第34話 恋心と拳銃、その次へ
ーーーー 密やかな恋心 ーーーー
七月。
緑雨が静かに街を濡らしていた。
窓ガラスを伝う雨粒。
図書館の中には紙の匂いと静寂が満ちている。
放課後。
いつものように
ミロク達は図書館へ集まっていた。
今日はユンの姿はない。
いるのはミロク、スコール、ケイタロウ、
タカミザワ、そしてクロネコの五人だった。
タカミザワは、分厚い本を読んでいる。
クロネコは長椅子に腰掛けたまま机へ突っ伏し、
気持ち良さそうに寝息を立てていた。
そんな静かな空間の中。
不意にスコールが口を開く。
「なぁ……お前らは、好きな人いるか?」
突然の話題だった。
「えっ!? す、好きな人!?」
ミロクは思わず声を上げる。
椅子から転げ落ちそうになるほど動揺していた。
「驚きすぎだろ!」
ケイタロウが吹き出す。
「顔真っ赤じゃねぇか!」
「な、なってない!」
「なってるって!」
ミロクは慌てて否定した。
その様子を見てケイタロウはさらに笑う。
一方、
タカミザワはページをめくる手を止めない。
恋愛話など
一切興味がないと言わんばかりだった。
クロネコに至っては寝ている。
完全に寝ている。
「ぐぅ……」
小さな寝息まで聞こえてくる。
三人はちらりと二人の様子を確認した。
どうやら聞いていないらしい。
自然と声を潜める。
「実はさ……」
スコールが少し照れながら言った。
「俺、好きな人が出来たんだ……」
「おっ!」
ケイタロウが身を乗り出す。
「どこの誰だ?」
ミロクも口元を押さえながら耳を傾けた。
「三組の”セツナ”って子、知ってるか?」
「緑色の長髪で、健康的な感じの子なんだけど」
スコールが説明する。
すると、ケイタロウが即答した。
「あぁ、知ってるぜ」
「三組のセツナと言えば剣術家名門の家系」
「苗字は神鳴」
「学校内でもかなりの美女枠で、キャッチコピーは――」
ケイタロウは人差し指を立てる。
「“私より強い人が好き”のセツナだろ?」
「詳しすぎだろ」
スコールが思わずツッコんだ。
「噂は嫌でも耳に入るんだよ」
ケイタロウはニカッと笑う。
「それにしても、なんでセツナなの?」
ミロクが尋ねた。
スコールは少しだけ照れ臭そうに頭を掻く。
「この間さ」
「剣術家名門の会合があったんだ」
「そこで初めて会った」
ミロク達は静かに耳を傾ける。
「試し打ちもあってな」
「俺、戦ったんだよ」
スコールは苦笑した。
「そしたら負けちまってさ」
「この子、強いなって思ったんだ」
「それで?」
ケイタロウが続きを促す。
「試合の後に話しかけたら」
スコールは少し遠くを見る。
「礼儀正しくて」
「優しくて」
「すごく可愛かったんだ」
「だから、その……」
「好きになった」
最後は小さな声だった。
ミロクの耳まで赤くなる。
人の恋愛話なのに、
なぜか自分まで恥ずかしくなる。
ケイタロウは面白そうに笑っていた。
「青春だなぁ」
だが、
スコールの表情は少し曇る。
「だけど……」
「私は”私より強い人が好き”だからって言われちゃってさ……」
視線が床へ落ちる。
「負けたから悲しい……と?」
ケイタロウが聞く。
スコールは小さく頷いた。
しばらく沈黙が流れる。
だが次の瞬間、
ケイタロウが勢いよく立ち上がった。
「はっ!」
その顔には自信満々の笑み。
「まだまだチャンスがあるじゃねーか!」
「え?」
スコールが顔を上げる。
「要するにだ!」
ケイタロウは拳を握った。
「強くなれば良いって訳だ!」
一瞬、
スコールは目を丸くする。
そして――
「た、確かにそうだな!」
勢いよく立ち上がった。
「負けたからってチャンスがない訳じゃない!」
「そういうことだ!」
「おお!」
二人は拳をぶつけ合う。
その様子を見ていたミロクも、
ふと我に返った。
――強くなる。
その言葉が胸に残る。
そして、自然と一人の少女の顔が浮かんだ。
ヒヨノ。
今は敵のような立場にいる。
簡単に会うこともできない。
それでも。
『いつかは……』
そう思っている自分がいた。
すると。
「ミロクはヒヨノが好きだもんな!」
スコールが笑った。
「お前も諦めるなよ!」
ケイタロウも続く。
「なっ!?」
ミロクは飛び上がった。
「な、なんで知ってるんだよ〜!」
顔が一気に赤くなる。
耳まで真っ赤だった。
すると、二人は顔を見合わせる。
そして同時に言った。
「「バレバレなんだよ」」
「うぅぅぅ……!」
ミロクは顔を覆った。
スコールとケイタロウは大笑いする。
図書館だというのに笑いを堪えられない。
その時だった。
後ろで眠っていたクロネコの口元が、
ほんの少しだけ吊り上がる。
「……にゃは」
寝言のような小さな声。
どうやら、最初から聞いていたらしい。
だが誰も気付かない。
窓の外では雨が降り続いている。
少年達の恋。
将来への憧れ。
強くなりたいという願い。
そんな青くて不器用な時間が、
静かな図書館の片隅で流れていた。
ーーーー マル救出作戦 ーーーー
夏休みを目前に控えたある休日。
夕凪の風が街を優しく吹き抜けていた。
ミロク、スコール、ケイタロウの三人は
繁華街へと足を運んでいた。
目的地は――ゲームセンター。
「おお〜!」
店内へ入った瞬間、ミロクの目が輝く。
色とりどりの景品。
賑やかな音楽。
楽しそうな笑い声。
まさに、夢の空間だった。
「ここのゲーセンは、100エルで遊べるので有名なんだぜ」
ケイタロウが得意げに説明する。
「普通の店より安いんだ」
「へぇ〜!」
ミロクは感心する。
「僕達のお小遣いでも遊べるね!」
「だろ?」
ケイタロウはニカッと笑った。
一方、
スコールは既に別の場所へ向かっていた。
「おっ」
目を付けたのはUFOキャッチャー。
中には、丸くて
可愛らしいヒヨコのぬいぐるみが並んでいる。
「これ欲しいな」
財布から100エルを取り出し、投入。
ウィーン――。
アームが降り、掴む。
そして、スルリ。
落下。
「あっ」
失敗。
もう一回。
失敗。
さらにもう一回。
失敗。
気付けば300エルが消えていた。
「ち、ちくしょ〜……」
スコールは悔しそうに頭を抱える。
「任せろ!」
そこへ現れたのは、ケイタロウだった。
「こういうのはコツがあるんだよ!」
100エル投入。
挑戦。失敗。
再挑戦。失敗。
さらに挑戦。失敗。
四回目。失敗。
五回目。失敗。
「ま、マジかよ……」
ケイタロウは呆然と立ち尽くした。
まるで、魂が抜けたような顔である。
「二人とも下手だなぁ」
ミロクが苦笑する。
「次は、僕に任せて!」
意気揚々と前へ出た。
すると、
ふと景品の山の奥から聞き慣れた鳴き声が聞こえた。
「クエェ……」
「ん?」
ミロクは目を凝らす。
景品の隙間。
黄色くて丸い物体。
どこか哀愁を漂わせる瞳。
「クエェ……」
「ま、マル!!?」
ミロクは飛び上がった。
「なんでここに!!?」
スコールとケイタロウも覗き込む。
そこには確かにマルがいた。
景品達に埋もれながら助けを求めるように鳴いている。
「クエェ……」
「店員が間違って入れちまったのかもな……」
スコールが真面目な顔で言った。
「黄色くて丸いヒヨコみたいな見た目だしな」
ケイタロウも頷く。
「これは確かに間違うかもな……」
三人とも妙に納得した。
「これは――」
ミロクが拳を握る。
「取るしかない!」
目が燃えていた。
100エル投入!
ウィーン――。
アームが降下。
しかし、スカッ。失敗。
再挑戦。失敗。
さらに挑戦。失敗。
早くも、300エル消失。
「やばい……」
ミロクの顔が青くなる。
財布の中身が急速に軽くなっていく。
「どうしよう……」
「ミロク……」
スコールが心配そうに言う。
「これは店員に聞いてみた方が――」
しかし、
ミロクは首を横に振った。
「だが、断る」
その目には強い光が宿っている。
「え?」
「ここで諦めたらマルを見捨てる事になる」
勝手に入ったか、
入れられただけなのだか分からないが、
既に、ミロクの中では救出作戦になっていた。
100エル投入。
機械が起動する。
店内の音が遠くなる。
ミロクの視線は一点のみ。
マル。
ただマルだけを見ていた。
「クエェ……」
悲しそうな鳴き声。
その瞬間、
ミロクの中で何かが繋がった。
アームの軌道。
景品の位置。
重心。
全てが見えた気がした。
「勝利の感覚が見えてきたッ!」
アームが降下する。
ガシッ!!
見事にマルを捉えた。
「おおっ!!」
三人が身を乗り出す。
だが、
問題はここからだった。
ケイタロウが真剣な顔になる。
「問題は、アームが緩いかどうかだ……」
運命の時間。
ゆっくり持ち上がるマル。
落ちるな!
落ちるな!!
落ちるな!!!
三人の願いが一つになる。
「だが、信じよう……」
スコールが拳を握った。
「ミロクの事をッ!」
マルは揺れる。
アームも揺れる。
落ちそうになる。
しかし――耐えた。
景品口へ近付く。
そして、コトン。
見事に落下した。
一瞬の静寂。
その直後。
「やったぁぁぁぁぁ!!」
ミロクが歓声を上げた。
景品口からマルを抱き上げる。
「や、やったぞ!」
「クエェ!!」
マルも嬉しそうに羽をばたつかせる。
まるで救出された事を
理解しているかのようだった。
「流石だ……ミロク」
ケイタロウが静かに頷く。
「お前ならできると分かっていた」
スコールも腕を組みながら笑った。
三人は顔を見合わせる。
そして、大笑いした。
夏休みはまだ始まっていない。
けれど、
こういう馬鹿みたいな思い出こそ、
きっと一番忘れられない。
夕暮れのゲームセンターには、
少年達の笑い声がいつまでも響いていた。
ーーーー ガンシューティング ーーーー
UFOキャッチャーによるマル救出作戦を終えた頃には――
ミロク達の財布は瀕死だった。
「残り200エル……か」
ミロクが財布の中身を確認する。
そこには、寂しく硬貨が二枚。
「UFOキャッチャーで、ちょっと使いすぎたな」
ケイタロウも苦笑した。
「でも後悔はしてない!」
ミロクは胸を張る。
腕の中には、救出されたマル。
「クエェ♪」
どこか誇らしげだった。
スコールは呆れながら笑う。
「まあ、マルを助けられたしな」
三人はゲームセンターの奥へ進んでいく。
周囲には様々なゲーム機が並んでいた。
レーシングゲーム。
格闘ゲーム。
メダルゲーム。
音楽ゲーム。
どれも魅力的だった。
そんな中、
スコールの足が止まる。
「おっ」
彼の視線の先には大きな筐体。
二丁拳銃を模したコントローラー。
画面には腐敗した怪物達。
ゾンビシューティングゲームだった。
「これなら100エルでも長く遊べるな!」
スコールの目が輝く。
「確かに!」
ケイタロウも乗り気だった。
三人はじゃんけんを始める。
結果。
ミロクとケイタロウがチームになった。
「負けるなよ〜!」
スコールが後ろから声援を送る。
二人はお互いに100エルを投入し、
ゲームが起動する。
暗い研究所。
鳴り響く警報。
そして、ゾンビの群れ。
「来た!」
バン!バン!バン!
銃声が響く。
ミロクとケイタロウは
次々と敵を撃ち抜いていく。
画面内では
無数のゾンビが襲い掛かってくる。
ライフポイントは三つ。
最初は余裕だった。
だが、
ステージが進むにつれて敵の数は増えていく。
「あっ!」
ミロクのライフが減る。
「右だ!」
ケイタロウが叫ぶ。
「わかった!」
ミロクが反応し、
二人の視線が交差する。
その瞬間、
自然と呼吸が合った。
「「阿吽の呼吸!!」」
本当に、
スキルを発動したようだった。
二人の動きが変わる。
ミロクが左を制圧する。
ケイタロウが右を処理する。
危険な敵は同時射撃。
連携は完璧だった。
「す、すげぇ……」
後ろで見守るスコールは驚く。
普段から
一緒にいる二人だからこそ可能な連携だった。
だが、その時。
「……まだまだだな」
低い声が聞こえた。
「ん?」
スコールが振り返る。
そこには、見知らぬ少年が立っていた。
鋭い目付き。
ボサボサの黒髪。
どこか近寄り難い雰囲気。
腕を組みながらゲームを眺めている。
「何だと?」
スコールが反射的に言い返した。
しかし、少年は動じない。
「最後の結果を見れば分かる」
淡々とした口調だった。
まるで事実を述べているだけ。
スコールは眉をひそめた。
そして、ラストステージ。
巨大ゾンビとの戦い。
「いけぇぇぇ!!」
「倒せぇぇぇ!!」
二人は連射すると、
ラスボスはあっさり沈んだ。
画面に勝利演出が流れる。
「やった!」
「流石俺たち!」
パシン!
ミロクとケイタロウはハイタッチを交わした。
結果発表。
命中率 20%
ゾンビ撃破率 80%
人命救出率 50%
「おぉ〜」
「悪くないな!」
二人は満足そうだった。
だが、ランキングには載らなかった。
上位三位は遥か先。
当然と言えば、当然だった。
「まあこんなもんか」
ケイタロウが肩をすくめる。
その時だった。
「次は俺だ」
鋭い目付きの少年が前へ出て、
財布から200エルを取り出す。
投入。
そして、銃を二丁持った。
「は?」
スコールが固まる。
「流石に無謀な挑戦だ!」
二丁拳銃。
普通は片手で一丁。
だが、両手に一丁ずつ持つ。
二丁は完全に趣味の領域だった。
「一人で二丁拳銃は高難易度……」
ケイタロウも冷静に分析する。
「本当にできるの?」
ミロクは興味津々だった。
だが、少年は答えない。
ゲームスタート。
数十分後。
ミロク達は言葉を失っていた。
画面には結果発表。
命中率 100%
ゾンビ撃破率 100%
人命救出率 100%
完全制覇。
一切の無駄がなかった。
ライフも減っていない。
ノーダメージ。
完璧。
「……」
「……」
「……」
三人とも固まった。
「あ、ありえない……」
ミロクが呟く。
「つ、強すぎだろ……」
スコールも唖然としている。
その時だった。
ケイタロウが突然叫ぶ。
「思い……出した!!」
「うおっ!?」
皆が驚く。
そして、ケイタロウは少年を指差した。
「あいつは三組のガンツ!!」
「普段は根暗で物言わぬ怪しい雰囲気で有名な男!」
「家は西側の森に囲まれた行方不明者が後を絶たない場所!」
「そこにある廃墟みたいな洋館に住んでると噂されている!!」
もの凄い勢いで情報を吐き出す。
「なんで詳しいんだよ!!」
スコールが即座にツッコむ。
しかし、
ガンツは全く動じなかった。
ランキング画面を眺めながら言う。
「このゲームセンターでは」
ゆっくり振り返り、
その鋭い眼光が三人を射抜いた。
「俺より強い奴はいない」
ゾクリ。
まるで
氷柱を背中へ突き刺されたような感覚だった。
ただのゲームの話。
そのはずなのに、
何故か圧倒的な格の違いを感じる。
「お、覚えてろよ!!」
ミロクが叫ぶ。
「次は負けねぇからな!!」
「行くぞ!!」
「撤退だ!!」
三人は全力で逃げ出した。
残金も。
尊厳も。
ほぼ失った状態で。
後ろでは、
ガンツが静かに腕を組んでいる。
そしてランキング画面には――
第一位 ガンツ 999,999pt
第二位 ガンツ 999,999pt
第三位 ガンツ 999,999pt
圧倒的だった。
その姿はまるで、
ゲームセンターの裏ボスそのものだった。
ーーーー タカミザワの分析 ーーーー
後日。
放課後の図書館。
窓の外では
夏の訪れを感じさせる蝉の声が響いていた。
図書館の一角では、
いつものようにミロク達が集まっている。
その中でケイタロウは、
身振り手振りを交えながら熱弁していた。
「――と、言うことがあってだな!」
興奮気味に語られるのは、
先日のゲームセンターでの出来事。
ガンシューティングゲーム。
圧倒的な実力を見せつけた謎の少年。
そして、三人が完敗した話だった。
「ああ」
タカミザワは気のない返事をする。
視線は本から一切離れない。
ページをパラパラとめくり続けている。
「本当に聞いてるのか?」
ケイタロウの顔がしかめっ面に変わった。
「聞いているさ」
タカミザワは頬杖をつく。
そして、面倒そうに言った。
「小学二年生三組の”ガンツ・シュバルツ”」
「目付きが悪い黒髪の男で、ゲームセンターに入り浸る暇なヤツだろ?」
「何だよ……聞いてんじゃねぇか」
ケイタロウの表情が少し緩む。
「当然だ」
タカミザワは本を閉じた。
「アイツは能力値も固有能力もそれなりに優秀だ」
「仲間にするには悪くない」
その言葉にケイタロウは苦笑する。
「やっぱりか……」
ゲームセンターで見せた圧倒的な実力。
あれを見れば誰だって気付く。
ただの変人ではない。
何かある。
そう思わせるだけの力があった。
タカミザワは続ける。
「それと――」
ページをめくる。
「小学二年生三組の”神鳴刹那”」
その名前を聞いた瞬間。
近くにいたスコールの肩がぴくりと反応した。
「剣術家名門、神鳴流の使い手」
「剣道大会では神童と称されるほどの腕前を発揮した女だ」
タカミザワの視線がケイタロウへ向く。
「そ、そっちも聞いてたのかよ……」
ケイタロウの額に冷や汗が流れる。
タカミザワは呆れたように鼻を鳴らした。
「あれだけ大声で話していれば嫌でも耳に入る」
スコールは恥ずかしそうに顔を逸らした。
ミロクは笑いを堪えている。
「まあいい」
タカミザワは軽く肩をすくめた。
「セツナを味方に加えるのは悪くない判断だ」
「全てにおいて高スペック」
「是非、仲間にしたい」
珍しく高評価だった。
それだけ、セツナの実力を認めているのだろう。
「おお……」
スコールの目が輝く。
恋愛感情も混ざっている気がするが、
誰も触れない。
しかし、
タカミザワはそこで釘を刺した。
「だが勧誘はお前達だけでやれ」
「え?」
「こっちは忙しい」
机の上には大量の資料。
魔法理論書。
古代文字の文献。
神殿関連の資料。
それらが、山積みになっていた。
「魔術研究で色々と立て込んでいる」
「それと夏休みに、次の神殿へ行く計画も練っているからな」
その言葉に場の空気が変わる。
次の神殿。
その響きだけで胸が高鳴る。
ミロク達も自然と表情を引き締めた。
土の神殿では何も得られなかった。
だからこそ。
次こそは。
そんな思いが胸の奥に残っている。
「一応、準備だけでもしておけよ?」
タカミザワはそう言うと、
ポケットから飴玉を取り出した。
チェリー味。
包み紙を剥がし、口へ放り込む。
さらに机の脇に置いていた
ブラックコーヒーを一口飲む。
「やはり糖質とカフェインは脳に効く」
満足そうに目を細めた。
その姿を見てケイタロウは顔をしかめる。
「……何でもいいから身体は壊すなよ?」
「問題ない」
「絶対問題あるだろ」
即答だった。
ミロクも苦笑する。
スコールも呆れている。
しかし、タカミザワは意に介さない。
既に次の神殿へ
思考を巡らせているようだった。
窓の外では蝉が鳴く。
夏休みはもうすぐそこまで来ている。
ガンツ。
セツナ。
新たな仲間候補。
そして、次なる神殿。
少しずつ。確実に。
次の冒険へ向けて駒は揃い始めていた。
ミロク達の物語は終わらない。
むしろここからだ。
夏の訪れと共に――
彼らの新たな冒険が、
再び幕を開けようとしていた。




