96話 玉座を照らす福音の光
辺境から解き放たれた再生の波動が王都に到達したその瞬間、王城 白亜の塔の最上階にいたリリア王妃は、鋭い戦慄と共に椅子から立ち上がった。
執務室を埋め尽くしていた山のような書類が、窓から差し込む強烈な陽光に照らされ、白く飛び散る。
それは、これまでリリアが見てきたどの太陽の光よりも強く、そしてどこまでも柔らかな輝きを放っていた。ただの光ではない。それはリリアの魂の深淵に直接語りかけてくるような、懐かしくも神々しい、あの温かな白銀の波動であった。
「この、感覚は……」
リリアのプラチナブロンドの髪が、見えない風に煽られたように美しく波打つ。
驚愕に、その鋭い銀の瞳が大きく見開かれた。
彼女は震える指先を自身の胸元に当て、せり上がってくる熱い感情を抑え込むことができなかった。
「お姉様……。ああ、何という温かな光なの……」
独りごちる彼女の頬を、一筋の雫が伝う。
リリアは、確信を持って悟った。
彼女がこれまで、鉄の仮面を被り、たった一人で背負ってきた秩序の器の重圧。悪を断罪し、不正を切り捨て、時には民に恐れられてもなお貫いてきた破壊にも似た孤独な役目。
その厳格な旅路が、今この瞬間、アリアの光と溶け合うことで、真の完成をみたのだと。
アリアが再生の力に目覚めたことで、リリアが法によって切り拓いた不毛の地には、即座に新しい命が吹き込まれる。リリアが死を与えた場所に、アリアが生を授ける。
この絶妙な均衡が成立したとき、リリアの秩序はもはや冷酷な支配ではなく、清らかな生命を育むための、慈悲深い揺り籠へと変貌を遂げたのである。
「リリア、一体何が……」
背後の扉が開き、急ぎ足で入ってきたのは国王アーサーだった。
彼は、窓際で白銀の光に包まれ、涙を流す妻の姿を見て言葉を失った。
常に凛として、隙を見せなかった彼女が、まるで幼子のように肩を震わせている。
アーサーは迷わず歩み寄り、その細い肩を抱き寄せた。
「リリア……君の戦いは、報われたのだな」
「アーサー様……。お姉様が、届けてくれたのです。私の秩序を、愛で満たしてくれた……」
銀の瞳から溢れ、アーサーの胸元に吸い込まれていく涙。
それは、彼女が王妃として即位して以来、民のため、国のために一度も解くことのなかった孤独の氷が、姉の愛によって静かに、けれど確かに溶け出した証であった。
王都を包む白銀の輝きは、リリアの凍てついた歳月をも、優しく包み込んでいった。




