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第二十二話 ログアウト不可

三人で歩き始めて、周囲を見渡す。


――明らかに、人が少ない。

いつもなら、プレイヤーとNPCが入り混じって賑わっている通り。 だが今日は違った。



視界に入るのは、NPCらしき人々ばかりだ。


「今日はプレイヤーさんたち少ないわねぇ」

そんな会話が、道端から聞こえてくる。


その何気ない言葉が、オレたちの胸をざわつかせた。


「……なぁ」

サラが低く呟く。


「オレも思ってた。」

レイカも頷く。


嫌な感覚が、三人の間で共有されている。


「とりあえず、各自知り合いのプレイヤーがログインしてるか確認しよう」


レイカの提案に、オレたちは頷いた。



オレは真っ先に教会へ向かった。

セレナさんに会えば、何かわかるかもしれない。

息を切らして教会に入り、受付のシスターに声をかける。


「セレナさんいますか?」


シスターは首を傾げる。

「今日はログインされていませんね」


その言葉に、オレは肩を落とす。

「……そうですか」


外に出て、メッセージを確認する。

サラからも、レイカからも同じ報告。


『プレイヤー確認できず』

『全滅だ』


嫌な汗が背中を流れた。


---


再びポルコに集合すると、三人とも顔色が悪かった。


「……どうする?」

レイカが呟く。


全員、頭を抱えていた。


その時

「どうしたの?」

うさ耳店員が声をかけてくれた。

その柔らかい声に、少しだけ緊張がほどける。


「それが…ログアウト出来なくなってしまって…」


事情を説明すると、店員は驚いた様子もなく、ぽん、と手を叩いた。


「あら、じゃあ通報したら良いんじゃないかしら?」


「……え?」


「プレイヤーさんは困ったら、そうするでしょ?」


三人で顔を見合わせる。

そして同時に叫んだ。


「確かに!!!」


「動揺しすぎて忘れてたな!」


レイカの顔が、少しだけ明るくなる。


すぐに三人で通報ボタンを押した。



---


すると驚くほど早く、騎士団が到着した。


エルヴィスは居ないようだった。

少し残念に感じる。


事情を説明すると、騎士は丁寧に頷いた。


「皆さん、こちらにいらして下さい」

馬車へ案内される。


「え、護送?」

「多分、事情聴取だろ」

サラは淡々としているが、警戒はしている様子だった。



---


馬車が止まり、扉が開く。


「……ん?」

サラが眉をひそめる。


「ここは……」

目の前に広がるのは――豪華な宮殿。


オレとレイカは同時に息を呑んだ。


「いやいやいや、場違いすぎるだろ」

「帰りたい」


小声で言い合いながら、中へ案内される。



---


王の間の扉の前。


サラは表情を引き締める。


コンコン――

「失礼致します」


扉が開く。

目の前には――

王座に座るアステリオ(元第二王子)。


左右に並ぶ大臣や貴族。

ヴァルディス。

そして、エルヴィスもいた。


威圧感が凄まじい。

オレとレイカは、堪らずサラの背中に隠れる。


「プレイヤー諸君、待っていた」

王の声が、広間に響いた。



---


「陛下、待っていたとは…

 どういうことでしょうか?」

サラが丁寧に頭を下げる。


――サラが敬語を使っている。

それだけで、この場の重さが分かる。


「我々も異変に気づき、制作会社へコンタクトを取った。しかし《プレイヤーの安全は保証する》と返答があって以降、連絡が取れない」


「えっ…オレたちどうなるんですか?」

レイカの顔が青ざめる。


「あの…オレたち、痛覚があるみたいなんです…。プレイヤーには痛覚がないはずなのに」

オレは思わず声をあげた。



王は静かに答える。

「現在調査中だ」

と返答は一言だけだった。


「我々以外にログアウト不能者は?」

サラが問いかける。


王は、わずかに視線を伏せた。

「……君たちだけのようだ」


「そんな…」

衝撃を受けたレイカが、その場に座り込んだ。



すかさず、ヴァルディスが声を上げる。

「陛下、発言を!」


「許す」


「レイカは精神的に限界です。私が付き添います」


「任せる」


「大丈夫か?」

とヴァルディスはレイカを支え、静かに退室した。


レイカは彼を見ると、ほんの少しだけ安心した表情をしたように思えた。



---


その後の会話は、ほとんど覚えていない。



気付けば、サラは王に呼ばれて別室へ。



残されたのはオレ1人………

呆然と立ち尽くしていた。


騎士の人が、道案内をすると声をかけてくれた。

馬車が用意されているという。


オレは見知らぬ騎士の後ろをトボトボと歩き出す。


「リリア!」


そこに、エルヴィスが駆け寄ってきた。

オレはその瞬間、涙が流れ出した。


緊張の糸が途切れたように崩れ落ちて、エルヴィスにしがみつく。


「オレ…帰りたい………帰りたいよぉ…」



涙が止まらない。

エルヴィスは何も言わず、抱き上げてくれた。


「公爵邸へ行こう」


「ヒック……ヒック……」


オレは他には何も声が出せず、ただ頷いた。



---


公爵邸では、温かく迎えてくれた。


イオリさん。

メイド達。


「落ち着くまでここにいてください」


オレは心細くて1人では居られなかったので

その言葉に、救われた。



---


着替えている途中、メイドさん達に声をかけられる。

「お風呂に入られますか?」


「いやいや…プレイヤーは脱げない…」

そう言いながらキャミソールを持ち上げると――


脱げた。


「……」


「……」


メイドは微笑んだ。


「えっ…あれ…?」


オレは考えるのをやめた。

なるべく自分の身体を見ないように、そのまま風呂に入った。



メイドさん達が丁寧に身体を洗ってくれる。

――最高すぎる!!!



全身がほかほかになって思いのほか、精神的に落ち着くことができた。



---


そして



夜も暗くなりはじめた頃、エルヴィスが部屋を訪ねてきた。


「大分、落ち着いたと聞いたが、体調はどうだ?」


エルヴィスはなんだか暗い顔をしている。


「うん、大分良いよ。メイドさん達が凄く良くしてくれて…」


そんな風に話し始めると、

エルヴィスは見計らったかのように問う。


「リリア…ログアウトできなくなった件だが…調査の進捗がきたんだ。どうする?今聞きたいか?」


「えっ…!?もう?聞きたい聞きたい。」


「リリアの友人のサラ殿が、大分尽力してくれたようでな…。それで、その結果なんだが…」


エルヴィスは一度黙り込んだあと、息を吐いて決心したように話し出す。


「リリア、サラ、レイカ。以上3名はNPCとなっていることが確認された。」


「えっ…」


オレは当然、帰れると思っていた。その報告だと思った。


それなのに――


「えっ…どういうこと?NPCになってるって何?いつ?いつの間に…勝手に、NPCにされてたの?」


オレは頭を抱える。


「それは、分からない…」


エルヴィスは暗い顔をする。


「だってオレは父親の後を継いで働く予定があるし…。家族だって…」


そう言いかけて、思考が止まる。

オレがNPCってことは――現実の身体はどうなったんだ?


「オレの本体?身体はどうなったんだ?」


エルヴィスに問いかけると、

「それは、まだ調査してみないと分からないが、研究者の予測だと、NPC化されログアウト出来ない状態からして、本来の身体には意識が戻っているのではないか…との見解だ。」


「つまり、現実のオレは意識が戻ってて動いてる。ここにいるオレはNPCとして閉じ込められるってことか?!」


「まぁ、そういう事だな。」


なんてことだ…。


現実には戻れないが、オレの身体は健康に生きていて、意識は戻っていて普通に暮らしているだと…。


「じゃあオレはどうすれば…」


「ここで、暮らしていくしかないだろう。」


「そんな…」


オレは倒れそうになる。

エルヴィスが支えてくれた。

そしてオレの目から涙がこぼれる。


「家族に会いたいよ」


エルヴィスは、たくさんたくさん泣いた。

オレが泣いている間、ずっと抱き締めていてくれた。



オレはそのとき――

エルヴィスの顔が、とても暗いことに気が付かなかった。



---



その後、数日エルヴィスはずっと家を空けていて、会うことはなかった。


イオリさんは

「エルヴィス様は…まったく、仕方のない方ですね。」

と呆れたように言っていた。


エルヴィスも居ないのに公爵邸に留まり続けるのも気まずくなり、自宅に帰ることにした。




オレは自分の店に戻ると、なるべくゲームで遊んでいたときと同じ日常を過ごすように心掛けた。



ある日、

『ポルコに集合しよう!』

サラから届いた短いメッセージを何度も見返してから、オレは自分の店を出る。



話の内容は分かっている、足取りが重い。

行きたいのか、行きたくないのか、自分でも分からない。



現実を突きつけられたくない。


でも――

二人を避け続けるのは、もっと嫌だ。



---


ポルコの扉を開ける。


カラン、とベルが鳴った。


いつもと同じ匂い。

焼きたてのパンと、甘いミルクの香り。


なのに今日は、妙に胸に刺さる。


「……リリア」

先に気づいたのはレイカだった。


「来たか」

サラが軽く手を上げる。


二人とも――

目が赤い。


それだけで、胸が締め付けられた。


オレはゆっくり席に着く。


少しだけ重い雰囲気が流れ

誰も、すぐには口を開かなかった。


最初に声を出したのは、オレだった。


「……サラ、ありがとうな。調査に協力してくれたんだろ。」


「あぁ……聞いたか。もう戻れないって話。」

サラは一瞬だけ視線を逸らしてから、苦笑した。


その言葉が、重たくのしかかる。


レイカは俯いたまま、カップを両手で包んでいた。




「……これから、どうする?」


サラが静かに言った。

まるで、自分自身にも問いかけているみたいだった。


沈黙が流れて、店の奥で皿が触れ合う音だけが聞こえる。


しばらくして――

レイカがゆっくり顔を上げた。




「オレは……この世界で役目を探す」


声は震えていた。

でも、視線は真っ直ぐだった。


「役目?」


サラが聞き返す。

「NPCって……言い方は嫌だけどさ。

 オレたち、この世界で生きることになったなら」


レイカは一度、言葉を切る。


「この世界の人達に必要とされる存在になる。

 ここで生きる意味を見つける。」


その言葉は、レイカらしくて――

そして、やっぱり強かった。




「……レイカらしいな」

サラが小さく笑う。


「外交官になったんだもんな…」


「まぁな」


レイカは照れくさそうに笑った。


「仕事は、しばらくできてないが…これからは、そう生きようと思う。」


その笑顔は、まだ少しだけぎこちなかった。

それでも確かに、前を向いていた。


「サラは?」

レイカが聞く。


サラは椅子にもたれ、天井を見上げる。


「オレか?」


「オレはこのまま騎士団にいる。」

と迷いなく答えた。



「今回の件で王には借りが出来たしな。あそこまで動いてもらった以上、借りは返さないと。」

サラは肩をすくめた。


「それにさ」

サラは言葉を続ける。


「第一騎士団の人達が好きなんだよ。」

と柔らかい表情をしている。


その言葉に、オレとレイカは同時に笑った。




「リリアは?」


二人の視線が、オレに向く。


胸が、ぎゅっと締め付けられる。

頭の中に浮かぶのは――


父親。

実家。

継ぐはずだった仕事。


三人で笑っていた時間。


言葉が、出てこない。


喉が詰まる。

「……分かんない」

ようやく出たのは、その一言だった。


自分でも情けないと思った。




「そうか」


サラもレイカも、特に責めなかった。


「焦って決める必要もないだろ」

「無理に意味とか探さなくてもいいと思う。」

と優しい声をかけてくれた。


だが、それが逆に胸に刺さる。




「……ごめん」


思わず呟いた。


「なんで謝るんだよ」


サラが呆れたように言う。


「三人でここまで来たんだ。

 今さら、さっさと立ち直れとか、無茶だろ」


「そうそう」


レイカも頷く。


「オレたち、待つの慣れてるし」


「……何それ」


思わず笑ってしまう。


少しだけ――

呼吸が楽になる。




しばらく三人で、どうでもいい話をした。


ポルコの新メニューの話とか。

騎士団の変人の話とか。

レイカがまた勉強し始めたとか。


笑った。


確かに、笑ったのに。


胸の奥の重さだけは、消えなかった。



店を出る頃には、夕暮れになっていた。


「また集まろうぜ」

サラが言う。


「レイカ!仕事、ちゃんとしろよ」


「……善処する」


「それ、しばらくしないやつだろ。」


レイカが笑う。


三人はそこで別れた。


その背中を見送って――

オレだけが、立ち止まっていた。






そして。


数日後。

オレは店を開けられなくなっていた。




サラとレイカからは、何通もメッセージが届いていた。


『大丈夫か?』

『無理すんな』

『話聞こうか』


……返信できない。


文字を打とうとすると、胸の奥が詰まる。



---


「……腹減った」


小さく呟く。


NPCになってから、食事は必須になった。


食べないと、本当に体が動かなくなる。


オレは重たい体を引きずるように外へ出た。


…パンでも買おう。


それだけのつもりで街へ出掛ける。



---


石畳の道をぼんやり歩く。

空は晴れているのに、色が薄く見える。


人の声も、どこか遠い。


その時――


横に、静かに馬車が止まった。


装飾は派手ではないけれど、一目で分かる

上質な素材。無駄のない造り。

品格だけで、存在感を放つ馬車。


扉が開いた。


中から低い声が響いた。


「おい、乗れ。」


「……え?」


顔を上げると、そこにいたのは


「ヴァルディス様……」


オレはびっくりして目を見開く。


「いやいや、大丈夫です……」

反射的に断ろうとする。


気まずいし…

正直、今は誰とも話したくない。


しかし、


「良いから乗れ。」


声の圧が、強い。


そして、次の瞬間

腕を掴まれ、半ば引きずられるように馬車へ乗せられた。


「ちょっ……!」


扉が閉まり、馬車が動き出す。




沈黙が気まずい。

何を言えばいいのか分からない。


というか――

なぜ捕まったのか、分からない!!




「あの〜……」

と勇気を振り絞って声をかけてみる。


「どのようなご要件で……?」


ヴァルディスは窓の外を見たまま、短く答えた。


「レイカから聞いた。貴様から返事がないと。」


「それは……その……」


言葉が続かない。





「はぁ……」

とヴァルディスは大きなため息をついた。


オレは思わず背筋が伸びる。


「本来はオレの役目ではないと思うんだがな」

ヴァルディスが、小さい声でぼそりと呟く。


また、その声には、面倒くささが滲みでている。


そして更に、沈黙のあと。

ヴァルディスの金色の瞳が、まっすぐ射抜いてくる。


「それで?」


一拍置き。


「貴様は帰りたいのか?」





ヴァルディスの問いに、心臓が跳ねる。


「……そりゃあ、帰りたいです」

即答した。


「家族にも会いたいし、夢だってあるし……」


声が震えて、止まらない。


「父親の店、継ぐ予定だったんです。

 資格だって取って……将来の話もして……」

視界が滲む。




ヴァルディスは、静かに聞いていた。


そして。

「だが――」


「今、貴様はオレたちと同じNPCだろ。」

と冷静に言う。


その言葉は、容赦がなかった。



「家族には、貴様の“本体”が会っている」


淡々と続ける。


「夢も、本体が叶えるだろう。

 本体に、それだけの力があればな。」


最後に、わずかな皮肉を加えてきたな。



「……いや……そうだけど……」

反論しようとするけれど、言葉が出ない。


また、沈黙が続く


「はぁ……」


ヴァルディスはまた、ため息をつきながら腕を組む。


「さっきから貴様は」

少し声を低くする。


「“なくなったもの”の話ばかりしているな。」


その一言が――

鋭く刺さる。





「今、貴様が持っているものを、大切にしようとは思わないのか?」


「……」


息が詰まる。





「貴様には」


視線が揺れない。


「今、何もないのか?」


一言一言が胸に突き刺さる。




その瞬間。


頭の中に、いろんな顔が浮かぶ。


サラ。

レイカ。

前の職場の人達。

自分の店。

イオリさん。

メイド達。


そして――


エルヴィス。



---


胸の奥が、急に熱くなる。

下をみれば、オレの胸にかかっているペンダントがキラリと輝いた。


呼吸が浅くなる。


そうだ――


「ヴァルディス様!!」

叫んでいた。





「オレ、エルヴィスに会いたい!!」


自分でも驚くくらい、勢いよく言葉が出る。


「急に会いたくなった!!

 公爵邸に行って欲しい!!」


馬車の中に沈黙が流れる。




そして。


ヴァルディスは、ゆっくり口角を上げた。


「すでに、向かっている。」


「……え?」


一瞬、理解が追いつかない。





「貴様が、そう言い出すだろうと思ってな。」


完全に読まれていた。

恥ずかしい…顔が一気に熱くなる。




「……ありがと」


小さく呟く。

ヴァルディスは、そっぽを向く。


「気にするな。」


と短く言うが、ほんの少しだけ、声が柔らいだ気がした。





その後――


空気が少し軽くなったところで。


「ところで」


「レイカは最近――」


と話が始まった。





「勉学の進み具合はどうだろうな」

「外交の素養は元々ある」

「菓子は甘さ控えめを好むらしい」

「動物は小型犬派だそうだ」


止まらない。


全然、止まらない。


ひたすらに、レイカの話ばかりする。




「あのぉ……ヴァルディス様?」


「なんだ」


「それ、オレに必要な情報ですか?」


「重要だろう」


真顔で返された。





「……」


オレは静かに窓の外を見る。


まぁいい。


今日は、特別に許してやろう。


オレに気づきをくれた人だから。




ヴァルディスの話にうんざりとした頃

馬車は公爵邸に着いていた。


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