切り刻まれ消滅し、逃げようとしたところで他のモンスターが障害となって次々とゴブリンとコボルトの群れはその数を減らしていく。
「実際こうやって目にすると……あのスキルかなりえげつないっスね。刃に触れた瞬間細切れになっていってますよアレ」
「威力凄いのは分かるんやけどごっつぅ目ぇ回りそうやなぁ……。まぁ二人のおかげで鬱陶しいのも後少しや、頑張るで!」
二人の奮戦を横目に未だ襲い来るゴブリンとコボルトを退けながらシキとマリーは感想を口にする。セトは頷いて同意を示してはいるが言葉に出さず、長物がないシキをカバーする形のコンビネーションでモンスター共へ対応している。――そんな二人の戦い方をモーリィは横目ではあるもののしっかり確認していた。
『セトはメインにダガーで超近接型だがアイツにゃ投げナイフや俺が渡した特性の小型クロスボウもある。だがシキは遠距離用の攻撃手段がチャージタイムが掛かるスキル頼みな上にメイン武器も己の拳のみ。まだここいらの浅い階層なら大丈夫だろうがこの先の事を考えるとどうにかしてやらねぇと危ねぇな……。戻り次第本人の要望聞いた上で何か考えねえとな』
シキのメインクラスは修道士から変化していない。自己中心の強化魔法を駆使して前衛を務める少し変わったクラスである。マナの代わりに"気"を循環させてスキルを繰り出す格闘職で主な適正のある武器は棍、棒、爪、拳等で基本的にリーチが長い得物は少ない。
今現在シキが装備しているのは余ったキラーアントの素材からモーリィが何か作れないかと仕立てた手甲で、硬さはあるものの特筆すべき能力もついていない多少質の良いアイテムでしかない。モーリィが見立てた様に比較的浅い階層の敵であれば問題はないだろうが、先に進むにつれ出現するモンスターもより強力になり、攻撃パターンや武装もより凶悪な物になるのは予想できる。今は敵の攻撃を基本的に回避する事によって被ダメージを受けないようにできているが、この先ずっと回避できるかと問われれば難しいと断ぜざるを得ないだろう。
そういう推察からモーリィがシキとセトの二人の戦い方から感じた漠然とした焦燥感は決して間違ったものではない。こうした思考をしているうちに大半のモンスターの駆除が終わり、残すところ十数匹にまで減っていた。
「あと数匹だよ、気を抜いて怪我しない様にね」
「いい加減飽きてきましたし手早く済ませましょう。セイッ!!」
「俺らも行くっスよ、セト!」
残り数から最早決着が見えたので円状戦闘陣形を崩して残りの始末をつけにチグサも飛び出し、シキとセトもそれに合わせて打って出て残っていたゴブリンとコボルトを撃沈させていった。最早碌な抵抗も出来ぬままゴブリンとコボルトは圧殺されていき、部屋の中には多くの魔石と幾許かのドロップ品が転がるのみとなった。
無事モンスターハウスのトラップを攻略し終え、ドロップの回収をしようとしたところ、それまで閉じていた二つの部屋の出入り口が開く気配した。
「みんな、ドロップ回収は少し待って。誰か入ってくるから警戒して。いつでも戦闘に入れるように」
声を掛けて数秒後、ゴゴゴと重い音の後に閉まっていた扉が上がり、ボク達が入ってきた側の出入り口からガラの悪い6名編成のパーティが入ってきた。
扉が上がった瞬間はニヤついた顔をしていたそいつらは、ボク達の存在を認めると途端に表情を強張らせ敵意が無いことを示すために得物を持つ反対側の手を上へあげ口を開いた。
「俺たちは敵じゃねえ。敵意だってない。ただ先へ進みたいだけだ。お前達が倒して回収してないドロップに手をつけるつもりもない、通らせてくれ」
多少後ろぐらい事を考えてた事くらいは嫌でも気がつくけど、敵意が無い事は態度の豹変ぶりや口調から分かったので頷いて通過する事を認めると、彼らは慌てて会釈をして先の通路へと進んでいった。ただボクが彼らを見つめる視線に気付いた数名はヒッと小さな悲鳴を上げて慌てながら小走りで駆けていった。
「どうやら彼らは知っていたみたいですね、この部屋がモンスターハウスのトラップが作動する部屋だと」
「ああ。扉が上がった時のあの顔は中々印象的だったからな。俺たちが無事なのを見て即座に顔を切り替えていたから敵対してでも物を横取りする様な悪党ではなかったようだな」
「それでもやっぱ感じ悪かったよねー。態度がキョドってたのは少し笑えたけど」
入ってきたパーティに対してチグサとケント、シオンが言葉を交わす。知らないってのはある種幸せな事なんだなと思いながらシキに声を掛けた。
「――シキ、聞こえてたよね?アイツらが扉の向こうで何言ってたか」
「……聞こえてたっす。」
「え、何?二人は扉の外に居た時の会話が聞こえてたの?」
「戦闘が落ち着いて余裕ができてからだよ聞こえたのは。まぁ聞いてて気持ちのいいものではなかったけど」
「っすね……。正直セラさんがあの視線だけで済ませたのが不思議なくらい俺もムカついたっすから」
「アニールの聴覚が凄いのは分かるが、一体どんな会話をしてたんだ奴ら」
***
「クク、この扉が降りてるってこたぁ中の連中今頃ゴブリンとコボルト共の餌になってるに違いねぇ」
「ああ、運がない奴らだ。上で見た感じだと何処ぞの貴族の道楽パーティってとこだろうよあれは」
「ってこたぁ……それなりの物が手に入るかもしれねぇってか」
「しけた階層だがこの手のトラップルームにゃ感謝しねぇとな」
「ハハ、違ぇねえ!」
「だがよぉ、俺が覚えてるだけでも結構な上玉が居たぞあの連中。惜しいねぇ……」
「なんだオメェ、くたばっててもイケる口なのか?」
「やめとけやめとけ。流石にそれは万が一見つかった時に言い訳が効かねえ。ギルドから追放されてみろ、俺たちみたいな半端モンができる仕事なんぞこの国じゃ片手で数える位しかねぇぞ」
「だな。とりあえずは目ぼしいものの回収が優先――っと扉が上がりそうだぜ」
「よし、行くぞテメェら」
***
「って感じっす。聞かない方が良かったっしょ?」
「まぁ……予想はある程度していたけどこうもストレートなやりとりだというのは少しね。でもあれで良かったのセラ?」
「被害を受けたわけじゃないからね。それに聞こえたやり取りは不快だけど、この世界でこういう職業に就いてるなら多かれ少なかれあんなのはザラにいると思うよ。ボク達の世界の常識や良識、道徳心なんてものを物差しにしない方がいい、きっとね……」
シキが通過した一団のやりとりを再現したのを聞いたシオンは納得した表情をし、彼らをそのまま通過させて良かったのかボクに尋ねてきた。
言外に始末しなくて良かったのかを聞くだなんて過激な聖職者もいたもんだと内心苦笑するが、ゲームでのやり取りだったら発言ログを保存してからのやり取りから敵対行動へ発展するとかはしたかもしれないけど、流石にこの世界が現実となった今早々簡単に手を出すと言うのは憚られる言動になるだろう。――ただ、その必要性が出れば躊躇はしない。
「なんにせよ本当に恐ろしいのは生きてる人間ってのはこの世界でも同じ様ですね」
ドロップを回収しながらチグサが言う。
「そりゃこっちの世界なら幽霊どころかゾンビやアンデッドまで実在しとる上に魔法やなんやではり倒せるもんな!」
チグサの言葉を受けてマリーがそう返したところ、「確かに」や「違いねぇ」といった同意の言葉が上がる。普通に考えれば実体の無い存在を攻撃して倒すなんて、ネットで今でも有名な"寺生まれのTさん"じゃあるまいし元いた世界では不可能だ。そう考えるとこの世界はやはり別の法則や原理が働いてる別世界なのだと改めて認識する。
「なんにしてもさ、セラの言うように元いた世界の日本での常識で物事を判断するのはやめよう。内部は結構広いけど、とどのつまりダンジョンは巨大サイズの密室と変わんないんだから、目撃者さえいなければ何しても何されても他の人には伝わらないってことは認識しよう」
「ま、リツの言う通りだな。やられたらやり返すだけじゃなくて、やられる前にやるって事もこれから先出てくるだろうよ。幸い俺らのボスはその辺しっかりしてんだから俺たちもその辺りの覚悟持たねぇとな?」
モーリィの言葉に皆頷き、それぞれ改めてこの世界で生きるという事について認識を深めた様だ。
「さ、回収も済んだし次のフロアへ進もう。可能なら今日は第十層のボスにも行きたいしね。ケント、セト、先導よろしく」
「おう、任された。さ、気を取り直して行くぞセト」
「! はっ、はい!」
モンスターハウスのトラック部屋をクリアしたボク達は、セトとケントを先頭にして再びダンジョンの奥へ向けその足を進めた。
どこの世界でも生きている人間が怖いっていうのは一つの真理ではないかと思います。
死霊など実体のないアンデッド、スケルトンやゾンビ等の実体があるアンデッドでも現実世界で遭遇したらそうも言ってられないとは思いますが……そういう存在って居るって信じる人と否定する人で分かれますよね。
個人的にはゾンビとかはエンタメの存在であって実在はしておらず、霊魂やそういったスピリチュアル的なモノはあるんじゃないかとは思っていたりします。




