第二十五話 結婚式
数カ月後――。
オレは結婚式場にいた。
純白のドレスに身を包み、美しい刺繍が施されたベールを被る花嫁。
その姿に見惚れ、目を離せない新郎。
そんな、誰もが祝福せずにはいられない結婚式を挙げているのは――
レイカとヴァルディスだ。
オレは友人席から、その光景を眺めていた。
胸の奥が、温かくなる。
こんなことになってしまったのには、ちゃんと理由がある。
レイカは、オレを励ましてくれた礼と、エルヴィスとの婚約の話を、すぐにヴァルディスへ伝えてくれたらしい。
それを聞いたヴァルディスは――
「先を越されてたまるものか!」
と、ほぼ毎日のようにレイカへアプローチをかけたそうだ。
そして、レイカが押し切られて承諾。
婚約が成立した。
さらに「気が変わる前に」と、最速で結婚式の準備が進められたというわけだ。
式の前、レイカは申し訳なさそうに言った。
「リリア……こんなことになってしまって、ごめん」
「いやいや……。オレたち焦ってないし、ヴァルディス様には大きな借りがあるからさ! 気にするなよ!」
そう声をかけると、レイカは少しだけ安心したように笑った。
突然の準備で、少し疲れた顔をしていたけれど――
それでも、本当に綺麗で、美しかった。
ふと、思う。
おじさんやおばさんにも、この姿を見てもらいたかったな、と。
って……いやいや。
自分の息子が女になって、しかも貴族と結婚だなんて。情報量が多すぎて、卒倒するわ。
隣を見ると、サラも同じことを考えていたのか、目が合った瞬間に吹き出した。
式は順調に進み、いよいよ最後のイベント
――ブーケトス。
レイカがこちらを振り返り、優しく微笑む。
そして、花束が宙を舞った。
キャッチしたのは――
オレ……ではなく。
いつの間にかサラの隣に移動していた、アステリオ様だった。
「次はオレたちかな? サラ?」
なんて言ってウィンクする。
…本当に、あの王座に座っていた人物と同一人物なのだろうか。
「陛下! そういうのは女性に譲るべきなんですよ!」
サラが顔を赤くして怒っている。
会場は笑いに包まれ、
とても良い雰囲気のまま、結婚式は幕を閉じた。
---
さらに月日は流れ――
今度は、サラとアステリオが結婚式を挙げることに。
なんで…?笑
そう呟きながらも、国民全体から盛大に祝われて幸せそうなサラを見たら不満など吹き飛んだ。
数日間、祭りも催されて、オレもエルヴィスと楽しませてもらうことに。
この世界で初めてのお祭り、本当に楽しかった。
王と王妃との結婚式と時期を被せるわけにもいかず、
オレたちが結婚式を挙げたのは、大分時間が経ってからだ。
オレたちの式も、たくさんの人を招いた。
王に王妃となったサラ。
ヴァルディスやレイカ。
第二騎士団の仲間たち。
元同僚や、貴族たち。
それに、お義父さま、お義母さま。
本当に――
一生分くらいのお祝いを受けた。
心の底から、幸せだった。
---
その日の夜。
オレはエルヴィスの寝室にいた。
「えっと………これは……」
部屋の静けさが妙に落ち着かない。
「つまり……? そういうこと?」
鏡に映った自分の姿を見て、固まる。
メイドさんに用意された衣装は――
とても布とは言い難い、スケスケのものだった。
「なんてことだ……。結婚式でキッスもやっとこだったと言うのに……」
頭を抱える。
すると、コンコンとノックの音がした。
――つ、遂に?
扉が開く。
そこに立っていたのは、色気を纏ったエルヴィスだった。
(これは……男の俺でもときめく!!)
鍛え上げられた身体。整った顔立ち。
思わず見惚れてしまう。
じっと見つめていると、エルヴィスが苦笑する。
「おい、そんなに見られたらさすがに恥ずかしい。
淑女たるもの、恥じらいをもて」
「オレ……男だし……」
「……そうか」
短い沈黙のあと、二人で笑ってしまった。
エルヴィスはベッドに腰掛け、緊張をほぐすように雑談を始めてくれる。
やがて、空気が柔らかくなった頃。
そっと、キスをされた。
「ちょっと……待って……」
戸惑うオレを見て、エルヴィスは視線を落とす。
「……そうだよな。流石にダメだよな」
背を向け、出ていこうとする。
「オレはこれから、屋敷の使用人達に、不能だったとか……下手くそだったとか……噂されるんだろうな」
(男として、それは可哀想だ!)
「待て待て待て!! やらないとは言ってない! 覚悟を決める!」
そう言ったものの、心臓はバクバクだ。
(ってかオレですらこの身体触ったことないのに!?)(そもそも、オレは男なのに?!ちゃんとできんの?)
ぐるぐると悩んでしばらく経つと、
エルヴィスが優しく言った。
「そんなに深く考えるな。男だ女だと思うから、ややこしいんだ。オレはオレ。リリアはリリアだと思えばいいだろう」
――男ではなく、エルヴィス。
そう思った瞬間、不思議と恐怖が消えた。
恥ずかしい。
でも――嬉しい。
オレは、そっとキスを返した。
突然のことに、エルヴィスは目を見開く。
「まったく……お前は心臓に悪い」
頬を赤くするその顔に、思わず笑ってしまう。
そうして――
オレたちは静かな夜を迎えた。
---
翌朝。
隣で眠るエルヴィスの寝顔を見ながら、思う。
(こういうのも悪くないな)
……その考えは、すぐに撤回することになる。
それからエルヴィスは、ほぼ毎日通ってきた。
「獣人の体力は恐ろしい……」
最終的にはイオリさんの注意が入り、週一回に落ち着いた。
---
さらに月日は流れ――
既婚者になったオレたちだが、今日もポルコに集まっていた。
レイカは外交官から再び宰相へ戻っていた。
どうしてもやり残したことがあるらしく、ヴァルディスに背中を押されたらしい。
サラは王妃として見事に務めを果たしている。
本人は乗り気ではないが、人の話を聞くのが上手く、確かに向いている。
そしてオレは――公爵夫人となりながら、時々店を開かせてもらっている。
「せっかく夢を叶えたのだから」
エルヴィスが、そう言って許してくれた。
そんな中――
最近、オレは妙に甘酸っぱいものを好んでいた。
「リリア? 炭酸嫌いじゃなかった?」
レイカが不思議そうに言う。
オレはレモンスカッシュを一口飲む。
「最近味覚が変わってさ〜」
すると、サラが笑いながら言った。
「ははは……なんだそれ、妊娠みたいだな」
――冗談。
冗談、だよな。
三人は顔を見合わせた。
そして同時に叫ぶ。
「えーーーーー!!」




