第十一章 みんなが入れる家
第十一章 みんなが入れる家
運動場に、二つの白い枠が描かれていた。
家を作る場所だ。
離れた材料置き場には、大きな積み木や板が並んでいる。
どれも軽い素材でできていて、端は丸く、つなぐ部分には差し込み口があった。
「屋根と壁、出入りできる入口を作ってください」
白銀先生が、もう一度説明した。
「全員が中へ入ったら、手を上げて知らせます。職員が確認し、完成の旗を上げます」
小吉は材料を見ていた。
いわおは白い枠を見ている。
きゅうが、出発線で足踏みをした。
「運んだらいい?」
悠斗は口を開きかけた。
先に、こはくが答えた。
「何を?」
「大きいやつ」
「大きいの、いっぱいあるよ」
きゅうが材料を見直す。
悠斗は口を閉じた。
観覧席から、親たちの声がする。
七人の名前が、一人ずつ呼ばれた。
子どもたちが手を振る。
悠斗はコースの外へ下がった。
◇
「よーい、始め!」
瑞雲の子どもたちが、一斉に走り出した。
大入道の子は、大きな板を二枚抱える。
ガシャ髑髏の子も、長い棒を何本も持ち上げた。
千里眼の子が遠くから材料を指し、狸の子と天狗の子が取りに走る。
宵待では、きゅうが先に箱へ着いた。
長い棒を一本取る。
白い枠まで運び、地面へ置いた。
すぐに戻ろうとして、小吉とぶつかりかける。
「どこに置く?」
小吉が聞いた。
「ここ」
「ここ、入口にする」
きゅうは棒を見下ろした。
入口になるはずの場所に、横たわっている。
「じゃあ、どこ?」
小吉は白い枠へ足を入れた。
「ここに、柱」
左右を指す。
「こっちにも。上に長いのを置く」
いわおが隣へ立った。
「屋根、支える?」
「うん。みんな入るから、大きくする」
こはくが枠へ入る。
大河も、めめも来た。
ことは少し遅れて歩いてくる。
「ことちゃん、ここまで来られる?」
こはくが呼ぶ。
「いくぅ」
七人が、何もない枠の中へ集まった。
「狭い」
きゅうが言った。
「まだ家、ないよ」
「ここに、みんな入るんでしょ」
小吉が枠の端へ動いた。
「じゃあ、こっちまで使う」
いわおも反対側へ動く。
小吉が両手を広げた。
「柱、ここ」
きゅうが、置いた棒を抱え直した。
「持ってくる!」
◇
悠斗は白い枠を見ていた。
瑞雲には、もう二枚の壁が立っている。
宵待には、棒が一本しかない。
先に材料を運んだ方がいい。
屋根を持ち上げる人間も決めておいた方がいい。
そう思ったところで、いわおが棒を立てた。
小吉が下の差し込み口を確かめる。
「入った」
こはくが反対側を持つ。
「こっちもいるね」
きゅうが次の一本を運んできた。
悠斗は、握っていた競技表を少し緩めた。
隣で夜久園長が、静かに見ている。
悠斗も、そのまま見ていた。
◇
めめは、材料置き場で板を見比べていた。
顔を近づける。
角へ触れ、形を確かめる。
「四角。黄色」
隣の板を見る。
「これも四角。青」
きゅうが走ってきた。
「壁、どれ?」
「四角いの」
めめが黄色い板を指す。
きゅうが持ち上げた。
腕が左右へいっぱいに広がる。
「前、見えない」
「また見えなくなったの?」
こはくが近づいてきた。
「こっち、持つ」
板の端をつかむ。
二人で横に並ぶと、間から道が見えた。
「行こう」
「うん!」
二人が板を運んでいく。
ことは丸い部品の前へ座っていた。
真ん中に穴の開いた、円い窓枠だった。
鼻先で押す。
少し転がった。
ことが立ち上がり、また押した。
「ことちゃん、それも持っていくの?」
めめが尋ねる。
「まどぉ」
ことは、家を作っている方へ転がした。
途中で横へ向く。
めめが足を止めた。
「そっちじゃない。こっち」
丸い窓枠を向け直す。
ことが鼻で押した。
めめは隣を歩いた。
◇
家の枠が、少しずつ立ち上がった。
いわおが柱を押さえる。
小吉が下を確かめ、こはくが板を差し込む。
大河は、上へ渡す棒を持ち上げた。
「もう一本、長いの」
小吉が言った。
きゅうは材料置き場にいる。
箱の前へしゃがみ、何かを探していた。
大河が顔を上げる。
「きゅうちゃん!」
きゅうが振り返った。
「長い棒、もう一本!」
きゅうは短い棒を持ち上げた。
「これ?」
「もっと長いの!」
別の棒が上がる。
大河がうなずいた。
「それ!」
小吉は、もう一度言わなくてよかった。
いわおも柱から手を離さずに済んだ。
きゅうが棒を運んできた。
大河へ渡す。
大河はそれを、柱の上へ載せた。
小吉が下から見上げる。
「もうちょっと、こっち」
大河が動かした。
棒の端が、柱の溝へ収まる。
「できた」
小吉が言った。
大河は、ゆっくり手を離した。
◇
隣の家では、大きな声がしていた。
「屋根、先に載せる!」
「まだ壁がないよ!」
「こっちを入口にするんだって!」
狸の子が板を支え、大入道の子が屋根を持ち上げている。
天狗の子は、反対側へ入口の枠を運んでいた。
千里眼の子が何か言ったが、二人の声に重なってしまった。
ガシャ髑髏の子が長い腕で屋根を押さえる。
入れようとしていた壁が引っかかった。
「持ち上げて!」
「今、持ってる!」
一人ずつなら、大きな物も運べる。
形も色も、すぐ分かる。
けれど、置きたい場所が違っていた。
宵待では、ことの窓枠が到着した。
「まどぉ」
小吉が振り返る。
「丸いの」
「ここに入るよ」
めめが壁の穴を指した。
こはくが窓枠を持ち上げる。
向きを変え、穴へはめた。
ことが窓の向こうを見る。
「みえるぅ」
向こう側から、きゅうが顔を出した。
「ぼく!」
「いるぅ」
こはくが笑った。
「まだ入らないで。屋根、これから」
◇
屋根の板は、二枚あった。
きゅうとこはくが、一枚を運ぶ。
大河が受け取り、上へ持ち上げた。
枠の片側が、少し傾く。
いわおが身体を横へ広げた。
家の外側から、柱を支える。
「今、いい?」
大河が聞いた。
「いいよ」
いわおが答える。
小吉が柱の下へ、もう一つ支えを差し込んだ。
大河が屋根を載せる。
反対側の板も、こはくと一緒に持ち上げた。
二枚の屋根が、真ん中でつながった。
小吉が家の周りを一周する。
柱の下を見る。
壁へ手を当てる。
「いわお、少し離して」
いわおが、そっと離れた。
家は立っていた。
いわおの身体が、元の大きさへ戻る。
「倒れない」
小吉が言った。
「入ろう!」
きゅうが入口へ向かった。
大河が続く。
めめは入口の縁を確かめてから、頭を下げた。
こはくがことの隣につく。
「ここ、少しまたげる?」
「できるぅ」
ことの前足が、低い枠を越えた。
後ろ足も入る。
小吉がいわおを見た。
「いわおも」
「入口、通れる?」
「通れるように作ったよ」
いわおは入口へ立った。
身体の端が、どちらにも当たらない。
そのまま、中へ入れた。
最後に、小吉が入る。
◇
悠斗は、家の入口を見ていた。
七人が入った。
もう一度、窓から見える顔を確かめる。
全員いる。
小吉が入口から顔を出した。
「みんな、入った?」
「入った!」
きゅうが答える。
「ぼくも、入れた」
いわおの声がする。
大河が手を上げた。
「できました!」
職員が近づく。
入口から中を見て、一人ずつ数えた。
壁と屋根を確かめる。
宵待の旗が上がった。
「宵待保育園、完成です!」
拍手が起きた。
親たちが立ち上がる。
七人の名前を呼ぶ声が、運動場へ広がった。
きゅうが窓から顔を出した。
「勝った?」
悠斗がうなずく。
「勝ったよ」
「家、できた!」
きゅうが中へ顔を戻す。
こはくの笑う声がした。
めめも窓へ近づく。
ことの鼻先が、その下から出た。
いわおは壁に触れ、小吉は屋根を見上げている。
大河が、入口から父親へ手を振った。
得点板に、宵待の印が一つついた。
悠斗は、そちらを見なかった。
家の中から、小吉が呼ぶ。
「悠斗先生」
「何だ?」
「入る?」
「俺が入ったら、狭くなるだろ」
「ここ、まだある」
小吉が入口のそばを指した。
こはくが少し横へ寄る。
きゅうも足を引っ込めた。
悠斗は確認を終えた職員を見た。
職員が笑ってうなずく。
悠斗は頭を下げた。
片膝をつき、家の中へ入る。
「屋根、低いぞ」
「先生が大きい」
小吉が言った。
「お前らの家だからな」
悠斗は膝を抱えて座った。
目の前に、七人がいる。
丸い窓の向こうでは、親たちがカメラを構えていた。
「全員、こっちを見て!」
子どもたちが窓へ顔を向ける。
悠斗も、少し身体をかがめた。
七人が作った家の中は、思っていたより、ずっとにぎやかだった。




