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第二十三話 責任

公爵邸に到着したオレは、使用人に案内され、屋敷の奥へと通された。


応接室へ向かうのかと思っていたが――


「エルヴィス様はお庭でお待ちです」


そう言われて、少しだけ驚く。


案内された先は、公爵邸の奥に広がる庭園だった。


季節の花々が、色とりどりに咲き誇っている。 白、淡い紫、柔らかな青、そして月明かりのように淡く輝く花。


優しい香りが、風に乗って漂っていた。


こんなに綺麗なのに―― なんだか寂しい気がした。


その庭の中央。

白い東屋の近くに、エルヴィスは立っていた。


「……エルヴィス」


声をかける。


エルヴィスは振り向いた。


そして――


その表情を見た瞬間、胸が締め付けられた。


どうしたんだ?


暗い。 あまりにも、暗い顔だった。


「リリア…?」


低く暗い声。


いつもなら、もう少し柔らかいのに。

オレはゆっくり近づく。


花の香りが、やけに濃く感じた。



---


「……あのさ」


何から話せばいいのか分からない。 でも、言わなきゃいけないことは分かっていた。


「オレさ……」


自然と、胸元のペンダントを握りしめていた。

月光花の装飾が、指の中でひんやりと冷たい。


「現実に戻れなくなって……」


言葉が詰まる。


「正直、ずっと……失ったものばっかり考えてた」


視線を落とす。


「家族とか、将来とか……父さんの事務所とか……」


少し笑う。 自嘲気味に。


「でもさ」


顔を上げる。


庭に咲く花が、風に揺れていた。


「ここにも、オレの大切な人達がたくさんいるんだよな。


サラ。 レイカ。 イオリさん。 メイド達。


そして――


エルヴィス。」


ペンダントを、ぎゅっと握って深呼吸をする。


「この世界には、オレのことを“希望”だって言ってくれる、エルヴィスがいた!」


胸の奥から、言葉が溢れる。


「今のオレにとっても……エルヴィスは希望だ」


「大事な……光り輝く存在なんだ…と思う。」



---


沈黙が流れる。


花びらが、一枚。 二人の間を、静かに舞い落ちた。


エルヴィスは―― 何も言わない。


ただ、拳を強く握っていた。


そして


「……リリア」


エルヴィスの声が震えている。


「オレは……お前を元の世界に返してやりたいと思った」


オレは目を瞬いた。


「何度も、王の元へ足を運んだ」 「研究者にも掛け合った」 「方法を……探した」


エルヴィスの声は、どんどん小さくなる。


「だが……無理だった」


その言葉が、重く沈む。


風が、花を揺らす。


「……それに」


エルヴィスは俯いた。


「オレは……リリアに言えないことがある」


胸が、ざわつく。


「もし……」


エルヴィスは、頭を抱えた。


「もし、オレのせいで……お前がこの世界に閉じ込められたのだとしたら」


その声は、ひどく苦しそうだった。


「オレが……リリアと、ずっと一緒にいたいと願ったせいで……」


言葉が途切れる。


「オレのせいだとしたら、どう思う……?」


エルヴィスは泣きそうな顔をして、こちらをじっとみている。




一瞬。


オレはぽかんとしてしまった。




「……ぷっ」


思わず、笑いが漏れる。


「……は?」


エルヴィスが顔を上げる。


「バカだな、お前」


くすくす笑いながら言う。


「エルヴィスのせいなわけないじゃん」


「そんな……一緒にいたいと思っただけで、システムに不具合なんて起きるかよ〜」



軽く肩をすくめる。



「どんだけ影響力あるんだよ、お前」



---


それでも。


エルヴィスは、下を向いてしまう。

拳が震えている。


オレは少しだけ困って―― ゆっくり近づいた。


そして。


そっと、エルヴィスを抱きしめた。


「……なんかさ、よく分からないけど」


背中を軽く叩く。


「エルヴィスにも……色々あったんだな?」


少しだけ、心地良い体温が伝わる。


「……」


エルヴィスは何も言わないし、顔も上げない。

だから、オレはわざと明るく言った。


「分かった!!じゃあさ…」


一歩離れて、にっと笑う。


「エルヴィスのせいでログアウト出来なくなったっていうなら」



指を突きつける。


「責任取れよ!!」



---


「……え?」


エルヴィスが、間抜けな声を出す。


「だから!」


オレは胸を張る。


「責任とって――」


大きく息を吸う。


「オレを幸せにしろよ!!」


庭に、声が響いた。



花びらが、はらりと舞う。



---


エルヴィスは、目を見開いた。


そして。


「……」


固まってしまった。


次の瞬間。


「……っ」


何かを呟きながら、俯いた。


「いや……しかし……」 「だが……順序が……」 「責任……そうか……」


ぶつぶつ。 ぶつぶつ。


暗い顔ではなくなったが、今度はその不審な行動に心配になる。


「お、おい…なんだ?どうした?……大丈夫か?」


オレがエルヴィスの肩に手を置こうとした、その時。

エルヴィスは、勢いよく顔を上げた。


「分かった!!」


「うわっ」


突然、両手を掴まれる。


銀色の瞳が、真っ直ぐ射抜いてくる。


「オレと結婚しよう!!」


「――は?」


「絶対に幸せにする!!」



---


思考が止まる。


「……え?」


「え……えーーーーー?!」


顔が、一気に熱くなる。


「いやいやいや!!」


「ちょっと待て!!」


「オレは、男だぞ!!」


思わず叫ぶ。

エルヴィスは一切迷わず答えた。


「知っている」


そして。

真っ直ぐ見つめながら。


「だが――今は女だ」 

「問題ない」


「問題しかねぇわ!!!」


オレは顔を真っ赤にして頭を抱えた。


「そ…そういう意味で言ったんじゃない!!」


「責任ってそういうのじゃ――」


エルヴィスは真剣な顔で頷く。


「そうだな……急な話だ」


腕を組み、真面目に頷く。


「よし、一週間やろう」


「何を!?」


「考える時間だ」


エルヴィスは真剣な顔をしている。


「店は公爵邸から通えばいい。」


「話が早すぎる!!!」



---


気が付けば…


エルヴィスの表情から、あの暗さは消えていた。

まっすぐで。 強くて。 どこか安心した顔をしている。


それをみたオレは、


否定も。 肯定も。

何も出来なかった。


ただ――


真っ赤な顔のまま。


エルヴィスを、見上げていた。


庭の花が、静かに揺れていた。

まるで―― 二人を祝福するみたいに。


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