【主人公と四水姫と呼ばれるヒロインたち】3
「香織!? なんでここにいんの!?」
突然現れた香織。
最初に声を上げたのは玲奈だった。
「ふふ。さぁ~、なぜでしょう? ヒントはお昼休み」
「昼休み? うちが桐原を呼び出したのは放課後になってからなんだけど……」
そうブツブツ言いながら、考えるような仕草を見せる玲奈。
そして、それを楽しそうに微笑みながら見つめる香織。
その光景だけで、二人がどんな関係なのか予想するのは簡単だった。
(まるで小さな子供に付き添う母親みたいだ)
と、夕也は二人のやり取りを見て思う。
彼女の名前は泉藤香織。
夕也や玲奈、弘斗と同じクラスであり、複数いるヒロインの一人である。
長く伸ばした少し癖のある茶髪に、優しそうな顔つき。
そして、何よりも目がいってしまうのは、玲奈と同等かそれ以上に育っている胸部だろう。
しかし小柄な玲奈と違って、全体のバランスが良いと感じるのは、体型もそうだが、全てを包み込んでしまいそうな優しい雰囲気のせいだろうか。
香織を一言で表すなら、”母性”。
姉か母か、それは個人の主観によるところが大きいが、とにかく母性が凄かった。
「それで、えっと、キミは……?」
「……桐原。桐原夕也」
「そっか、桐原くんね。同じクラスの男の子なのは知ってたけど、名前は知らなかったよ。話すのは初めて……だよね?」
「まぁ、そうだな。俺は外部生だし、教室でも関わりは無かったから」
そう言いながらも、心の中では、
(俺ってそんなに影、薄いのかなぁ!? 三度目だぞ! 三度目! 河野、滝ノ宮に続いて泉藤まで……なんで水之崎の奴は人の名前を覚えないんだ?)
と、なんともデジャヴを感じるやり取りに対してそんなことを思う。
「それじゃあ、ほぼ初めましてだね。私は泉藤香織、玲奈の友達だよ」
「あ、ああ、うん」
こういう時どうすればいいのか。
最近は玲奈に優悟と、色々と残念な奴らとしか話してこなかった夕也。
真正面から優しげな笑みを向けてくる香織に対して、どうすれば良いのか分からず、つい目を逸らす。
すると――
「ふふ。桐原くんって可愛いね」
「なっ……、はぁ!?」
まさかの発言につい声を荒げる夕也。
これまでの人生で可愛いという印象を持たれることなど、一度も無かったのだから当然である。
「一見クールって感じだけど、話してみないと分からないものだね。確かにこれなら玲奈と仲が良さげなのも納得できるかも」
そう言って未だに質問に答えられず、ウンウンと唸っている玲奈と、視線の行き先を迷っている夕也を交互に見る香織。
夕也、玲奈、夕也、玲奈。
何度も行き来するように、視線を動かす。
そして、不思議そうに首を傾げると、最後に夕也を見て、とある質問を投げかけてきた。
「玲奈と桐原くんの関係って――何?」
「関係? それは、ただのクラスメイトだけど」
「クラスメイト? 本当に? 恋人同士じゃなくて?」
なにかを訝しむような視線。
夕也は香織の発言に戸惑いながら「……いや、全然違う」と、否定した。
(何をどう見れば、そう見えるんだ? っていうか、実際にそうなったら色々と危ない。マジで危ない。ファンに刺されるのはごめんだ)
「そうなの? それにしては、玲奈と仲が良すぎるように見えるんだけどなぁ」
まだ疑惑は晴れていないのだろう。
夕也と玲奈に向けている、探るような視線に変化はなかった。
「お昼休みのとき、玲奈が桐原くんを見つめてたから、てっきり二人は付き合ってるものだと思ってたんだけど……今まで玲奈が男の子を一方的に見るなんて一度もなかったし」
(あー、なるほど。それで河野と俺を探してここに来たのか。まぁ、納得だな。そして……泉藤がここにいる理由が本人の口から出たのに、考えることに夢中になっている河野。本当に残念な奴だ)
「勘違いだ。普通にクラスが同じってだけ」
「そうなの?」
「そもそも、初めて話したのも、この前――それこそ紫苑祭の時だし」
「へぇー、じゃあ、相性が良かったんだね。もう分かってると思うけど、玲奈は極度の人見知りだから、この短期間で友達になれるのは凄いことだよ」
なぜか嬉しそうに言う香織。
「友達ねぇ。友達かどうかすら怪しい関係だけどな」
「――えっ!? うちらって友達じゃ無かったの!?」
ずっと自分の世界に入り込み、香織が突然姿を現した理由について悩んでいた玲奈は、それを聞くと、現世にカムバック。
物凄いスピードでグインと首を回し、夕也の顔を見た。それはもう、ガン見した。
「友達じゃないだろ。まともに話したのだって数回だぞ?」
「そっか、そうだよね……」
相当なショックを受けたのだろう。
今にも泣きだしそうになる玲奈。
とことん面倒くさい奴である。
「うちら、友達じゃなかったんだ……」
ボソッと小声でそう言う玲奈。
もう一度言おう。
……本当に面倒くさい奴である。
「あー、もう分かったよ。俺と河野は友達。これでいいか?」
「……なんか適当でヤダ。もっとちゃんと言って」
(コイツ……! マジか、マジでか……、本当になんなんだ!? 面倒くさいなんてもんじゃねーぞ……)
しかし、もしここで友達なんかじゃない。
お前は面倒くさい奴だ。
なんて言ったら、更に手間が増えることは目に見えている。
本気で泣き出してもおかしくない。
(河野みたいな奴でも、異性が泣くっていうのは……アレだよなぁ……)
だから――
「……俺と河野は友達。来月は一緒に飯も行くし、これからもこうして話す。オーケイ?」
拙い言葉を無理矢理にでも紡ぐ夕也。
玲奈も大概だが、夕也も夕也で大概だ。
どこまでもコミュニケーション能力に難のある二人である。
しかし、案外それでも玲奈は満足したようで――
「ん、合格。桐原とうちは友達」
一旦は困難を乗り越える夕也。
とりあえずはこの状況をクリアしたと言っていいだろう。
「っていうか香織はなんでここに来たの? まだ分からないんだけど」
「……え? 私、さっき答え言ったよ?」
「ん? 言ってた? 全然聞いてなかった」
夕也と香織は顔を見合わせると、二人して呆れたような視線を玲奈に送る。
そして――
「玲奈はもうちょっとだけ、周りに気を配った方がいいと思う」
「河野はアレだな。色々とちゃんとしないダメだぞ」
少しずつ玲奈の保護者になりつつある夕也と、中等部の頃から保護者の立場だった香織。
二人の言葉は、先程まで勃発していた”友達、友達じゃない口論”で傷心中だった玲奈に刺さると、
「うーーー!!! キャーーー!!!」
癇癪を起こし暴れるのだった。




