111話 王妃リリアとリーゼンバーグ家の和合
公の儀式を終えた後、一行は王城の奥深く、人払いがなされたリリア王妃専用のプライベートな応接室へと招かれた。
そこには国王アーサーすら立ち入らず、リーゼンバーグの血を引く者たちと、彼らを支えてきた者たちだけがいた。
王妃リリアは、冠を外し、一人の娘として両親の前に膝をついた。彼女のプラチナブロンドの髪が、シャンデリアの光に照らされて柔らかく揺れる。
「お父様、お母様……。やっと、この日を迎えられました」
リリアの銀色の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。エルヴァンとロザリアは、数年ぶりに触れる娘の温もりに、震えながらその肩を抱き寄せた。
「…すまなかった」
「ごめんなさい…リリア」
両親の悔恨の言葉を、リリアは首を振って遮った。
「いいえ、私は自分の信念を貫いたまで。それにアーサー様は私の初恋の人でもあるんですよ。だからむしろ感謝しています。」
ゼノは壁際でもたれながら、ようやく重荷を下ろした両親の姿に静かな安堵を覚えた。
兄と肩を並べる背丈になったガイアスも、久しぶりに会うリリアと談笑している。
ふと目が合った祖母マリアとも手紙について話したりした。
一見、和やかなムードに包まれたが、やはりそれぞれに拭いきれない想いが交差してどことなく重い空気が流れるのも否めない。
その時、エルヴァンと目が合ったアリアはそっと近付いた。
「…アリア」
その次の言葉が紡げない。
リリアになら言えてもアリアには言えないのだ。それくらい取り返しのつかないことをしたとわかっていると、本当に言葉にならないのだ。
それはロザリアも同じだった。
そんな両親を静かに見守る子どもたち
堪らずリリアが傍に寄る。
「お姉様……ごめんなさい」
「なぜ?リリアが謝るの?」
「……そ、それは……」
(大好きだけど、どこかで見下していたことある、だから……)
すると急に距離をつめたエルヴァンが意を決してアリアに告げた
そして、ロザリアも同時だった。
「…すまなかった!アリア」
「本当にごめんなさい、アリア」
そして思わず二人に抱きしめられたアリアは、胸の奥で静かに思った。
(……初めてかもしれない)
責められることも、利用されることもない。ただ、娘として、家族として抱きしめられている――
その事実が、彼女の中でゆっくりと染み渡っていく。
やがて、リリアも、ゼノも、ガイアスも、そして祖母マリアも加わり、誰からともなく輪になるように抱き合った。
(あぁ……これが、リーゼンバーグ家なのね)
アリアは、言葉にならない想いを胸に、そっと目を閉じた。
祈るつもりはなかった。ただ、今ここにある温もりを、失いたくないと願っただけだった。
それに気づいたリリアとマリアも、同じように静かに目を伏せる。
――その時だった。
はっきりとした光ではない。
だが確かに、空気が和らぎ、重く沈んでいた何かが、ふっとほどけた。
長年、胸の奥に絡みついていた罪悪感や後悔、言葉にできなかった想いが、まるで霧が晴れるように、自然と薄れていく。
誰かが何かをしたわけではない。
ただ、家族として同じ場所に立ち、同じ温度を分かち合った――
それだけのことだった。
それでも、リリアには分かっていた。
アリアが、ほんの一瞬、どこか遠くを見つめて小さく囁いたのを、見逃さなかったから。
(……やっぱり、お姉様には敵わないわ)
そう思いながら、リリアはそっと微笑んだ。
祖母マリアはその光景を静かに見渡し、何も言わずに深く頷いた。
一族を覆っていた長い影が、ようやく終わりを迎えたことを、誰よりも確信して。




