第五話 爆買い
友人二人から「オッケー」と、驚くほど軽いメッセージが返ってきた。
よし。
じゃあ行くか。
いつもの集合場所――レストラン《ポルコ》。
「おー、早いな」
俺が到着した時には、すでに二人とも席に着いていた。
学生寮からは送迎馬車が出ているんだが、このゲーム、いかにも“ゲームらしく”ログインしてから十秒もすれば目的地に着く。
俺の場合は、騎士団所属の特典でもらったマジックアイテムを使って、街のポートへテレポートしてきた。
魔法そのものは存在しない世界だが、こういう便利アイテムやファンタジー要素は妙に充実している。
――ああ、だから。
「いつも集合場所、ここなんだな」
「そう。近いから」
「なるほどなぁ」
納得したところで、俺は勢いよく立ち上がった。
「んじゃ、早速買い物行こうぜ!!
今日はテレポートも馬車も使わない! 歩いて行こう!」
「なんで?」
「出勤途中にさ、気になる店が山ほどあって!」
「おぉ、いいぜ〜。じゃあ今日はこの辺探索だな」
正直、この辺りなんて二人にとっては知り尽くした場所のはずだ。
それでも付き合ってくれるあたり、本当に良い奴らである。
こうして、俺たちは街を歩き始めた。
まずは――服屋!
せっかく可愛いアバターにしたのに、仕事着とワンピース一着だけとか、どう考えてももったいない。
一着銀貨五枚(だいたい五千円)くらいの、庶民向けの店に案内してもらい、勢いよく入店。
「うぉ〜っ! なにこれ可愛い!!
帽子! サングラス! ……え、ヘアゴム買うと自動でヘアアレンジされるの!? すげー!!」
完全にテンションがぶっ壊れた俺を、友人二人は生暖かい目で見守ってくれている。
結果――
大量購入。
二人も何着か服を買ったらしい。
男アバター時代は、こういう店にはほとんど来なかったそうで、経験者二人なりに新鮮で楽しめたようだ。
よかった。
その後、二人は防具や武器、教材や受講代のために節約モードへ。
一方、俺はというと。
仕事に行くだけで、特に必要な装備はなし。
真面目に働けば経験値も入る。
――つまり。
使い放題だ!!
テンションが限界突破した俺は、服や雑貨、マジックアイテム、まだ自分のレベルでは作れないポーション、この辺には生えていない薬草などを、次から次へとカゴに放り込んでいった。
まさに、爆買い。
そして――。
「ふぅ〜……」
満足げにベンチへ座り、メニュー画面を開く。
財布の中身。
銅貨二枚。
……二百円。
「……使いすぎたか?」
さすがに友人たちからも、
「お前、それは使いすぎだろ」
と苦言が飛んでくる。
「ヤバいわ……確かに、あと銅貨二枚しかない」
俺がそう呟いた瞬間、サラがハッとした顔で俺を見た。
「……そういえばさ」
「?」
「お前、家賃は払ったの?」
「…………」
家賃?
「……はっ」
嫌な予感しかしない。
「払って……ない……」
「おま……ヤバいよ、それ。普通に追い出されるぞ!!」
レイカが首を傾げる。
「家賃なんて払うのか? 俺は学生寮だからないぞ」
「俺も寄宿舎。だから完全に忘れてた。
前に冒険者やってた時は払ってたけどさ……お前、いくら?」
俺は慌ててメニュー画面を操作する。
『家:アパート(下層)
家賃:銀貨五枚』
「……」
ヤバい。
完全に足りない。
「サラ! レイカ! 頼む! 一週間でいいから泊めてくれ!!」
「無理。寄宿舎」
「学生寮も一般人立ち入り禁止」
「じゃあ金貸して!」
「それも無理。プレイヤー間の金銭貸し借りは禁止」
「お金借りられるところとか、ないのか?」
オレが藁にもすがる思いで聞くと、サラが少し考えてから口を開いた。
「……あるにはある」
「マジで!?」
「メニュー画面を開いて、《銀行》をタップしてみろ。そこに『お金を借りる』って項目があるはずだ」
言われた通り、慌ててメニューを操作する。
「あった!!」
思わず声が弾む。
……が。
「……ん?」
ボタンの横に、小さな鍵マークが付いている。
何度タップしても反応しない。
「押せないんだけど……?」
レイカが苦笑いしながら肩をすくめた。
「社会的地位が上がらないと借りられないんだよ。見習いのうちは利用不可」
「え……」
「信用ってやつだな。このゲーム、妙にリアルなんだよ」
サラが淡々と補足する。
画面に表示されたままの《利用条件:信用ランクE以上》の文字。
オレはゆっくりと視線を落とした。
「なぁ、他にもこのゲームやってる友達いるだろ?」
サラが、ふと思い出したように言った。
「冒険者とかやってるやつにさ、泊めてもらえばいいじゃん」
「……あ」
一瞬、頭に何人かの顔が浮かぶ。
浮かんだ、が。
「無理だわ」
「即答!?」
「いや、聞いてくれ。
俺のアバター、思いっきり自分の性癖ぶっ刺さりすぎててさ……」
「……あぁ」
「今さら知り合いに見せるとか、羞恥プレイだろ。
無理無理無理、死ぬ」
「何その無駄に高いこだわり」
レイカが呆れたように肩をすくめる。
「じゃあ諦めろ」
「冷たっ」
詰んだ。
「……野宿?」
「いや、救済措置があったはず。町外れの教会で宿泊できる。雑魚寝だけどな」
そんな……
めっちゃダサい。
「選択肢は二つだな。
恥を捨てるか、教会に行くか」
「……」
数秒考えて、俺は結論を出した。
「……教会行きます」
「はい決定」
「んじゃ、頑張れよ〜」
どこか他人事な二人に見送られながら、俺は町外れの教会へと向かうのだった。
※現実世界での金銭問題に発展する可能性があるのでプレイヤー間でのお金の貸し借りは禁止となっています。
※銀行でお金を借りる際も、銀行員からの承認が必要となります。職業 商人のプレイヤーが融資のために借りることが多いです。様々な救済措置があるので、そもそもお金がないから借金はできないかもしれません。




