第33話 修学旅行と将来の夢
ーーーー モロクの料理 ーーーー
土の神殿を後にしたミロク達は、
来た道を引き返しながらモロクへと向かっていた。
太陽が頭上へ昇る頃には、
砂岩の岩壁に囲まれたモロク自治区が見えてくる。
神殿で得られるはずだった成果は、
何もなかった。
土の魔導書は既に誰かの手に渡り、
自分達はただその事実を知っただけ。
重苦しい空気を抱えたまま、
一行はモロクの街へと入った。
「……結局、骨折り損だったな」
ケイタロウが頭を掻きながら呟く。
「そうとも言い切れない。敵の動向は把握できた」
タカミザワが冷静に返した。
「でも、負けは負けだよな」
スコールの言葉に誰も反論しなかった。
ミロクも黙ったまま前を歩く。
アカヤとの敗北。
土の魔導書の喪失。
心の奥に残る悔しさは、
簡単には消えてくれなかった。
やがて一行は、
人気の少ない路地裏へと足を踏み入れる。
すると、
そこには見覚えのある姿が並んでいた。
「え?」
ミロクは思わず目を丸くした。
そこにいたのは、自分達だった。
ミロク。
ケイタロウ。
スコール。
ユン。
そしてタカミザワ。
まるで鏡から飛び出してきたかのように、
本人達と寸分違わぬ姿が立っている。
「うおっ!?」
「な、なんだこれ!?」
ケイタロウとスコールも驚きの声を上げた。
幻影達は呼吸の仕草まで再現されている。
服の皺。
髪の揺れ。
立ち方の癖。
どれも本物と見分けがつかない。
「すげぇ……」
ミロクが感嘆すると、
タカミザワはふんと鼻を鳴らした。
「当然だ。誰かさん達と違って、俺様は常日頃から頭を使っているからな」
「はいはい」
ケイタロウは面倒臭そうに手を振る。
「自慢したいのは分かったからさっさと解除しろ」
「……少しは感心しろ」
「したした」
「雑だな貴様」
タカミザワは不満げに眉をひそめた。
しかし、すぐに手を掲げる。
「解除」
次の瞬間。
幻影達の身体が光の粒となって崩れ始めた。
無数の光が風に乗って舞い上がり、
やがて跡形もなく消え去る。
それを見届けると、ミロク達は
何事もなかったかのように修学旅行中の生徒達と合流した。
昼食はホテルの大広間で行われた。
大広間は、
多くの修学旅行の生徒達で賑わっていて、
長いテーブルの上には豪華な料理が、
ずらりと並んでいる。
「おおおおおっ!!」
ミロク達の目が一斉に輝いた。
モロク名産のイモ料理。
香ばしく焼かれたトウモロコシ料理。
スープや煮込み料理からは
食欲をそそる香りが漂っている。
さらに、奥には色鮮やかなフルーツ盛り。
大きく切り分けられたメロン。
黄金色に輝くパイナップル。
南国の果実が惜しみなく並べられていた。
「いただきます!!」
誰よりも早く飛び出したのはミロクだった。
一口。
二口。
三口。
「うまっ!!」
思わず叫ぶ。
イモは甘く、ホクホクとしている。
トウモロコシは粒が弾けるほど瑞々しい。
神殿での嫌な気分が
吹き飛ぶほどの美味しさだった。
「これも!」
「こっちも!」
ミロクは次々と料理を口へ運ぶ。
その隣では
ケイタロウが豪快に肉へかぶりついていた。
「うめぇぇぇぇぇ!!」
「ケイタロウ君!」
教師の怒声が飛ぶ。
「行儀良く食べなさい!」
「す、すみません!」
慌てて背筋を伸ばすケイタロウ。
周囲から笑いが漏れた。
一方、
タカミザワは大量のフルーツを前にしていた。
メロン。
パイナップル。
メロン。
パイナップル。
そして、またメロン。
「お前、それしか食わねぇのか」
スコールが呆れる。
「効率的だろう。糖分は脳の栄養だ」
「だからって偏りすぎだろ!」
「問題ない」
「絶対問題あるだろ!」
スコールは即座にツッコミを入れた。
そんな二人のやり取りを見ながら、
ユンは静かに食事を続けている。
背筋を伸ばし、
一口ずつ丁寧に口へ運ぶ姿は実に上品だった。
まるで貴族の食事風景である。
「ユンだけは、まともだな……」
スコールがぼそりと呟いた。
その時だった、
ミロクの頭の上に乗っていたマルが突然飛び降りる。
「クエッ!」
一直線に料理へ突撃。
「あっ」
次の瞬間、
トウモロコシをつつき。
イモ料理をつまみ。
果物をかじり。
好き放題に食べ始めた。
「こらぁぁぁぁ!!」
ミロクが叫ぶ。
「それ、僕のだぞ!」
「クエッ♪」
悪びれる様子もない。
むしろ、美味しそうに頬張っている。
「返せー!」
「クエーッ!」
マルは皿から皿へ
飛び移りながら料理を奪っていく。
周囲の生徒達は大笑いだった。
ミロクは半ば本気で追いかけ回す。
その姿を見て、ケイタロウ達も笑った。
神殿で味わった敗北。
胸に残る悔しさ。
それらが、消えたわけではない。
けれど今だけは、
仲間達と笑い合うこの時間が、
その傷を少しだけ癒してくれていた。
ミロク達は束の間の平穏を楽しみながら、
モロクでの時間を過ごしていくのだった。
ーーーー モロクの歴史 ーーーー
モロク修学旅行三日目。
まだ夜の名残が空に残る早朝。
ミロクは心地よい眠りの中にいた。
だが――
「起きろ……ミロク……」
身体を揺さぶられる。
「んん……」
「起きろ」
再び揺さぶられる。
重たい瞼を開くと、
そこにはケイタロウの顔があった。
「なんだよ〜ケイタロウ……まだ夜だよ?」
眠そうな声で文句を言う。
窓の外は仄暗く、
空には薄く朝焼けの気配が見える程度だった。
夏とはいえ、
さすがにこの時間は早すぎる。
「いいから、着いてこい」
「えぇ〜……」
ミロクは欠伸をしながらベッドを降りた。
頭の上ではマルが丸くなって眠っている。
起こさないようにそっと部屋を出ると、
二人はホテルを後にした。
歩くこと数十分。
潮の香りが鼻をくすぐる。
辿り着いた場所を見て、
ミロクの眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「うわぁ……!」
そこは、漁港だった。
漁港の朝市。
港には漁船が何隻も停泊しており、
威勢の良い声が飛び交っている。
並べられた木箱の中には
魚がぎっしりと詰まっていた。
銀色の鱗を輝かせるモロクタイ。
巨大なサバクガツオ。
見たこともない色鮮やかな南国の魚達。
そのどれもが
今しがた水揚げされたばかりなのだろう。
活きの良さが一目で分かった。
「す、すげぇ……」
ミロクは目を輝かせた。
向こうでは大勢の大人達が集まり、
何やら大声で叫んでいる。
「何やってるんだ?」
「あれは”せり”だよ」
ケイタロウが答えた。
「魚の値段を決めてんだ」
「へぇ……」
次々と競り落とされていく魚。
飛び交う数字。
慌ただしく運ばれていく木箱。
見ているだけでも楽しかった。
「朝市は、やっぱり面白いぜ」
ケイタロウは満足そうに笑う。
その横顔は妙に生き生きとしていた。
「ケイタロウ、こういうの好きなんだな」
「なんかワクワクするだろ?」
「うん!」
ミロクも素直に頷いた。
しかし、二人の財布事情は厳しい。
修学旅行用のお小遣いは限られている。
魚を買う余裕など当然なかった。
しばらく見学した後、
ケイタロウはある屋台の前で足を止めた。
「せっかくだし、ソフトクリーム食べようぜ」
「え?」
「俺のおごり」
「マジで!?」
ミロクの顔が輝く。
二人はソフトクリームを受け取り、
防波堤に腰掛けた。
朝日が海面を黄金色に染めている。
静かな波の音。
遠くで鳴く海鳥。
冷たいソフトクリームの甘さが
口いっぱいに広がった。
「うまい……」
「だろ?」
ケイタロウは得意げだった。
特別な冒険ではない。
けれど、こういう時間も悪くない。
ミロクはそう思った。
ソフトクリームを食べ終えると、
朝市を満喫した二人はホテルへ戻り、
そして——二度寝した。
午前七時。
ドンドンドン!!
激しいノックが部屋中に響く。
「起きなさい!!」
シロガネ先生の怒鳴り声だった。
「うわっ!」
「やべっ!」
飛び起きるミロクとケイタロウ。
大慌てで身支度を整え、
数十分後。
ホテルのエントランスには、
修学旅行生達が集まっていた。
シロガネ先生が前へ出る。
「それでは、本日の日程を説明します」
生徒達の視線が集まる。
「今日はモロクピラミッドを見学します」
ざわり、と生徒達がざわついた。
モロクピラミッド。
土の神殿のピラミッドとは別に存在する、
モロク自治区を代表する歴史的建造物である。
「楽しみだな」
「神殿のピラミッドとは違うんだろ?」
ミロク達も期待を膨らませながら
バスへ乗り込んだ。
やがて、目的地へ到着する。
バスを降りたミロク達は思わず息を呑んだ。
「でかい……」
巨大だった。
空へ向かってそびえ立つ巨大な石造建築。
何百年、何千年もの時を超えて
存在し続けている圧倒的な存在感。
その姿はまるで
歴史そのものが形になったようだった。
「これがモロクピラミッド……」
ミロクは見上げる。
その先端は空に溶け込むように高い。
案内人に従い、
生徒達は内部へと入っていった。
内部は博物館のようになっていた。
壁には古代文字。
展示ケースの中には様々な出土品。
武具。
装飾品。
石板。
そして、数多くの書物。
その中には、
モロクという地名の由来となった歴史も記されていた。
かつて、この地で行われたという魔王封印。
人々が力を合わせて災厄へ立ち向かった記録。
失われた古代文明の痕跡。
ミロク達は次々と展示を見て回る。
「へぇ……」
「こんな歴史があったのか」
スコールが感心する。
タカミザワも興味深そうに石板を眺めていた。
そしてミロクは、
一冊の古びた書物の前で足を止める。
そこには、
古代の英雄達の姿が描かれていた。
魔王と戦い、人々を救った者達。
その絵を見つめながら、ミロクはふと思う。
『英雄って、どんな人なんだろう……』
今の自分はまだ弱い。
土の神殿では何も成し遂げられなかった。
それでも。
いつか自分も。
そんな存在になれるのだろうか。
ミロクは静かに拳を握った。
知らず知らずのうちに、
その胸には新たな決意の火が灯り始めていた。
ーーーー 勇者の伝説 ーーーー
しばらく歩くと、
ミロクはとある展示ケースの前で足を止めた。
ガラスの向こうに収められているのは、
一冊の古びた書物。
黄ばんだページ。
擦り切れた表紙。
二千年以上前のものだと言われても
不思議ではないほどの年月を感じさせる。
そのページには、
見たこともない古代文字がびっしりと並んでいた。
「何て書いてあるんだろ……」
ミロクは顔を近づける。
だが、当然ながら読めない。
展示の説明文によれば、
現在解読されている古代文字は全体のごく一部。
およそ二千枚分ほどの解読には成功しているものの、
それ以外の大半は未だ謎のままだという。
そんな時だった。
「初代勇者一行……か」
背後から声が聞こえた。
「うわっ!?」
ミロクは思わず飛び上がった。
振り返ると、
そこにはタカミザワが立っている。
いつの間に近付いてきたのか
全く気付かなかった。
「な、なんだよ急に!」
「騒ぐな」
タカミザワは鬱陶しそうに眉をひそめる。
そして、展示資料へ視線を向けた。
「解読されている部分を要約すると、こうだ」
タカミザワは淡々と読み上げる。
「古代フロンティア大陸では、初代勇者一行がかつてこの地を統治していた」
ミロクは思わず耳を傾ける。
「勇者は光り輝く剣を携え、僧侶、戦士、魔術師の三人と共に旅をした」
「そして瞬く間に魔王モロクを封印し、フロンティア大陸を救った」
静かな展示室。
タカミザワの声だけが響く。
読み終えると、彼は小さく鼻を鳴らした。
「……まるで御伽話だな」
その表情には露骨な失望が浮かんでいた。
「勇者だの魔王だの。肝心な部分が何一つ書かれていない」
タカミザワは肩をすくめる。
「当時の魔法体系」
「スキルの仕組み」
「世界情勢」
「魔物の生態」
「文明レベル」
「戦術理論」
「強くなるための知識」
「その全てが欠落している」
まるで、
価値のない資料を見るような目だった。
「ただの歴史」
そして小さく溜息を吐く。
「興醒めだな」
彼にとって知識とは力であり、武器であり、
未来を切り開くための材料だ。
だがこの書物は違う。
そこにあるのは伝承。
神話。
英雄譚。
タカミザワにとっては実用性の欠片もない。
しかし。
「勇者……」
ぽつりと呟いた者がいた。
スコールだった。
「魔王モロク……」
その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
まるで幼い子供が宝箱を見つけた時のような目だった。
「カッコいいな!」
「え?」
ミロクが振り返る。
スコールは目を輝かせながら展示を見つめていた。
「光る剣を持った勇者だろ?」
「戦士に魔術師に僧侶!」
「最高じゃねぇか!」
興奮を隠しきれていない。
「どうやって倒したんだろうな……」
「どんな戦いだったんだろうな……」
「気になるなぁ……」
完全に夢中だった。
その様子を見たタカミザワが
呆れたように横目を向ける。
「戯けが」
「ん?」
「倒したとは書いていない」
スコールが首を傾げる。
タカミザワは展示資料を指差した。
「封印だ」
「封印?」
「そうだ」
タカミザワは淡々と言う。
「魔王を倒したのではない」
「封印した」
その言葉にスコールはきょとんとした。
しかしタカミザワはそれ以上説明しない。
ただ一つの単語を口の中で転がすように呟いた。
「封印……か」
ふと彼の視線が鋭くなる。
これまでの退屈そうな目とは違う。
思考を巡らせる時の目だった。
「面白い」
ミロクは首を傾げる。
「何が?」
タカミザワは答えない。
代わりに展示された古代文字をじっと見つめる。
もし本当に魔王を倒したのなら。
歴史は”討伐”と記すはずだ。
だが、そうではない。
封印。
それはつまり――
倒せなかったということではないのか。
あるいは、
倒してはならなかったのか。
タカミザワの脳裏で様々な仮説が組み上がっていく。
二千年前の英雄。
魔王モロク。
失われた歴史。
その全てが、
単なる御伽話では済まされない気がした。
そして気付けば。
彼は先ほどまで興味がないと切り捨てていた書物を、
誰よりも真剣な目で見つめていた。
ーーーー 将来の夢 ーーーー
六月下旬。
モロクでの修学旅行は無事に終わりを迎えた。
土日の休日を挟み、
生徒達は再びいつもの学校生活へと戻っていく。
朝の登校、ミロクは
ケイタロウと並んで通学路を歩いていた。
空は晴天、
初夏の風が心地よく吹き抜けていく。
「四日目の海水浴、最高だったな!」
ケイタロウが満面の笑みで言った。
その顔には、
まだ修学旅行の余韻が色濃く残っている。
「うん!」
ミロクも嬉しそうに頷いた。
「野外プールもすごく良かった!」
思い出すだけで楽しくなる。
眩しい太陽。
青い海。
仲間達との時間。
土の神殿での苦い経験はあったものの、
それでも修学旅行そのものは
楽しい思い出として心に残っていた。
「あーあ」
ケイタロウが空を見上げる。
「ずっと遊んで暮らせたらいいのにな〜」
なんとも贅沢な願望だった。
ミロクは思わず笑う。
「それなら僕は――」
少し考えてから答えた。
「ずっとゴロゴロしていたいな〜」
「お前も大概だな!」
ケイタロウが笑う。
二人は声を上げて笑った。
その時だった。
「おはよ〜」
聞き慣れた声が後ろから飛んでくる。
振り返ると、
スコールが欠伸をしながら歩いてきていた。
目元は眠そうで、今にも寝そうである。
その隣には黒猫が並んで歩いていた。
「なんか久しぶりだにゃ〜」
自称死神のクロネコが呑気な声を出す。
「修学旅行中も会っただろ」
ケイタロウが即座にツッコむ。
「細かいことは気にするにゃ」
クロネコは気にも留めない。
そして、ニヤリと笑った。
「面白そうな話をしてるにゃ〜」
「ん?」
「将来どうなりたいか、みたいな話だよ」
ケイタロウが答える。
「夢とか目標とか、そんな感じだな」
「なるほどにゃ〜」
クロネコは楽しそうに頭を揺らした。
すると、
スコールが眠そうな目を擦りながら口を開く。
「俺は――」
その言葉に皆が耳を傾ける。
「強くなりたいなぁ〜」
シンプルな答えだった。
だが、それはスコールらしかった。
余計な理屈はない。
ただ純粋に、強くなりたい。
それだけだった。
「お前らしいな」
ケイタロウが笑う。
「だってさ」
スコールは少しだけ笑った。
「強くなったら色々できるじゃん」
その言葉を聞いた瞬間。
ミロクの胸がわずかに揺れた。
――強くなりたい。
その想いなら自分にもある。
風の神殿で味わった暗殺者の恐怖。
ゴリラ達に囲まれて殴られた悔しさ。
アカヤとの決闘に、失ったフェニックス。
悔しさは、今も胸の奥に残っている。
本当は、
自分だって強くなりたいはずなのだ。
なのに、
さっき自分が口にした将来の夢は。
『ずっとゴロゴロしていたい』
だった。
平和で。
穏やかで。
争いとは無縁の願い。
それは、決して悪い夢ではない。
けれど――。
『楽しめよ』
ふと、
誰かの言葉が脳裏をよぎった。
父の声だった。
いつだったか、
確かにそう言われた記憶がある。
『楽しめよ』
その一言だけが不思議と心に残っている。
ミロクは空を見上げた。
青い空が広がっている。
『僕は、どうなりたいんだろう……』
強くなりたい。
平和に暮らしたい。
冒険もしたい。
色々な気持ちがある。
だが、今はまだ答えが見つからない。
見つけるには、きっと早すぎるのだろう。
焦る必要もない気がした。
答えはいつか見つかる。
そんな気がした。
すると。
「にゃーは」
クロネコが胸を張る。
「沢山の美女達に囲まれて優雅に暮らしたいにゃ」
一同は沈黙した。
数秒後。
「そんな事できる訳ねぇだろ!!」
ケイタロウの鋭いツッコミが炸裂した。
「にゃっ!?」
「まずお前は異常者だろ!」
「死神にゃ!」
「もっと無理だろ!」
「差別反対にゃー!」
クロネコは抗議する。
スコールは笑いながら肩を震わせる。
ミロクも思わず吹き出した。
「はははっ!」
通学路に笑い声が響く。
くだらない会話。
何気ない雑談。
けれど、それが心地良かった。
これまでに感じてきた自分の弱さ。
胸の奥に残る悔しさ。
それらは消えていない。
きっと、
これからも向き合っていくことになる。
それでも今だけは、
仲間達と笑い合うこの時間がある。
その事実だけで十分だった。
ミロクは自然と笑みを浮かべる。
青空の下。
四人は、
いつものように学校へ向かうのだった。




