117話 黄金の王国と、語り継がれる伝説(最終話)
二つの一族の和合から始まり、さらに王家も加わり数十年、数百年と時が流れても、アルカディアス王国が衰えることはなかった。
むしろ、あの夜の晩餐会で結ばれた固い絆は、国の背骨となって時代を支え続けた。
王都を象徴するリーゼンバーグ侯爵家は、エルヴァンとロザリアが幽閉されたその時から、長男ゼノによって支えられていた。
アリアの無色の聖女の力によって影の呪縛から解き放たれた後も、彼は生涯独身を貫き、リーゼンバーグの名を守るため、あくまで影に在り続けた。
その存在は、人々の記憶に英雄として刻まれることはなかったが、侯爵家が揺らぐことなく存続し続けた理由として、後の世に影の守護者と静かに語り継がれていく。
ガイアスは、兄の補佐をしながらも王都騎士団の総長となり、平和な時代における真の武のあり方を後世に伝えた。
一方、カイルとアリアが治めるローゼンベルク辺境伯領は、家族の絆によってかつてない繁栄を遂げた。
かつて精霊の加護を得て帰還したルナは、傍らで献身的に支え続けたテオと共に、失われた北の伝承を次代へと繋ぐ役目を担った。二人が慈しみ育てた精霊の森は、やがて王国で最も清らかな聖域となり、北の地に満ちる魔力を穏やかに鎮め続けた。
その安寧の中で成長したルーカスとアイリスは、ローゼンベルクの誇りを体現する存在となった。漆黒の髪に母譲りの赤紫の瞳を宿したルーカスは、若くして軍才を発揮し、北の国境を鉄壁の守りへと変えた。
白銀の髪に父から受け継いだローゼンベルクの象徴である黒曜石の瞳を持つアイリスは、地下の水脈と対話する類稀なる聖女として覚醒した。彼女の祈りは水脈の奔流を鎮め、北の地は豊かな鉱脈と祝福が溢れる約束の地へと変貌を遂げたのである。
祖母マリアは、曾孫たちの健やかな成長をその目で見届け、雪が降る静かな朝、愛する家族に看取られながら、まるで眠るようにその長い生涯を閉じた。
王都の王立図書館には、国王アーサーの命によって編纂された『和合の書』が大切に保管されている。そこには、王妃リリアとアリアが交わした書簡、そしてカイルが残した「守護の誓い」が克明に記録されている。
「愛は、呪いさえも力に変える」
この言葉は、後に王国の建国理念にも等しい重みを持つようになった。
アーサーとリリアが育て上げたエドワード王子の治世においても、ローゼンベルク家との信頼関係は揺らぐことはなかった。
エドワード王子のシャイニーブロンドと、ルーカスたちの漆黒の髪が並び立ち、共に政務を執る姿は、国民にとって平和の象徴そのものであったと語り継がれている。
長い年月が過ぎ、カイルとアリアが伝説の住人となった後も、北の地の領民たちは語り継いだ。
吹雪の夜、城の最上階にある展望回廊を見上げれば、そこには今も、漆黒の髪の守護者と白銀の髪の聖女が寄り添い、領地を見守る幻影が見えると。
カイルの黒曜石の瞳が湛えた全てを呑み込み守る強さ。
アリアの赤紫からピンクの瞳が放った全てを癒やし調和させる慈愛。
この二つの瞳が重なり合ったあの日、王国の闇は永遠に消え去り、色彩豊かな光の時代が始まった。
彼らが紡いだ愛の物語は、古き呪いを解き明かす鍵として、あるいは新たな命を言祝ぐ子守唄として、アルカディアス王国が存続する限り、人々の心の中で永遠に、そして鮮やかに語り継がれていくのだった。
(完)
これにて一旦完結です。
番外編や外伝もいくつかすでに完成しているのでまた不定期にはなりますが更新していきます。




