表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主人公に選ばれなかったヒロイン、要らないなら貰います  作者: 西藤りょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/23

【夏休みとは、ヒロインが家に転がり込んでくる季節である】1


 ――どこまでが偶然で、どこまでが仕組まれたものなのだろうか。


 夕也は”自分の家”のリビングで、座椅子と共に後ろに倒れ、背もたれを床に付けた状態で足をパタパタと動かしている玲奈を見て、大きなため息をついた。


 夏休み。

 母は姉である夕紀と親戚の家に行っており、本来なら夕也は一人暮らしを満喫する予定だった。


 いや、実際につい先ほどまでは、一人暮らしを満喫していた。


 夏休みに入って五日――

 好きな時間に起きて、適当に家事をこなし、やりたいことを好きなだけする。

 そんなゆったりとした穏やかな時間を過ごしていた。


 それが一体、なにがどうして、玲奈がリビングにいるという状況になってしまったのか。


「飯、どうする?」


「……頂いていいっすか?」


 変わらず座椅子と一緒に倒れ、足をパタパタしている玲奈は、申し訳なさそうに言う。

 ポーズ云々は置いておいても、彼女の声色から本当に心にダメージを受けているのだということが分かった夕也は、心配するような声色で玲奈に話しかける。


「最後にちゃんとした食事をしたのは?」


「……四日前」


「そっか……了解。胃に優しそうなものを作るから、少し待ってて」


 そう言った夕也はキッチンに向かうと、冷蔵庫の中に入っている食材を見て、何を作るか考え始めた。


 さて、なぜこんなことになっているのか。

 それは――玲奈が玲奈やらかしたからだった。


「マジでごめんね。でも、本当に助かったよ。ありがと」


 夕也を追うように、ひょこっとキッチンに現れた玲奈は、今にも泣きそうな表情を浮かべると、既に何度も繰り返してきた謝罪の言葉をまた口にした。

 そして、そのあとは決まって感謝の言葉が続く。


 それほどまでに追い詰められていたのだろう。

 玲奈がここまで素直なのは珍しかった。


「いや、河野の両親とは連絡取れたし、謝罪も散々してもらったから、俺は別にいいんだけど……えっと、その……大丈夫か?」


 夕也は今にも倒れそうなほど弱っている玲奈に視線を送る。


「全然大丈夫じゃない。お財布は失くしちゃったし、ご飯は食べれてないし、そもそも全部うちが悪いから、メンタルはズタボロだし、家族はみんな海外だし……」


 そう――

 それが、玲奈が夕也の家にいる理由だった。


 家族が海外に行った直後、財布を失くした玲奈。

 その中には現金だけでなくキャッシュカードも入っており、口座からお金を引き出すこともできなくなってしまった。


 結果、玲奈は家族が帰国するまでの二週間を、無一文のままで過ごさなければならなくなったのだ。


 それでも最初の数日は彼女なりに、家にあるもので、なんとかやりくりしていたようなのだが、いよいよ限界を迎えた玲奈は夕也にヘルプコール。


 そして今に至るというわけである。


「泉藤たちには連絡したのか?」


「うん。でも……沙姫は家の用事で県外、香織は家族旅行。弘斗とまりんも忙しいみたいで――だから桐原に連絡したんだよ」


「……そっか」


「これでも結構頑張ったんだけどね。冷蔵庫に入ってる食材を使って料理してみたりもしたんだよ。でも……」


 玲奈は言い淀む。

 そしてボソっと一言。


「料理って難しいね」


 夕也は察した。

 言葉は――説明はいらなかった。

 流石は残念でどうしようもないヒロイン――河野玲奈である。


「えっと……二週間でいいんだよな?」


「あ、うん。かかった生活費はお父さんが帰国後、桐原のお母さんに振り込むって言ってたから、だから――それまでお世話になります!」


「まぁ、お互いの親が了承してるなら、いいけど……俺が金を貸すでもいいんじゃねーの? 二週間分の食費くらいなら貸せるけど」


「……うちが二週間も一人暮らしできると思う?」


「確かに……それはそうだな」


「今回の件で家族のうちに対する信頼は完全に無くなったよ。二週間くらいならってお父さんも、お母さんも思ってたみたいだけど、うちが即やらかしたから……」


 返せる言葉がなかった。

 それほどまでに、玲奈は玲奈だった。


「うち、可愛い愛娘なのにね。それなのに――会ったことすらないクラスの男子の家に泊まれって……お父さんもお母さんも口を揃えて、お世話になりなさいって……ちょっと泣きそうだよ」


 憐れである。


「まぁ、元気出せって。飯は……中華ベースのお粥でいいか?」


 話題を変えるように、そう尋ねる夕也。

 これ以上は、夕也自身も暗い気分になりそうだった。

 

「うん。ありがと。うちに手伝えるようなことがあったら言ってね。うちができるかどうかは分からないけど……」


 そう言って、玲奈はリビングに戻っていく。

 メンタルブレイク!

 まごうことなきメンタルブレイク状態である。


「お、おう」


 夕也は玲奈の背中を見送る。

 それしかできることがなかった。



 そうして始まった、夕也と玲奈の共同生活。


 ――どこまでが偶然で、どこまでが仕組まれたものなのだろう。


 玲奈が財布を失くしたタイミング。

 夕也が一人暮らしを始めたタイミング。

 そして、夕也に親戚の家に行くな、家に残れと言った姉――夕紀の言葉。


 全ては偶然だったのか。

 それとも、そこには何かがあるのか――


 それを知る人間はこの場にはいないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ