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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
36/37

第35話 炎の神殿へ

ーーーー 炎の神殿への道中 ーーーー


いよいよ夏休みが始まった。


待ちに待った長期休暇。


だが、ミロク達にとって夏休みとは、

ただ遊ぶための時間ではない。


新たな冒険の季節だった。


――ゴォォォォ。


エンジン音を響かせながら、

一台の長距離バスが田舎道を走り抜けていく。


窓の外には、

どこまでも続く黄金色の小麦畑。


夏の風に揺れる穂が波のように広がっていた。


その光景を横目に、

バスは一路西へ向かう。


車内には見慣れた顔ぶれが揃っていた。


ミロク。

スコール。

ケイタロウ。

タカミザワ。

ユン。

そして、クロネコ。


六人の仲間達である。


目的地はフロンティア国西部。

巨大な霊峰――霊龍山。


古来より

神々の気配が宿ると語られる巨大な山脈だ。


そして、その麓に存在する場所。


炎の神殿。


夏休み初日から、

ミロク達は早速次なる神殿へと向かっていた。



車内は比較的静かだった。


スコールは窓際の席で眠っている。

首がカクン、カクンと揺れていた。


昨夜は、興奮して眠れなかったのだろう。


一方、

クロネコは窓ガラスに張り付いていた。


「おお〜!」

「牛だにゃ!」

「羊もいるにゃ!」

「畑だらけだにゃ〜!」


完全に観光客である。

楽しそうなのは良いが、少々騒がしい。


ユンはそんな光景を気にも留めず、

小説を読んでいた。


静かにページをめくる姿は実に落ち着いている。


ミロクは膝の上にマルを乗せていた。


「クエェ〜」


気持ち良さそうに鳴くマル。

その頭を優しく撫でる。


すると、目を細めて喉を鳴らした。


「お前も冒険楽しみなのか?」


「クエェ!」


元気よく返事が返ってくる。


そんな平和な空気の中。


通路を挟んだ向かい側では、

ケイタロウとタカミザワが話し込んでいた。


「なぁ、タカミザワ」


ケイタロウが口を開く。


「なんだ?」


タカミザワは本から目を離さない。

それでも、返事だけは返した。


「夏は火や炎の魔素が強くなるんだろ?」


「そうだな」


「夏休み初日から炎の神殿に行くとか正気なのか?」


ケイタロウの問いはもっともだった。


季節には、魔素の偏りがある。


夏は火、炎、光。


冬は水、氷、影。


その傾向は神殿にも影響する。


つまり今の炎の神殿は、最も危険な状態に近い。

普通に考えれば冬を待つべきだ。


だが、

タカミザワは平然としていた。


「ああ、正気さ」


ページをめくる。


そして。


「お前ら愚民共のちっぽけな脳みそでは、到底想像出来ない程に思考を巡らせ」

「わざわざ、次代の大賢者である俺様が思考に思考を重ね」

「やっと辿り着いた答えだからな」


堂々と言い放った。


沈黙。


数秒後。


「……めんどくせぇ男だぜ」


ケイタロウは頭を掻いた。


どうやら夏休み初日から機嫌が悪いらしい。

あるいは、魔術研究のし過ぎで疲れているのかもしれない。


「まあいいや」


ケイタロウは話題を変えた。


「土の魔導書は結局どうするんだ?」


その言葉にミロクも耳を傾ける。


土の魔導書。


結局あれは手に入らなかった。

現在はフロンティア国が所持している可能性が高い。


火、水、風。


そして土。


順番通りに集めるのも一つの手だった。


だが、タカミザワは首を振る。


「焦る必要はない」

「いずれフロンティア国がボロを出す」

「少なくとも、今年中にはフロンティア国中央国立美術館に展示されるだろうしな」


まるで確信しているような口ぶりだった。


「本当かよ」


ケイタロウは半信半疑である。


すると、

タカミザワの口元がわずかに歪んだ。


「賭けてみるか?」


「お?」


ケイタロウの目が輝く。


「いいぜぇ〜」


「何賭けるよ?」


完全に乗り気だった。


タカミザワは少し考える。

そして、嫌な笑みを浮かべた。


「そうだな……」

「一週間パシリってのはどうだ?」


「おもしれぇ!」


ケイタロウは即答した。


「いいぜ、乗った!!」


バチンッ!


二人は固く握手を交わす。


どう考えても、碌な賭けではない。

その様子を見ていたミロクは苦笑した。


「二人が賭けをするなんて、珍しいこともあるんだなぁ……」


「クエェ」


マルも同意するように鳴いた。



やがて窓の外に巨大な山影が見え始める。


霊龍山。


空を突き刺すような巨大な山脈。

その頂は、雲に隠れて見えない。


そして、その麓には――


炎の神殿。


土の神殿では何も得られなかった。


悔しさも残っている。


だからこそ。

今度こそ。


誰も口には出さなかった。


だが、願いは同じだった。


次こそは必ず。


魔導書を手に入れる。


夏の始まりと共に。


ミロク達の新たな冒険が、

静かに幕を開けようとしていた。


ーーーー マルオとヒヨノ ーーーー


時は夏休み前。


放課後の旧校舎。


誰も使わなくなった教室には、

夕暮れの赤い光が差し込んでいた。


古びた机。

埃を被った黒板。


窓の外では、蝉が鳴き始めている。


そんな静かな空間の中。


カサカサ――。

小さな影が窓枠を走った。


機械仕掛けのネズミ。


金属で構成された小さな身体。

瞳の代わりに埋め込まれた青白い魔石。


それは、風変わりな魔物だった。


ネズミは迷うことなくヒヨノの肩へ飛び乗る。


「おかえり、マウチュー」


ヒヨノは優しく持ち上げた。


すると。


パチッ――、

小さな電流が走る。


ヒヨノの指先とマウチューの頭部が接触した瞬間、

無数の情報が脳内へ流れ込んできた。


風景。

会話。

行動記録。


見聞きした全て。


それらが一瞬で共有される。


数秒後。

ヒヨノは静かに目を開いた。


「……情報を手に入れたよ」


その場にいたマルオが口元を緩める。


「やはり、炎の神殿かい?」


ヒヨノは小さく頷いた。


「夏休み初日」

「炎の神殿にバスで直行するみたい」


静かな報告だった。

しかし、内容は重大だ。


マルオは満足そうに笑う。


「なるほど……」

「タカミザワ君は、どうやらマウチューの存在には気付けなかったようだね」


どこか嘲るような口調。


ヒヨノは何も言わない。

マルオは楽しそうに続けた。


「マウチューはヒヨノさんの契約従魔」

「魔法教会が召喚し、ヒヨノさんに与えた力だ」

「情報収集能力としては最高峰だろう?」


その顔には自信が滲んでいる。

まるで、自分の手柄であるかのようだった。


ヒヨノはそんな様子を横目で眺める。


興味はなかった。


ただ、事実だけを見ている。


「マルオ君にも、新しい力があるんだっけ?」


ふと、尋ねる。


すると、マルオの目が細くなった。


「ああ」


嬉しそうだった。


「絶対的な雷の力さ」


その言葉と同時に、

指先で小さな雷光が弾ける。


バチッ……青白い光。


普通の雷魔法とは何かが違う。

不自然なほど、強い圧力を感じる。


「コイツさえあれば」


マルオは笑う。


「アイツらなんかイチコロだ」


その笑みは穏やかだった。


しかし、

どこか冷たい。


ヒヨノは無言のまま見つめていた。


最近のマルオは変わった。


力を手に入れてから。


少しずつ。

確実に。


何かがおかしくなっている。


だが、マルオ本人は気付いていない。


「とりあえず」


ヒヨノは話を切り替えた。


「行き先についてはアカヤ君達に伝えておくね」


「助かるよ」


マルオは軽く頷いた。


ヒヨノはマウチューを抱えたまま廊下へ出る。


そして、校舎の壁際に設置された

コンセントの前で立ち止まった。


「行ってらっしゃい」


マウチューをそっと近付ける。


すると、

機械の身体が崩れ始めた。


金属の輪郭が光へ変わり、

パチパチと電気が弾ける。


そして、

マウチューは純粋な電流となって

コンセントの中へ吸い込まれていった。


跡には静寂だけが残る。



その時だった。


「そういえば」


背後からマルオの声が聞こえた。


ヒヨノが振り返る。


マルオは教室の入口に立っていた。


「こちらにも新しい仲間が二人増えたんだ」


「……前に話してた人?」


ヒヨノが聞く。


「ご明察」


マルオは満足そうに笑った。


「そっちには、僕から言っておくよ」


それだけ告げると、

旧校舎の廊下を歩いていく。


コツ。

コツ。

コツ。


やがて、足音も消えた。


完全な静寂。


ヒヨノはしばらくその場に立ち尽くす。


そして小さく呟いた。


「マウチュー……」


窓の外では、夕焼けが広がっている。


赤く染まった空。

長く伸びる影。


「……この力を手に入れてから」


ヒヨノは自分の掌を見つめる。


「色んな情報が私のところへやって来る」


便利な力だった。


だからこそ見えてしまう。

本来なら知らなくていい事まで。


「最近のマルオ君の動きが不穏な事も……」


胸の奥に嫌な予感が広がる。


以前のマルオはもっと純粋だった。


理想を語る時も。

正義を語る時も。


こんな冷たい目はしていなかった。


だが今は違う。

力を得てから何かが変わった。


そして。

もう一つ。


ヒヨノは唇を噛む。


「あと……十文字君が暗殺者である事も……」


その事実は重かった。


普通なら信じられない。

だが、情報は嘘をつかない。


マウチューが集めた断片。


過去の行動。


繋ぎ合わせれば、答えは一つだった。


ヒヨノの表情が険しくなる。


「……アカヤ君に伝えなきゃ」


迷っている時間はない。


マルオ。

十文字。

魔法教会。


そして、炎の神殿。


全てが少しずつ動き始めている。


もし自分が何もしなければ、

取り返しのつかない事になるかもしれない。


ヒヨノは静かに歩き出した。


夕暮れの廊下を、

誰にも気付かれないように。


そして彼女もまた、運命の歯車の中へ

足を踏み入れていくのだった。


ーーーー 束の間の休息 ーーーー


長距離バスがゆっくりと減速していく。


車窓の向こうには巨大な山脈。


雲を突き刺すようにそびえ立つ霊龍山が見えていた。


やがて――


『こちら〜霊龍山前〜、霊龍山前〜』


車内アナウンスが流れる。


『お降りの際には〜、忘れ物に〜気を付けて〜ください〜』


その声を聞いた瞬間。


「着いた!」


ミロクが立ち上がった。


「荷物持てよー!」


ケイタロウが慌てて声を掛ける。


「クエェ!」


マルも元気よく鳴く。


慌ただしく荷物をまとめ、

一行はバスを降りた。


夏の日差しが降り注ぎ、

山から吹く風は涼しく、心地良い。


「うわぁ……」


ミロクは思わず空を見上げた。


目の前には圧倒的な自然。


遠くまで続く草原。

そして、霊龍山。


冒険の始まりを感じさせる景色だった。


だが、

その横でタカミザワは立ち止まっていた。


静かに目を閉じる。


そして――


「千里眼」


誰にも聞こえないほど小さな声。


視界が拡張される。


数百メートル。

数キロ。

さらにその先まで。


無数の情報が脳内へ流れ込む。


数秒後。


タカミザワの口元がゆっくりと歪んだ。


「ふん……やはりな」


その表情には、確かな愉悦があった。


隣にいたユンが首を傾げる。


「どうしたの?」


タカミザワは霊龍山を見上げたまま答える。


「釣りは大成功のようだ」


「?」


ユンは意味が分からなかった。


だが、

聞いてはいけない気がした。


「そう」


それだけ返し、それ以上は追及しない。


タカミザワも説明する気はないらしい。


ただ一人、

何かを確信していた。



しばらく歩き、

山道へ続く舗装路。


そして、

霊龍山の麓へ到着した。


時計を見ると、まだ昼前。


早朝に出発したおかげで、

思った以上に早く着いていた。


「まずは昼飯だ」


タカミザワが言った。


その一言で全員が動き出す。

慣れたものだった。


ミロクはレジャーシートを広げる。

ユンは弁当箱を取り出す。

ケイタロウは荷物をシートの隅に置き整理する。

スコールはキャンプ用コンロと小さなヤカンを準備した。


そして、

クロネコは――


「おっ、蝶々だにゃ」


その辺を散歩していた。

完全に自由人である。


「手伝えよ!」


ケイタロウのツッコミが飛んだ。


「応援してるにゃ〜」


「役に立たねぇ!」



やがて、昼食の準備が整う。


弁当箱の蓋が開かれた瞬間。


「おおおおおっ!!」


ケイタロウが歓声を上げた。


艶々のおにぎり。

綺麗な黄色の卵焼き。

絶妙な焼き加減のウインナー。

さらに、アスパラの肉巻きまで入っている。


香りだけで食欲を刺激された。


「すげぇな!」


「これ全部ユンが作ったのか!?」


ケイタロウが目を輝かせる。


だが、

ユンは首を横に振った。


「違うよ」


「え?」


皆が視線を向ける。


すると、

ミロクが少しだけ照れ臭そうに笑った。


「実は……僕が作ったんだよね」


一瞬、場が静まり返る。

しかし次の瞬間。


「マジかよ!?」


ケイタロウが飛び上がった。


「めっちゃ料理上手いじゃねぇか!!」


「そうかな?」


「そうだろ!」


ケイタロウはおにぎりを頬張る。


勢い余って飲み込む。


そして。


「ゴホッ!!」


盛大にむせた。


「ゴホッゴホッ!!」


「急いで食べるからそうなる」


タカミザワが呆れたように言う。


ケイタロウは涙目になりながら水を飲んだ。


一同は笑う。


そんな中、

タカミザワだけは別行動だった。


白い缶を二本並べている。


甘ったるいカフェラテだった。


「お前それだけか?」


スコールが半笑いになる。


「足りるのか?」


「糖質は良いぞ〜」


タカミザワは上機嫌だった。


ゴクゴクと喉を鳴らす。


「脳の回転が違う」


「絶対偏ってるだろ」


「問題ない」


「問題あるって」


また笑いが起きた。



昼食を終え、

荷物をまとめる。


そして、準備完了。


目指すは炎の神殿。


ミロクは霊龍山を見上げた。


「今度こそ……」


土の神殿では何も得られなかった。


悔しさは今も残っている。


だからこそ、

今度こそ魔導書を手に入れたい。


皆の気持ちは同じだった。


だが、その時。


数キロ離れた場所。

草原の影に紛れる人影があった。


ミロク達を見つめている。


静かに。

確実に。


その動向を追っていた。


さらに――炎の神殿内部。


灼熱の空気が漂う暗闇の中に、

既に、何者かが潜んでいる。


待ち伏せるように。

獲物を待つように。


誰も気付いていない。

誰も知らない。


ただ一人、

タカミザワだけが盤面を全てを把握していた。


追跡者の存在も。

神殿内の異変も。


それでも彼は何も言わない。


むしろ、

わずかに笑っていた。


「さあ」


誰にも聞こえない声。


「役者は揃った」


夏空の下の炎の神殿。


炎の魔導書を巡る戦いの幕が、

静かに上がろうとしていた。


ーーーー 炎の神殿の中へ ーーーー


重苦しい音が神殿内に響き渡る。


ゴゴゴゴゴゴ――。


炎の神殿の入口。


巨大な石扉が、

魔法の反応を感知してゆっくりと開いていく。


まるで侵入者を歓迎するかのように。


その奥には灼熱の闇が広がっていた。


「よし、進むか」


ケイタロウが肩を回しながら言う。

軽く準備運動を済ませると、先頭へ立った。


その後ろにスコール。

中央にはタカミザワとクロネコ。

後方にはユンとミロクが続く。


いつもの探索隊形だった。


一歩。

また一歩。


炎の神殿へ足を踏み入れる。


その瞬間だった。


「うわ……」


ミロクが思わず息を呑む。


広大な空間。


天井は高く、奥は見えない。

そして何より異様だったのは景色だ。


真っ赤な液体。

まるで溶岩そのもの。


粘性を持つ赤い光が天井から垂れ下がり、巨大なカーテンのように空間のあちこちを覆っていた。


赤。

赤。

赤。


神殿全体が炎の色に染まっている。


さらに、

押し潰されそうな熱気。


肌が焼けるようだった。


「あっつ!!」


真っ先に悲鳴を上げたのはスコールだった。


額から汗が噴き出す。

顔色も悪い。


水属性の彼にとって、この環境は最悪だった。

立っているだけで体力が削られていく。


「くっ……」


息が荒くなる。


すると。


「やはりな……予想はできていた」


タカミザワが呆れたように溜息を吐いた。


まるで、

最初から分かっていたと言わんばかりだった。


「俺に任せろ」


そう言って杖を掲げると、

周囲の魔力が反応した。


「複合魔法を発動する」


空気が震える。


「氷よ……」


青い光。


「水よ……」


水色の光。


「そして、風よ……」


緑色の光。


三つの属性が絡み合う。


「灼熱の空間に癒しの北風をもたらし給え……」


タカミザワが詠唱を終えた。


「――“冷風クーラー)”」


瞬間。


青、水色、緑。


三色の光が仲間達の周囲を旋回する。

柔らかな風が吹いた。


「おぉ……」


ミロクの目が丸くなる。


さっきまで感じていた熱気が

嘘のように和らいでいく。


汗が引き、

息が楽になる。


「あぁ〜……気持ちいい〜……」


スコールが天にも昇るような顔をしていた。

数秒前まで死にそうだった男とは思えない。


「生き返った……」


「大袈裟だな」


タカミザワは呆れる。

しかし、その表情は少し誇らしげだった。


「さて」


眼鏡を押し上げる。


「先へ進むぞ」



神殿の奥へ進む。


すると……グジュリ。


赤い液体の中から何かが這い出した。


「敵だ!」


ケイタロウが叫ぶ。


現れたのは溶岩スライムだった。

全身が煮えたぎるマグマで構成された魔物。


普通の打撃など通用しない。


「うわっ!」


ケイタロウが拳を止める。


「熱すぎる!」


殴ったら自分が火傷する。


相性最悪だった。


すると。


「任せろ!」


スコールが前へ出る。


「龍魚から教えてもらった新しい水魔法だ!」


刀を掲げる。


周囲の魔力が収束する。


「いっけーー!!」


青い光が奔流となる。


「“水龍すいりゅう)”!!」


轟音。


巨大な水龍が出現した。

咆哮を上げながら溶岩スライムへ突撃する。


ガブリ。


そのまま飲み込んだ。


次の瞬間、

内部で激しい反応が起きる。


ボォォォォン!!


水蒸気爆発。


凄まじい衝撃が発生する。


しかし、

タカミザワの”冷風”が熱を外へ逃がしている。


誰も火傷しない。


やがて、

溶岩スライムは跡形もなく消滅した。


「やった!」


スコールが笑う。


その横で。


「ふん……和性魔術か」


タカミザワが呟いた。


「和性魔術って?」


ミロクが首を傾げると、

タカミザワは歩きながら説明する。


「和性魔術は魔法出力と魔力消費が高い」

「つまり威力重視だ」

「そして使用者自身の魔力に強く依存する」


ミロクは首を傾げたままだ。


「つまり?」


タカミザワは面倒臭そうに言う。


「自分の魔力だけで、馬鹿みたいな威力の魔法を放つんだよ」


「あぁ!」


ようやく理解した。


「ってことは……魔力すぐ無くなるんじゃないの?」


ミロクが言った瞬間だった。


ドサッ。

何かが倒れる音。


全員が振り返る。


そこには、

床へ膝をつくスコールがいた。


「魔力切れだ〜……」


完全に伸びていた。


「……」

「……」

「……」


数秒の沈黙。


そして。


「ほら、言わんこっちゃない」


タカミザワが盛大に嘲笑した。


「炎の神殿には水の魔素がほとんど存在しない」

「だから魔法は温存しながら使え」


「うぅ……」


スコールは反論できない。

完全な正論だった。


タカミザワは続ける。


「高い魔力で体内魔力を消費する和性魔術」

「低い魔力で空中魔力を利用する洋性魔術」

「長期戦なら後者が有利だ」


ミロクは静かに聞いていた。


体内魔力。

空中魔力。


和性魔術。

洋性魔術。


それらの言葉が頭の中で繋がっていく。


そして、

ふと考える。


――僕はどっちなんだろう。


今まで強い魔法ばかりを求めていた。


けれど、

もっと違う戦い方があるのかもしれない。


もっと自分に合う方法が。

もっと自分らしい強さが。


「自分に合う戦い方が……見つかるかもしれないな……」


ミロクは小さく呟いた。


炎の神殿。


その灼熱の試練は。


魔導書だけではなく、

ミロク自身の新たな可能性も照らし始めていた。

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