【個性爆盛り=普通に不審者】4
駅から少し離れた場所にある、人気のない小さな公園。
夕也一人や、沙姫を合わせた三人でいるならいざ知らず、玲奈と二人きりでいれば注目を集め、変な噂だって広がるかもしれないということで、場所を移した夕也と玲奈は、その公園に設置されている自動販売機の前で、見つめ合って――いや、睨み合っていた。
不服そうな表情をしている玲奈。
それに対して呆れたような表情を浮かべている夕也。
二人が睨み合っている理由。
それは、玲奈がギュっと握っている缶――この時期ではあまり見ることのないホットココアが原因だった。
「……なんでうちが奢られてんの?」
そう言ってギロリと睨んでくる玲奈。
「河野がアホだから」
簡潔かつ的確に返す夕也。
二人の距離は言わば恋人同士の距離で、手を伸ばさなくても相手に触れられる距離である。
傍から見ればカップル以外のなにものでもない。
しかし、その二人のやり取りを近くで見れば、その関係が決して恋人同士ではないことが分かることだろう。
「言い方、酷い」
「事実だろ。財布がピンチっていうのは昨日聞いてたし、そんな相手から奢られても嬉しくない」
「お金ならある!」
そう言って玲奈は財布の中を開いてみせる。
すると、そこに入っていたのは一万円札。
一万円札が自動販売機で使えるかどうかは一旦置いておくとして、事実、玲奈の財布の中にはジュースの一本や二本では大してダメージにならないくらいのお金が入っていた。
ではなぜ、昨日のお礼としてジュースを奢ろうとしていた玲奈が、夕也に奢られているのか。
それは、そのお金の出所に問題があるからという理由以外の何モノでもなかった。
「その金は河野のモノじゃなくて、滝ノ宮から借りた金だろ」
「お金はお金だし、来月返すから実質、うちのお金だよ」
「借金は借金だ。借りた金で奢られる気はねーよ」
「……むぅ」
返せる言葉が無いのか小さく唸る玲奈。
しかし、逆転の手を閃いたのか、目を見開くと言葉を続けた。
「このお金、沙姫が桐原へのお礼っていう名目で渡してきたから、ここで奢らないと、うちが沙姫に怒られるんだけど」
そう言って上目遣いをしてくる玲奈。
意識しているかどうかはさておき、火力だけは無駄にある……そんな上目遣い。
並の男子高校生なら大ダメージを受けていただろう。
しかし――
「そういう状況になった河野が悪い。そのヘッドホン、良いやつだろ? そんなものを買ってるから、金欠になるんじゃねーの?」
夕也は玲奈の首に掛けられているヘッドホンに視線を向けると、そう言い放つ。
ブランド名がドンっと刻印されている大きなヘッドホン。
傷が一切ついていないところを見ると、最近買ったのだろう。
この時代に有線というのは少々珍しいが、それでも、そこそこの値段がすることは普段ヘッドホンを使わない夕也でも分かった。
「うぐっ! 確かにこの子を買ったから今月はピンチになったけど……でも、この子は必要な子なの!」
そう言ってヘッドホンを撫でる玲奈。
その様子から、愛情を持ってそのヘッドホンを使っていることが分かる。
分かるけども……それは自分の財布を苦しめてまで必要なものなのだろうか?
いや、彼女からしてみれば大切なことなのだろう。
文字通り、身を削っているのだから。
夕也は心の中でそんなことを思うと、玲奈の全身――主にボサボサの髪と羽織っているヨレヨレのパーカーを見た。
「そのパーカー、お気に入りなの?」
「……ん? これ? 別にそういうわけじゃないけど……そんでもって話は終わってないんだけど。いい加減、黙って奢られて欲しいんだけど」
「いや、もう終わりでいいだろ。河野こそ黙って奢られてろ」
二人の間に火花が散る。
再度睨み合う夕也と玲奈。
しかし、そんなものは数秒もすればお互いに冷静になるもので――お互いにふぅー。と息を吐くと、臨戦態勢を解除した。
「じゃあ来月、一緒にご飯を食べに行こ」
「ジュースでいい」
「ダメ。それくらいはさせてよ。利息的な感じでさ」
「……はいはい、分かったよ」
これ以上は不毛だと察した夕也は頷く。
それに対して、生返事がお気に召さない様子の玲奈だが、言質を取ったからか、一旦は納得の色を見せた。
これにて終戦。
誰もがそう思った。
実際、夕也は接近し過ぎてしまっている玲奈と、距離を取ろうとしていた。
しかし、争いが終わったのにも関わらず、なぜか玲奈はさらに半歩、ズイっと体を夕也に寄せると目を細め、その顔を見つめてきた。
「桐原ってクラスだとあんまり目立たないけど――意外と外見に気を使ってるんだね」
それは、せっかく見つけたお互いの着地点を、容易に吹き飛ばすような言葉だった。
「……もしかして喧嘩売ってる?」
「いや、そんなつもりはない。ないけど――クラスで目立たないわりに、髪はちゃんとセットしてるし、肌もカサカサしてないし……もしかして良い化粧水とか使ってる?」
顔に触れようと、身長差を埋めるためにグググっとつま先立ちする玲奈。
夕也は当然のようにその手を避けると、玲奈から距離を取った。
「おっと――いきなり動かないでよ」
「いきなり触ろうとしてくるからだ。つーか、俺にどうこう言う前に河野はもっと自分のことを気にした方がいいと思うぞ」
「ん? うち?」
キョトンとした顔を浮かべる玲奈。
夕也は玲奈の全身を見ると、
(本当に勿体無い。マジで勿体無い。これだけのポテンシャルを持ってるのに……)
なんてことを思う。
玲奈の容姿は他の女子と比べても整っている。
磨き方次第ではクラスでも上位に立つことだってできるだろう。
しかし、玲奈に見た目を気にしている様子はない。全くない。皆無だとすら言える。
髪はボサボサ、ヨレヨレパーカー、そして猫背。
普段から眠そうな顔をしているし、口調だって雑で可愛さの一文字もない。
顔を隠すようにフードを被っていることすらもある。
(ほんの少しの意識で大分変わると思うんだけどなぁ……)
夕也の脳裏に姉の顔、そして過去、嫌になるほど聞かされた、「見た目は立派な武器になるんだよ」という言葉が浮かんだ。
それは夕也がまだ幼く、今の玲奈と同じように、見た目をまったく気にしていなかったときに聞かされた言葉だった。
(散々言われたもんな。能力も大切だけど、見た目が良ければ、それだけで上手くいくこともある……だっけ)
「……はぁ」
夕也は玲奈の残念な見た目に対して徐に、そして盛大にため息をついた。
「え!? 急になに!? うち、何かした!?」
目の前で突然吐かれたため息に、玲奈は慌てた様子を見せる。
でも、仕方なかった。
それほどまでに、玲奈は色々と残念なのだ。
「いや、マジで勿体無いなって思ってさ」
視覚情報だけで相手に対してアドバンテージを取れるなら、見た目は磨き得。
好かれることも、威圧することも、なんなら相手からの信用すらも……容姿の良し悪し次第では、思いのままにできる可能性があるのだ。
事実、姉の教えは今の夕也にも影響しており、性格こそ拗らせてしまったものの、容姿はその姉によって磨かれていた。
だからこそクラスに馴染めなくても、教室で一人浮いていたとしても、同級生から変な目で見られるようなことがなかったのだ。
なんならクールな男とすら思われていたのだ。
夕也はその有効性を知っている。
だからこそ――
「勿体無いって……なにが?」
ぽかーんとした抜けた顔で夕也を見る玲奈。
服装だけでも、立ち振る舞いだけでも、なにか一つ変えるだけでいいのに……。
「見た目。マジで勿体無い」
「ひどっ! 思いっきり悪口じゃん!」
「事実だ。せめて服。そのパーカー、もう部屋着にしろよ」
夕也はヨレヨレのパーカーにしつこいくらいの視線を向けた。
すると――
「……お金が」
どこまでも残念な玲奈の小さな声が公園に響くと、夕也は冷めた目で縮こまっている玲奈を見るのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今日はこの辺で一旦の区切りとさせて頂きます。
一日、四話ずつの投稿となる予定ですので、お付き合い頂けましたら幸いです!
今後ともよろしくお願い致します!!!




