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主人公に選ばれなかったヒロイン、要らないなら貰います  作者: 西藤りょう


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【個性爆盛り=普通に不審者】3


 紫苑祭しおんさいが終わり、装飾されている場所こそ残っているものの、日常へと戻りつつある翌日のこと。


 すでに午前の授業が終わり、今は昼休みに入ったということで、クラスメイトの多くは席を立ち、それぞれが食事の準備を始めていた。


 授業中には聞こえなかった、騒がしい話し声が教室に響き渡る。

 

 そんな中、夕也はというと、鞄から持ってきていたお手製の弁当を取り出し、スマホをお供に昼食を取りながら、教室内で一際目立っているグループに目を向けていた。


 男子一人に対して女子が四人いるグループ。


 わお! ハーレム!


 なんて茶化されそうなものだが、あのグループを相手にそんなことをできる人間など、このクラスにはいないことを、夕也は入学してからの約二ヶ月で理解していた。


 ――広瀬弘斗ひろせひろと

 

 昨日、紫苑祭からの帰り道で玲奈と一緒にいたときに見たクラスメイトの一人で、あのグループの中心にいる人物。

 彼という存在を一言で表すのならば、それは文字通り”主人公”といったところだろう。


 弘斗は優しく面倒見の良い性格をしており、困っている人がいれば、すかさず手を差し伸べる聖人。

 勉強の成績こそ平均的だが、優れた容姿と学年でもトップクラスの運動神経を持っている男子生徒である。


 教師からの人望もあり、クラスで何かするときは当たり前のようにまとめ役に。

 それだけではなく、入学して二ヶ月が経過しているのにも関わらず、毎日のように受けている部活動の勧誘と、一年生ながら生徒会からのスカウトを受けていることからも、彼がどれだけ優れた人間なのかが分かる指標になるだろう。


 そして、そんな人物を中心に構築されているグループもまた、普通じゃないことは想像に難くない。


 昨日弘斗と一緒にいた鳴海なるみまりんも、男子から人気のある女子であり、他の三人も――


(……いや、一人は別枠かもしれないな)


 夕也は小さく口角を上げると、彼らの中で唯一話したことのある人物――玲奈に視線を向けた。


 昨日、弘斗を見たときは少しだけ様子がおかしかったが、今は楽しそうにしている。

 その様子を見て、夕也は一応の安心を得た。


(あの顔、普通じゃなかったもんな)


 弘斗とまりんが一緒に居るところを目撃したときに見せた表情。

 直前に見せていた笑顔からの落差は、人の気持ちに鈍感――いや、基本的に無関心な夕也にとっても心配になるレベルだった。


 あんまり触れるのは違うと思い、事情を聞くようなことはしていないが、今が元気なら、それでいいだろう。


 それにしても――

 夕也は笑顔を浮かべながら楽しそうに話している玲奈を見て……そして思う。


(本当、色々と勿体無いよなぁ~)


 河野玲奈。

 磨けば、他の三人と比べても遜色ないポテンシャルは持っている女子なのだが――


 ヨレヨレのパーカー。

 ぼさぼさの髪。

 猫背。


(マジで勿体無い)

 

 夕也はため息をつく。

 色々と残念な玲奈の姿を見て、それはもう、盛大にため息をついた。

 

 すると、気付かないうちに直視しすぎてしまったのだろう。

 バチっと玲奈と目が合った。


 玲奈はニコっと小さく笑みを浮かべると、


 ――放課後ほーかご駅前えきまえ


 と、口を開き、音のないメッセージを送ってきた。

 そして、それと同時に傘を開く仕草を模したボディーランゲージ。


 それを見た夕也は、玲奈と同じように口形だけで「了解」と返すと、昼食の続きをするのだった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「傘、ありがとうございました。そして――昨日はマジ調子に乗ってマジすいませんでした!」


 放課後、駅前で待つこと数分。

 姿を現した玲奈は、傘を夕也に手渡すと、勢いよく頭を下げて謝罪の言葉を口にした。


「それは別にいいけど、それより……えっと?」


 傘を受け取った夕也は玲奈の隣に立っていた女子生徒に目を向ける。

 

「いや、その……この度の謝罪、保護者同伴です」


「……保護者?」


「うちがちゃんと謝れるか確認するためだそうです」


 玲奈はそう言うと、先程から黙って様子を伺っていた隣の女子生徒――滝ノ宮(たきのみや)沙姫さきの方を向く。

 

 沙姫さきは夕也や玲奈と同じクラスで、弘斗を中心としたグループの一員である。

 活発な性格で友人も多く、可愛いよりも綺麗系な容姿から異性は勿論、同性からも人気がある人物だ。


 そして、玲奈と同様――弘斗に選ばれる可能性があった”ヒロイン”の一人なのだが……それを知るすべを持たない夕也は軽く会釈をすると、玲奈に倣うように沙姫を見た。


「この子、こんな性格でしょ? ちゃんと謝れるのかなぁーって思ってね。あとは単純に好奇心」


 そう言って、爽やかな笑みを浮かべる沙姫。

 

(なるほど、確かにこの笑顔なら同性からの人気が高いのも頷ける。しかし――)


「好奇心?」


「うん。だって、玲奈が弘斗以外にあんな顔するなんて……ね?」


 沙姫はニヤリと意地悪な表情を浮かべると、玲奈の脇腹を小突く。

 すると玲奈は「ゴフッ!」と、到底女子が出してはいけない音を出すのだが、一々構っていては話が進まない。


 夕也は脇腹を摩る玲奈を一旦放置すると、会話を再開させた。


「あんな顔?」


「実は私、昨日二人が一緒にいるところを見てたんだよね。で、なんとビックリ! 人見知りで、特に男子とは積極的に距離を取っている玲奈が楽しそうにしてるものだから、その相手がどんな人なのかなぁ~って」


「ああ、なるほど。それで河野について来た……と」


「そう、正解! もちろん保護者として来たっていうのも本当だよ。昨日の玲奈は明らかに調子に乗ってて、キミに散々迷惑をかけてたのは見てたし、それに――この子の性格は知ってるから」


 残念なモノを見るような視線が玲奈に突き刺さる。

 すると、


「うちだって謝ることくらいでき――」


 それに反論するように口を開く玲奈だったが、その頬をムギュー。

 沙姫の手によって可愛らしい顔が歪まされた。


「で、キミは――誰? 同じクラスなのは知ってるんだけど、話すのは初めてだよね?」


(河野といい、滝ノ宮といい、なんであのグループの連中はクラスメイトの名前を覚えていないんだ? 目立つ奴しか覚えてないってか?)


 夕也は昨日、玲奈としたやり取りと似た感覚を覚えると、なんとなく玲奈を睨んだ。


桐原きりはら桐原夕也きりはらゆうやだ」


(うん。デジャヴ。全く同じ会話を昨日した)


「桐原くんね。で、玲奈は桐原くんのどんなところが気に入ったの?」


「うひゃっ! 背中に手を突っ込むな!」


 脇腹を突かれたり、頬をムギューされたり、背中に手を突っ込まれたり。

 夕也は玲奈のグループでの立ち位置をなんとなく察して、そして……まぁ、そうなるよな。と、一人納得する。


「ねぇ、どんなところが気に入ったの? 桐原くん、弘斗とは違うタイプのように見えるけど……クール系って言うの? 全然違うよね?」


「だから気に入ってるって何の話し? ただ傘を貸してもらっただけだよ」


「ふーん。それにしては楽しそうにしてたけど? ずいぶん懐いてたよね?」


「それは……」


 言い淀む玲奈。

 それに対してニヤニヤとした笑みを浮かべる沙姫。

 そして、そんな会話を目の前でされて居場所のない夕也。

 カオス空間の出来上がりだ。


「桐原は……うちに興味無さそうだったから、だから……ね、言いたいこと、分かるよね?」


「……まぁ、うん」


「やっぱりそうだよね~。だから、そう。調子に乗れる土壌が出来上がってたっていうか……」


「あ~、なるほど。確かに玲奈が男子に気軽に絡むと、変なことになりかねないもんね。で、桐原くんはそんな気を起こしそうになかったから調子に乗った――と。こんな感じ?」


「はい、その通りです。男友達ってこんな感じなのか~。って楽しくなってしまいました」


「まったく。まぁ、男友達ができるのは、玲奈にとってもリハビリにもなるし、いいことだけど……程々にしときなよ」


「……うす」


「ってことで、桐原くん。これからも玲奈のことよろしくね」


「あ、うん」


 よろしくとは? と一瞬思った夕也だが、場の空気に流されるまま頷いて見せる。

 

「よろしい。それじゃ、私は帰るけど二人は――ごゆっくり? 的なやつってことで、バイバイ! 玲奈からのお礼があるみたいだから、桐原くんは受け取るまで帰っちゃダメだからね!」


 沙姫はニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべ、そう言い捨てると背を向けて歩き去っていく。

 残された二人。


 玲奈は沙姫によって落とされた爆弾に対して、「お礼って大袈裟な言い方して……」と肩を落とし、ふぅ。と一呼吸置いてから夕也と向き合った。


「って言うことなんで、桐原さん。ちょっと時間……いいですか?」


 若干目が泳いでいるのは、人を誘うことに慣れていないからか。

 敬語になっているのは、こういう時にどう切り出せばいいのか分かっていないからか。

 とにかく緊張した様子の玲奈。


(ああ、本当に面倒なことになった。できることなら断りたい……断りたいんだけど――)


 ウルウルとした瞳が夕也にクリーンヒットしている今、断ることなんてできなくて……


「まぁ、時間はあるよ」


 夕也は観念するようにそう言うと、安心したのだろう。

 玲奈は嬉しそうにご機嫌な笑みを浮かべるのだった。


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