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主人公に選ばれなかったヒロイン、要らないなら貰います  作者: 西藤りょう


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【主人公と四水姫と呼ばれるヒロインたち】4


 残念系ヒロインこと河野玲奈かわのれな癇癪かんしゃくが落ち着いたのは、空がオレンジ色から藍色に変わり始めた頃だった。


 夕也と香織、二人の保護者による全力サポート。

 ご機嫌を取り、褒めちぎり、今ではすっかり満足気な様子だが、それまでは大変だった。


 玲奈を挟み、同じベンチに座る夕也と香織は、お互いに目を合わせると『お疲れ』とアイコンタクトを交わした。


(俺は高校から水之崎に入学したから、河野とは関わりはなかったけど、泉藤はずっと……それこそ中等部からコイツの面倒を見てきたんだもんなぁ……)


 心の底から香織に同情する夕也。

 そして、心の底から玲奈に対して、もっとしっかりして欲しいと願った。


「俺、飲み物買ってくるけど、二人は何かいる?」


 夕也は香織を労う意味も込めて、そんな提案をする。

 すると――


「ココア!」


 案の定というか、なんというか……。

 我先にと言わんばかりに、そう言ってくる玲奈。


「……了解」


 何も言うことはない。

 玲奈がこういう人物だということを、夕也は理解している。


 それに今は癇癪を落ち着かせるために機嫌をとり、褒めちぎった直後。

 玲奈は調子に乗っているだけ。タイミングが悪いだけだ。

 だから……今は何も言うことはない。ないのだが――


「泉藤は? 腹減ってるなら、軽食とか買ってこようか? コンビニまで走ってすぐだし、少しくらいなら奢るぞ?」


 これは差別ではない。

 区別である。

 頑張った人には報いが必要だ。


「そこまでしなくてもいいよ。お茶で十分。ありがと」


 女神の微笑み。

 玲奈とは違う。

 圧倒的な器の違いである。


「そうか? 色々疲れているだろうし、お菓子の一つでも――」


「ふふ、大丈夫だよ。それより、玲奈にも聞いてあげて。仲間はずれにされて、むくれちゃってるから」


 香織は玲奈の頬をツンツンしながらそう言う。

 

「……うちには聞かないの?」


 不満ですよ。

 という声が今にも聞こえてきそうな視線。

 夕也は仕方ないと言った様子で少しだけ肩を落とした。


「あーーー、そうだな。河野は何かいるか?」


「いらない。コンビニまでは走るのは大変だろうし。ね?」


 ドヤ顔で香織を見る玲奈。

 自分は気が使えるのだとアピールしたいのだろう。


(なんだよ!? 何がしたいんだよ!?)


 夕也は心の中で叫んだ。


「あ、そう」


「うん!」


 褒めてと尻尾をブンブンと振る小型犬――玲奈。

 それを穏やかな表情で相手を飼い主――香織。


(今度、泉藤を飯に誘おう。もちろん、俺の奢りで……)


 夕也はそう心に決めた。


「それじゃ、買ってくるよ」


 ベンチを立ち、自販機に向かう。

 空は藍色。

 もうじき夜が来る……そんな色に空は染まっていたのだった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「それじゃ、そろそろ帰るか」


 なんだかんだ長話しをしてしまった三人。

 夕也のその一言に玲奈と香織は頷いた。


「そうだね。もう夜だし、玲奈はこのあと忙しいんでしょ?」


「んー、まぁ、そうだね。そこまで大変ってわけじゃないけど、忙しいっちゃ、忙しいかな。あーーー、サボりたい」


 そう言って、だらんと体を脱力し、腕を降ろす玲奈。

 夕也は驚愕した。


「河野にやることがある? 忙しい?」


「なにその顔! うちにだってやることくらいあるよ!」


「いや、だって……え? バイトでもしてんの?」


「まぁ、どこかのお店でバイトしてるっていうわけじゃないけど……近いといえば近いかな?」


 驚きの事実。

 

(あの河野が……働いている?)


 夕也は驚愕して、更に驚愕。

 なんかもう、とにかく驚いた。


「ふふ。でも、そうだよね。玲奈って実は凄い子だもんね」


 夕也と玲奈。二人のやり取りを楽しそうに見ていた香織は、笑いながらそう言う。

 

「いや、うちが特別凄いわけじゃないよ。ただ、できただけだし……うちのは趣味の延長線にあるだけ。本職の人たちとは比べ物にならないよ」


「そう? でもこの前、有名な人に依頼されたって言ってなかった?」


「……まぁ、そうだね」


 照れくさそうにポリポリと頬を掻く玲奈。

 その姿は一見謙虚に見えるが、どこか自信のある者にしか出せない空気を纏っていた。


 そんな中、話についていけず、ただ二人を見ることしかできない夕也。

 すると、それに気付いた香織は玲奈をグっと夕也に近づけると、本当に嬉しそうに玲奈の裏の顔を紹介し始めた。


「玲奈って実は作詞ができるんだよ~。うちの学校はアルバイトは禁止されてるけど、玲奈の場合は特例で許可が出てて――」


 話が入ってこなかった。

 ただ驚くことしかできなかった。


(河野が作詞? それも……それで報酬を受け取っている? 趣味じゃなくて……それを仕事にしてるってことか?)


「……それ、マジ?」


「マジもマジだよ~。本当に凄いよね」


「うちはそうでもないよ。ただ、沢山曲を聞いてるうちに、できそうだなぁって……作曲とかはまだ勉強中だし」


 たとえ生活能力が著しく低くても、お金の使い方が雑でも、色々と多方面でダメダメな玲奈であったとしても……人間、何か一つは強みを持っているものなのだろう。


(あの河野が……? マジで? え? マジで?)


 夕也の中で玲奈の評価が上がる。

 ダメダメな子から、ダメながらも才能を持っている子に昇格した瞬間だった。

 しかし――


「おっ、とと」


 躓き、転びそうになる玲奈。


「おー、危ない、危ない……」


 晒すのは気の抜けたアホな顔。

 これぞ玲奈クオリティーである。


 前言撤回。

 評価を上げた直後にそんなものを見せられてしまえば、リスペクトは一瞬にして消え去ってしまう。

 タイミング諸々、本当に勿体無い奴である。


 そのあと、夕也と玲奈、香織は主に玲奈のこれまでの実績について話しながら帰路についていた。


 玲奈は自分のことを話されて、どこか恥ずかしそうに。

 香織はときに茶化しながらも、友人が結果を出していることを、まるで自分のことのように喜びながら。

 そして、夕也はどんどん明かされる玲奈の才能に驚きながら、三人は夜の道を歩く。


 それは、どこにでもあるような一幕。

 少しの青春要素を含んだ、なんの変哲もない日常の一部だった。

 物語として扱うなら不十分と言えるような、起伏がなく、平凡で平和な時間である。


「あ、そうだ。忘れてた!」


 少しだけ前を歩いていた香織は何かを思い出したのだろう。

 振り返るように玲奈を見ると、言葉を続けた。


「夏休み前までに決めてって先生に言われてた、秋に開催される文化祭の実行委員ね、毎年希望者が出ないってことで、平等化を図ってクラスの名簿から抽選をしたんだけど――――弘斗と私たち四人が選ばれたよ」



 それはあまりにも低い確率から起きた、奇跡のような出来事。

 しかし……もしも、この世界が弘斗を主人公とした物語だったならば、それは奇跡などではなく――運命シナリオによって引き起こされた出来事だと言えるだろう。


 全てはご都合主義という特権を持つ、主人公――広瀬弘斗を中心としたストーリーを紡ぐために……。


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