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主人公に選ばれなかったヒロイン、要らないなら貰います  作者: 西藤りょう


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14/23

【そのお出掛けは禁忌です】1


 河野玲奈と桐原夕也の出会い。

 それは本来なら、ありえないはずの出会いだった。

 運命シナリオが決して許すことのない、そんな出会いだった。


 一体何が起きれば、ヒロインである玲奈と、ただのモブである夕也が出会い、あろうことか同じ時間を共に過ごすことになるのだろう。


 ヒロインが主人公以外の男子と一緒にいるなんて――


 禁忌も禁忌。


 別のジャンルではありえるのかもしれないが、純愛の物語でそれは許されないことである。


 ヒロインは主人公一筋。

 たとえ攻略する相手に選ばれなくても、主人公以外の異性にうつつを抜かすなんてことはあってはいけない。


 ヒロインは主人公とだけ結ばれることを許されている存在。

 そういう運命シナリオで、そう”あるべき”なのだ。

 しかし――


「今日こそは、うちがちゃんと奢るから!」


「……そんなに気にしなくていいのに」


 夕也モブに昼食を奢ることに躍起になっている玲奈ヒロインがそこにいた。

 本来ならありえない、モブとヒロインのデートが今、幕を開けようとしていた。



 場所は夕也たちが通う水之崎付属の最寄り駅から二駅離れたところにある、小さな町。


 和のテイストが色濃く残るその町は、古くから栄えてきた歴史のある場所なのだが、観光地としてはあまり知られておらず、どちらかというと、散歩などの軽い散策に向いている場所だった。


 正直、若い男女が遊びに来るようなところではないのだが、それは、「遠いところに行きたい」という夕也の希望を玲奈が叶える形で、二人はこの場所にある、とある店で昼食を取ることに決めたのだった。


「ここは人が少なくていいね。景色も綺麗だし」


 玲奈は白の漆喰しっくいと黒い木材を使った建物が並び、どこか和風な統一感のある通りを眺めながらそう言う。


「そうだな。まぁ、この辺は観光で来る人も少ないし、今日は休日で学校も休みだから」


「確かに、その影響はありそうだね。駅前に学校あったし」


「ま、何がどうあれ、人気がないのはいいことだ」


 そう言った夕也は、


(休日に河野と歩いているところを、学校の奴らに見られるようなことは避けたいからな。万が一にも見つかって刺されるのはごめんだ)


 と、キョロキョロと周囲を警戒するように視界を動かしながら、そんなことを思う。

 警戒しておいて損はないだろう。


「それにしても、今日も暑いねぇ~」


「もう七月だし。それに――そのパーカーのせいもあるんじゃない?」

 

 夕也は、玲奈が着ているオーバーサイズのパーカーの肩先を摘まむ。


 いつも制服の上に羽織っているものとは違う、オーバーサイズのパーカー。

 初夏ということで、一応薄手のものを選んでいるようで、下もショートパンツを履いていた。

 だから、夏仕様と言えば夏仕様なのだが、それでも半袖と比べて暑いと感じるのは当然と言えるだろう。

 

 流石は玲奈といったところだろうか。

 今日も今日とて、パーカーである。


「確かにパーカーは暑い。でも脱がない。脱ぐくらいなら、うちは全裸になる。それでこの通りを全力疾走してやる。なぜならパーカーはうちのアイデンティティーだから!」


 拳を丸め、両手を上げて――ハイ、ポーズ。


 その姿は、

 バーーーン!!!

 という爆発音が玲奈の背後から聞こえてきそうなほどの迫力があった。

 

「……あ、そう」


「反応が薄い! ポーズまでとって冗談を言ってるんだから、ツッコんで! 芸人さんみたいにツッコんでよ!」


「それは……悪い」


「うちだって、人並みには羞恥心ってもんがあるんだからね? 一人でふざけるのはバカみたいじゃん!」


 叫ぶ玲奈。

 それに対して夕也は――


(なら、やらなければいいのに……俺がそういうのに付き合わないって分かってるだろ)


 と、そんな至極当然のことを思う。

 しかし、それを真正面から言うことのできない夕也。

 

 理由はシンプル。

 玲奈が不機嫌になるのが目に見えていたからだった。


「はいはい、次からはツッコんでやるよ」


「桐原、ノリが悪い。そんなんだから友達ができないんだよ?」


「河野だって友達、ほとんどいないじゃん」


 ボソっと小声で、それでいてちゃんと聞こえるようなボリューム。

 数秒前に夕也、そして今、玲奈の血管が切れる音が順番にその場に響いた。


 先手を取ったのは玲奈だった。

 玲奈は夕也のすねを目掛けてつま先をぶつける。


 それに対して夕也は、玲奈の頬をギューと摘まむと、それを引っ張った。


 到底、高校生の男女がするような争いではない。

 なんとも低レベルな戦い。

 お互いに弱い攻撃しかしないのだから、決着なんてつくはずもなく……


 気付けば、目的地である店の前に来ていた夕也と玲奈は、


「お店、入ろっか」


「そうだな」


 何事もなかったかのように、その店に入っていくのだった。

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