プロトタイプ
先程までこちらに向かい猛進してきていたその黒く染まったものを蛇は嘲笑うかのように見下ろしている。
「口程にもない。誘い込まれていることにも気づかず突進してくるとは。」
漆黒に染まったノアはピクリとも動かず蛇の足元に立ち尽くしている。
「しかし、魂の吸引が遅い。繋ぎ止められているとでもいうのか。ただの機械にそんなことができるはずがない。
───まさか、あの時と同じことが起きているのか?だとしたら───。」
蛇は腕を高く上げ勢いよく振り下ろした。蛇の巨大な拳はノアの真上に落ち轟音と振動が響き渡る。
───手応えがない。あれほどの威力を叩きつけたのだ、潰れていない訳がない。
舞い上がった土煙が晴れ始める。そこには元の姿に戻ったノアが立っていた。
「なぜだ。なぜ粉砕していない!」
「防いだからだ。それ以外にないだろ。」
「いくら強くてもただの機械に、神器も所持していない奴にあれを防げるはずがない!」
「確かに、俺は神器を持っていない。だが、俺自身が神器のようなものだ。世界中の魂を貪り強化した拳とはいえ、防ぐのはそう難しくない。」
「己自身が神器だと?そのようなことが有り得るものか。人を神器にするなど、その者の命を全て使ったとしてもなし得ない所業。ならばなぜお前は生きている。」
「のようなもの、と言っただろう。本当に神器になった訳ではない。魂だけの状態でこの世を彷徨っている間に、世界を形作る根幹となる力と繋がった。」
「そんなもの───」
そんなもの、神とそう変わりないではないか。そう言おうとしたが蛇は言葉が出なかった。
蛇はそれ以上会話をせず、無数の光線をノアに浴びせた。
だが、それはノアには全く効かなかった。ノアは1歩も動かず佇み、黒い光の帯はノアの手前で弾け消えた。
次の瞬間、一瞬にして蛇の視界からノアが消えた。
蛇は辺りを見回し、ノアは自分の後ろにいることに気づいた。逃すまいと蛇は殴りかかる。だが、相手を殴るはずの腕が見当たらない。
「────っ!!??」
蛇は視界の両端に影を見つけた。それは蛇の足元に落ちた自分自身の両腕だ。ノアが先程消えた瞬間に斬り落としていたのだ。
「今は消えてもらうぞ。すぐに本体も見つけて消してやる。楽しみにしていろ。」
大気中の魔力がノアに集まりだし星のように輝いている。
ノアは高く跳躍し、魔力を纏った剣を振り抜き蛇を一刀両断した。
「待っていろ。本体でなら貴様はおろか残りの機械も人間も全員消し去ることができよう。そして俺は1万年越しの願いを叶える。」
蛇の身体はボロボロと崩れ去った。
「ノアー!大丈夫か!」
城壁へ向かい歩いているノアにハイドが走り寄ってくる。
「ハイド、お前が外に出たらダメだろ。」
「これくらいなら大丈夫だよ。
───ノア、雰囲気違うね。君、本当にノアなのか?」
「あぁ、俺はノアだよ。ちょっと変わっただけだ。気にするな。」
ハイドは困ったような眼差しをノアに向け、今日は休むよう促した。ハイドがそう言うならと、ノアは家へ帰り休むことにした。
その後は特に変わったことは起きず1日が終わった。
翌日の昼、ハイドに呼ばれノアは城を訪れていた。
「ノア、身体は休められた?」
「あぁ、ゆっくりさせてもらったよ。そもそもそんなに強い相手じゃなかったしな。」
ハイドはふぅ、と短いため息をつき口を開く。
「やっぱり、君はもう僕の知っているノアじゃないんだね。力が強くなっただけじゃない。僕に対する言葉使いも違う。君は、ずっとノアの隣にいた人だね。」
「気づいていたのか。鋭いな。」
「まぁね。これでも神器所持者だからね。それくらいは分かるよ。でも、どうしてそうなったの?」
「色々あったんだよ、話せば長い。まだこの身体に慣れてないから動きづらいけど、堕鎮相手なら全く問題ない。」
「蛇相手にも瞬殺だったからね。信頼してるよ。」
数分後、2人が話終わりノアが部屋から出ようと扉に手をかけた時、強大な禍々しい殺気が大気を支配した。
2人は外に飛び出た。
黒く大きなそれは国の真上上空に浮かんでいた。直径100m程の球体で白い煙を放出している。
「ハイド、なんだあれは!あれが蛇の本体なのか!?」
「知らない…。あんな存在、イヴ様からも聞いていない。そもそも生物なのか?あの煙は毒ガスだぞ!」
「毒だって!?ここは大丈夫なのか?」
「あぁ、盾の力で防いでいる。結界の中に居れば安全だよ。だが、あれを排除するのなら結界から出なければ…。ノア、君なら毒を吸い込んでも無効化できるんじゃないのか?」
「いや、確かに死にはしないだろうが分解するまで時間がかかる。その間は動けないだろう。」
「───結界内からどうやって……。」
その時、球体の下方部が四方向に開き、中から6つの鎌のようなものが現れた。そしてその鎌は結界に斬りかかった。
だが結界に破れる気配は無い。
ハイドは騎士を全員集め対処法を考えることにした。しかし、誰からも良い案は出てこずただただ時間だけが過ぎていく。
遠方から強大な無数の魔力を感じたノアとハイドは上を見た。
すると光の矢が黒いものに降り注いだ。
「なんだあの矢は…。」
「あれはファムの天の弓の矢だよ。」
「ファムが近くにいるってことか!?」
「いや、天の弓は地球上のあらゆる場所まで矢を放つことができるんだよ。だからファムはここから約1万キロ離れた所から弓を引いているんだ。」
黒い何かは絶えず降り注ぐ矢を意に介さず攻撃を続けている。
「神器の攻撃でも無傷なのか…。あの硬さだとアンマの槍でも擦り傷をつけられるかどうかだなぁ。ノアはどう?斬れそう?」
「やってみないと分かんないけど、頑張ればいけるかも。」
「まじかぁ……。それってひょっとしたら神器以上の火力を出せるってことじゃん。反則だよ…。」
直後、後ろに気配を感じ振り返ると天の馬に乗った風花がいた。
「驚かせてごめんね!とりあえず説明は後!早く乗って!」
ノアは一瞬戸惑ったがすぐさま馬に飛び乗った。
「僕がここを離れると結界が解けちゃうから僕はここに残るね。後で報告よろしく!」
ノアと風花はハイドを残し飛び去った。
目を開けるとアンマの国にいた。目の前にはイヴとアンマが立っている。
「ノア君、久しぶり!!って君の方は初めてだね。」
「まぁ、一方的に見てはいたから初めましてって感じはしませんけど。」
「元気そうだね。とまぁ、呼んだのは突如飛来したあの黒いのについて話をするため。でも私もあれについては全く知らないんだよねぇ、ほんっとにびっくりしたよ。だから知ってそうな人に聞きに行きます。」
「誰です?鬼一さんですか?」
「んーん、違うよ。アヴァロンの魔術師、マーリンだよ。ハイドとファムがあれを抑えてくれているうちにとっとと行くよ!」
ノア、イヴ、風花、アンマは天の馬に掴まり、地球の内側にあるというアヴァロンへと移動した。
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