第40話 集う仲間、離れる仲間
ーーーー ガンツの実力 ーーーー
放課後。
タカミザワたちは、
学校の裏山へと続く細い道を歩いていた。
木々の間から差し込む夕日が、
地面に長い影を落としている。
ミロク、スコール、ケイタロウ、ユン。
そして、その後ろを歩くのが――
今日、新たに仲間へ加わった少年。
ガンツだった。
黒い髪。
鋭い目つき。
どこか気の抜けた髪型。
ゲームセンターで見せた、
あまりにも異常な射撃能力。
それが本物なのか。
タカミザワは、
それを確かめようとしていた。
しばらく歩いたところで、
タカミザワが足を止める。
「ガンツ」
「……なんだ?」
「まずは、お前の力を知りたい」
ガンツは鋭い目をタカミザワへ向けた。
「力?」
「そうだ」
タカミザワは、さらに山道の奥へ進む。
「実際に、どの程度銃が使えるのか見せてもらう」
やがて、一行は開けた場所へ出た。
そこには、
木製の簡易的な射撃場が作られていた。
そして――。
50メートルほど先。
一本の木に、円形の的が固定されている。
「ここでいいだろう」
タカミザワはそう言うと、
懐から一丁の銃を取り出した。
「……え?」
ミロクが目を丸くする。
「タ、タカミザワ……?」
スコールも絶句した。
「なんでタカミザワが銃を持ってるんだ!?」
ケイタロウが叫ぶ。
ユンまで驚いたように目を見開いた。
対してタカミザワは、
何でもないことのように銃を眺めている。
「風の神殿で暗殺者を倒した時に、たまたま手に入れた」
「たまたまって……!」
ミロクは唖然とする。
「そもそも、学校に銃を持ってきていいの!?」
「細かいことを気にするな」
「細かくないよ!」
タカミザワはミロクの抗議を無視し、
銃をガンツへ差し出した。
「銃の弾は五発しか入っていない」
「……五発」
ガンツは銃を受け取った。
そして――。
カチャ。
小さな音。
ガンツは何の躊躇もなく銃を分解し始めた。
「えっ……?」
ミロクが目を丸くする。
銃を手にしたばかりだというのに、
ガンツは内部を確認し、
部品を一つずつ確かめていく。
まるで、
最初から構造を知っていたかのようだった。
「…………」
数秒後。
カチャ、カチャ。
再び組み上げられ、銃は元の形へ戻った。
「……管理がなってないな」
ガンツが淡々と言う。
「え?」
「整備が雑だ。照準も少しズレてる」
タカミザワが眉を上げる。
「分かるのか?」
「見れば分かる」
ガンツはそう言って、
50メートル先の的を見る。
風。
木々の揺れ。
距離。
そして銃の状態。
ほんの一瞬、
ガンツの目が細くなった。
「……だが、使えなくもない」
次の瞬間。
ガンツは片手で銃を構えた。
「ちょ、ちょっと待って!」
ミロクが声を上げる。
だが――遅かった。
――パンッ!
乾いた銃声が、山中に響き渡る。
――パンッ!
――パンッ!
――パンッ!
――パンッ!
五発。
ほぼ間隔のない連射。
鳥たちが一斉に木々から飛び立ち、
しばしの静寂。
「…………」
ミロクたちは、遠くの的を見つめた。
的の中心。
そこには、小さな穴が一つだけ開いていた。
「……真ん中に、一発だけ?」
ミロクが呟く。
「すげぇ……」
ケイタロウも目を丸くする。
「でも……五発撃ったよな?」
スコールが首を傾げた。
「まぐれか?」
ミロクたちが好き勝手に話し始める。
だが――。
「違う」
タカミザワの声が響いた。
全員が振り返る。
タカミザワは、じっと的を見つめていた。
「五発分すべて、中心に命中している」
「…………え?」
ミロクの顔から笑みが消える。
「五発……全部?」
「そうだ」
「でも、穴は一つしか……」
「重なっている」
タカミザワは淡々と答えた。
「同じ場所に、五発ともな」
「…………」
ミロクたちは言葉を失った。
「五発、全部……中心!?」
ミロクは慌てて的へ向かって走り出した。
「確認してくる!」
木々の間を抜け、的の前まで駆け寄る。
そして――。
「…………!」
的の中心に開いた穴。
そのさらに向こう。
的を貫通した弾丸は、
背後にあった木へと突き刺さっていた。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
同じ場所に、一直線に並んだ弾痕。
「本当だ……!」
ミロクの声が震える。
「五発……全部、同じ場所に当ててる……!」
ケイタロウも走ってきて、目を見開いた。
「こんなの……ありえるのかよ」
スコールも言葉を失う。
ユンは遠くから的を見つめ、静かに呟いた。
「……すごい」
その頃。
射撃を終えたガンツは、
何事もなかったかのように銃を下ろしていた。
「このくらい、余裕だ」
自慢する様子はない。
誇る様子もない。
ただ、本当に――、
当たり前のことをした。
そんな顔だった。
タカミザワは、その姿をじっと見つめる。
そして、口元をわずかに上げた。
「……なるほど」
ゲームセンターで、
ミロク達が見たと言っていた記録。
命中率100%。
ゾンビ撃破率100%。
人質救出率100%。
それは、偶然でも、
ゲームの調子が良かったわけでもない。
今、目の前で証明された。
ガンツは――、
狙った場所を、外さない。
それが、彼の「力」だった。
タカミザワの目が、鋭く光る。
――面白い。
自分の計画に、この少年が加わった意味。
それが、ようやく見え始めていた。
ーーーー クロネコの帰還 ーーーー
夏休み――中頃。
炎の神殿での激闘から、
しばらくの時が流れていた。
魔導書を巡る戦い。
イフリートとの死闘。
そして――
仲間たちは一人の存在を、
ほとんど諦めていた。
クロネコ。
人の姿をした死神。
イフリートの巨大な一撃をまともに受け、
その身体は原型すら留めないほどに粉々にされた。
あの状況から生きて戻るなど――、
普通なら、あり得ない。
その日も、
図書館はいつも通り静かだった。
窓から夏の日差しが差し込み、
机の上には
何冊もの魔導書や古代文献が積み上げられている。
ミロクたちは、
それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
そんな時だった。
――ガチャ。
図書館の扉が開いた。
「ただいまだニャ」
「…………」
ミロクが顔を上げる。
スコールも本から目を離した。
ケイタロウは固まる。
ユンも、目をぱちぱちと瞬かせた。
そして――。
「…………え?」
そこに立っていたのは。
黒い髪。
いつもの服。
目元を隠すような前髪。
そして、あまりにも見慣れた――。
「クロネコ!?」
ミロクが椅子から立ち上がった。
「生きていたのか!?」
「当たり前だニャ!」
クロネコは胸を張った。
「死神を舐めるなニャ!」
「いやいやいやいや!」
ケイタロウが思わず声を上げる。
「だってお前、イフリートに……!」
「ミンチになったニャ」
「自分で言う!?」
クロネコは平然としている。
まるで、
少し転んだ程度の出来事だったかのように。
「死んだと思ってた……」
ミロクが呟く。
「ニャーも一度は死んだニャ」
「一度は?」
「正確には、肉体が完全に壊れたニャ」
「…………」
ミロクたちは顔を見合わせた。
その横で――。
「はぁ……」
タカミザワが深いため息を吐いた。
嫌なことでも思い出したかのような、
心の底から疲れたようなため息だった。
「雑魚が……」
「いきなり酷いニャ!」
クロネコが抗議する。
しかし、タカミザワは気にする様子もない。
「死神というのは、もはや嘘八百だな」
「酷すぎるニャ!」
クロネコは頬を膨らませる。
だが――タカミザワは、
クロネコをしばらく観察すると、
ふと疑問を口にした。
「……だが」
眼鏡を押し上げる。
「ミンチ肉から、よく再生したな」
「そこは感心するのかよ……」
スコールが呆れる中、
クロネコは
待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「ふふふ……」
口元をニヤリと上げる。
「死神には、特別な力があるニャ!」
「…………」
全員がクロネコを見る。
「死神は――魂を喰らった数だけ、蘇生できるニャ!」
「魂を……?」
ミロクが聞き返す。
「そうニャ!」
クロネコは指を一本立てる。
「ニャーがこれまで喰らった魂は――」
一拍。
「すでに百を越えてるニャ!」
「百!?」
ミロクが驚く。
「そんなに!?」
「死神だからニャ!」
クロネコは得意げに胸を張る。
「軽い殺傷なら、すぐに蘇るニャ」
「軽い殺傷……」
「だが、ニャーのように原型を留めない殺傷を受けると――」
クロネコは自分の身体を眺める。
「再生するのに、かなり時間がかかるニャ!」
「なるほど……」
ミロクは少し納得した。
あれほどの攻撃を受けても、
時間さえあれば戻ってこられる。
それが、死神としての能力。
つまり――、
クロネコは、普通の人間とは根本的に違う。
その存在そのものが、
人間の常識から外れているのだ。
しかし、
タカミザワが口を開いた。
「だが、戦えないんだろう?」
「…………」
クロネコの動きが止まった。
「…………ニャ?」
「死神の"戦う力"を使えない」
タカミザワは淡々と続ける。
「人間界では神としての力に制限がある。違うか?」
「…………」
図星だった。
クロネコは目を逸らした。
「そ、それは……」
「つまり」
タカミザワが言う。
「蘇生能力はあっても、戦闘能力は大したことがない」
「…………」
クロネコの額に、青筋が浮かぶ。
「……違うニャ」
「何が違う」
「本来の力が使えれば――」
クロネコは拳を握った。
「イフリートなんて、一瞬で倒してたニャ!」
「ほう」
タカミザワが鼻で笑う。
「では、なぜ倒さなかった?」
「神のルールがあるからニャ!」
「つまり使えない」
「使えないんじゃないニャ!」
クロネコが叫ぶ。
「使ってはいけないだけニャ!」
「同じことだ」
「違うニャァァァ!」
クロネコは地団駄を踏んだ。
「本当ならニャーは最強なんだニャ!」
「はいはい」
「信じてないニャ!?」
「全く」
「ニャァァァァ!」
クロネコは怒りのまま図書館の扉へ向かう。
バンッ!
扉が開く。
「もう知らないニャ!」
そして――。
「ニャーはどこかへ行くニャ!」
「…………」
「絶対に後悔するニャ!」
バタンッ!
扉が閉まった。
図書館に静寂が戻る。
ミロクたちは、
しばらく黙って扉を見つめていた。
「……行っちゃったね」
「うん」
「クロネコ、元気そうでよかったな」
「そうだね」
ミロクたちは、少しだけ笑った。
死んだと思っていた仲間が帰ってきた。
それだけで十分だった。
――しかし。
タカミザワは、
クロネコが消えた扉を眺めながら、
ぽつりと呟いた。
「……肉壁くらいには使えるか」
「…………」
ミロク。
スコール。
ケイタロウ。
ユン。
全員が黙った。
誰も何も言わないし、
聞こえなかったことにした。
――その頃。
図書館から少し離れた場所では。
「後悔させてやるニャァァァァァァ!!」
クロネコの悲痛な叫び声が、
夏の空へと響き渡っていた。
ーーーー 二人の仲間 ーーーー
クロネコが出て行ってから数分後。
窓から差し込む夏の日差しが、
本棚の隙間から床へと細長く伸びていた。
ミロクは机に向かい、一冊の本を読んでいた。
ユンもその隣で静かにページをめくっている。
スコールとケイタロウは、
少し離れた場所で何やら話し込んでいた。
そんな、穏やかな時間だった。
――ガチャ。
図書館の扉が開いた。
「タカミザワ、いるか?」
聞き覚えのある声。
ミロクの手が止まった。
「…………」
ユンも顔を上げる。
そして、
入口に立っていた人物を見た瞬間――。
「……アカヤ」
ミロクの表情が強張った。
その隣には――、
「……ヒヨノちゃん」
ヒヨノが立っていた。
ミロクの胸が、ドクンと大きく跳ねる。
だが、それと同時に、
炎の神殿での光景が、鮮明に蘇った。
――雷槍。
――竜巻。
そして、自分の放った魔法が、
アカヤの身体を貫いた瞬間。
一度は、殺してしまった。
あの戦いを――、
ヒヨノも見ていた。
「…………」
ミロクは俯いた。
ユンも、静かに視線を落とす。
気まずい。
どう声をかければいいのか分からない。
しかし。
「ミロク」
アカヤが、こちらへ歩いてきた。
「……え?」
「そんな顔をするな」
アカヤは穏やかな声で言った。
「気にするな」
「でも……」
「お互いに目的があった訳だしな」
アカヤは、自分の身体を軽く見下ろす。
「現に、こうして――」
そして、ミロクを見る。
「生きている」
「…………」
ミロクの肩から、力が抜けた。
「……うん」
隣を見る。
ユンも小さく頷いた。
「よかった……」
張り詰めていた空気が、
ほんの少しだけ和らいだ。
その時だった。
「で?」
ケイタロウが腕を組み、
ぶっきらぼうに口を開いた。
「今日はなんのつもりで来たんだ?」
空気が変わる。
ケイタロウはアカヤを睨んでいた。
炎の神殿で戦った相手。
仲間を傷つけた相手。
そう簡単に警戒を解けるはずがない。
アカヤも、それを理解しているようだった。
「今日は――」
一瞬、間を置く。
「そっちのチームに加わりに来た」
「…………は?」
ケイタロウの眉が上がる。
スコールも目を丸くした。
「仲間に?」
「ああ」
アカヤは静かに頷いた。
ケイタロウは一歩前へ出る。
「今更、信じろ……と?」
「信じて欲しいとは言わない」
アカヤは即答した。
「だが、もう――」
視線を落とす。
「マルオチームにいるのは、限界だと悟ったんだ」
「…………」
その言葉に、ヒヨノも静かに頷いた。
マルオ。
炎の神殿での戦い以来、
彼は変わってしまった。
タカミザワに敗北したこと。
そして、タカミザワから受けた屈辱。
それらすべてが、
マルオの中に残り続けていた。
以前の彼にはあったはずの、
仲間をまとめる余裕が。
冷静に物事を見る力が。
今では失われてしまっている。
今のマルオを突き動かしているものは――、
ただ一つ。
力への渇望。
「タカミザワに負けたことを、ずっと引きずっている」
アカヤが言った。
「俺たちが何を言っても聞かない」
「もっと強くならなければならない」
「もっと力が必要だ」
「……そればかりだ」
ヒヨノが悲しそうに続ける。
「最初は、マルオくんが強くなりたい気持ちも分かったんです」
「でも……」
ヒヨノは胸元で手を握った。
「だんだん、何かがおかしくなっていった」
図書館が静まり返る。
「魔導書を手に入れること」
「タカミザワに勝つこと」
「そのためなら、何をしてもいいみたいになって……」
ヒヨノは目を伏せた。
「……怖くなりました」
アカヤも頷く。
「俺も同じだ」
そして、二人は顔を見合わせた。
決意は変わらない。
「だから、俺たちはマルオチームを抜けた」
「そして――」
ヒヨノが言葉を続ける。
「魔法教会について、ちゃんと調べたいんです」
「…………」
スコールが首を傾げる。
「魔法教会?」
「そう」
アカヤが答える。
「前から、俺たちは疑問に思っていた」
「魔法教会は、何かを隠している」
その言葉に、ミロクが顔を上げた。
「何かを……?」
「暗殺者の話だって聞いたさ」
アカヤが続ける。
「炎の神殿で君達を襲った連中も、魔法教会と無関係とは思えない」
「…………」
ヒヨノも頷いた。
「マウチューからも、いくつか気になる情報が入っています」
ヒヨノの契約している機械仕掛けのネズミ。
電気となってコンセントへ入り込み、
情報を集める奇妙な使い魔。
ミロク達が暗殺者と戦っていたところを、
ヒヨノは、マウチュー越しに見ていたのだ。
「だから……」
ヒヨノは顔を上げた。
「私たちは、ここに来ました」
「魔法教会のことを知るために」
「そして――」
アカヤが言った。
「魔導書の真実を知るために」
――その時。
図書館の奥から、足音が聞こえてきた。
コツ。
コツ。
コツ。
「話は聞いた」
全員が振り返る。
本棚の向こうから姿を現したのは――、
タカミザワだった。
腕には何冊もの本を抱えている。
いつもの余裕に満ちた表情。
アカヤは、露骨に嫌そうな顔をした。
「…………」
やはり、こいつは好きになれない。
炎の神殿で自分たちを翻弄し、
最後には魔導書を奪っていった男。
そんな相手の仲間になる。
正直、気分がいいはずがない。
しかしタカミザワは、
そんなアカヤの視線など気にも留めなかった。
「仲間に加わるのは、別に構わん」
「……随分あっさりだな」
アカヤが眉をひそめる。
「ちょうど次に向かう場所では――」
タカミザワは一冊の本を机の上へ置いた。
その表紙には、
『氷の神殿』
と書かれている。
「アカヤ、お前の固有能力が必要だったんだ」
「…………俺の?」
「ああ」
タカミザワは余裕の笑みを浮かべる。
「炎の神殿では、お前と戦った」
「だが、敵としてではなく味方として使えば――」
一瞬。
タカミザワの目が鋭くなる。
「もっと面白いことができる」
アカヤは顔をしかめた。
「……やっぱり、いけすかない奴だな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「褒めてねぇよ」
そのやり取りを見ていたヒヨノが、
少しだけ笑った。
そして、
「これから、よろしくお願いします」
深く頭を下げる。
「…………」
アカヤも続いた。
「よろしく頼む」
ミロクは二人を見つめた。
前回まで戦っていた相手。
それが今日から――同じ仲間になる。
不思議な感覚だった。
スコールが嬉しそうに笑う。
「これで、また仲間が増えたな!」
「そうだね」
ユンも微笑んだ。
ケイタロウはまだ警戒していたが、
それでも腕を組んだまま小さく頷く。
「……まあ、信用するかどうかはこれからだ」
「ああ、それでいい」
アカヤは答えた。
こうして――アカヤとヒヨノが、
タカミザワたちの仲間となった。
だが、
その先に待っているのは――。
炎とは正反対の世界。
極寒の大地。
凍てつく神殿。
そして――、
まだ誰も知らない、氷の魔導書。
新たな仲間を加えた一行は、
次なる神殿へ向けて動き始めようとしていた。
タカミザワが一つ呟く。
「仮にスパイだったとしても、使える駒は使い潰す」
ーーーー 激怒するマルオ ーーーー
――夏休みの旧校舎の一室。
薄暗い部屋の中に、
荒々しい物音が響き渡った。
「アカヤ……ヒヨノ……!!」
マルオは、
肩を震わせながら拳を握り締めていた。
「二人とも……信じていたのにッ!!」
ガンッ!!
近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
椅子は床を滑り、
壁に激しくぶつかって倒れた。
部屋に沈黙が戻る。
だが――マルオの怒りは収まらない。
「……もっとだ」
低い声だった。
「もっと……力が必要だ……」
俯いていた顔が、ゆっくりと上がる。
「あの胸糞メガネを……」
歯を食いしばる。
「……ぶっ潰すために!!」
その目には、
以前のマルオにはなかった執念が宿っていた。
炎の神殿で、
タカミザワに完膚なきまでに出し抜かれた。
仲間だったアカヤとヒヨノも離れていった。
それでも――
マルオは諦めなかった。
むしろ逆。
負けたことで、
彼の中にある「力への渇望」は、
さらに膨れ上がっていた。
マルオはゆっくりと顔を上げる。
その視線の先にいるのは、三人の仲間。
サイゴウ。
十文字。
そして、トキオ。
「……お前らは、裏切るなよ?」
静かな声だった。
しかし、
その言葉の奥には凄まじい圧力があった。
サイゴウは腕を組み、
マルオを真っ直ぐ見つめる。
「タカミザワにあんなことされて、裏切る訳ねぇだろ」
至って冷静だった。
感情的になるマルオとは対照的に、
サイゴウは淡々としている。
その言葉に、マルオは少しだけ目を細めた。
部屋の隅、
壁に背中を預けていた十文字も、
ゆっくりと頷く。
だが、その目は笑っていなかった。
そして最後に――、
「僕も裏切らないよー」
トキオが口を開いた。
彼だけは、
どこか自由な雰囲気を漂わせている。
相変わらずの、のんびりとした口調。
マルオは三人を見渡す。
しばらくして――、
乱れていた髪を、手でかき上げた。
バサッ。
髪が後ろへ流れ、自然とオールバックになる。
そして、外れていた眼鏡を拾い上げた。
カチャッ。
眼鏡をかけ直す。
さっきまでの激情が嘘のように消えていく。
「……よし」
マルオは冷静さを取り戻し、
そして机の上に置かれていた地図を広げる。
「とりあえず……仲間が必要だ」
指で地図をなぞる。
「向こうには最低でも、戦力になる人物が七人はいる」
タカミザワ。
ミロク。
スコール。
ケイタロウ。
ユン。
そして――クロネコ。
さらに、アカヤとヒヨノまで加わった。
この段階では、マルオは
まだ、ガンツの存在を知らない。
「対するこっちは……四人」
マルオ。
サイゴウ。
十文字。
トキオ。
「最低でも、あと二人は欲しい」
マルオの指が地図の上で止まる。
「……いや」
少し考える。
「できれば、それ以上だ」
勝つためには――、
圧倒的な戦力差を埋めなければならない。
「最悪……」
マルオは地図の端を指差した。
「隣町の学校から連れてくるしかないか……」
その瞬間。
「それなら――」
トキオが手を挙げた。
まるで授業中に質問する生徒のようだった。
「隣町の学校なら、当てがあるよ」
マルオが顔を上げる。
「……何?」
「最近、魔法に目覚めた人が二人いるんだ」
トキオはニヤリと笑った。
「しかも、かなり面白い二人だよ」
「魔法に目覚めた……?」
マルオの目が少し輝く。
しかし、それだけではなかった。
「それなら――」
今度はサイゴウが口を開いた。
「この学校にもいるぞ」
マルオが振り返る。
「……何?」
「魔法に目覚めた三つ子がいる」
サイゴウは淡々と続けた。
「まだ詳しい能力までは分からねぇが……三人とも魔力を持っているはずだ」
「三つ子……」
マルオは、その言葉を噛みしめる。
そして――、
「……誘ってみるか?」
口元が、ゆっくりと吊り上がった。
「……いいな」
眼鏡の奥の瞳が鋭くなる。
「隣町から二人」
「この学校から三つ子」
指を折りながら数える。
「最低でも五人……」
マルオは地図を見下ろした。
そこには、
かつての冷静な少年の面影が戻っていた。
だが――、
その内側に燃えているものは、
以前とはまるで違う。
怒り。
屈辱。
嫉妬。
そして――復讐心。
「……まだ、戦えるな」
マルオは静かに呟いた。
そして拳を握り締める。
ギリッ……。
「タカミザワを……」
その拳が、微かに震える。
「……ぶっ潰すために……!!」
部屋の空気が、一瞬だけ震えた。
四人だった戦力は――これから増えていく。
タカミザワたちが
魔導書を求めて進む一方で。
マルオたちもまた――、
自分たちの「戦力」を集め始めていた。
そして、その先に待っているのは――、
再び交差する、二つの魔導書解放チーム。
次の舞台は――、
氷の神殿。
そこで彼らは、再び激突することになる。




