【夏休みとは、ヒロインが家に転がり込んでくる季節である】4
「なるほどね。それで玲奈は桐原くんの家でお世話になってる……と」
場所は夕也の家のリビング。
スーパーでばったり出会い、事情を聞くために二人についてきた沙姫は、ことの経緯を聞くと、興味深いものを見るような視線で、玲奈と夕也の顔を交互に眺めた。
「私のところにも玲奈から”助けて”って連絡があったから心配してたけど……まさか桐原くんに保護されてるとは思わなかったよ」
「うん。桐原がいなかったら、マジでヤバかった。ご飯すらまともに食べれてなかったし」
「玲奈は料理できないもんね。それに……お金が無いんじゃ、何も買えないし」
うんうん。と納得するように頷く沙姫。
しかし、次の言葉、
「でも、知らなかったよ。まさか玲奈に彼氏ができてたなんてね」
という、そう思われても仕方のない一言。
玲奈と夕也は顔を見合わせ、きょとんとした表情を浮かべた。
「……違うけど?」
「え!? 今は二人で一緒に暮らしてるんでしょ? そんなの付き合ってないと無理じゃない?」
驚きの表情を浮かべる沙姫。
この場合、沙姫の反応が正しいだろう。
「別に付き合ってないよ。ね?」
「あ、うん。普通に友達ってだけ」
しかしこの世の中、数がものを言う。
2対1。
夕也と玲奈は、まるで沙姫がおかしいと言わんばかりの表情でそう返した。
「……えぇ~、本当に?」
「うん。本当に。っていうか、ただ助けてもらっただけなのに、付き合ってるってことにはならなくない?」
「なるでしょ!? どんな理由であれ、一緒に暮らしてるんだよ!?」
「……なるかなぁ? 普通にお世話になってるだけなんだけど」
「玲奈……いや、この場合は桐原くんかな」
「ん? なんだ?」
「キミは今の状況、ちゃんと分かってる?」
完全に保護者モードに入っている沙姫は、玲奈では話にならないと判断し、夕也に矛先を変えた。
「分かってるけど、河野の両親からも頼まれてるからな。俺自身も今の状況は良くないってことは自覚してる。でも、放置はできないだろ?」
正論には正論で返す夕也。
夕也自身も、この状況が普通ではないことは理解していた。
女の子が一人で男子の家で寝泊まりしているというのは、明らかに普通ではない。
しかし、だからと言って玲奈を放置することなどできない。
たとえ財布を失くしていなかったとしても、玲奈が一人暮らしなんて――
(無理だろ。絶対に無理だ……想像するだけで、心配で吐きそうになる……)
「放置できないのは、そうだけど……でも……」
「実際、部屋はちゃんと分けてあるし、それに……俺に変な気持ちはないから」
「……信用できると思う?」
ギロリと鋭い視線を向ける沙姫。
夕也はその視線を受け流すと、
「アレにそういう気持ちが芽生えると思うか?」
と、とある一方向に指を差す。
すると――
「誰か、起こして……」
それは、この数日で何度も見た光景だった。
玲奈はお気に入りの座椅子に座ったまま後ろに倒れると、背もたれを床につけ、足をパタパタ。
一々説明が面倒なので、省略すると座椅子パタパタをしていた。
「……それもそうだね」
沙姫はため息をついて、納得する様子を見せた。
確かに玲奈の容姿は整っている。
それはまごうことなき事実で、誰が見ても玲奈は可愛い部類に入る人間だ。
しかし――彼女の言動が、見事にそれを台無しにする。
色々と勿体無い、残念系ヒロイン。
それが玲奈なのだ。
玲奈の性格を知らない人は、つい恋心を抱いてしまうかもしれない。
あるいは邪な考えを持ってしまうことだってあるかもしれない。
しかし、玲奈をよく知る人は、全く違う感情を抱くだろう。
それほどまでに玲奈はハリボテなのである。
「まぁ、玲奈と桐原くんが納得してるなら、私が口出すことじゃないか」
沙姫は肩をすくめると、夕也に対して微笑むような小さな笑みを見せた。
ちなみに、まだ座椅子でパタパタしている玲奈に関しては、二人とも完全に放置していた。
「心配する気持ちは分かるけどな。でも……大丈夫だと思う。なんだかんだ四日間は特にトラブルもなく、やってこれてるし」
「うん。そうだね。それに――玲奈から助けを求められたとき、私は何もしてあげられなかったから……本来はあれこれと言える立場じゃないんだよね」
「別にそんなことはないと思うけどな」
「いや……そんなことはあるんだよ。あーーー、もう、疲れたぁ~」
沙姫は玲奈に倣うように、座椅子に座った状態で、後ろに倒れ込む。
座椅子パタパタ二号が爆誕した瞬間だった。
「沙姫、疲れてんの?」
「うん。ここ最近は忙しくてね。それに――家の問題もあるし」
「そっか。沙姫の家って……大変だね」
「そうそう。由緒正しい家っていうのは色々と面倒なんだよ~、歴史があるって本当に厄介」
一見真剣な会話をしているように見える玲奈と沙姫。
しかし、その恰好は座椅子パタパタの状態で、向き合って話をしていた。
実にシュールである。
「自由が無いのは……つらい」
ポツリと一言、呟くように言う沙姫。
声色からも、相当参っているのだということが分かった。
しかし――何度でも言うが、今の沙姫の姿は滑稽以外の何ものでもない。
「あ、そうだ! 二人とも、来週の土曜って暇?」
沙姫はガバっと倒れた状態から姿勢を元に戻す。
「別にやることはないけど……」
「玲奈は?」
「うちも桐原と同じだよ」
「そっか! なら、花火大会、行ってくればいいんじゃない? どうせ家に籠ってるだけでしょ?」
沙姫はそう言うとスマホを取り出し、夕也に画面を向ける。
すると、そこに映っていたのは、全国的に有名な花火大会の開催日と場所が記載されているサイトの案内ページだった。




