【壁の内側】2
主人公とモブは、そもそも生物として違う生き物なのだろう。
夕也は隣に座っているヒロイン――玲奈に対して、なにを話していいのか分からず、なんとなく目についたイヤホンのことを切り口に、会話を成立させていた。
「無線は使わないのか? 最近はそっちの方が主流だと思うんだけど」
「んー、無線はダメかな。うちには合わなかった」
話しずらい話題には蓋をする。
正面切って、自主的に問題を解決するなんてことは、モブにはできない。
それは主人公しかできない特殊技である。
だから、とにかく当たり障りのない話題でその場を繋ぐ夕也。
自ら首を突っ込んでおいて情けないと思われるかもしれないが、これが限界だった。
「そうなん? コードレスだし、充電は必要かもだけど、色々と便利だよな?」
「そうだねぇ~、確かに便利っちゃ便利だけど――うち、片方をなくしちゃうんだよね。掃除をすると毎回のように相棒が見つかる」
「あーーー、なるほど」
玲奈がイヤホンの片方をなくしている姿を容易に想像できた夕也は思わず苦笑い。
やはり玲奈は玲奈だった。
安心の安全の玲奈クオリティーである。
「それに……これは自分で言ってて悲しいんだけど……」
「ん? 何が?」
「いや、有線だとさ、ああ、この人は今音楽を聞いてるんだって……周りが察してくれるし、それなら一人で居ても浮かないかな……なんて……」
てへへ。と恥ずかしそうな表情を浮かべる玲奈。
なんとも後ろ向きで、彼女らしい理由である。
事実、つい先ほどまでその現場を見ていた夕也からすれば、なるほど。というほかないが、
(それ、今言うかぁ~、いや、イヤホンの話題を出したのは俺だけど、でも……今かぁ~)
と、避けていた話題に被ったことに内心焦る。
蓋をしていたはずの中身が突如として顔を出したのだから当然だ。
「……そっか」
「う、うん」
気まずい空気がその場に広がる。
玲奈には何か面倒な背景がある。
それくらいは夕也でも分かってた。
でも、それをわざわざ聞き出して、解決してやるという気概を夕也は持ち合わせていない。
ただ心配だったから、目の前で知り合いが――友達が苦しんでいるから様子を見にきた。
それだけだった。
それは表面的な優しさだ。
表面的な気遣いだ。
しかし、それは噓偽りなく本心からの心配である。
偽善と言われれば否定はできない。
ただ、夕也は目の前で苦しんでいる玲奈を放置することなど、できなかっただけなのだ。
「あ、そうだ! ご飯に行くのは来週でいい?」
無理矢理な話題変更。
玲奈の意識したような明るい声色をした声がその場に流れる。
ちょっと無理があるように思えたが、夕也は――
「いいよ。俺は空いてる」
乗った。
喜んで乗った。乗りまくった。
ダサいけど……この空気は嫌だった。
「じゃあ、来週、どこかに食べに行こっか。食べたいものは決まってる?」
「特に好き嫌いはないから、なんでもいいよ」
「それ、言う方は楽だけど、言われた方は困るやつだよ」
「本当に思いつかないんだって。でも……そうだな、できれば少し遠い場所に行きたいかも」
それは夕也の唯一の希望事項。
学校から近い場所で玲奈と食事に行って、その場を見られるようなことがあれば、本格的に身が危ない。
正直、今の状況――学校で二人きりになっている時点で五十歩百歩なのだが、気を付けて損はないという思考の元での希望だった。
「遠い場所ねぇ……隣町まで行く?」
「それくらいは離れたい」
「ふーん。まぁ、了解。適当にお店は探してみるけど……食べたいものが浮かんだらすぐに言うんだよ。っていうか、うちだけじゃなくて、桐原もお店を探してね」
「はいよ。まぁ、俺は外食とか普段しないから、期待はしないでくれ」
と、二人はそんな会話を重ねる。
一体どれくらいの時間をこうして話していたのだろうか。
気がつけば二人の間に流れていた不穏な空気はすっかり消えていた。
そして、いよいよ昼休みも終わろうという頃。
玲奈はベンチから立つと、最後に夕也のことをじっと見つめた。
向き合う二人。
夕也は気恥ずかしさから視線を逸らす。
それに対して、玲奈はふっと笑みを浮かべると、
「えっと、その……ありがとね」
それだけ言って、先に教室へといった。
残された夕也。
もしもこれが何かの物語であったならば、ここで夕也は顔を赤く染めて、玲奈にときめく場面だろう。
しかし――
「うわっ! とと、危なっ!」
視線の先。
玲奈が躓き転びそうになっているのを見て……ただ思う。
(ああ、本当に残念で……勿体無い奴だ)
――と。
残念系ヒロイン。
色々勿体無いヒロイン。
見た目だけは優れているハリボテヒロイン。
たとえ主人公から選ばれなかったヒロインだとしても、ヒロインはヒロインなのに……。
やはり彼女はどこか締まらない。
どこまでいっても、玲奈は玲奈なのであった。




