114話 聖別の晩餐:交差する色彩
公の赦免式を終え、人払いのされた応接室での涙の和解を経て、一行は王城の「月光の間」へと席を移した。
そこでは、いまや王国の最高位にある三つの一族——王家、リーゼンバーグ侯爵家、ローゼンベルク辺境伯家が一堂に会する、歴史的な晩餐が始まろうとしていた。
広間を照らすのは、無数の蜜蝋のキャンドルと、王妃リリアが精霊たちの力を借りて灯した柔らかな光の粒である。
長テーブルの端では、エルヴァンとロザリアが、かつては想像もできなかった安らかな表情で座っていた。彼らの前には、初対面を果たしたばかりの孫たちが並んでいる。
「おじーたま、これたべて。アイリスのとこのより、ずっとあまーいよ」
白銀の髪を揺らし、黒曜石の瞳を輝かせたアイリスが、デザートの果実をエルヴァンの皿へと運ぶ。エルヴァンは、震えるように孫の小さな頭を撫でた。
「ああ、美味しいよ、アイリス」
……(お前たちの瞳を見ていると、この国の未来が、これほどまでに澄んでいるのだと思い知らされる)
ロザリアもまた、隣に座るルーカスの漆黒の髪を慈しむように見つめていた。ルーカスの赤紫の瞳は、未来への期待を映すように鮮烈な光を放っている。
テーブルの中ほどでは、若き世代が新たな絆を結んでいた。
漆黒の髪をなびかせ、当主としての峻烈な意志を宿したゼノと、騎士の風格を纏い始めた四男ガイアス。二人の前には、森の秘境から帰還したカイルの妹ルナと弟テオが座っている。
「テオ義兄様。貴方の振るう妖精の剣技……いつか北の地にて、手合わせを願えますか。ずっと、この機会を心待ちにしていたのです」
ガイアスが清廉な笑みを浮かべ、テオのグラスにジュースを注ぐ。その所作には侯爵家令息としての洗練された美しさと、新しい兄への純粋な敬意が宿っていた。
精霊の守護を受けたテオもまた、少し照れくさそうに、けれど包容力のある笑みを浮かべて年若き義弟の敬意と挑戦を受け止める。
「リーゼンバーグの双璧と謳われるガイアスにそう言ってもらえるなら。こちらこそ、その日を楽しみにしているよ。北の地で待っているね、ガイアス」
二人のやり取りを、ゼノとルナが微笑ましそうに見守る。未来明るい輝きが混じり合うその光景は、王国の軍事と魔力・精霊の双翼が、今や同じ未来を支えるものとなったことを示していた。
上座では国王アーサーと王妃リリア、そしてカイルとアリアが、産着に包まれたエドワード王子を囲んでいた。
エドワード王子のシャイニーブロンドの産毛と、氷蒼色の瞳。その小さな手が、ルーカスの漆黒の髪に触れ、アイリスの黒曜石の瞳に映り込む。
「見て、アリア。子供たちには、我々が抱えていたような色の区別も、家名の重圧も関係ないようだ」
カイルが、黒曜石の瞳を細めて囁く。アリアは赤紫からピンクへと移ろうグラデーションを潤ませ、隣のリリアと視線を交わした。
「ええ、カイル様。この色彩の混じり合いこそが、私たちが夢見た調和の姿なのですね」
黄金、白銀、漆黒、赤紫、黒曜石、そして氷蒼色。
食卓に並ぶ色彩は、かつては互いを排除し合うための境界線であった。
しかし今、この晩餐会において、それらは一つの美しいタペストリーのように編み上げられている。
祖母マリアは、その全てを包み込むように最後座から微笑んでいた。彼女が長年守り続けてきたリーゼンバーグの種は、ローゼンベルクという強固な大地と、王家という陽光を得て、今、百花繚乱の時を迎えたのである。
給仕たちの足音と、銀食器の触れ合う音、そして子供たちの無邪気な笑い声。
ただ家族という名の下に結ばれた者たちのぬくもりが、花の蕾の風を纏う王都に本格的な春の訪れを告げるかのような熱を持って、広間を満たしていった。




