第十七話 ペンダント
今日は友人二人と会う約束があるためにログインした。
向かったのは、いつもの《ポルコ》だ。
店に入ると、すでに二人は席についていた。
「おっ、やっと来たか」 「時間にルーズだよな」
レイカとサラが手を振る。
「悪い悪い」
席に着き、軽く注文を済ませると、自然と話題は――あの事件へと移っていった。
教会爆破事件。
オレが巻き込まれ、そして死んだ事件。
話しているうちに、サラが苦笑した。
「お前さ……本当に同じゲームやってるのか?
なんか一人だけ別ジャンルのゲームしてるだろ」
レイカも肩をすくめる。
「サバイバルホラーか戦争ゲームでもやってるのかと思ったわ」
二人は笑ったが、その目はどこか真剣だった。
「……心配、はしたぞ…」
レイカがぽつりと少し恥ずかしそうに言った。
「まぁ、オレもびっくりしたけどな」
軽く笑ってみせる。
本当は――
思い出すだけで、ちょっと怖い。
でも、それを言葉にするのは、なんだか格好悪い気がしてやめた。
そのとき。
「……ん?」
レイカの視線が、オレの胸元に止まった。
「なんだ、それ」
指差された先には、月光花のペンダントがあった。
「あー……これ?」
レイカは呆れたようにため息をついた。
「おま…また散財したのか?」
「違う違う!!」
慌てて否定する。
「これ、エルヴィスからもらったんだよ。まぁ、色々あって……お揃い?みたいになってる……」
その瞬間。
二人の表情が揃って変わった。
「それってさ」
「なんか、もう恋人じゃね?」
見事にハモった。
「違うわ!!」
思わず声が裏返る。
「オレは男だぞ!? 彼女だって欲しいし!!
オレは……リリアみたいな女の子が好きなんだ!!」
そういった瞬間オレは自分に言い聞かせる。
そうだ…。
――リリアみたいな女の子。
それが理想だ。
「ふーん、まぁそれもそうか…」
レイカは意味ありげに笑う。
しかしサラが
「じゃあ、自分の理想の女の子が、自分として大事にされてる気分はどうなんだよ?」
ニヤニヤとオレをからかいだした。
「は?」
「そのペンダント。かなり本気の贈り物に見えるけど」
言われて、無意識にペンダントに触れる。
「……別に。あいつはそういうやつなんだよ。律儀で、真面目で……」
言葉を選びながら、視線を逸らす。
しかしなぜか、胸の奥がくすぐったかった。
「………ところで!!」
これ以上、イジられないぞ!
と、オレはグラスを持ち上げた。
「二人は最近どうなんだ?」
オレが話題を切り替える。
するとレイカは話題の変更に納得したように、肩をすくめた。
「オレは修士課程に進んだわ」
「は?」
「サラは?」
「騎士見習いから王室の臣従になった」
「え…進みすぎだろ……」
思わず苦笑する。
流石、ゲーム二周目プレイヤー。
進度がまるで違う。
自分で話題を振っておいてなんだけど…
「ちょっと悔しいわぁ…オレまだ見習いから薬師になったばかり…。」
十分頑張ってると思うぞ〜
また、手伝うから落ち込むなぁ〜
と二人はオレを励ましてくれた。
良い奴らだ。
サラがオレの肩をポンポンと叩きながら、違う話題へと移してくれた。
「…………そうだ!
レイカにやたら執着してた、ヴァルディス様は卒業 したんか?」
するとレイカは少し困ったように笑った。
「あいつは貴族だから、学士を取れば貴族の仕事だけしてればいいんだけどさ……」
少しだけ、視線を落とす。
「オレについてきて、学業と仕事を両立してる」
「おーすげぇな……」
努力家なのか。
それとも、単にレイカと離れたくないのか。
どちらにしても、並大抵じゃない。
「今は仕事が忙しいみたいで大変そうだけど、オレは少し自由になったかな…」
そう言うレイカの表情は、どこか寂しそうだった。
「サラは?」
「第二王子の護衛をしている」
「え、王族!?」
思わず身を乗り出す。
「どんな人なん?」
サラは笑った。
「んー……ただのガキって感じだな」
「いや、お前が準巨人だからそう見えるだけだろ」
「ってか、お前もまだ、19になったばっかじゃん!」
レイカと二人でツッコミを入れると、サラは笑っていた。
それからもしばらく、他愛ない話を続けた。
現実の話。
ゲームの話。
将来の話。
こうして話している時間は、妙に安心する。
淳として、リリアとして受け入れてもらっている感じがする。
やがて二人に用事があるということで、軽く手を振り合って解散した。
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次にオレが向かったのは教会だった。
目的は、セレナさんに会うこと。
建て替えられた教会は、新しい石材が陽光を反射して眩しいほどだった。以前より少し広くなり、荘厳さも増している。
中に入ると、セレナさんはすぐに気付いてくれた。
「リリア。いらっしゃい!」
オレは、薬草採取の際に見つけた花束を差し出した。
「これ、良かったら」
「まぁ……!ありがとう!」
セレナさんは本当に嬉しそうに微笑んだ。
そのまま自然と世間話が始まる。
「あの事件のあと、なんだか少し周囲がよそよそしく感じるのよ……」
セレナさんは困ったように笑う。
「それから司祭様から、聖騎士団を立ち上げないかとお話もいただいてて…」
「す…すごい……」
よく知らないが、教会襲撃事件では大活躍だったらしい。
ふと周囲を見ると、他のシスターたちがこちらをちらちらと見ている。頬を赤らめている者もいる。
憧れ、なのだろう。
「セレナさんなら、きっと大丈夫です。どんな道でも応援しますね」
そう言うとセレナさんは嬉しそうに笑った。
「ところで…、リリア」
セレナさんの視線が、オレの胸元に向いた。
「そのペンダントは?」
「あ、いや……これは……」
ついさっき、友人に恋人だなんだと、からかわれたせいで、言葉が詰まる。
「んー…第二騎士団団長様は、とても素敵な方ですものねぇ…なかなかお強いですし」
セレナさんの言葉にオレは目を丸くする
「えっ!? なんでエルヴィスからって分かったんですか!?」
セレナさんは小さく笑った。
「ペンダントに、公爵家のエンブレムが入っています。団長様の剣にも同じ紋章がありました」
慌てて見直す。
確かに、繊細な装飾の中に紋章が刻まれていた。
――公爵家の紋章。
気が付かなかった………。
「私、意外と目ざといんです」
大丈夫、他の方は気付きませんよ、
とセレナさんはくすくす笑う。
「きっと団長様は、リリアのことを大切に思っているのね」
「えっ…」
その言葉に、どっと顔が赤くなる。
めちゃくちゃ、恥ずかしい。
エルヴィスもそこまで考えていないだろう。
でも。
大切に思われているっていうのは
悪い気はしないかな……
ペンダントに刻まれたエンブレムをみて、とりあえず今は外したくない、と思った。
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セレナさんと別れたあと、オレは店へ向かった。
今日はミカさんが納品、ケイトが薬草採取。
ソフィと二人で店番だ。
店内は賑わいも去って少し落ち着いたところだ。
休憩にでも入ろうか、と思っていたところで
カランと扉のベルが鳴り、振り向く。
「いらっしゃいませ〜」
そこに立っていたのは――
「あっ!エルヴィス……!」
一瞬胸がざわつく。
さっきまで、散々茶化されたばかりだ。
妙に意識してしまう。
しかし、礼儀は大事だ。
「この間は……ありがとう。あと、ペンダントも……」
言いながら、顔が熱くなるのが分かる。
「事件の礼だ、気にしなくていい。」
エルヴィスはリリアを優しげに見つめる。
そのとき。
「団長様!!」
背後からソフィが飛び出してきた。
「リリアと仲良しって本当だったんですね!」
「ち、違――」
急なことに、言葉が詰まる。
「サインください!! 私の分とお友達の分!!」
「あ…あぁ…、もちろんです。」
エルヴィスは丁寧に応じる。
ソフィは身を乗り出してサインを書く様子を覗き込んでいた。
……近くないか?
なんだかモヤモヤする。
そしてソフィはサインを受け取ると、
「キャー!ありがとうございます!」
と満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
それを見て、さらにオレがモヤモヤしていると、エルヴィスがこちらへ来る。
「リリア」
エルヴィスが呼ぶ。
「何……?」
少しぶっきらぼうな声が出てしまった。
エルヴィスは不思議そうに首を傾げつつ、小袋を差し出す。
「イオリからだ。庭で採れたハーブらしい」
「……言ってくれれば取りに行ったのに」
思ったより棘のある声になった。
エルヴィスは一瞬だけ困惑した表情を浮かべたが、
「使用人達がリリアに会いたいそうだ。また、公爵邸に遊びに来てほしい」
そう言って店を後にした。
扉が閉まる。
そしてしばらくして気持ちが落ち着いてから
「……はぁ」
なんであんな態度をとってしまったんだろう。
後悔していると、隣に立ったソフィに話しかけられる。
「団長様が、優しい人で良かったわ
実はね。もう一枚のサイン、私の彼氏のものなの」
「え………!?彼氏………!?」
「第三騎士団の騎士なんだけど、第二騎士団の団長に憧れてるの」
満面の笑みだった。
「上司の手前、頼めないって言ってたから。リリアと仲良しで助かった〜」
「そ、そうだったのか……」
胸の中のざらつきが、ゆっくり溶けていく。
「どこで出会ったの?」
気付けば、普通に話していた。
「ふふ…知りたい?」
ソフィは嬉しそうに語り始める。
そのまま談笑しているうちに、気付けば閉店時間になっていた。
さっきまで胸に残っていた小さなモヤモヤは、もうどこにもなかった。
ただ――
帰り道、胸元のペンダントだけが、やけに輝いて見えた。
まるで。
そこに、オレの心を映しているみたいに。




