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主人公に選ばれなかったヒロイン、要らないなら貰います  作者: 西藤りょう


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【主人公と四水姫と呼ばれるヒロインたち】2


 それは夕也からしてみれば、とても重要なことで。

 それは玲奈からしてみれば、不思議なことで。

 そしてそれは、他人からしてみれば、五十歩百歩としか思えないことだった。


 場所はオレンジ色に染まった空が背景を彩る、駅近くの小さな公園。

 そこに制服を着た二人の男女が同じベンチに座っている――そんな青春100%の素敵なシチュエーション。


 もしもこれが物語の中であったのならば、その公園に居る二人はなんか良い感じに過ごすことだろう。


 ゲームだったらスチル確定。


 間違っても、同じベンチには座ってはいるものの、片方(夕也)は限りなく端に座り、もう片方(玲奈)がそれに対して戸惑いの表情を浮かべている……なんてことにはならないはずだ。


「えーと……何してるの?」


 困惑の玲奈。

 それに対して夕也はマジな顔で周囲を見渡すと、その理由を語った。


「刺されたくないから」


「刺され……ん? なにを言ってる?」


 夕也の返答に、さらに困惑する玲奈。

 玲奈からしてみれば、それは心底意味が分からないだろう。


 しかし、夕也は本気だった。

 本気で刺される心配をしていたのだ。


「河野は男子からモテるだろ?」


「まぁ、多少は……」


「だろ。ほら、危険じゃん」


 それは自分の中だけで完成させた公式。

 途中式を言っていないのだから、コイツ何言ってんだ? という視線を隠すことなく夕也を見つめる玲奈は正しいと言えるだろう。


 しかし、確実に夕也の頭にはその公式は出来上がっていた。


 それは四水姫について優悟と話したときに知ったこと。


 弘斗の周りにいる、水に関する文字を苗字に持つ女子には注意が必要。

 さもないと彼女たちの熱狂的なファンに刺される危険性があるのだ。

 

(そもそも俺は外部生。味方も少ないし、水之崎の文化にも疎い。細心の注意が必要だ)


 夕也は今一度心にそう決めると、玲奈から更に距離を取る。

 しかし、そんな夕也の抵抗も、他人からしてみれば五十歩百歩である。


 この状況、遠くから――それこそ、公園の外から見れば、夕也と玲奈は同じベンチに座っている恋人同士に見えることだろう。


 事実、玲奈の容姿は勿論のこと、夕也の見た目も悪くない。

 中身云々は置いておいても、二人が並べばそれなりに絵になってしまうのだ。


 まぁ、端的に言うと、お似合いな二人ということなのだが……。

 夕也にその気はもちろんなく、今頭にあるのは、どうすれば刺されないか。ということだけだった。


「まぁ、どうでもいいや。それより聞きたいことがあるんだけど」


 夕也の謎の公式に基づく行動について、ついていけないと思ったのだろう。

 玲奈は話題を変えるようにそう言うと、夕也を見る。


「昼休み、うちのこと見てた?」


 ズイっと夕也の方に位置をズラす玲奈。

 夕也は更にベンチの端に寄る。

 窮屈だったが、身の安全が第一だった。


「俺が河野を?」


「うん。なんか視線を感じたからさ、何か用があるのかなって思って」


「いや、別に、何もないけど」


 夕也は意識的に無を演じる。

 確かに夕也は昼休み、玲奈の方向を見ていた。

 実際に向けていた視線は弘斗8に対して玲奈2割といったところだが、見ていたことは事実。


 だから、見ていたことを認めてもいいのだが、


(流石に見ていた理由が猫背やら、髪がボサボサやら……マジでだらしねーなと思ってた。なんて言えるわけないよなぁ)


 ここは流すのが正解だと夕也の思考が告げていた。

 

「そうなの? うちの勘違い?」


「多分。広瀬の話はしてたけど」


「あー、じゃあ、それだ。なんか見られているなぁーって感じがしたんだよね~」


 見られていた理由に納得したのだろう。

 合点がいった様子でそう言う。

 

「呼び出した理由はそれを聞くため?」


「うん。何か用があるのかなって。ほら、紫苑祭から色々とお世話と――多大な迷惑をかけてるから、用事があるなら早いとこ聞いておこうかなって」


 以前の行いについて沙姫さきに散々絞られたのだろう。

 恐怖で目が泳いでいた。


「忘れていいよ。お礼もいらないし」


「それはダメっ! うちのお財布にお金が入ったら即ご飯! いの一番にお礼のご飯! これ絶対! うちのためにも、お願いしますっ!」


「お、おう」


 勢いに負ける夕也。

 玲奈が何故こんなにも必死なのか。

 それは背後に沙姫の影があるからだということは、簡単に察することができた。


 どこまでも残念で憐れなヒロインである。


「あ、でも……できれば低予算でお願いしたいかな……なんて……ね?」


 気まずそうに体をクネクネ。

 ……本当に、本当の本当に残念で憐れなヒロインである。


 玲奈を見る夕也の目は、これでもかというほど冷ややかだった。


「あの……その目、やめてもらえませんか?」


「無理」


「ですよねぇ……自分でも分かってるんだよぉ。うちがヤバい奴だってことはさ。でも……お金は使えば消えるものでして……」


 モジモジ、ソワソワ。

 夕也をチラリと見ては、その目を逸らす。

 そして、それを繰り返す。


「……はぁ」

 

 隠す気が一切ない大きなため息。

 再度、大きく息を吸ってため息に変換すると、それをそのまま吐き出した。

 

「……はぁ」


「ため息やめて! 二連発やめて! そこまであからさまだと、うちでも傷つく!」


「なら少しはちゃんとする意識を持ちなよ」


「分かってる!」


「それならちゃんとしないと」


「理解と実行は別物だから……はい、ストップ! ため息ストップ!」


 先回りして夕也のため息を阻止する玲奈。


(自分で分かってるなら、マジで正せばいいのに……片付けをしない子供に注意する親の気分だ……)


「まぁ、いいや。じゃあ、来月まで食べたいものを考えとくよ」


「うん!」


 キラキラとした笑み。

 もしも、玲奈の性格を知らなかったら、多少はドキドキしていたかもしれない。


 しかし、夕也は知っている。

 玲奈がどんな人物なのかを。


 そして、つい目がいってしまうのは、ボサボサの髪と、制服の上に羽織っているヨレヨレのパーカー、パっと見ただけで分かる猫背で……。


 つくづくヒロインというのは、良くも悪くも個性豊かな生き物である。

 それは玲奈に始まり沙姫も同様で、そして――


「あ、こんなところにいたんだね」


 背後に突如現れ、声を掛けてきた一つの影。

 複数いるヒロインのうちの一人で、水に関する苗字を持つ泉藤香織せんどうかおり

 彼女もまた、強い個性と共に大きな問題を抱えているということを――夕也はまだ知らないのだった。

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