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第三話 出会い

次回、明日20時公開予定

街に出た瞬間、空気が変わった。


石畳を踏むたび、靴底から微かな振動が伝わってくる。

露店からは焼きたてのパンの匂い、どこかで香辛料の強い料理の匂いも混じっていた。



人の数も多い。

NPC――のはずの人たちが、当たり前のように歩き、話し、仕事をしている。


……生活、してるよな。これ。


カフェレストランってことは、食事もできるのかな。

そう考えるだけで、自然と口元が緩む。



矢印の示す方向を見ながら歩いていた、その時だった。

「――っ」



誰かとぶつかった。


「あっ、すいません……!」

反射的に頭を下げる。

あれ、声が……完全に女の子だ。まあ、そりゃそうか。


「おいおい、何してくれてんだ?お前よぉ!」

顔を上げると、人間の男が二人。

体格も態度も、明らかに威圧的だった。



初ログインにして、いきなり不良に絡まれた……?

「本当にすいません。初ログインで、ちょっと浮かれてて……」

相手がプレイヤーなのか、NPCなのか。

判別がつかない。


設定、ちゃんと読んでおけばよかった。


えっと……こういう時、どうやって確認するんだっけ?

確か、メニュー画面から検索できたはず――。

そう思って視界の端に意識を向けた、その瞬間。



「無視してんじゃねーぞ!!」

怒鳴り声が鼓膜を打ち、思わず肩が跳ねる。

指先が震えて、空中をなぞる動きが止まった。


ち、違う……今、操作しようと――。


開きかけたメニューは、すぐに霧散する。

心臓の音がうるさくて、文字を追う余裕なんてなかった。


「これだから獣人はよぉ!

身の程もわきまえねーで、痛ぇじゃねーか?!あぁ?!」

最高に怒っている。


現実でも、こんなふうに絡まれたことはない。

……やばい。

涙、出そう。


男としてのプライドが崩れそうになった、その時。


「どうされましたか?」


振り向くと、騎士団らしき制服を着た獣人の男が立っていた。


助かった……?


反射的にその男の背後へ回り、しがみつく。


「いたた……。それで、どうなされましたか? 私は見ての通り、騎士団所属の者です。トラブルがあれば伺いますが」


「あー? そこの獣人の女が、わざとぶつかってきやがったんだよ。スリじゃねぇかと思ってな」


男の勢いが、わずかに落ちる。


「はぁ? わざとじゃねぇ! 初ログインで浮かれてて、ぶつかっただけだろ!」


騎士の背中越しに、思わず言い返していた。


「そんな言い訳、信じられるかよ。だいたい獣人なんて――」


男の言葉が、途切れた。


理由はすぐに分かった。 獣人の騎士が、信じられないほど鋭い眼光で睨みつけていたのだ。


「獣人だから、信じられないと?」


静かな声だった。


「獣人への差別は、五十年ほど前から禁止されています。実際、あなたはこの方に何か取られましたか?」


「いや……それは……まぁ……」


男は歯切れ悪く視線を逸らす。


「でもよぉ、獣人にぶつかられたんだぜ? 骨が折れてるかもしれねぇだろ。あたたた……」


急に肩を押さえて騒ぎ出した。


「軽くぶつかっただけだろーが!」


思わず叫ぶ。


「獣人とぶつかって、無事なわけね――っ……!」


再び、男が黙った。

肩に置かれた騎士の手が、微かに食い込んでいる。

今度は本気で顔を歪めている。


「確かに痛そうですね。ただし、骨は折れていなさそうです」


にこやかな声で、とんでもないことを言う。


「本当に折れてしまう前に、立ち去った方がよろしいかと」


「お、おい、行こうぜ……!」 「クソ……これだから獣人は……」


情けない捨て台詞を残し、二人は逃げるように去っていった。


「獣人への差別的発言は、罪に問われますので」


騎士の男がそう告げたが、もう聞こえていないだろう。


「さて、大丈夫ですか?」


青みがかった銀色の耳――犬か、猫か――を揺らしながら、騎士が振り向いた。 かなり整った顔立ちだ。


「す、すいません……ありがとうございました!」


……かっこいい。 やっぱ、騎士見習いにすればよかった。


そう心の中で叫んだ、その瞬間。


「はぁ、頭が痛い。最近の初心者はトラブルばかりだ。」


一気に現実へ引き戻された。


「設定も説明書も読まずに街を歩くから、ああなる。絡まれたら通報が基本だ。そもそも獣人のくせに、人にぶつかるなんてどんくさい。まったく……」


はぁ?


今、なんて言った?


こいつ……プレイヤーか?


ムカっとして、すぐにさっきメニュー画面にあった方法で確認する。


『あなたはプレイヤーですか?』


返答が表示された。


『いいえ。NPCです』


……は?


「NPCのくせに、その性格の悪さは何なんだよ!」


思わず叫んでいた。


「NPCは基本、優しいもんだろ!」


「はぁ……」


騎士は深く溜息をついた。


「本当に、これだから初心者は。我々NPCには、もう少し丁寧に接した方が身のためですよ」


冷たい視線が刺さる。


「この世界を、楽しみたいのでしたらね」


そう言い残し、さっさと行けと手で追い払われた。


クッソ……ムカつく。


NPCのくせに。 騎士だからって、そんなに偉いのかよ。


イライラしながら、今度は周囲に注意しつつ歩く。


やがて、目的の建物が見えてきた。 《カフェレストラン・ポルコ》の看板。


「いらっしゃいませ〜」


可愛らしいうさ耳の獣人が迎えてくれる。


中へ入ると、すぐに目に入る存在があった。


「……でか」


銀髪の長身女性――サラが、堂々と席に座っている。 周囲の視線を集めているが、本人はまったく気にしていない。


「あっ、やっと来たか!」


「遅いぞ。オレは学生なんだ。授業が始まってしまうだろ」


レイカも、すでに席についていた。


「ごめんごめん。獣人だからさ、ちょっと絡まれて」


そう言った瞬間、ふっと肩の力が抜けた。


ここがゲームだってことを、思い出した気がする。


最高の友達二人が、ちゃんと待っていてくれた。


通報のこと。 ムカつくNPCのこと。 まだまだ知らない設定のこと。


コーヒーでも飲みながら、全部聞いてもらうとしよう。 愚痴も、ついでに全部な。


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