↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵待保育園 真夜中の運動会  作者: もちむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/12

第十一章 みんなが入れる家

第十一章 みんなが入れる家


 運動場に、二つの白い枠が描かれていた。


 家を作る場所だ。


 離れた材料置き場には、大きな積み木や板が並んでいる。


 どれも軽い素材でできていて、端は丸く、つなぐ部分には差し込み口があった。


「屋根と壁、出入りできる入口を作ってください」


 白銀先生が、もう一度説明した。


「全員が中へ入ったら、手を上げて知らせます。職員が確認し、完成の旗を上げます」


 小吉は材料を見ていた。


 いわおは白い枠を見ている。


 きゅうが、出発線で足踏みをした。


「運んだらいい?」


 悠斗は口を開きかけた。


 先に、こはくが答えた。


「何を?」


「大きいやつ」


「大きいの、いっぱいあるよ」


 きゅうが材料を見直す。


 悠斗は口を閉じた。


 観覧席から、親たちの声がする。


 七人の名前が、一人ずつ呼ばれた。


 子どもたちが手を振る。


 悠斗はコースの外へ下がった。


     ◇


「よーい、始め!」


 瑞雲の子どもたちが、一斉に走り出した。


 大入道の子は、大きな板を二枚抱える。


 ガシャ髑髏の子も、長い棒を何本も持ち上げた。


 千里眼の子が遠くから材料を指し、狸の子と天狗の子が取りに走る。


 宵待では、きゅうが先に箱へ着いた。


 長い棒を一本取る。


 白い枠まで運び、地面へ置いた。


 すぐに戻ろうとして、小吉とぶつかりかける。


「どこに置く?」


 小吉が聞いた。


「ここ」


「ここ、入口にする」


 きゅうは棒を見下ろした。


 入口になるはずの場所に、横たわっている。


「じゃあ、どこ?」


 小吉は白い枠へ足を入れた。


「ここに、柱」


 左右を指す。


「こっちにも。上に長いのを置く」


 いわおが隣へ立った。


「屋根、支える?」


「うん。みんな入るから、大きくする」


 こはくが枠へ入る。


 大河も、めめも来た。


 ことは少し遅れて歩いてくる。


「ことちゃん、ここまで来られる?」


 こはくが呼ぶ。


「いくぅ」


 七人が、何もない枠の中へ集まった。


「狭い」


 きゅうが言った。


「まだ家、ないよ」


「ここに、みんな入るんでしょ」


 小吉が枠の端へ動いた。


「じゃあ、こっちまで使う」


 いわおも反対側へ動く。


 小吉が両手を広げた。


「柱、ここ」


 きゅうが、置いた棒を抱え直した。


「持ってくる!」


     ◇


 悠斗は白い枠を見ていた。


 瑞雲には、もう二枚の壁が立っている。


 宵待には、棒が一本しかない。


 先に材料を運んだ方がいい。


 屋根を持ち上げる人間も決めておいた方がいい。


 そう思ったところで、いわおが棒を立てた。


 小吉が下の差し込み口を確かめる。


「入った」


 こはくが反対側を持つ。


「こっちもいるね」


 きゅうが次の一本を運んできた。


 悠斗は、握っていた競技表を少し緩めた。


 隣で夜久園長が、静かに見ている。


 悠斗も、そのまま見ていた。


     ◇


 めめは、材料置き場で板を見比べていた。


 顔を近づける。


 角へ触れ、形を確かめる。


「四角。黄色」


 隣の板を見る。


「これも四角。青」


 きゅうが走ってきた。


「壁、どれ?」


「四角いの」


 めめが黄色い板を指す。


 きゅうが持ち上げた。


 腕が左右へいっぱいに広がる。


「前、見えない」


「また見えなくなったの?」


 こはくが近づいてきた。


「こっち、持つ」


 板の端をつかむ。


 二人で横に並ぶと、間から道が見えた。


「行こう」


「うん!」


 二人が板を運んでいく。


 ことは丸い部品の前へ座っていた。


 真ん中に穴の開いた、円い窓枠だった。


 鼻先で押す。


 少し転がった。


 ことが立ち上がり、また押した。


「ことちゃん、それも持っていくの?」


 めめが尋ねる。


「まどぉ」


 ことは、家を作っている方へ転がした。


 途中で横へ向く。


 めめが足を止めた。


「そっちじゃない。こっち」


 丸い窓枠を向け直す。


 ことが鼻で押した。


 めめは隣を歩いた。


     ◇


 家の枠が、少しずつ立ち上がった。


 いわおが柱を押さえる。


 小吉が下を確かめ、こはくが板を差し込む。


 大河は、上へ渡す棒を持ち上げた。


「もう一本、長いの」


 小吉が言った。


 きゅうは材料置き場にいる。


 箱の前へしゃがみ、何かを探していた。


 大河が顔を上げる。


「きゅうちゃん!」


 きゅうが振り返った。


「長い棒、もう一本!」


 きゅうは短い棒を持ち上げた。


「これ?」


「もっと長いの!」


 別の棒が上がる。


 大河がうなずいた。


「それ!」


 小吉は、もう一度言わなくてよかった。


 いわおも柱から手を離さずに済んだ。


 きゅうが棒を運んできた。


 大河へ渡す。


 大河はそれを、柱の上へ載せた。


 小吉が下から見上げる。


「もうちょっと、こっち」


 大河が動かした。


 棒の端が、柱の溝へ収まる。


「できた」


 小吉が言った。


 大河は、ゆっくり手を離した。


     ◇


 隣の家では、大きな声がしていた。


「屋根、先に載せる!」


「まだ壁がないよ!」


「こっちを入口にするんだって!」


 狸の子が板を支え、大入道の子が屋根を持ち上げている。


 天狗の子は、反対側へ入口の枠を運んでいた。


 千里眼の子が何か言ったが、二人の声に重なってしまった。


 ガシャ髑髏の子が長い腕で屋根を押さえる。


 入れようとしていた壁が引っかかった。


「持ち上げて!」


「今、持ってる!」


 一人ずつなら、大きな物も運べる。


 形も色も、すぐ分かる。


 けれど、置きたい場所が違っていた。


 宵待では、ことの窓枠が到着した。


「まどぉ」


 小吉が振り返る。


「丸いの」


「ここに入るよ」


 めめが壁の穴を指した。


 こはくが窓枠を持ち上げる。


 向きを変え、穴へはめた。


 ことが窓の向こうを見る。


「みえるぅ」


 向こう側から、きゅうが顔を出した。


「ぼく!」


「いるぅ」


 こはくが笑った。


「まだ入らないで。屋根、これから」


     ◇


 屋根の板は、二枚あった。


 きゅうとこはくが、一枚を運ぶ。


 大河が受け取り、上へ持ち上げた。


 枠の片側が、少し傾く。


 いわおが身体を横へ広げた。


 家の外側から、柱を支える。


「今、いい?」


 大河が聞いた。


「いいよ」


 いわおが答える。


 小吉が柱の下へ、もう一つ支えを差し込んだ。


 大河が屋根を載せる。


 反対側の板も、こはくと一緒に持ち上げた。


 二枚の屋根が、真ん中でつながった。


 小吉が家の周りを一周する。


 柱の下を見る。


 壁へ手を当てる。


「いわお、少し離して」


 いわおが、そっと離れた。


 家は立っていた。


 いわおの身体が、元の大きさへ戻る。


「倒れない」


 小吉が言った。


「入ろう!」


 きゅうが入口へ向かった。


 大河が続く。


 めめは入口の縁を確かめてから、頭を下げた。


 こはくがことの隣につく。


「ここ、少しまたげる?」


「できるぅ」


 ことの前足が、低い枠を越えた。


 後ろ足も入る。


 小吉がいわおを見た。


「いわおも」


「入口、通れる?」


「通れるように作ったよ」


 いわおは入口へ立った。


 身体の端が、どちらにも当たらない。


 そのまま、中へ入れた。


 最後に、小吉が入る。


     ◇


 悠斗は、家の入口を見ていた。


 七人が入った。


 もう一度、窓から見える顔を確かめる。


 全員いる。


 小吉が入口から顔を出した。


「みんな、入った?」


「入った!」


 きゅうが答える。


「ぼくも、入れた」


 いわおの声がする。


 大河が手を上げた。


「できました!」


 職員が近づく。


 入口から中を見て、一人ずつ数えた。


 壁と屋根を確かめる。


 宵待の旗が上がった。


「宵待保育園、完成です!」


 拍手が起きた。


 親たちが立ち上がる。


 七人の名前を呼ぶ声が、運動場へ広がった。


 きゅうが窓から顔を出した。


「勝った?」


 悠斗がうなずく。


「勝ったよ」


「家、できた!」


 きゅうが中へ顔を戻す。


 こはくの笑う声がした。


 めめも窓へ近づく。


 ことの鼻先が、その下から出た。


 いわおは壁に触れ、小吉は屋根を見上げている。


 大河が、入口から父親へ手を振った。


 得点板に、宵待の印が一つついた。


 悠斗は、そちらを見なかった。


 家の中から、小吉が呼ぶ。


「悠斗先生」


「何だ?」


「入る?」


「俺が入ったら、狭くなるだろ」


「ここ、まだある」


 小吉が入口のそばを指した。


 こはくが少し横へ寄る。


 きゅうも足を引っ込めた。


 悠斗は確認を終えた職員を見た。


 職員が笑ってうなずく。


 悠斗は頭を下げた。


 片膝をつき、家の中へ入る。


「屋根、低いぞ」


「先生が大きい」


 小吉が言った。


「お前らの家だからな」


 悠斗は膝を抱えて座った。


 目の前に、七人がいる。


 丸い窓の向こうでは、親たちがカメラを構えていた。


「全員、こっちを見て!」


 子どもたちが窓へ顔を向ける。


 悠斗も、少し身体をかがめた。


 七人が作った家の中は、思っていたより、ずっとにぎやかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。