共生していく
今回はリオ視点です。
契約を失ってから、僕はずっとぼんやりしていた。僕とレオのつながり。たしかな証がなくなってしまった。レオもきっと記憶が戻ってきたら、僕のことを許さないだろう。
それこそ涙が枯れはてるまで泣いた。でも、毎日のように見るレオに捨てられる悪夢に、そんな気力体力はどんどん削られていった。
「ほら、少しだけでも食べないと。そのままだと死んじゃうわよ」
ベロニカがあれこれ言ってくるが、レオに捨てられるくらいならいっそそうなってもいいかもしれない、とすら思えてくる。チラビも時折様子を見に来てはつついてくる。邪魔しないでほしい。このまま現実を知らずにいられるなら。そう思ったとき、静かに部屋のドアが開いた。
小さな足音が近づいてきて、遠慮がちに声をかけられる。
「…リオ、大丈夫?ちゃんと食べて寝てる?」
弾かれたように顔をあげる。そこには、何度も夢に見たレオがいた。夢と違って、僕を心配して、優しく抱きしめてくれる。僕は思わずすがりついた。
「ごめんなさい、レオ!もうしない、もうしないから、すてないで……!」
レオの胸で泣きじゃくる。レオはそんな僕の頭を優しくなでた。
「だいじょうぶ。何があっても、絶対に捨てたりしない。ちゃんと決めたから」
やっと涙がおさまってきた僕を抱えるようにして、レオはゆっくりと立たせる。戸惑う僕に、レオは手を差し出して満面の笑みで言った。
「そうしたら、ベロニカさんにちゃんと話して、封印?を解いてもらわないと。うっかり消滅しました、とか嫌だよ?」
僕も泣きすぎて熱を持った顔で、にっこり笑って頷く。伸ばされた手を取り、しっかりとつなぐ。
すると、ドアのほうでガタン、と音がして、ベロニカがしりもちをついているのが見えた。見られたと気づいて焦っているレオはかわいいけど、まさかこいつ、ずっと覗き見してたのか?僕ににらまれてもベロニカはまるで動じず、堂々と言い放った。
「話は聞かせてもらったわ!ついでに仲良くしてる眼福なところも見れたし、ちゃちゃっと封印を解いちゃいましょう!」
真っ赤になって慌てだすレオの手をしっかり握りしめてベロニカの前に立つと、やつは胸元から一枚の羽を取り出し、指先にともした炎で燃やした。途端に今までなくなっていた二人のつながりが、再びつながる気配がした。
隣の存在から伝わってくる暖かな気配に頬を緩め、ふとあいつのほうを見てぎょっとした。なんと、ドラゴンでさえしり込みするレベルで魔力を食うことで有名な、最高級の記録魔道具を構えてニヤニヤしている。
「撮らないで。減る」
レオを後ろに隠すと、ますますニヤニヤする。
「あ、そうそう、いろいろあって忘れてたんだけど、まだ二人のなれそめとか聞いてなかったんだよね」
迫ってくるやつの迫力から守り切れず、レオが話してしまったのは一生の不覚だ。
「まあ!それで?リオを助けようとして、何も考えずに雪山に飛び出したの?それは…何とかなったからよかったけど、下手したら凍死してたよ。ちゃんと落ち着いて行動しようね」
ベロニカは上機嫌で質問を続ける。さっさとレオを連れて王都に転移すればいいのだが、レオが時折、普段は口にしてくれない気持ちを言ってくれるので、ついタイミングを逃してしまっている。
「それにしても、リオと急に連絡が取れなくなったときは心配したけど、案外楽しくやってたみたいね」
だったらさっさと知らせなさいよ、と文句を言われる。一応気にはかけていたらしい。
レオはというと、もじもじと何か言いたそうにしていた。どうしたのと促すと、指をもてあそびながら恥ずかしそうに言った。
「私も、リオのことが知りたいなぁって……。だめかな?」
うっ。上目遣いとかあざとい。けど、自分のことを話すのは少し恥ずかしい。僕が乗り気でないことに気づいたレオは、口を尖らせた。
「だって、さっきから私のことばっかりなんだもん。リオだけ私のことを知ってるなんてずるい!私だって、リオのことをもっと知りたい!」
レオの可愛すぎるわがままに胸を撃ち抜かれたのは僕だけではなかったようだ。
「すてきね!お姉さんが知ってることなら何でも話しちゃうわ!何から知りたい?」
目をキラキラさせたやつがぐいぐい身を乗り出してくる。レオは、僕の子供時代の様子を知りたがった。
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リオは、あなたと契約するまで名前がなかったの。名づけをする前に両親を亡くしたからね。父親はもともと歌が上手いだけの人間だったから風邪をこじらせてあっさり。母親も後を追ってすぐに。
名づけっていうのはすごく大きな意味があることだから、私たち親戚や仲間にはできなかったの。だから母親の名前を使って、アルフィの息子って呼ばれてたわ。名づけって上位の種族がすると、親や兄弟くらいのつながりがなければ、相手を自分の所有物にするようなものなの。同格か相手のほうが強かったら問題ないけど、親戚連中は軒並み上位種の血が濃くて、リオの父親は人間でしょ?まず無理だろうって思って。
それで私がまだ独身だったころ、我が家にやってきたわけ。
ドラゴンとして生まれた私よりも、同じ雪白鳥の弟と仲が良かったわね。え、兄弟なのに種族が違う?それはそうよ。私は母のドラゴンの要素がまだ強いときにできた子だもの。今はそうでもないけど、雪白鳥ってもともと上位種でもなんでもなかったから、ほとんど完全に同化してからじゃないと相手によっては相手の種族が生まれることが多いのよ。知らない?
まあ、それは置いておいて。リオは、一言で言うなら冷めた子供だったわね。よく私が歌に夢中になっているのを、何が面白いのかさっぱりわからないって顔をしてたわ。
あと、ウサギ肉のパイが好物で、夕食がそれのときは、隠そうとはしていたみたいだけど。ご機嫌なのはバレバレだったなぁ。あれはかわいかった。
でも私たちが構いすぎたからか、ある程度成長したらすぐに独り立ちしちゃったし、それは寂しかった記憶がある。
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「そういえば昔、リオがどうしても苦「わあーっ!」」
にこにこして聞いているレオに気を取られて、危うく黒歴史まで離されるところだった。危ない。とはいえ、新たな日常の光景に、僕は思わず微笑んでいたようだった。
リオ視点でちび(ティラビ)の名前が混ざっているのは誤字ではありません。レオへの執着と、そもそもちゃんと名前を憶えていなかったことが原因です。
一応この章はあと一話ある予定です。




