【そのお出掛けは禁忌です】2
「へぇ~、結構お洒落なお店だね」
「ちょっと場違い感はあるけどな」
夕也と玲奈は目的地である”ヘロン食堂”に入り、案内された席に座ると、お互いに思い思いの感想を口に出す。
「場違いって……まぁ、言いたいことが分かるけどね」
玲奈はそう言うと、棚に大量に並べられているお酒の瓶を見る。
――ヘロン食堂。
食堂という名前から分かる通り、食事をメインに扱っている店なのだが、それは昼の顔で、夜になると、それにプラスして棚に並べられているお酒が活躍するというコンセプトを持つ店である。
玲奈は事前に頼みたいものを調べていたのだろう。
メニューを取り、数秒眺めて最終確認をすると、それを夕也に渡した。
「ここのオススメはパスタだってさ」
「そっか、じゃあカルボナーラで」
「……違うものを頼むつもりは?」
頼むものを即決した夕也に対して、なぜか不満そうな表情を浮かべる玲奈。
「え? なんで?」
「……被った」
小さな声で唸るように言う。
一体何が不満なのか……。
夕也はこれまで姉である夕紀と出かけたときのことを思い出し、そして一つの可能性を導き出した。
(思えば夕紀も事あるごとに俺の皿から奪ってたし……シェアがしたかったのか?)
「俺、違うの頼もうか?」
「いや……今日はそもそもお礼で来てるし、大丈夫。桐原の食べたいものを注文すればいいよ……」
と、口では立派なことを言いつつも、”残念”という文字が顔に書かれているかのような表情でそう言った玲奈。
(でも、まぁ、そうだよなぁ……せっかく初めての店に入ったのなら、色々試したいよな)
なんとなくその気持ちが分かった夕也は改めてメニューを眺めて、そして――
「俺、トマトのクリームパスタにするよ」
「……え?」
「だから、クリームパスタにする。それなら二つの味を楽しめるし。……小皿って貰えるかな」
夕也の言葉で、玲奈の表情がぱぁっと明るくなった――が、直後に少しだけ陰りを見せた。
「本当にいいの? 今日はお礼で来てるのに……」
「別にそこはどうでもいい。っていうか、河野は色々と気にしすぎだ。お礼って言っても傘を貸しただけだし。……まぁ実際、そのあと二人で帰ってるときは大変だったけどな」
「うっ……それはもう、沙姫に散々怒られたから……」
玲奈の顔が青ざめていく。
どんなことをされたのかは知らないが、相当絞られたのだということは容易に想像することができた夕也。
沙姫を怒らせてはいけないと、そう心に刻んだ。
「じゃ、メニューは決まりだな」
「あ、うん。ありがとう」
「いや、俺は奢ってもらう立場だし……遠い場所でっていう俺の希望も叶えてもらったからな」
夕也はそう言うと、珍しく笑みを玲奈に向ける。
すると――
「……お前は何者だっ!?」
と、警戒する玲奈。
半分はおふざけ、もう半分は本気。
感情のハーフ&ハーフである。
「はぁ? 何言ってんだ?」
「桐原が笑うところを初めて見たからビックリした。ついでに言うと、桐原の笑顔が見慣れなさ過ぎて、わりとマジで本人なのかを疑っただけだよ」
「悪口言ってる?」
「いや、全然?」
ガシ。ガシガシ。
テーブルの上ではお互いに笑顔を向けながら、その下では蹴り合う二人。
「それじゃ、店員さんを呼ぶぞ。ついでにお冷をピッチャーで貰うか。その服だと暑いだろ? 頭からぶっかけてやるよ」
「うん。もうメニューも決まってるしね。あ、追加でお酒を頼んでよ。できるだけ頑丈な瓶に入ってるお酒。それを顔に叩き込んであげるからさ」
「ほう? やるか? 体格の差は歴然だぞ?」
「武器を持てば体格差なんて関係なくなる。戦いに必要なのは勇気と殺意」
「勇気はいいとして、殺意って……でもまぁ、そうだな、ここは色々と残念で、だらしない奴に引導を渡すのも悪くないかもしれない」
「勝手に言ってればいいよ。勝つのはうち。勝者が歴史を作るんだから、うちは……河野玲奈は優しくて、しっかり者だったと後世に伝えることにするよ」
それは少し前までは考えられなかった形のコミュニケーション。
着実に二人の関係が深まっていることを指していた。
ただ……まぁ……、
それが正しい在り方かどうかは、また別の話である。




