【 Ep.3-019 『ガラテア大迷宮』"Ziegenkopf Teufel" 】
明けました。
2日投稿予定といいつつ予約投稿なので公開は3日になるっていうね。
正月期間は外へ行こうにも碌な運転をしないドライバーの増加や出先の混雑も相まって出不精に拍車がかかりますよね。
――モンスターハウスを攻略したボク達は気を取り直して更に奥へとその足を進めていた。
第五層はそれまで近接武器しか持たなかったゴブリンとコボルト達の中に弓や低級ではあるが攻撃魔法を使用してくるメイジクラスが混じる様になり、より一層パーティ内での連携力を試される事となった。
とは言えやはり元が元だけにそれほど苦戦する事もなく第五層は踏破し、第六層に進むと今度はゴブリンチャンピオンやコボルトリーダーなどの特殊個体が出現するようになった。
その名の通り周囲の同族を指揮する特殊個体で、これまでの小隊規模であるだけの大雑把な連携しかしてこなかった敵とは違い、明確に目的を持った連携を取ってくるようになる。がむしゃらに先頭でタンクをしているケントに向けて矢を射かけていたゴブリンも、その個体がいればケントを無視してパーティの要である回復・支援職を狙う様になり、考えて行動していると言うことがわかる。
第四層が人型を相手にした時の覚悟を試す為の関門だとするならば、第五層はパーティの対応力、そしてこの第六層はパーティの連携力を試すためにある様な階層だと言えた。
とは言えラインアークで長年連れ添い戦い抜いてきたボク達天兎の前には指揮個体がいたとしても然程苦戦する相手にはならなかった。この程度の敵など飽きる程刈り潰してきたのだから。
第六層も問題なく踏破し第七階層へと降りると、そこからはかなり広めの洞窟の様な構造へと変化し、陽の光も届かぬと言うのにところどころに地面から生えている結晶体が淡い光を放っているお陰で少し暗いなと感じる程度の明るさをしていた。
ランプクォーツと呼ばれるその結晶体を試しにモーリィが採取して鑑定したところ、採取後から一定時間光を放つもののその後は発光しなくなる性質を持っていて松明がわりに使えるそうだ。
この第七階層の敵は半牛半人で有名なミノタウルス、頭部が山羊で身体は毛むくじゃらの人の姿をしたゴートヘッドの二種が主役となり、時折それらに紛れてアームボールと言う名のいくつもの腕が絡み合った球体が襲いかかってきた。
流石にこの階層まで来るとモンスターも一筋縄で倒せる事は少なくなり、様々なポールアームの武器を得物にして襲いかかってくるミノタウルスとゴートヘッドの攻撃は流派といったものは感じ取れないものの、明らかにスキルであろう攻撃が入り混じり、そこへアームボールからの低級魔法まで加わる戦闘となり、パーティの連携力に加え対応力、そして基礎的な力量を試される事となった。
「ケント!!」
ガギン!とミノタウルスから振り下ろされたバトルアックスを大楯で弾き返したケントの隙をつく形でゴートヘッドのグレイブが振るわれるが、その凶刃が胴を薙ぐ直前でセラの森羅晩鐘が割って入り事なきを得た。
「すまねぇ!そのヤギ頭の相手頼む!!」
「おっけ。チグサは右翼の相手して!シキとセトはチグサのサポート。ベネはボクと左翼を片付けるよ!」
「心得ました。シキ、セト、討ち漏らしは任せます!」
「「はい」」
チグサが駆け出しながら二人に声をかけ、右翼側にいるミノタウルスとゴートヘッドに<高速抜刀斬>を仕掛けて斬りつけては次の相手へと向かう。その後を追ってシキとセトが体勢を崩した敵に向けてトドメの一撃となるスキル<破砕掌>と<モータルブロー>を打ち込んでいく連携を見せる。
「ケツはモーリィに任せる形になるが頼んだぜ?行くぞオラァッ!!」
「今んとこ後方からの敵は見えねぇ。増援が来る前に片付けてこい」
「リツ、うちらはあのキショい手ぇのバケモンに集中するで!」
「嫌な高さから魔法撃ってくるし下を任せている分上は私達が抑えないとね」
息を合わせたマリーの<火矢>とリツの<風切弾>とが絶妙に手の届かない宙に浮かんでいるアームボールを撃ち落としていく。
順調にその数を減らしていくアームボールではあるがその数は思っていた以上に多く、撃ち漏らしたアームボール達から<氷礫>や<石弾>、<火玉>等の魔法がパーティを襲う。
正面はケントが大盾で弾いたり受け止めて凌ぐものの、ケントのカバー範囲にも限界があって防ぎきれなかったものが出る。実体のない<火玉>には有効打とはならないものの、実体のある<氷礫>や<石弾>は前衛メンバーは其々自身の得物で弾いたり、装甲が厚めの防具の部位にあてに行きダメージコントロールを行う事でしのいでいた。とは言ってもそれが可能であるのは基本的に防具の耐久度がそれなりに高い前衛に限られ、比較的軽装で詠唱などもあって無防備になりがちなシオンやマリー達はその方法は使えない。
「守護の女神よ、我が魔力をその身に捧げ我等を護り給え……<魔力盾>!」
クロさんの詠唱と共に展開された魔力による防御壁は自身のマナを防衛用に転化する魔法で、物理攻撃も軽減してくれるが、魔法攻撃に対しての抵抗手段としての使い方がメインに守護系魔法であり、昨日の王都探索で立ち寄ったエルドア魔法書店で入手した魔法書から習得したばかりの魔法だ。
受けたダメージ分保有マナが消費されるが肉体的なダメージを負わないという利点は後衛職にとってなくてはならない魔法だと言える。勿論保有マナ以上のダメージを受ければダイレクトにダメージを受けるので過信して多様する事は出来ない。
今回は攻撃魔法よりも補助魔法に比重を置いてるスキル構成のクロさんが防御方面を担当するというロールなので受容ダメージにはまだ余裕がある。
「クロさんありがと!シキ、あんたの右手側の山羊頭まだ生きてるよ!」
「はい、わかってるっす!!」
「あの婆ちゃんのおかげやなぁ。ほら、後少しや。気ぃ入れてぶちかましてくで!!」
連携力という面において、戦争集団であった天兎メンバーに穴らしき穴は見つからない。常に最適な行動を各自が心掛け、事前に決めたロールを基にしつつもある程度柔軟に行動する事で集団戦における対応能力を上げているのもある。
対人戦であれば手の読みあいや間合い等思考戦闘も絡んでくるが、対モンスター戦であれば余程高位・高等な知能を持つ相手でなければ事前の情報と実戦での動きを組み合わせてより最適な戦闘を可能にできる。
――そうした経験の積み重ねを繰り返してきた天兎相手にモンスターの集団はその姿をドロップ品へと変えはじめていた。
「結構いやらしい組み合わせだったけどまだまだ何とかなるな」
「そんな事言いながら腹にミノの一撃喰らいかけてたの誰だっけ?」
「いやあれは――いや、すまん。あれは俺が油断してた」
「口でセラに勝つのはケントには無理ですからね、素直に謝るのが一番です。ところでドロップ品の中に肉らしきものが見えるのですが……」
ダンジョン内部でも相変わらずのケントに軽く注意したら、反論しようとしてたけど思う所があったのか素直に謝られた。チグサの言うように今までケントと口喧嘩して負けた事はないからそのあたりが理由かもしれない。
「あーこれミノ肉と山羊肉っすね。どういう理屈でブロック状になってアイテム化してるのかは分からないっすけど匂い嗅いだ限りでは毒はなさそうっすよ?」
「口動かすのもいいけどよ、とりあえず回収できる内にとっとと回収しちまおうや。討伐証明部位だけでも結構な量あんだからよ」
そんなチグサはドロップ品の肉に目を奪われている。王都のリストランテ"白亜の陽射し亭"で食べたミノ肉は旨味が凝縮された肉肉しい美味しさだった為、あの味を思い出したら目の前の肉の山はさしずめ宝の山と言ったところだろうか。保存のきくインベントリポーチに収納していき、肉以外の討伐証明部位の角も同じ様に収納した。一定単位の集団が波のように一定間隔で襲ってきてたからモーリィの言うようにドロップしてる量もそれなりのものになっている。
ゴートヘッドの肉は食べた事はないけど、ジンギスカン料理みたいに調理すれば多分食べれると思う。その辺りはチグサかアルフさん達がどうにかしてくれるだろう。
第七層はこんな感じで一定数の敵集団が一定間隔で襲ってくるといった襲撃パターンが繰り返され、事前情報と実戦で感覚を掴んだボク達は危なげなくこの階層を攻略し、第八階層へと降りて休憩を取る事にした。
第一階層からここまで小休憩を挟みつつもまとまった休憩時間をとっておらず、流石にお腹も減ってきたのでこの先の戦闘を踏まえると比較的安全圏である階層境界エリアである階段周辺のエントランスフロアでお昼を摂るべきだという判断だ。
歩哨としてシキとセトがフロア出口の通路へ睨みを利かせる中、チグサがインベントリポーチから取り出した先程のミノ肉をモーリィが手早く準備したキャンプセットの調理器具を使って料理していく。料理とは言っても場所が場所だけに軽く調味料をかけて焼く程度の物ではあるのだけど、筋が入っている部分に刃を入れるなどのひと手間をかけるあたりチグサの料理に対するこだわりを感じる。
下処理された肉を賽の目切りにし、串にさして程よく火を通したステーキ串と出発の際昼食にと手渡されたパン、クロさんが淹れたハーブティーが今日のダンジョン飯として完成した。
ミノ肉の焼き串は下処理のおかげもあって噛み応えがありつつも噛み切れない様な硬さは感じられず、噛めば噛む程口の中にジュワっと広がる肉汁が更に食欲を掻き立てる。くどくない脂ではあるものの少し硬めのパンを食べた後にハーブティーを一口飲むと口の中はリフレッシュされ、次の串へと手が伸びた。
腹八分目までとはいかないものの十分な食事を取った後、シキとセトから歩哨を交代し二人にも十分な休憩を取ってもらった。因みにボクとクロさんでの警戒態勢だ。
二人の食事の終わりと共にこの後の攻略について話し合う為第八階層への通路前をベネに警戒してもらいながら、これまでモーリィがマッピングしてきた地図とエルドア魔法書店で手に入れたダンジョンマップとモンスターライブラリを照らし合わせ差異が無かったかの確認をし、概ね情報通りだったことが証明された。
マップの踏破率は完全ではないものの主要なルートは押さえてきているので、この後のルートもエルドア魔法書店で手に入れたダンジョンマップをベースに選択し、先導するセトとケントには入念にルートを覚えてもらいこの後の行動予定を決める。
情報が正しければ第九階層はモンスターの種類が増えて第八階層の戦闘をベースにしつつ更に高等な戦闘能力が求められると書かれている。そこを乗り越えた先、第十階層はモンスターが出現せずフロア全体がエントランスを除いてボス部屋で構成されているという。このボス部屋はフロアボスが倒されてから半日はリポップが行われず素通りが可能になるらしい。
そうした情報を頭に叩き込んで気合いを入れ、再びダンジョン攻略へと足を踏み出した。
第八階層も基本的に出現するモンスターに差はなく攻撃パターンに変化が少し出た程度と、"亜種"と呼ばれる特殊個体が時折混ざって襲ってくるという差程度の違いしかなく、数回対峙した後は第七階層と大差なく安定して攻略することができた。
これまでの階層にはちらほらと他のパーティの姿も確認できたが、流石にこの階層は難易度がさらに上がっているらしくボク達の他に人の気配というものを感じない。ボク達的には多少の難易度上昇程度だと感じるものでも、この階層特有の亜種の存在が低層の中でもより攻略難易度を高めているのだと感じさせた。この亜種というものに触れておくと、例えばゴートヘッドの亜種であれば通常個体より腕が異常に長い個体でリーチが倍だったり、全身が通常個体より黒化していて物理攻撃に強い耐性を持っていたりと亜種によってその特徴がバラバラなのだ。
ボク達天兎のようにパーティメンバーが多く一部クラスが重複している事による冗長性があれば臨機応変に対応はしやすいけど、パーティメンバーも限られている少人数のパーティだと対応しきれない局面が発生するのは容易に想像できる。ボク達はそういった優位性を活かして第八階層を踏破し第九階層へと突入した。
第九階層はこれまでの主力であったミノタウロスとゴートヘッドの数の割合が減り、その埋め合わせなのかレッサーガーゴイルと呼ばれる石でできた彫像のモンスター、ダンジョンインプと呼ばれる下級悪魔に宙を漂う巨大な目玉のモンスターであるフローティングアイが構成に加わった。
この中でも最も厄介なのが意外にもフローティングアイだ。フローティングアイ自体には直接的な攻撃手段は無く、睨みつけた相手をその場に拘束するバインドしかしてこないのだけど、これが他のモンスターと組み合わさると途端に危険度が跳ね上がるのだ。
ダンジョンインプはゴブリンより一回り小さく爪で攻撃をしてくる程度の雑魚だけど、コイツらは何より数で押してくる習性があるらしくまとわりつかれるとバカに出来ないダメージを負うことになる。またレッサーガーゴイルはその材質と所以からか物理耐性と魔法耐性両方共に高く、腕の振り下ろしや自重を活かした中空からの落下攻撃をしてくるなどスペックを駆使した攻撃に苦戦させられる。唯一の救いは出現頻度が低い点ではあるのだけど、それでも決して単独出現はしないのでこの階層における中ボスクラスの難敵だと言えた。
こうして敵の情報と構成を踏まえるとここまでのダンジョンの構成はパーティの連携力や基礎力、個人の技量と言ったものが段階を踏んで試されていっている事が分かる。但しその試練は生半可な初心者冒険者パーティでは乗り越えられるようなレベルであるとは言えない。
そんな事を頭の中で思い浮かべながらやや前方をフラフラと漂っているフローティングアイ達に向けて樹槍を発射して撃ち落していく。コイツの能力は確かに厄介ではあるものの、耐久力は風船の如き脆さで簡単に破裂して消滅していく。
「目玉の処理はオッケー、ここら一帯の敵を殲滅するよ」
「任せろ、ヘイトオーーーーーーーーーーーーラッ!!!」
フローティングアイの撃破を確認したケントが<ヘイトオーラ>を発動させ周囲のモンスターの敵意を自身に集めると、反応したインプが十数匹とミノタウロスが二頭、ゴートヘッドが一体に死角に潜んでいたガーゴイルが一体、発生源であるケントに向けて襲い掛かってきた。
「雑魚は任せときぃ!―――集い、渦巻き、彼の者を囲め!沸き立つ火の粉、躍る炎よ、我が敵を焼き払え!<炎陣>!!」
グロロロロロロ!!!!
「クロさん、頼む!」
「はい、<筋力強化>!」
「っしゃぁ!いくぞオラァッ!!!パワーーーーーースマッシュ!!!」
最初に素早く群がってきたインプ達に向けマリーが<炎陣>を放って包囲殲滅し、その炎を避けて上から襲おうとしたガーゴイルをクロさんのかけたバフによって得た驚異的な身体能力で跳びあがったベネがウォーアックスを勢いよく叩き込んで叩き落した。
地面を派手な音を立てながら勢いよく転がっていったガーゴイルを横目に、ボクとチグサ、シキとセトのそれぞれのペアで<炎陣>にたじろいでいるミノタウロスの相手をし、残ったゴートヘッドはケントのシールドバッシュで<気絶>状態にされている。
無防備になったゴートヘッドの顔面にケントの<シールドストライク>がめり込み、更にそこへガーゴイルを叩き落してふっとばしたベネの<兜割>がクリーンヒットしてゴートヘッドは胸のあたりまで真っ二つにされた。
倒れたゴートヘッドの身体を踏みつぶして吹き飛ばされていたガーゴイルが再び立ちはだかるが、既にミノタウロスもそれぞれ処理された今、いくら高耐久を誇るガーゴイルでもボク達の袋叩きに耐えきれるほどタフではない。
攻撃をその頑強な身体で受け止め切れずについに限界を迎えたガーゴイルは体中に罅を走らせたかと思うとボロボロに崩れ去ってその姿を消した。
第八階層に比べて難易度は確実に上昇しているけれども、ボク達天兎にとってはこの階層が現段階で一番狩場としては成長の見込める適正難易度のように感じられたので、第十層を攻略できたらこの階層でしばらく実力を磨くのがいいかもしれない。
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――第九層をこうして順調に踏破していったボク達はついに今日の目的地である第十層へと到着した。
第十層は事前の情報通りエントランスフロアの他は大きな扉へと通じる通路があるのみでモンスターの姿は一切見えない。その大きな扉は閉まっているのでボク達より先にこの階層を通過したパーティは最低でも半日はいないって事になる。独特な彫刻がされている大扉は通過してきたパーティの記録代わりに開ける為に手を当てた部分だけが変色し、このダンジョンの歴史を感じさせてくれた。
「さて、いよいよ今日のメインの第十層だけど中での動きについては基本的に休憩の時話した通りでいこう。重大な差異が確認された場合はケントを軸にして耐えつつ、立て直しながら対応策を練る流れで。メインタンクとサブタンクのスイッチのタイミングはケントとベネに任せるからね」
「今までの当たりだと十分耐えれるとは思うんだけどな。ま、腐ってもフロアボスだし油断しないで行くわ。いざって時は頼むぜ、ベネ」
「ああ任せろ。俺達には難攻不落の聖女様が付いてる上にリツとクロさんのカバーまであるんだからな、そうそう簡単に死にやしねえさ」
メインタンクはケント、サブタンクにベネと言ういつも通りのロールでもやはりボス部屋前のこういう時間は気分が高揚する。初のダンジョンはペインゴッズのおっさんっていう超強力なゲストメンバーがいたからかなり楽ができたけど今回は正真正銘天兎だけでの攻略だ。ダンジョンの比較的浅い上層部のフロアボスではあるけれどもボク達の実力がどの程度であるかを知るにはこれほどいい機会はないだろう。
「だからって気軽に怪我されんのはうちはいい気せぇへんからね?アンタら気合いビシっといれてうちらを守ってや!」
「そうよ、あたしだって怪我前提で動かれたらかなわないんだからね?ま、過去の栄光の名に縋ってはいないってとこ見せてあげるわ」
拳をぶつけ合うケントとベネにマリーが近寄って行き、ベネに顔を近づけながらマリーが言う。流石にマリーにこう言われるとベネもタジタジになって気を付けると言うしかないだろう。爆発しろ。
マリーに続いてシオンもヒーラーとして苦言を呈するけど、彼女のヒーラーとしての巧さはこの世界でも健在だしボク達は全幅の信頼を置いている。
「それはそうと心の準備がいいなら強化魔法配っていくよ?クロさんは前衛陣を、私は後衛で」
「はい、わかりました」
やりとりのキリがいいところでリツが強化魔法をクロさんと担当分けしてみんなに配り始める。前衛も前衛で予め掛けれる自己強化スキルを使用して能力の底上げをしておく。
ケントは自身の盾の能力を向上させるクラススキル<ディフェンシヴシールド>を、シキは自分の身体能力を底上げする<フォーカスフォース>と狼獣人の種族固有スキルであり獣化の際の能力値向上を一時的にブーストするアドバンススキルの<狼の祝福>を使用していた。セトは自身のクリティカル確率と能力を上昇させるクラススキル<アサシネイト>を、チグサは攻撃速度と回避能力上昇効果のある<緊褌一番>を使用、ベネは自身の体力を増加させる<ブーストライフ>を使い、ボクも自分の攻撃速度を向上させるクラススキル<ブーストフューリー>を使用した。
それぞれ強化魔法を掛け終えたのを確認し、強化魔法で使用したマナをポーションを飲んで戻して準備は完了した。
「さ、準備も終わったし突入するよ。入ってもすぐに襲ってくることはないはずだけど警戒は怠らないで。侵入と同時に事前の取り決め通りに陣形展開、ケントのファーストアタックでボスレイドのスタートだよ!」
「っしゃぁ!いくぜ!!」
気合十分のケントが掛け声と共に扉に手をかけて押し込むと、大扉は重い音を立てながら観音開きで開いていく。内部は薄暗く、エントランス側から差し込む明りがフロア奥に佇むボスであろう存在の足元を薄っすらと照らしている。明りが差し込んでもその存在は微動だにせずただそこに突っ立っているようだ。
その動きに警戒をしつつもケントを先頭にしてボス部屋へと進み、ボクはケントの右手側やや後ろに、チグサ、シキ、セトの三人はケントの左手側やや後ろへ移動。これが今回のフロントとなる。
そのフロントから少しだけ後方の位置の中央にシオン、右手側にクロさん、左手側にリツが布陣。更に後方にマリー、ベネ、モーリィと言う陣形でそれぞれ武器を構えて部屋の中央部へと歩いていく。
全体の五分の一くらいの距離を進んだところでエントランス側の大扉が閉まり部屋は一瞬暗闇に包まれるが、すぐさま緑色の炎が部屋の外壁に沿って点灯していき部屋全体を照らしていった。炎の色は緑色と不気味ではあるが、部屋の明るさは多少薄暗いかな程度で問題のない明るさと色をしている。
――明りが付いた事で奥にいたこのフロアのボスが露わになる。
黒々とした毛に覆われた下半身、足先には蹄が確認でき、ほっそりとした脛からやや逆関節気味に見えるふとましく筋肉のついた太腿は強力な脚力がある事を想像させる。腰には襤褸切れを巻き、そこから伸びる上半身は人間のそれと変わりはない。但しその背中には黒い毛に覆われた翼が生えている。
右手にはマンキャッチャーと呼ばれるポールアームの一種で刺又に返しが付いたような捕縛棒らしき得物を持っている。ただよく目を凝らせば単なるマンキャッチャーではなく先端部は鋭利な刃が取り付けられており、円環部も両刃状に加工されているらしい。そんな特徴的な武器よりも更に目を惹きつけたのはその頭部だ。
――側頭部より突き出た角は捻じれながら渦を巻きつつ前へ突き出し、毛に覆われた顔から覗く眼の瞳孔は横向きに細長く入っている。それは紛れもなく黒山羊の頭部だ。
全身を改めて確認するまでもなく、事前の情報通りこのガラテア大迷宮第十層のフロアボスである"バフォメット"がそこに居た。それは部屋の灯りが点灯したのを確認し此方へ一瞥をくれると右手のマンキャッチャーを床へコンコンと打ち付けた。
それが儀式であったのか魔法であったのかはよく分からない。だが、次の瞬間にはバフォメットの左右の床に魔法陣が展開され、そこから二体の異質な存在が姿を現した。
赤黒い体表に異常に発達した二本の腕部と見るからに凶悪な鋭い爪、それに不釣り合いな印象を受ける胴体は腰で折れ曲がり歪な翼が背中から生えているのを視認させる。脚はバフォメット同様に太腿が発達しているが此方は普通の関節のように見える。足先も蹄ではなく汚らしくも鋭い爪が生えており、臀部からは骨張ったゴツゴツな感じの尻尾が伸びている。
頭部はYの字の様な独特な形状で後ろに流れるように歪な二本の角が生えており、口は角の付け根辺りまで裂け、側面の口元から鼻筋にかけてスリットの様に入った切れ目からは幾つもの眼球が此方に向け視線を泳がしている。
異形異質なこのモンスターは事前情報通りであれば”レッサーデーモン”であるらしい。
「お出ましだな」
「他のモンスターのポップはないしここまでは情報通りだよ。後は実戦で確認するしかないね」
「だな。さって、んじゃぁいっちょやってやろうぜ!」
ケントと軽く言葉を交わしつつ目線はそれぞれの獲物へ固定し、相手に動きがあれば即座に反応できる態勢を取っている。言葉は聞こえないけど皆一様に既にいつでも戦闘に入れる気配を発しているのを感じる。
ケントもそれを感じ取ったのか一呼吸入れ、腰を少し落とした後フロアの中央へと駆け出した。
タイトルの"Ziegenkopf Teufel"はそのまま訳してもらえれば"山羊頭の悪魔"の独語です。
バフォメット(Baphomet)と言えば様々なMMORPGでも割とメジャーな部類の悪魔なのではないでしょうか?
主要な紹介では両性具有として描かれている事が大半ですが、今作では上半身は男性的な細マッチョ系のボディを想定しています。
レッサーデーモンはどちらかと言えばエイリアン的な造形でイメージして頂ければいいかなと。
両者ともにこの辺りはラフ画でも出せればとは思っています。




