【番外編】幼馴染から運命の伴侶へ:幼き日の約束と、揺りかごの誓い(アイリス・エドワード)
温かくて、けれどちょっぴり可笑しな家族への初恋。
それが、アイリスとルーカスにとっての、愛という感情の原点だった。
けれど、運命の風はすぐに次の季節を連れてくる。
アイリスが二歳を過ぎたばかりの春、一家はアルカディアス王都の王宮へと招かれた。アーサー国王とリリア王妃に、待望の第一王子が誕生したことを祝う聖別の晩餐に遡る。
広間を照らすのは、無数の蜜蝋のキャンドルと、精霊達の祝福による柔らかな光の粒であった。
しかし、幼いアイリスにとって、その煌びやかな世界は少しだけ騒がしすぎるものだった。彼女はカイルの首に両手を回し、白銀の髪を彼の肩に預けていた。
「おとーたま…アイリス、だっこ」
「そうか。よしよし」
カイルに抱かれたまま連れて行かれたそこには、出産を終え、母となった美しいリリア王妃と、傍らで誇らしげに妻を見守るアーサー国王。
そして、レースの揺りかごの中に、生まれて間もないエドワードが眠っていた。
アイリスが興味を示したのでそっと床に下ろすと、彼女はおぼつかない足取りで、吸い寄せられるように揺りかごの縁に手をかけた。
「……あかちゃん?」
アイリスが首を傾げると、眠っていた赤ん坊が、まるでその声に呼応するようにゆっくりと目を開けた。
エドワードの氷蒼色の瞳は、真っ直ぐにアイリスの黒曜石の瞳を捉えた。
アイリスは、不思議な高鳴りを感じていた。
それは、お父様への憧れとも、兄への親愛とも違う、もっと深い魂の共鳴。彼女が小さな指先でエドワードの掌に触れると、エドワードはその指を、きゅっと、けれど力強く握り返した。
「あら……見て、アーサー。エドワードがアイリスの手を離さないわ」
「どうやら、我が息子は自分にふさわしい光を、生まれてすぐに見つけてしまったらしいな」
アイリスは、自分の指を握る温かな感触に、顔をぱっと輝かせた。
「おとーたま、みて! このこ、アイリスのことがしゅきなのね!」
この夜の出会いが、三つの一族を永遠に繋ぐ黄金の円環の始まりだった。
月日は流れ、二人は共に成長していった。
王都の図書室で、あるいは精霊の住む北の森で、二人の絆は誰にも踏み込めないほど深く、静かに育まれていった。
エドワードのシャイニーブロンドと、アイリスの白銀の髪が風になびき、並び立つ姿は天上の対として領民たちからも親しまれた。
エドワードが傷を負えば、アイリスがその傷に祈りを捧げて癒やし、アイリスが巫女としての重圧に心を痛めれば、エドワードがその氷蒼色の瞳で彼女を優しく包み込んだ。
家族以外で、自分を最も深く理解してくれる存在。
かつて「おとーたまのおよめしゃん」を夢見た少女は、いま、一人の男性としてエドワードを見つめ、彼と共に歩む未来を静かに描き始めていたのである。
アイリス、エドワード編、少し続きます。




