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369の世界 〜12冊の魔導書〜  作者: ダーク創造神
第一章 小学校低学年
28/31

第27話 土の神殿

ーーーー 死と予言 ーーーー


「……土蜘蛛が死んだ」


アモンの低い声が、静かに響いた。


壁際。

拘束されたままの土蜘蛛。


その身体は崩れ、口元から血が流れている。


微動だにしない。

すでに——絶命していた。


「自害じゃろうな」


アモンは壁に背を預け、淡々と言う。


「奥歯に毒を仕込んでおったのじゃろう」


火をつけたタバコ。

ゆっくりと煙が立ち昇る。


まるで、

何事もなかったかのように。


バルバトスは、静かに胸に手を当て、

目を閉じる。


「……安らかに眠れ」


短い祈り。

ヴィネとカイも、無言で頭を垂れる。


わずかな黙祷。


それが、この場の“区切り”だった。


パチンッ。


バルバトスが、自分の頬を叩き、

空気が変わる。


「……湿っぽいのは終わりだ」


顔を上げ、

視線は、カイへ向く。


「暗殺者から情報を得たんだろ?」


一歩、近づき視線を合わせる。


「話してくれるか?」


カイは頷く。


息を整え、

そして、ゆっくりと語り始めた。


「彼らの目的は——」


言葉を選ぶ。


「古代の技術や知識を隠し」

「世界の均衡を、永遠に保つこと」


一拍。


「それが“世界平和”だと」


静寂。

誰もすぐには言葉を返せない。


「……そして」


カイは続ける。


「予言に記された」

「“革命の小さき使徒”の抹消」


視線を落とす。


「それ以上は……聞けませんでした」


沈黙。


だが、バルバトスは迷わなかった。


ポン、と肩を叩く。


「十分だ」


力強い声。


「目的が分かっただけで上出来だ」


その時、

アモンが口を開く。


「予言書……“アダムス書”じゃな」


ヴィネが眉をひそめる。


「アダムス書?」


アモンは煙を吐き出す。


「国家要人しか知らん代物じゃ」

「この世の災害、人災、戦争、経済——」


目を細める。


「すべてを、外さずに予言してきた書物」


空気が、さらに重くなる。


「……なんで、アモンが知ってるの?」


ヴィネの問いに、

アモンは苦笑する。


「騎士団に長くおればな」

「いずれ、嫌でも知ることになる」


バルバトスが腕を組む。


「……だがよ」


眉をひそめる。


「暗殺者と予言書、どう繋がる?」


アモンの目が、

ゆっくりと開く。


「魔法教会じゃ」


空気が、凍る。


「……は?」


バルバトスが目を見開く。


「俺たちを支援してる、あの魔法教会が?」


「そうじゃ」


アモンは静かに言う。


「予言書は魔法教会が所有」

「そして、暗殺者ギルドと——繋がっておる」


煙が揺れる。


「だが、どちらも秘匿されておるし、証明はできん」


壁にもたれ、目を閉じる。


「……マジかよ」


バルバトスが呟く。


信じ難い現実。

だが、否定する材料もない。


「今回の任務も同じじゃ」


アモンが続ける。


「“土の神殿での回収”」

「これも魔法教会からの委託じゃ」


「過去の神殿調査も、すべてな」


バルバトスの表情が曇る。


「……じゃあよ」


低い声。


「“革命の小さき使徒”ってのは何だ?」


アモンは、少しだけ考える。


そして。


「推測じゃがな」


静かに言う。


「火の神殿、風の神殿で見つかった“人の痕跡”」


煙を吐く。


「……あれが、そうじゃろう」


その言葉に、

全員の頭に、同じ存在がよぎる。


まだ見ぬ“誰か”。


アモンはタバコの火を消す。


「まぁ、今回は関係なかろう」


立ち上がる。


「ワシらは運が悪かっただけじゃ」


軽く肩を回す。


「暗殺者に当たった、とな」


一歩、歩き出す。


「脅威は去った」


振り返らない。


「回収物を探しに行くぞ〜」


バルバトスがため息をつく。


「……自由なオッサンだな」


ヴィネとカイが顔を見合わせ、

小さく頷く。


そして、

三人は、アモンの背中を追った。


だが——

誰も気づいていない。


この情報が、

どれほど大きな“歪み”を孕んでいるのか。


ーーーー カイの魔法 ーーーー


土の神殿、地下一階。


先ほどまでカイがいた空間。


四人が足を踏み入れた瞬間——

空気が変わった。


ぬめりつくような気配。


石畳の上。


そこに——

蠢く影。


「……いるわね」


ヴィネが一歩前に出て、

静かに手をかざす。


「《鑑定魔法アナライズ》」


淡い光が、対象をなぞる。


「キラーアント……三体」


目を細める。


「土属性の魔物よ」

「それなりに強い。油断しないで」


低い警告の声。


だが、

その緊張を、バルバトスが崩した。


ポン、と。

カイの肩を叩く。


「よし、カイの出番だな」


「……は?」


ヴィネが即座に反応する。


「話聞いてた?」


鋭い視線に苛立ち。


「相手は“それなりに強い”って言ったでしょ?」


バルバトスは、気にしない。

そして、ニヤリと笑う。


「だからだよ」


腕を組む。


「カイは、唯一の水属性使いだ」


キラーアントを顎で示す。


「土属性を相手に、有利が取れるのは"コイツ"だけだ」


一拍。


「だろ?」


ヴィネはため息をつく。


「……好きにしなさい」


肩をすくめる。


「ただし、責任はあんた持ちよ」


バルバトスは軽く手を振る。


「任せとけ」


カイが一歩前に出て、

拳を握る。


「……俺、やってみるよ」


声は、震えていない。

そこには、決意が宿っている。


「サポートは任せろ」


バルバトスが背後に立つ。


守る位置。

信頼の配置。


カイが息を吸う。


集中。


周囲の魔素が、ゆっくりと動き始める。


「水よ……」


言葉が空気に溶ける。


「地に伏せる虫に、大海を…!」


魔法陣が、足元に展開される。


水色の光。

輝きが、空間を満たす。


「《巨大波(タイダルウェイブ)》!!」


瞬間。


魔法陣から——

水が噴き出した。


大量の、

圧倒的な水量。


一気に空間を埋め尽くし、

キラーアント達が、飲み込まれる。


「ギギギギィ!!」


もがき、

そして暴れる。


だが——

逃げ場はない。


土の魔物は、水に弱い。


呼吸が奪われ、

動きが鈍る。


やがて——

完全に沈黙した。


水が引き、静寂。


そこに残ったのは——

動かない三体のキラーアント。


「……やった!」


カイが振り返る。


満面の笑み。

純粋な喜び。


「大成功だな!」


バルバトスが豪快に笑う。


「いい一撃だったぞ!」


アモンも頷く。


「やはり、最年少で選ばれただけはある」


静かな評価。


ヴィネは腕を組み、

小さなため息。


「……悪くないわね」


視線を逸らす。

だが、その口元はわずかに緩んでいた。


周囲を見渡す。


魔物の気配は——ない。

敵は、消えた。


「よし」


バルバトスが前を向く。

そして声が締まる。


「この調子で進むぞ」


その指揮に、全員が頷く。


四人は歩き出し、

石畳の奥へ。


さらに深く。

神殿の中心へ。


ーーーー 土の女王 ーーーー


道中。


キラーアントが現れては倒し、また現れては倒す。

単調な戦いの繰り返し。


だが、それは確実に四人の体力と集中力を削っていった。


やがて、

時計の針が夕刻を示す頃。


彼らは——

広間へと辿り着いた。


「……やっと、か」


バルバトスが低く呟く。

重い息を吐く。


その視線の先に、

広がる空間。


「ここが……最深部ね」


ヴィネが静かに言う。

その声には、わずかな緊張が混じっていた。


広間の中央。


人型の石像。

無機質な表情。


まるで、侵入者を見下ろしているかのようだった。


周囲には、等間隔に並ぶ石柱。


それ以外には——

何もない。


「……見当たらないな」


バルバトスが眉をひそめる。


「今回の回収物……」


横目でヴィネを見る。


「“魔導書”だったか?」


ヴィネは小さく頷く。


「ええ、そのはずよ」


アモンとカイは、別方向から探索を始める。


石像の裏。

石柱の影。


だが——

見つからない。


「……まさか、ハズレじゃねぇよな?」


バルバトスの声に、わずかな苛立ちが混じる。


その時だった。


——ゴゴゴゴゴ……。


地鳴り。

床が揺れる。


「なっ……!?」


ヴィネが即座に身を低くする。

バルバトス達も反射的に柱へしがみつく。


揺れは強くなる。

空気が、歪む。


天井。


そこに、渦巻く亜空間が現れた。


茶色く光る。

土の魔素。


濃密な、圧力。


そして、

それは——現れた。


巨大な影。

土色の外殻。


歪なほどに肥大した躯。

——蟻。


だが、それは。

もはや“魔物”の域を超えていた。


『我は——』


頭の中に、直接響く声。

圧倒的な威圧。


『キラーアントクイーン』


一拍。


『この城の女王なり』


空気が凍る。


カイが息を呑み、

バルバトスが、低く呟く。


「……キラーアントクイーン」


これまで倒してきた存在の“頂点”。


「……想定内ね」


ヴィネが息を吐く。


「未知の存在よりは、まだマシ」


だが、

その安堵は一瞬だった。


『スキル——』


女王の声が響く。


『仲間呼び』


次の瞬間。


床が爆ぜて、

砂が噴き上がる。


その中から——

次々と現れる無数の影。


一体。

二体。

十体。


二十——


止まらない。


「なっ……!?」


カイが目を見開く。


「敵が……増えてる!?」


広間を埋め尽くす、無数のキラーアント。


ざわざわと蠢く音。

圧迫感。


数は——

およそ百体。


「……これは、まずいな」


バルバトスの声が、僅かに低くなる。


多勢に無勢。

明らかな戦力差。


「……やるしか無かろう」


アモンが呟く。

その声に、迷いはない。


ヴィネが苦笑する。


「骨が折れるどころじゃないわね……」


だが、その目は死んでいない。


バルバトスが横目で見る。


「カイ……いけるか?」


短い問い。

だが、重い。


静寂。


一瞬の間。


カイが顔を上げ、

瞳が、揺れる。


だが——

すぐに、固まる。


「……やるしか、ない!」


その言葉と共に、

覚悟が、決まった。


無数の敵。

圧倒的な数。


そして——

女王。


戦いは、避けられない。


ーーーー 土の魔導書 ーーーー


「——《巨大波タイダルウェイブ》!!」


カイの声と共に、水が噴き出す。


轟音。

広間を埋め尽くす大波。


無数のキラーアントが飲み込まれていく。


「ギギギギィ!!」


もがき、沈み、

押し流される。


だが——

一つだけ、動かぬ影。


「……デカすぎるな」


バルバトスが呟く。


キラーアントクイーン。

その巨体は、水流すら押し返すようにその場に立っていた。


水が引き、

場が一瞬、整う。


だが——


「よそ見をするな!」


アモンの声。

大盾が、地面に突き刺さる。


「スキル——《挑発プロボック》!」


空気が震え、

気力と魔力が拡散する。


水を逃れたキラーアント達の視線が、一斉にアモンへ向く。


「さらに——」


大盾が光る。


「《王国防御ロイヤルガード》!」


重厚な防御陣。

揺るがぬ壁。


「雑魚はワシに任せい!」


その一言。

絶対の信頼。


「……つれねぇ爺さんだ」


バルバトスが笑う。

だが、その目は鋭い。


「任せたぜ!」


踏み込む。


「スキル——《神速・剛力》!」


身体が弾ける。

速度と力が爆発的に上昇する。


「俺の実力、見せてやる!」


一直線に、

キラーアントの群れをすり抜ける。


狙いはただ一つ。

——女王。


だが、


『土魔法——《大地震アースクエイク》』


地が唸り、

石畳が砕ける。


隆起。

崩壊。


「くっ……!」


足場が崩れ、

先に進めない。


だが——


「——支援するわ!」


ヴィネの声。


「風魔法《風走ウィンドランナー》!」


風が、バルバトスを包むと、

身体が軽くなる。


重力が薄れる。


「いいねぇ!!」


バルバトスが笑い、

地を蹴る。


いや——風を蹴る。


隆起した岩壁を縫うように駆け抜ける。


加速。

さらに加速。


女王の足元に、

辿り着く。


「ギギギギ……!」


複眼が睨む。


圧。


だが——


「怖ぇわけねぇだろ」


バルバトスが睨み返す。


踏み込み、

全身の気力を一点へ。


剣⸻。


「——終わりだ!!」

「王国剣術——《貫通の一撃》!!」


閃光。

重撃。

刃が、巨体を貫く。


深く。

確実に。


「ギ……ギ……」


女王の動きが止まり、

崩れる。


巨体が地面に沈む。


——沈黙。


「……悪く思うなよ」


バルバトスが静かに言い、

背を向ける。


後方では、

アモンの盾が光る。


ヴィネの鞭がしなる。


残党が、次々と討たれていく。


やがて——

すべてが止まった。


静寂。


その時、

ゴゴ……と音が鳴る。


中央の石像にひびが入り、

崩壊。


「……開いたか」


バルバトスが近づく。


瓦礫の中、

手を伸ばす。


そして——

それを、掴む。


一冊の本。


重厚な装丁。

土色の輝き。


「……これが」

「土の魔導書、か」


「本当にあったのね」


ヴィネが受け取る。


丁寧に。

慎重に。


アタッシュケースへ収め、

カチリ、と音が鳴る。


「これで……任務完了」


小さく息を吐き、

緊張が、ほどける。


カイが首を傾げる。


「……開かないの?」


純粋な疑問。

その言葉にバルバトスが笑う。


「ダメだな」


優しく言う。


「機密ってやつだ」


肩をすくめる。


「俺たちが見るもんじゃない」


そして、

声を張る。


「よし!」


振り返る。


「帰るぞ!」


一拍。


ニヤリと笑う。


「今日は——アモンの奢りだ!」


「いいわね、それ!」


ヴィネが即答。


「ほんと!?やった!!」


カイが跳ねる。


「……やれやれ」


アモンが苦笑する。


「しょうがないのぅ」


笑い声。

軽口。


戦いの後の、束の間の平穏。


こうして、

遺跡調査班は任務を終えた。


土の魔導書を手に、

フロンティア国へと帰還する。

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