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【全年齢版】呪われた辺境伯と無色の聖女  作者: 真紅愛


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119/122

【番外編】辺境伯の城、幼き初恋の円舞曲(アイリス・ルーカス)

ここはアルカディアス王国最北のローゼンベルク領。


冬の長いこの土地にとって春はとても貴重で待ち遠しいもの。


そしてそれは妖精たちも同じこと。


ーーーーーピューーーーーーッ


少し強い風がふいたかと思うとそれは悪戯好きな風の妖精ピルルの仕業だったようだ。



「やぁ!また会えたね。物語は終わってしまったけど…なんか気にならない?そこの君!!あれ?アイリスってずっと辺境領にいるの?その後のアリアとカイルは?ルーカスは?さぁそんなこんなを自由に覗ける秘密の扉にひっそり招待するよ〜♪こっちこっち〜♪」


ピルルがパチンと指を鳴らすとゆらりゆらりと扉が開いた。







   



5歳になったルーカスは、最近、父カイルの背中をじっと観察するのが日課になっていた。


父が母アリアを抱き寄せ、その莫大な魔力を分け与えるとき、母の白銀の髪が美しく光を帯び、赤紫の瞳が幸せそうに潤むのを知っていたからだ。



ある日の午後、読書をするアリアの膝元で、ルーカスは意を決してその顔を見上げアリアの手を取り跪いた。



「おかあさま、ぼく……大きくなったら、おとうさまより強くなっておむこさんになるよ。おとうさまみたいに、ぼくがずっとおかあさまをキラキラさせてあげる。だから、ずっと待っていて?」


(まぁ!ルーカスったらいつこんなことを覚えたのかしら!)



アリアは驚きに目を丸くした後、この上ない慈愛を込めて微笑んだ。



「まあ、嬉しいわ。ルーカスが私を守ってくれるのね」



「うん! おとうさまには、ぼくが代わりの人を見つけてあげるから大丈夫だよ!」

  

そしてどこかぎこちなくアリアの手の甲にキスをするのだった。


無邪気で誇らしげな息子の宣言に、アリアの鈴の鳴るような笑い声が部屋に響いた。




それから数日後。見回りから帰還し、鎧を脱ごうとしていたカイルの元へ、2歳のアイリスが弾んだ足取りで駆け寄ってきた。



「おとーたま! おかえりなしゃい!」



カイルが娘を軽々と抱き上げると、アイリスはその逞しい首に腕を回し、耳元で内緒話をするように囁いた。


「おとーたま、アイリスね、おおきくなったらおとーたまのおよめしゃんになりゅの。おかーたまみたいに、ずっーとおとーさまといっしょにいたいの。……だから、ほかのひとにはないしょよ?」


そう言って小さな人差し指を自分の唇とカイルの唇に押し当てた。



普段、氷の如く冷静な辺境伯の顔が、一瞬でとろけるように崩れた。



「……ああ、アイリス。お前がそう言ってくれるなら、父様は世界中のどんな男からも、お前を隠しておきたくなってしまうな」



カイルは娘の白銀の髪にそっと唇を寄せ、至宝を扱うような手つきでその小さな背中を撫でるのだった。




しかし、その数ヶ月後、王都で開催された「聖別の晩餐会」が、幼き恋路に波乱を呼ぶ。



アイリスは、リリア王妃の腕の中で眠るエドワード王子を見た瞬間、手を寄せるとその小さな手がアイリスの指をぎゅっと握りしめなかなか離さなかったのだ。



「このこ、とってもかわいいわ……。アイリスがおねーしゃまとしてまもってあげなきゃ!」

 

一方のルーカスも、両親と王家の深い絆、そして自分たちの血筋がもたらす「真の愛」の重さを肌で感じていた。王都からの帰り道、馬車の中でエドワードの話ばかりする妹を横目に、ルーカスは少しだけ悟ったような顔で夜空を見上げていた。




子供たちが寝静まった後、カイルとアリアは寝室のソファで、一本のワインを分け合っていた。



「……アリア。聞いているか。ルーカスは、私に代わりの嫁をどこからか連れてくるつもりらしいぞ」



カイルが苦笑混じりに切り出すと、アリアはクスクスと肩を揺らした。



「ふふ、あの子なりに一生懸命考えたのでしょうね。でもカイル様、アイリスの『お嫁さん宣言』の方は、もうよろしいのですか? 晩餐会では、エドワード様に夢中のようでしたが」



その言葉に、カイルは露骨に肩を落とし、手元のグラスを見つめた。



「……アイリスは、もう私のことなど忘れて、王子の護衛になると張り切っている。あんなに熱烈な約束をしたというのに、女心というものはこれほど移ろいやすいものなのか」



冗談めかした、しかし本気で寂しそうな夫の様子に、アリアはそっと彼の肩に頭を預けた。



「いいえ、それは違いますわ。二人は、私たちがお互いを大切に想う姿を見て育ったからこそ、自分たちも『誰かを守りたい』と願うようになったのです」



アリアがカイルの漆黒の手に自分の手を重ねると、そこから温かな聖女の力が通い合い、二人の瞳が共鳴するように輝く。



「ルーカスはお父様のように『愛する人を輝かせたい』と願い、アイリスはお母様のように『愛する人を支えたい』と願った。……それは、私たちの愛が正しかったという証拠ではありませんか?」



カイルは愛おしそうにアリアを抱き寄せ、その首筋に顔を埋めた。



「……全くだ。アリーに説得されては敵わないな。だが、ルーカスに席を譲るつもりも、アイリスをエドワードに簡単にやるつもりも、毛頭ないがな」



「まあ、困ったお父様ね」



窓の外ではやがて来る春の余韻を風が運び、城は温かな愛の余韻に包まれていく。幼き日の初恋は、いつか彼らが本当の愛を見つけるための、甘く優しい記憶として、この城の歴史に刻まれていくのだった。



いかがでしたか?


しばらく不定期に番外編を更新します。

お楽しみに♪

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