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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
40/40

第39話 帰還、新たな駒

投稿が遅れてすみません(汗

8月は、お祭りやらお盆やらで忙しく、猛暑に台風で体調を崩し気味でした。

皆さんも体調を崩さぬように、気をつけてお過ごしください。

ーーーー 炎の神殿から後日 ーーーー


炎の神殿から帰還して三日。


激戦の傷は少しずつ癒え、

いつもの穏やかな時間が戻っていた。


一方その頃。


タカミザワは自室に籠もり、

一枚の大きな地図を机いっぱいに広げていた。


「……次は、氷の神殿。」


地図の上へ魔法陣を浮かべる。


淡い光が幾筋にも枝分かれし、

無数の道筋を描いていく。


その上空では千里眼が発動し、

まだ見ぬ北の大地を静かに映し出していた。


「最短距離……。」

「いや、補給地点を考慮すればこちらか。」

「吹雪の発生周期は……。」


独り言を呟きながら、

紙へ細かな文字を書き込んでいく。


戦いは終わった。


だが、タカミザワの中では

既に次の戦いが始まっていた。


その頃、

ミロク達は束の間の休息を楽しんでいた。


いつもの図書館。


窓から差し込む夏の日差し。

静かな館内にページをめくる音だけが響く。


「あの激戦が嘘みたいだな。」


ケイタロウが椅子へ深く腰掛け、

大きく伸びをした。


「ああ。」


スコールも苦笑する。


ほんの数日前まで

命懸けの戦いをしていたとは思えないほど平和だった。


ミロクは窓の外を眺めながら、小さく呟く。


「マルオ達……無事に帰ったかな。」


その声には、心配が滲んでいた。

だが、スコールは肩をすくめる。


「アイツらなら大丈夫だろ。」

「しぶとそうだしな。」


どこかドライな返事だった。


炎の神殿では、多くのものを見た。


暗殺者。

魔人イフリート。

そして、命懸けで戦うマルオ達。


しばらく沈黙が流れる。


やがて、ミロクが

思い出したように顔を上げた。


「そういえば……。」

「サイゴウって、なんで溶岩が効かなかったんだろう。」


その疑問に、ケイタロウも大きく頷く。


「俺も思ってた。」

「同じ守人でも、俺だったら溶岩なんて無理だぜ。」


「普通なら……死ぬよな。」


タカミザワは読んでいた本を静かに閉じる。


「炎の神殿の溶岩は、魔素由来だ。」


淡々とした答えだった。


「あの溶岩が……?」


ケイタロウが眉をひそめる。


タカミザワは頷く。


「始めて入った"火の神殿"、その時から分かっていた。」

「入口にあった壁掛けの松明、それに灯る火も魔素由来。」

「さらに神殿内の炎、水蒸気、風の流れ、岩盤の性質。」

「全てが魔素によって構成されていた。」


机へ指を置く。


「つまり、この神殿そのものが、巨大な魔法装置のようなものだったということだ。」


ミロクは目を丸くした。


「じゃあ……もしかして。」

「サイゴウを溶岩へ落としたのも……。」


タカミザワは即答した。


「計算通りだ。」


三人が同時に固まる。


「アカヤは半殺し。」

「サイゴウは溶岩へ沈める。」

「その後、ミロクへ教えた雷魔法と、ユンの風魔法を組み合わせる。」


「混合魔法で、二人まとめて戦闘不能。」

「マルオ達が一時的に戦意喪失。」

「そこまでが当初の作戦だった。」


ミロクは思わず苦笑する。


「あの時……そこまで考えてたんだ。」


「当然だ。」


タカミザワは何事もないように答えた。


ケイタロウは額へ手を当てる。


「恐ろしい奴だ……。」


スコールは思い出したように呟く。


「でも、暗殺者だけは違ったよな。」


「あれは、本当にギリギリだった。」


ケイタロウも真剣な表情になる。


「正直、負けると思った。」


しかし、

タカミザワは首を横へ振った。


「あれも計画通りだ。」


「え?」


三人が揃って声を漏らす。


「スコールが龍魚を召喚する。」

「そしてケイタロウとの共闘。」

「それで、突破できると踏んでいた。」


「仮に失敗しても。」

「ミロクとユンの風魔法が有効打になる。」


静かに語る。


「だから、あの時は指示を出さなかった。」


ケイタロウは思わず苦笑した。


「……ほんと。」


「えげつねぇな。」


スコールも肩を震わせる。


「タカミザワだけは敵に回したくない。」


「絶対嫌だ。」


本気だった。


敵よりも、味方でいてほしい。

そう思わせるほど、この男は先を読んでいた。


タカミザワは鼻で笑う。


「そう褒めるな。」

「何も出ないぞ。」


珍しく冗談を口にする。


「褒めてねぇよ!」


ケイタロウが即座に突っ込む。

その一言に、図書館の空気が少し和らいだ。


ミロクも笑う。

スコールも笑う。

ユンも小さく微笑む。


激戦を越えた仲間達だからこそ分かち合える、穏やかな時間だった。


窓の外では蝉が鳴き続ける。

夏はまだ始まったばかり。


そして、

誰も気付いていなかった。


図書館のどこにも。


いつも眠そうに欠伸をしている、

あの死神の姿がないことを。


誰一人として、

"クロネコ"の存在を思い出す者はいなかった。


静かな図書館に、

小さな不安だけが置き去りにされていた。


ーーーー 取り残された者 ーーーー


炎の神殿。


イフリートとの戦闘が終わってから、

しばらくの時間が経っていた。


静まり返った神殿の奥へ、複数の足音が響く。


「……酷い有様だな。」


先頭を歩く男が、崩れた石柱を見上げる。


フロンティア国騎士。

名はバルバトス。


その後ろには、

ヴィネ、カイ、アモンら調査団の姿があった。


彼らの目的は、

炎の神殿で発生した異常現象の調査と魔導書の確保。


そして――。


「……あれ?」


カイが足を止めた。


瓦礫の向こう。


そこには、数人の子供達が倒れていた。


「子供……?」


バルバトスが眉をひそめる。


「なぜ、ここに子供がいるんだ?」


彼らが見つけたのは、

疲弊しきったマルオ達だった。


服は汚れ。

身体には傷。


誰もが、

長時間の戦闘を経験したことを物語っている。


ヴィネは周囲を見渡した。


「怖いもの見たさに入った……というだけなら、まだ分かるわ。」

「でも、霊龍山の麓にある村からも、かなり距離がある。」


ヴィネの表情が僅かに曇る。


「まさか……ね。」


彼女の脳裏を過ぎったのは、例の予言。


――革命の……。


だが、目の前にいるのは、

どう見ても十歳にも満たない子供達。


「考えすぎか。」


ヴィネは小さく呟いた。


その時、

カイがしゃがみ込み、マルオ達へ声を掛ける。


「どうして、ここに?」


マルオは黙っていた。


ヒヨノも。

アカヤも。

十文字も。


誰も答えない。


この場所で起きたことを話せば、

確実に面倒なことになる。


ましてや――、

タカミザワという名前を出すことは危険だ。


嫌なヤツだが、殺したいわけではない。

更生させる為にも、言うわけにはいかない。


最悪、国家反逆罪。


大げさではあるが、

魔導書を巡る行動を知られれば、

その疑いを持たれてもおかしくない。


特に、魔法教会の事だけは…。


だからこそ、

誰も口を開かなかった。


しかし、一人だけ。

何も考えずに口を開く男がいた。


「俺達は――」


サイゴウだった。


「タカミザワを止める為に来た。」


「…………。」


その瞬間。


マルオ達の表情が凍り付く。

ヒヨノが目を見開く。


「サ、サイゴウ君……!」


だが、もう遅い。


「タカミザワ?」


バルバトスが聞き返す。

ヴィネもすぐに反応した。


「……その名前。」


手帳を取り出す。


「調べてみる必要があるわね。」


バルバトスはサイゴウへ向き直る。


「名前は?」


「サイゴウだ。」


一切の迷いがない。


「そのタカミザワについて、知っていることを教えてくれるか?」


サイゴウは腕を組み、堂々と答えた。


「タカミザワは日光小学校の二年生。」

「俺と同い年だ。」


ヴィネのペンが止まる。


「小学生……?」


「ああ。」


サイゴウは続ける。


「ヤツは狡猾だ。」

「人を罠に嵌めて、お宝を盗む最低なヤツだ。」


「お宝?」


バルバトスの目が細くなる。

マルオが慌てて口を挟んだ。


「え、えっと……!」

「宝の地図的なやつですよ!」


「…………。」


バルバトスがマルオを見る。


「ほう……。」


その声音には、

明らかに何かを察したような響きがあった。


ヴィネと視線を交わす。


一瞬、

それだけで十分だった。


――目星は付いた。


「そのタカミザワという少年。」


ヴィネが静かに手帳へ書き込む。


「どうやら、ただの子供ではなさそうね。」


その時、

奥の通路から足音が聞こえた。


「戻ったぞ。」


アモンだった。


炎の神殿の最奥部を調査していた彼が戻ってくる。


「何かあった?」


ヴィネが尋ねる。


アモンは首を横に振った。


「特にない。」

「奥には、色々と崩落した場所があるだけだ。」


バルバトスは小さく息を吐いた。


「……まぁいい。」


周囲を見渡す。


「これ以上ここにいても仕方がない。」

「とりあえず、帰るとするか。」


マルオ達へ視線を向ける。


「君達も一緒に来てもらう。」

「フロンティア国まで護送する。」


「えっ……。」


マルオの顔が引きつる。

ヒヨノも不安そうに俯く。


サイゴウだけは、

何も気にしていないようだった。


やがて、

調査団は、炎の神殿を後にする。


誰も知らない。


この日、

ほんの一人の少年の名前が――。


フロンティア国の騎士団へ伝わったことを。


そして、その名前が、

後に世界を揺るがす事態へ繋がっていくことを。


「タカミザワ。」


ヴィネは歩きながら、

その名をもう一度、心の中で繰り返していた。


ーーーー 千里眼と計画 ーーーー


まだまだ、夏休みは続いていた。


炎の神殿での激戦から数日。

日光町には、蝉の声が響き渡っている。


そんな穏やかな昼下がり、

図書館の一角で、タカミザワは一人、静かに目を閉じていた。


――千里眼。


その瞳に映っているのは、

フロンティア国の全体。


そして、その街を歩く数人の子供達。


マルオ。

ヒヨノ。

アカヤ。

十文字。

トキオ。


そして――サイゴウ。


全員が無事に帰還していた。


タカミザワは、ゆっくりと目を開く。


「……アイツらは無事か。」

「予定通りだ。」


その言葉に、

近くで本を読んでいたミロクが顔を上げた。


「マルオ達、大丈夫だったってこと?」


「ああ。」


タカミザワは鼻で笑う。


「炎の神殿攻略の時。」

「外にフロンティア国騎士団が四名いるのが見えていた。」

「マルオ達が救助されるのは必然だ。」


ミロクが驚く。


「じゃあ……戦ってる時から見えてたの?」


「当然だ。」


タカミザワは眼鏡を押し上げる。


「俺の千里眼を、何のために持っていると思っている。」


ケイタロウが椅子から身を乗り出した。


「……じゃあ、フロンティア国の騎士団がいることも?」


「知っていた。」


タカミザワは立ち上がり、

そして、机の上へ小さな駒を並べ始めた。


一つ。

二つ。

三つ。

四つ。


それぞれ違う色の駒。


「現在。」


タカミザワが静かに口を開く。


「魔導書を巡って争っている勢力は、四つある。」


一つ目の駒。


「俺たち――魔導書解放チーム。」


二つ目。


「マルオ達――魔導書防衛チーム。」


三つ目。黒い駒。


「魔法協会――暗殺者チーム。」


そして四つ目。白い駒。


「フロンティア国――遺跡調査班。」


ミロク達は、並べられた四つの駒を見つめる。


「俺たち含めて、四チーム……。」


ケイタロウが腕を組む。


「意外と多いな。」


「そうだ。」


タカミザワは丸眼鏡を押し上げる。


「現状は――」


四つの駒のうち、自分達の駒だけを前へ出す。


「俺たち、魔導書解放チーム。」


そして残る三つを指差す。


「対する三チーム。」


「つまり――」


タカミザワの口元が僅かに上がる。


「俺たち対三勢力だ。」


ケイタロウが眉をひそめる。


「それ、普通に考えたら不利じゃね?」


「そうでもない。」


タカミザワは即答した。


「俺には千里眼がある。」


その言葉には、妙な自信があった。


「敵がどこにいるのか。」

「何をしているのか。」

「どこへ向かおうとしているのか。」


「ある程度なら把握できる。」


「敵が多いことは問題ではない。」

「見えない敵こそが問題なんだ。」


ミロクはその言葉を聞き、炎の神殿を思い出す。


確かに、タカミザワは、

あの神殿で何度も先回りしていた。


暗殺者の戦い。

イフリート。

マルオ達の乱入。


そのほとんどで、タカミザワは冷静だった。


――だが、

スコールが腕を組む。


「でもよ。」

「イフリート戦では、魔法がほとんど効かなかった。」


タカミザワの視線がスコールへ向く。


「俺たちの攻撃力にも、限界があるんじゃないか?」


その言葉に、空気が少し変わった。


スコールは続ける。


「俺たちはまだ子供だ。」


「物理的な力は、大人に比べれば圧倒的に低い。」

「魔法だって、基本的な使い方を覚えているだけ。」


「旧魔法文明の古代人みたいな戦闘技術を学べるわけでもない。」


ケイタロウも頷く。


「確かに。」


タカミザワは否定しなかった。


「その通りだ。」


そして、駒を一つずつ指で叩いていく。


「現状、前衛を担えるのはケイタロウとスコール。」

「魔法による攻撃はミロクとユン。」


「俺は状況判断と魔術支援。」

「役割はほぼ固定されている。」


タカミザワは少し間を置いた。


「だから――」

「レベルを上げるしかない。」


ミロク達が顔を見合わせる。


「現在の平均レベル。」


タカミザワは淡々と告げた。


「レベルが上昇しないミロクを除けば、約三十。」


「対して。」

「イフリートはレベル四十だった。」


「……十も違うのか。」


ケイタロウが呟く。


「レベル十の差は大きい。」


タカミザワは頷いた。


「それに、この世界で発生している魔物はまだ弱い。」

「騎士団が銃を使えば倒せる程度だ。」


そこで、

ミロクが突然、顔を上げた。


「……銃。」


「ん?」


「銃の使い手なら、僕、知ってるよ!」


ケイタロウとスコールが同時に顔を見合わせる。


そして、

二人とも同じ人物を思い出した。


――ゲームセンター。

――二丁拳銃。

――圧倒的な命中率。


「……ガンツ。」


スコールが呟く。

ケイタロウも頷いた。


「アイツか。」


タカミザワは少し考える。


「悪くない。」

「銃があれば戦える。」

「銃の使い手が一人増えるだけでも、戦闘の負担は減る。」


さらに、

タカミザワは黒い駒を見る。


「そして――。」

「マルオチームの銃使い、十文字への対抗策にもなる。」


「え?」


ミロクが目を丸くした。


「十文字って、銃持ってるの?」


タカミザワが呆れた顔をする。


「……知らなかったのか?」


「十文字がいつも持ち歩いている楽器ケース。」


「あれには――」


一拍。


「スナイパーライフルが入っている。」


「…………。」


沈黙。


「えええええ!?」


ミロク、ケイタロウ、スコールの声が図書館に響き渡った。


「ちょ、ちょっと待て!」


ケイタロウが立ち上がる。


「アイツ、いつも楽器ケース持ってたじゃねぇか!」


「まさか中身が銃だったとは……。」


スコールも唖然としている。

ミロクは完全に固まっていた。


タカミザワはそんな三人を見て、

飴玉を口へ放り込む。


「それに。」

「十文字は暗殺者の関係者だ。」


「…………。」


今度こそ、三人は言葉を失った。

タカミザワは窓の外を眺める。


「だが、普段から銃を使っていない。」

「つまり――。」

「まだ暗殺の指示は出ていない可能性が高い。」


その分析に、ミロク達の表情が険しくなる。


魔導書を巡る戦い。

知らないところで動いている魔法協会。

そして、国家。

さらに、マルオ達。


四つの勢力。


それぞれが、まだ表立って動いてはいない。


しかし、

水面下では、確実に駒が動き始めている。


「……なんか。」


ミロクが小さく呟く。


「夏休みなのに、全然休めないね。」


ケイタロウが苦笑する。


「まあ、そういう運命なんだろ。」


スコールも笑った。


その横で、タカミザワだけは、

いつものように飴玉を舐めている。


「さて。」

「次は――。」


彼の視線が、机の上の地図へ落ちる。


「氷の神殿だ。」


外では蝉が鳴いている。

穏やかな夏の日。


その裏側で、

四つの勢力が、それぞれの目的を胸に――。


静かに、次の一手を探していた。


そして、

ミロク達の夏休みは、まだ終わらない。


ーーーー 新たな仲間"ガンツ" ーーーー


夏休みの学校。


昼間だというのに、

図書館の中は妙に静かだった。


窓から差し込む夏の日差し。


蝉の声。


遠くから聞こえる運動部の掛け声。


そんな穏やかな空気とは裏腹に――

図書館の一角には、妙な緊張感が漂っていた。


その中央に、

一人の少年が立っている。


黒髪。

鋭い目。


眠そうな表情。


まるで今にも誰かを殺しそうなほどの眼光。


――ガンツ。


彼は図書館の椅子に腰掛けることもなく、

ただ面倒そうに辺りを見回していた。


「……なんだ?」


低い声。

その視線の先には――誰もいない。


……ように見える。


しかし、本棚の陰。

机の下。

柱の向こう。


そこにはミロク、スコール、ケイタロウ、そしてユンが息を潜めていた。


そして中央には、タカミザワ。


タカミザワは腕を組み、

ガンツを真っ直ぐ見つめていた。


「単刀直入に言う」


静かな声。


「俺たちの仲間にならないか?」


「…………」


ガンツは黙った。


数秒。

そして――


「遊びなら、お断りだ」


ピシャリ。

一切の迷いがない。


「……ほう」


タカミザワの口元が僅かに動く。


「遊びではない」


そう言って、懐から一冊の本を取り出した。


古びた装丁。

異様な存在感。


そして――炎の魔導書。


「世界を大きく震撼させる事だ」


ガンツの視線が、本へ向く。


「…………」


「これは、まだ誰にも見せていない」


タカミザワは淡々と告げる。


そして――


パラ……。

炎の魔導書を開いた。


瞬間。


「――――ッ!?」


爆発的な炎の魔素が噴き出した。


赤。

橙。

金。


それらが混ざり合った濃密な魔素が、

図書館を一気に満たしていく。


「な……」


ガンツの髪が風圧で揺れる。


炎の魔素はガンツの身体を通り抜け、

そのまま開いた窓から外へと吹き抜けていく。


木々が大きく揺れた。


蝉の鳴き声さえ、一瞬だけ掻き消える。

ガンツの目が細くなる。


そして――


「……魔法……か?」


初めて。

その声に、僅かな驚きが混じった。


タカミザワは魔導書を閉じる。


「そうだ」

「俺たちは、魔法を世界に広める」

「そして――」


丸眼鏡の奥で、タカミザワの瞳が鋭く光った。


「この世界を、再び魔法文明にする」


「…………」


ガンツは黙っていた。


しばらくの沈黙。

そして――


「正気か?」


「もちろんだ」


即答。


「世界中の人間が魔法を使えるようになれば、世界は大きく変わる」


「混乱するぞ」


「だから面白い」


タカミザワは笑った。

その表情を見て、ガンツは僅かに目を細める。


「……お前」

「普通じゃないな」


「お互い様だろ」


タカミザワは鼻で笑った。


再び沈黙。


そして――

ガンツは小さく息を吐いた。


「……面白い」

「乗った」


「え?」


思わず、ミロクが本棚の陰から声を漏らす。


「乗ったって……」

「仲間になるってこと!?」


「おい、ミロク」


スコールが慌てて止めようとする。


しかし、もう遅い。


ガンツは本棚の方を見る。


「……そこに隠れてる奴らも出てこい」


「バレてた!?」


ケイタロウが飛び出す。


「よろしくな!」


「お、おう……」


続いてスコール。


「よろしく」


そして――

ミロク。


「よろしく、ガンツ!」


元気よく手を差し出す。


ガンツは少しだけ困惑した顔をした。


「……距離が近いな、お前ら」


「仲間だからな!」


ケイタロウが笑う。

その言葉に、ガンツは僅かに目を逸らした。


「……そうか」


小さな声だった。


その様子を見ていたタカミザワは、

すぐに杖を取り出した。


「ならば、まずは能力を確認する」

「鑑定魔法」


淡い光がガンツを包み込む。


そして――

空中に、ステータスが浮かび上がった。


———


【ガンツ】


Lv.1 Rank F


種族:吸血鬼ヴァンパイア


魔法適性:氷/影/闇


・体力    20

・魔力    20

・気力    10

・攻撃力   20

・防御力   8

・魔法攻撃力 15

・魔法防御力 8

・俊敏性   20

・運     100


固有能力

・魔眼「鷹の目」


スキル

・瞑想

・吸血

・吸血鬼化


体術

・暗殺体術

・暗殺剣術



「…………」


誰も、すぐには言葉を発せなかった。


最初に口を開いたのは――


「……吸血鬼?」


ミロクだった。


「吸血鬼って、あの吸血鬼!?」


ガンツを見る。

もう一度、ステータスを見る。


「伝説の……?」


「そういうことになるな」


ガンツはあっさり答えた。


「普通に学校にいたけど……」


スコールも驚きを隠せない。


「今まで、全然気づかなかった……」


「見つからないようにしてたからな」


「…………」


そして、ケイタロウが

ステータスの別の部分を指差した。


「ちょっと待て」

「暗殺体術……」

「暗殺剣術……」


顔を上げる。


「お前……」

「暗殺者だったのか?」


ガンツは少しだけ目を伏せた。


「……親が暗殺者なんだ」


「え?」


「俺自身は、今は暗殺者じゃない」

「仕事が来ないように、親父が止めてる」


その言葉に、ミロク達は顔を見合わせた。


事情は分からない。


だが――少なくとも、

ガンツが普通の少年ではないことだけは理解できた。


そんな中、タカミザワだけが、

ステータスを興味深そうに眺めていた。


特に――


固有能力「鷹の目」


そして、


運:100


この二つを。


「……面白い」


タカミザワが呟く。


「かなり特殊な個体だな」


「そうか?」


ガンツは興味なさそうに答える。


「それより――」


タカミザワが顔を上げる。


「吸血鬼化」

「これは、使えるのか?」


ガンツは一瞬だけ黙った。


「できる」


「ほう」


「だが――」


ガンツは窓の外を見る。


真夏の太陽。

眩しいほどの光。


「日中はできない」

「身体が焼け爛れて――死ぬことになる」


「…………」


空気が凍った。

ケイタロウが顔を引きつらせる。


「お、お前……」


「それ、さらっと言う話か?」


「事実だからな」


ガンツは平然としている。


しかし、その瞳の奥には――

どこか諦めにも似たものがあった。


タカミザワはそれを見逃さなかった。


「なるほど」


そして、静かに杖を下ろす。


「ならば、お前の戦場は――」


窓の外。

沈み始めた太陽を見る。


「夜だな」


ガンツは答えなかった。

ただ、口元を僅かに上げた。


「……悪くない」


その瞬間。

ミロクが笑った。


「じゃあ、夜に一緒に戦えばいいんだ!」


「単純だな、お前は」


スコールが苦笑する。


「でも……」


ユンが、本棚の陰から小さく顔を出した。


「……仲間が増えるのは、嬉しいかも」


ガンツはユンを見る。

ユンは恥ずかしそうに、すぐに顔を引っ込めた。


「…………」


ガンツは少しだけ目を丸くした。


そして――


「……変な奴らだな」


「そうか?」


ミロクが笑う。


「僕は普通だと思うけど」


「お前が一番変だ」


ガンツは即答した。


「えぇ!?」


図書館に、

ケイタロウとスコールの笑い声が響いた。


その様子を少し離れた場所から見ていたタカミザワは、

静かに眼鏡を押し上げる。


――新たな駒。


しかも、この少年はただの駒ではない。


夜を支配する可能性を秘めた、吸血鬼。


タカミザワは心の中で、

次なる戦いの盤面を組み立て始めていた。


炎。

水。

風。

土。


そして――


影。


まだ誰も知らない。


この日、仲間に加わった一人の少年が。


やがて「魔導書」を巡る戦いの中で――

重要な一手になることを。


そして夏休みは、まだ始まったばかりだった。

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