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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
33/37

第32話 空っぽの土の神殿

ーーーー 砂漠地帯の移動 ーーーー


六月中旬。

モロク自治区——砂漠地帯。


修学旅行初日。


昼食を終えた後、自由行動の時間帯を利用して、ミロク達はホテルを抜け出していた。


リゾート街を外れれば、そこから先は広大な砂漠。


照りつける太陽。

焼けるような熱気。

吹き荒れる乾いた砂風。


ホテル周辺の賑やかさなど、ほんの幻だったかのように、静かな世界が広がっている。


そんな砂漠の中を、五人は黙々と歩いていた。


先頭を歩くのはタカミザワ。


黒い日傘を差しながら、片手には古びた地図。

その丸メガネの奥では、絶えず周囲の地形を観察している。


「理論上、この方角で間違いない」


淡々とした声。


「徒歩で半日程度」

「日没前には土の神殿へ到着できるはずだ」


その言葉に、後ろを歩くケイタロウが顔をしかめる。


「“理論上”ってのが怖ぇんだよなぁ……」


額の汗を拭いながらぼやく。

しかし、他のメンバーよりは比較的余裕があった。


ケイタロウは元々、海や山で遊び慣れている。

体力もある。


暑さに強い。

むしろ、この環境を少し楽しんでいる節すらあった。


「でも、思ったより平気だな!」

「海の近くだから風あるし!」


その瞬間。

ふわり、と涼しい風が吹き抜ける。


「……風よ」


小さく呟いたのはユンだった。

黒髪を揺らしながら、静かに風魔法を発動している。


「細やかな癒しを…」


彼女の周囲から生まれた風が、五人を包み込む。

熱気が少し和らぐ。


「おぉ〜……生き返る……」


スコールが安堵の声を漏らした。

そして、そのスコール自身もまた役目を担っている。


「水よ——」


手のひらに小さな水球を作り出す。

透明な水が、空中で揺れる。


「水筒に入れ…」


スコールが順番に、

水を水筒に入れて渡していく。


水魔法による飲料水の確保。


砂漠では、何よりも重要な役割だった。


「助かる〜……」


ケイタロウが一気に飲み干す。

ミロクも両手で水を受け取り、小さく頭を下げた。


「ありがとう……」


そして最後尾。

ミロクは、ただ皆の後ろを歩いていた。


何か役割がある訳でもない。


地図も読めない。

体力も特別ある訳じゃない。

水も出せない。


風魔法も、今はユンの方が上手い。


その事実が、胸に小さく刺さる。


「……」


ミロクは何も言わず、俯き気味に砂を踏む。


その頭の上では、黄色い丸鳥——マルが丸くなっていた。


「クエッ」


呑気な鳴き声。


暑いのか、羽をぱたぱたと動かしている。


「お前は気楽でいいよなぁ……」


ミロクが苦笑する。


するとマルは、

当然のようにミロクの頭へ腹這いになった。


完全に休憩モード。


「重いって……」


そんなやり取りを見ていたケイタロウが軽く笑う。


「ハハッ、相変わらず懐いてんな!」


「そうかな……?」


ミロクが困ったように笑う。


その瞬間だけ、少し空気が和らいだ。


だが——、

前を歩いていたタカミザワだけは、笑っていなかった。


その視線は、遥か遠く。


砂漠の地平線を見つめている。


(……妙だな)


千里眼。


発動し続けている視界の中で、違和感があった。


何かが、“静かすぎる”。


魔物の気配。

動物の痕跡。

風の流れ。


全てが、不自然なほど薄い。


まるで——、

何かを避けるように、この一帯から生物が消えている。


「タカミザワ?」


スコールが声をかける。

その声で、タカミザワは思考を切った。


「……いや、なんでもない」


そう答えながらも、丸メガネの奥の瞳は鋭い。


土の神殿。


そこに近づいている。


確かな予感だけが、

静かに胸の内で形を成していた。


そして五人は、

灼熱の砂漠をさらに奥へと進んでいく。


まだ誰も知らない。


その神殿が、既に“攻略済み”であることを。


ーーーー 砂漠での設営 ーーーー


夕暮れの砂漠。


昼間の灼熱が嘘のように、空気はゆっくりと冷え始めていた。


赤く染まる空の下、巨大な影が砂の海に浮かび上がる。


それは――土の神殿。


まるで古代文明の墓標のような、巨大なピラミッド型の建造物だった。


風化した石壁には無数の亀裂が走り、所々が崩れ落ちている。

だが、それでもなお圧倒的な存在感を放っていた。


「……デカいな」


ケイタロウが思わず声を漏らす。


「これが、土の神殿……」


ミロクも呆然と見上げていた。


砂漠の真ん中にそびえ立つその姿は、まるで世界そのものを見下ろしているようだった。


「今日はここで野営する」


地図を閉じながら、タカミザワが淡々と言う。


「攻略は明日の早朝だ」


その言葉を聞くや否や、ケイタロウはリュックを地面に下ろした。


「よし、設営するぞ」


ゴソゴソと取り出したのは、砂漠の砂と同色の簡易テント。

遠目ではほとんど目立たない迷彩仕様だ。


「ミロク、そっち持て!」


「え!? あ、うん!」


「スコール、ペグ打て!」


「了解」


三人は慣れないながらも協力し、砂地にテントを固定していく。


カン、カン、と杭を打つ音が乾いた空気に響く。


一方その頃。


少し離れた場所では、ユンがリュックを漁っていた。


「……あった」


取り出したのは、

パウチタイプの災害時用の非常食。


しかも賞味期限が少し切れている。


「だ、大丈夫なの……それ?」


ミロクが不安そうに尋ねる。


「多分ね〜」


ユンは真顔で答えた。


「多分って、本気(マジ)かよ…!」


ケイタロウが即座にツッコむ。


だが、食料事情に余裕など無い。

背に腹は代えられなかった。


ユンは鍋を取り出し、スコールが水魔法で生み出した水を注ぐ。


「水よ——満たせ」


透明な水が鍋へと満ちていく。


その鍋を携帯コンロに置き、火を灯す。


やがて、ぐつぐつと音を立て始めた鍋から湯気が立ち上った。


乾いた砂漠の空気の中で、その温かさだけが妙に心地良い。


その光景を眺めながら、ケイタロウがふと思い出したように口を開く。


「なぁタカミザワ」


「なんだ」


「ホテルの点呼、大丈夫なのか?」


その言葉に、ミロクとスコールもハッとした顔をする。


修学旅行中。


本来ならば就寝時間の今頃は、

ホテルの部屋にいなければならない時間帯だ。


もし居ないことがバレれば、大騒ぎになる。


だが――。


「問題ない」


タカミザワは即答した。


「光魔法と影魔法を組み合わせた幻影魔術で、分身に近いものを作ってある」


「……分身?」


ミロクが目を丸くする。


「千里眼で監視しながら遠隔操作している」

「俺の魔力操作精度なら、数十キロ程度の距離ならば余裕だ」


さらりと言ってのける。


「いや、サラッと化け物みたいなこと言うなよ……」


ケイタロウが呆れたように肩を落とす。

スコールも苦笑していた。


「まぁでも、それなら安心か」


「当然だ」


タカミザワは鼻を鳴らす。


やがて、非常食が完成する。


アルミ皿へ取り分けられたそれは、見た目からして微妙だった。


「……なんか、ドロドロしてる」


ミロクが顔を引き攣らせる。


「文句言うな、食えるだけマシだ」


ケイタロウはスプーンを突っ込み、一口食べた。


数秒、沈黙。


「……味気ねぇ」


「知ってた……」


スコールが静かに返す。


ユンも小さく吹き出していた。

だが、不思議と嫌な空気ではない。


温かい食事を囲み、仲間と肩を並べる。

それだけで、どこか安心感があった。


食事を終えると、

タカミザワが静かに魔法を発動する。


浄化(クリーンアップ)


淡い光が全員を包み込む。


砂と汗で汚れていた服が、

一瞬で綺麗になった。


「おぉ……」


ミロクが感嘆の声を漏らす。


「便利だなぁ、その魔法」


「生活魔法は覚えておいて損は無い」


タカミザワは当然のように答えた。


やがて、就寝の時間が訪れる。


空には、無数の星々。

砂漠の夜は静かだった。


「ユン、お前はそっちのテント使え」


「うん」


女子一人。

男子四人。


当然のように、テントは分かれた。


ユンが一人用のテントへ入り、ミロク達は四人で大きい方へ潜り込む。


「せまっ!」


「お前がデカいんだよケイタロウ」


「俺のせいかよ!?」


そんな小声のやり取りが続く中。


ミロクは寝袋に包まりながら、テントの隙間から外を見た。


夜空の向こう。


静かにそびえ立つ土の神殿。


あの中に、土の魔導書がある。


胸の奥が、少しだけ高鳴る。


不安もある。

怖さもある。


けれど――。


「……明日、か」


小さく呟く。


すると、さっきまで

頭の上に乗っていた黄色い鳥のマルが、

「クエ」

と短く鳴いた。


まるで、「大丈夫だ」とでも言うように。


そして、砂漠の夜は静かに更けていく。


明日はいよいよ――土の神殿攻略。


新たな戦いが、始まろうとしていた。


ーーーー 土の神殿の中へ ーーーー


夜明け前。


砂漠の空はまだ薄暗く、

東の地平線だけが僅かに赤く染まり始めていた。


静かな朝。


そんな中、テントの外から聞こえてきた声で、

ミロク達は目を覚ます。


「起きろ」


短く、冷たい声。


聞き慣れた声だった。


「んぁ……」


「まだ眠い……」


ケイタロウとスコールが寝袋の中で唸る。


ミロクも目を擦りながら起き上がり、

テントの外へ顔を出すと、

そこには既に椅子へ腰掛けているタカミザワの姿があった。


彼の前には湯気の立つカップが五つ並んでいる。


「朝はコーヒーが効く」


そう言いながら差し出されたのは、

砂糖がたっぷり入った甘いコーヒーだった。


ミロクが一口飲む。


「甘っ!」


「脳の栄養だ」


タカミザワは当然のように答える。


朝食もすでに準備されていた。


火を通したベーコンを挟んだ食パン。


簡素な食事。

だが、温かい。


砂漠の朝の冷気の中では、それだけで十分だった。


五人は円になりながら朝食を食べ始める。


その最中、

ケイタロウがふと疑問を口にした。


「そういやさ」

「タカミザワ、お前寝てないのか?」


静かな沈黙。


夜のテントの中、

タカミザワは定期的に起きていた。


ユンもミロクもスコールも視線を向ける。


タカミザワはパンを齧りながら平然と答えた。


「俺はずっと寝ていない」


「は?」


ケイタロウの口から素っ頓狂な声が漏れる。


「絶対記憶と千里眼で常時周囲を監視している」


「身体の疲労は横になっているだけで回復できるし、頭は疲れない」


さらりと言う。

まるで今日の天気でも話すように。


ミロク達はしばらく固まった。


「……」

「……」

「……」


「いや待て待て待て」


最初に復活したのはケイタロウだった。


「それ人間なのか?」


「人間だ」


「怪しいなぁ……」


スコールも苦笑する。


ユンは慣れたように無反応だった。

どうやら最近は

こういう発言を聞き慣れてきたらしい。


やがて朝食を終える。


荷物をまとめ、いよいよ出発だ。


目指すは土の神殿。


昨日見上げた巨大なピラミッド。


その正面には、訪問者を拒むような長い長い階段が続いていた。


「マジかよ……」


ケイタロウが絶望したように呟く。


「高すぎだろ……」


スコールも同意見だった。


だが登るしかない。


五人は階段を上り始める。


十分後。

二十分後。

三十分後。


「はぁ……」


「はぁ……」


ケイタロウとスコールはすでに疲弊していた。


汗が止まらない。

足も重い。


しかし。


「おーい!」


上の方から声がする。


見上げれば、ミロクが軽快に駆け上がっていた。


「まだ半分も来てないよー!」


「なんでお前そんな元気なんだよ!?」

「階段登って疲れないのか……!?」


ケイタロウが叫ぶ。


ミロクは首を傾げた。


「え?」

「家の神社の階段の方が長いから疲れないよ?」


当然のような返答。


日頃から上り下りを繰り返しているミロクにとって、この程度の階段は慣れたものだった。


「マジかよ……」


スコールが本気で呟く。


その時だった。


ふわり――、

五人の横を何かが通り過ぎる。


「ん?」


振り返る。


そこには、

浮いているタカミザワ。


浮遊の魔法で身体を浮かせながら、

悠々と階段を上昇していた。


しかも読書をしている。


「じゃあ先に行ってるぞ」


こちらには目もくれず、

そのまま追い抜いていく。


「……」


「……」


静寂。


そしてケイタロウが言った。


「ズルいな……」


誰も否定できなかった。


それからしばらくして、

ようやく神殿の入口へ到着する。


石造りの巨大な門。


その先には薄暗い通路が続いていた。


中へ足を踏み入れた瞬間、

ひんやりとした空気が全身を包む。


「涼しい……」


スコールが安堵する。


砂漠の熱気が嘘のようだった。

石壁には湿気すら感じる。


まるで地下洞窟のような空気。


そして――、

奥へ進んだ時。


タカミザワの足が止まった。


「……」


無言。


その視線の先。


本来なら閉ざされているはずの石門が、既に開いていた。


「どうした?」


ケイタロウが尋ねる。


タカミザワは珍しく眉を顰めていた。


「……おかしい」


その声には僅かな緊張が混じる。


「神殿の門は魔素認証で開く仕組みのはずだ」


「……つまり?」


スコールが聞く。


タカミザワはゆっくり答えた。


「先客が"いる"……または"いた"可能性がある」


空気が変わった。


先ほどまでの緩さが消える。

ミロクも思わず息を呑む。


そして、ユンが一歩前へ出た。


「風よ――」


小さな風が神殿内部へ広がっていく。


風による索敵。


同時に、

タカミザワも千里眼を発動する。


神殿内部の構造を透かし見る。


数秒。

十秒。


さらに沈黙。


やがて二人は顔を見合わせた。


「……いない」


ユンが呟く。


「誰も見えない」


タカミザワも同じ結論だった。


「千里眼にも反応が無い」

「生物の気配も無い」


だが、

それが余計に不気味だった。


門は開いている。

誰かが入った形跡がある。


なのに誰もいない。


「まさかな……」


タカミザワが小さく呟く。


その声は神殿の奥へ吸い込まれていった。


五人は警戒を強めながら歩き出す。


長い通路。

静かな神殿。


そして、誰も知らない。


彼らが追いかけている”先客”が、

すでに土の魔導書を持ち去っていることを。


ーーーー 土の神殿の広間 ーーーー


土の神殿内部。


薄暗い通路を、五人は慎重に進んでいた。


石壁に囲まれた長い廊下。

そこに、足音だけが静かに響く。


先頭を歩くのはケイタロウだった。


「何も出てこねぇな」


肩の力を抜きながら歩く。


本来ならば、

こういう遺跡には魔物や罠が付き物だ。


だが、ここは妙に静かだった。


その後ろを歩くスコールとタカミザワ。

さらに、最後尾をミロクとユンが続く。


やがて、

ケイタロウの足が止まった。


「……なんだこれ」


地面を指差す。


そこには巨大な昆虫の死骸が転がっていた。


黒い外骨格。

鋭い顎。


脚だけでも人間の腕ほどある。


「うわ……」


ユンが思わず声を漏らす。


それが、

ユンにとって初めて見る魔物の姿だった。


「キラーアントだな」


タカミザワが即答する。


「土属性の魔物だ」


ユンは恐る恐る近づく。

死んでいると分かっていても怖い。


「こんなのと戦うの……?」


「慣れるぞ」


ケイタロウが笑う。


「最初は俺もビビった」


少しだけ空気が和らぐ。


しかし、

その先へ進むにつれて異変は増えていった。


壁の一部が黒く焦げている。


床には無数の傷跡。

石柱は折れ。

天井には衝撃で砕けたような亀裂。


誰かが戦った。


それも、かなり激しく。


「これは……」


ミロクが壁に触れる。


黒い煤が指に付いた。


「火属性魔法か?」


スコールが呟く。


タカミザワは黙ったまま歩く。

千里眼で大体の状況は把握している。


だが、確認したい。

自分の目で。


現場に残された痕跡を。

戦いの跡を。


そこから見えてくるものがある。


長い通路を抜ける。


そして、

五人はついに神殿最深部へ辿り着いた。


広間。

巨大な空間。


しかし――。


「……」


誰も言葉を発せなかった。


そこには何も無かった。


いや、正確には、

何かがあった”跡”だけが残されていた。


固まった土と石畳の隆起した瓦礫の山々。


巨大な蟻の死骸。

小山のような巨体。


おそらく女王個体。

キラーアントクイーン。


その身体は既に腐敗が始まり、

動く気配はない。


さらに、

中央の石像は崩れ落ちていた。


粉々になった石片、

何かを取り出したような跡。


そして何より、

広間全体が冠水していた。


およそ五十センチ。

膝下程度の深さ。


大量の水が溜まっている。


「なんだよこれ……」


ケイタロウが呆然とする。


バシャ。

バシャ。


五人は水を踏みながら進む。


広間の中央。

崩れた石像の前。


そこへ

真っ直ぐ向かったのはタカミザワだった。


丸眼鏡の奥の瞳が細くなる。


崩れた石像。

空洞。

その中心。


本来ならば、そこにあるはずのもの。


だが――無い。

何も無い。


沈黙。


しばらく動かなかったタカミザワが、

小さく舌打ちした。


「……とんだ無駄足になってしまったな」


珍しく感情が漏れる。

その声には失望が混じっていた。


誰よりも準備した。

誰よりも計算した。


だからこそ悔しい。


一歩遅かった。


ミロクはその様子を見ながら、

静かに広間を見渡していた。


巨大な戦いの痕跡。

倒された魔物。

崩れた石像。


そして消えた魔導書。


「いったい……誰が」


ぽつりと呟く。


だが答える者はいない。


その時、

スコールが口を開いた。


「もしかして……魔法教会じゃないのか?」


その言葉に全員の視線が集まる。


タカミザワは目を閉じた。


考える。

可能性を整理する。


「可能性はある」


静かな声。


「だが、魔法教会に遺跡調査の許可は基本的に降りない」

「遺跡は国家所有の土地だからな」


それは絶対的なルール。


魔法教会ですら自由にはできない。


すると、

ユンが手を挙げた。


「あの……」


少し遠慮がち。


「それなら国の方で回収したんじゃない?」


静寂。


そして、

ケイタロウが反応する。


「あっ」

「それ、あり得るかもな」


タカミザワの目が見開く。


何かが繋がった。

脳内で点と点が結ばれる。


「……フロンティア騎士団」


小さく呟く。


「フロンティア国軍部」

「魔法教会とは別系統で、魔法の使用が認可されている組織」


さらに続ける。


「連中ならやる」

「いや……連中しかやれない」


結論は出た。


ならば。

ここに用はない。


「話が早い」


タカミザワは踵を返す。


「戻るぞ」


即決だった。


未練はない。

既に魔導書は存在しないからだ。


ここに残る理由も、もはや無い。


「了解」


「帰ろうぜ」


「ホテルの飯が恋しい」


ケイタロウが笑う。

スコールも頷く。

ユンも安堵した表情を見せる。


ただ一人。


ミロクだけが最後に振り返った。


崩れた石像。

倒れた魔物。


そして、広間に残された大量の水。


誰かがここで戦った。

自分達の知らない誰かが。


そして勝利した。


その事実だけが、不思議と胸に残った。


「……」


頭の上のマルが小さく鳴く。


「クエッ」


ミロクは小さく微笑み、前を向いた。


こうして五人は土の神殿を後にする。


そして運命は再び、

彼らを別の場所へと導いていくのだった。

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